第31話 3人寄れば!
最終日。
ティアネが夢見る、城下町の大きなお祭り――煌王祭まで、あと1日。
本日夜に城から脱走できなければ、夢叶わず数年後へ見送りとなる。
「――そんなの、絶対にイヤっ!!!」
がばっ、と飛び起き、勢い良く着替えつつも部屋着は丁寧に畳み、洗顔、ストレッチ――
最後の『戦闘準備』をすすめるティアネの部屋の扉が、大きく開かれた。
「ティアネっ♪おはよう♪どうかしら、今年の衣装」
普段より豪華なドレスに身を包み、上機嫌に娘をたずねる母親――リーヴェ。
「お母様っおはよう!数日ぶりね!!ねえ!!!私も行きたい!!!!!」
むすっとした表情の娘。困ったような笑顔の母。
「ごめんなさい、それは許可できないわ。終わったら、今年の『舞』も中庭で見せてあげるから」
「それは見たいけど、でも私も行きたいの!やーだー行きたい行きたいっ!!」
「ふふ、成人したら何度でも連れていってあげるから♪それまで、ね」
「なんで成人するまでダメなの~~っ!お母様、だいっきらいっ!」
焦燥感もあるが、母の前でこれまで以上に過剰な子どもらしさを披露する。
「ごめんね、ティア……じゃあ、大人しくイルゥニの授業を請けるようにね。ちゃぁんとたくさん、お土産も用意してあげるから」
「いらないっ!!自分で買うからっ!……嘘!ちょっとだけほしいっ!!」
親に反抗したい心と愛されてまっすぐ育った善性が均衡し、あべこべな物言いになる。
静かに去る母リーヴェの背中を見送りながら、執念の炎を燃やす娘、ティアネ。
「んにににに……数日ぶりにお母様のカオをみたら……って、これ前も言った気がするわっ……!」
悔しさをバネに、今日も数多くの授業を乗り越えていった。
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「わひゃぁあ~~~~っ……忙しい、忙しいっ……!!」
視点は新人メイドとして働くアルスティへ。
煌王祭直前ということもあり、ベルハリア城の来賓用の部屋のセットや、各区画の雑用、清掃……加えて、アルスティが主に任されている資材整理もまだまだ残っている。
「い、イルゥニさん……さっきキッチンにいたのに、もうあそこで来客対応してる……な、なんでぇ……?」
てんてこ舞い、という言葉がぴったりな城内の空気に圧倒される。
「(こ、こんなに忙しかったら……お昼のうちに、別のルートとか探せないよぉ……きっと、セニーナさんも……)」
護衛騎士であるセニーナも、ティアネ周辺の警備に配置を変更されたもののこの城全体への警戒を高めていることには変わりない。
結局3人は、夜の集合まで明確な次の一手を考えることができず――
城を脱出したいのに、城を維持するための動きしかできなかった。
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「……という具合に、私も最終確認などに時間を費やされ……身動きがとれず」
「やっぱり、収納庫からもう一度……よね」
「し、しかも……ぜ、絶対……ゴーレムとか、増えてますよね……。昨日みたいに、スムーズには絶対……」
「でも、行くしかないわ!……ねえ、ちょっとやってみたいことがあるの!集まって!」
ティアネの要望通りに肩を合わせるように囲み、円陣を組むような体勢になる。
「絶対、ぜったい……絶対に、確定で!行きましょうね!煌王祭!」
「は、はいっ!」
「はい。最善を尽くします。……改めて、作戦を」
円陣を組んだまま、最低限の言葉でセニーナは『最後の作戦』を共有する。
対ミルキスを想定した、彼女なりの作戦に……2人は納得し、頷いた。
「よぉ~~~しっ!じゃあ、行くわよっ!まずはたくさんいるゴーレムたちを、ぜ~んぶ無視してスタミナを温存!色んなトラップはセニーナが事前に視て、私が抱っこして進んで!それで!」
「「全然何も起きなかったんだけど!??ですけど!??!?!」」
気づけば既に1階エントランス、正門直前。
おそるおそる歩いていたのに、ここまで何も起きず到着したことに驚愕を隠せず、ついにティアネとアルスティが口に出してしまった。
元々危険の少ないルートではあったが、今夜はひとつのトラップも発動せず……注意深く進んだせいで時間こそかかったものの、今回は以前よりもさらに余裕をもってたどり着けた。
「……理由を考察するには色々と不足していますが、今は後にしましょう。……やはり、今日も居ます。1人だけで」
耳をすまし、閉じた目で魔力を確認し……ミルキスの存在を伝えるセニーナ。
「……では、行きましょう」
先日と同じように開き……正面から堂々と対峙することを選んだ。
「んお?おいおい、次も正面からか?すげーな!いーじゃねーかわかりやすくて!」
ミルキスは昨日と同じように開閉レバーの近くで座り込んでおり、こちらを見ながらおおきく笑った。
日中はきっちりと着ていた隊服の上着を乱暴に着崩し、黒いインナーウェアを露出させている。
「まあ色々考えてきたんだろ?コーリツ的な策をよ……♪じゃなきゃあ昨日と同じだし、アタシもつまんねーしな」
ポキポキと指をならし、威圧的なジェスチャーをとる。
「わかってると思うが、タイムリミットはもっと近いぜ?ダラダラやってたら、他のヤツが来ちまうからな。ほら、剣を抜けよセニーナ。姫様はアブないから下がってな」
「……いいえ、ミルキス。今日は……私たち、3人で!よ!」
「は?」
ティアネの宣言とともに、まずアルスティが横へ駆け出した。
「なんだァ?お前もか新人メイド!!いいぜ来いよ!!」
アルスティを睨みつけてからミルキスは正面に目線を戻すと、ティアネとアルスティが自身から距離を取って下がっていることに気づいた。
「いくわよっセニーナ!」
「はい、姫様!」
ティアネはセニーナを軽々と担ぎ、砲丸投げや槍投げのようにグッと構える。
「えぇえええーーーーいっ!!」
数歩助走をしつつ、セニーナを力の限り上空で投げ飛ばした。
「あァ?!なんだそれ!?」
ふわりと空中で姿勢を正し、セニーナは落下先のミルキスへ向け――
「――【ルナシエ・クリスタ】っ!!」
セニーナの前方を覆うように氷の結界が表れ、突進を補助する“盾”と化す。
「おいおいすげーじゃねーか!だけどなァ!そんな『曲芸』見せてもなァッ!」
握り拳と手のひらをバシン!と打ち付け、両手に魔力を込めるミルキス。
燃え盛る炎のような魔力のうねりは、彼女の両手を覆う――ことはなかった。
「――【フロウ・ブレイク】っ!!」
「ん!?なんだァ!?」
視線のみアルスティに向け、一瞬で考察を進めるミルキス。
「(妨害系の【スキル】か?!チカラが出ねえっ……)」
真剣な表情で思案した矢先、すぐに歯をむき出しにし……
「――そっれが、どうしたァ!!」
“ガキィイイイイイインッ!!”
落下するセニーナの“盾”を抑え込むように拳を振り上げる。
「なっ!」
アルスティの『魔力の流れを変えるスキル』――【フロウ・ブレイク】。
ミルキスの両手に狙いを定めれば、魔力の集中をズラし、威力を減らすことができる……
その読みは、当たっていた。
「(……魔力が乱れて、ほぼ素手の状態でっ……!?)」
上空から加速し、重力を利用して激突してもなお、ミルキスを制することができない。
「痛ッてェェエエ!!はははァ!いいチームワークじゃねえかァ!!」
「アルスティ、『次』っ!」
いつの間にかアルスティの近くに駆け寄っていたティアネが彼女を担ぎ、ミルキスたちから離れる。
「なァんか考えてんなァ!イミねえけどなァッ!」
上から圧力を加えるセニーナに吐き捨てるように顔を向け、さらに膂力を込める。
「ぐっ……!は、ぁあああああっ!!」
拳と剣の鍔迫り合いが臨界点に達する瞬間――
ミルキスの膝が、大きく揺らいだ。
「あァ!?」
地面に目を向ける。
“ガコォンッ!!”
ミルキスがしっかりと足を開き、踏ん張っていた石畳が急激に崩れ出した。
まるで――“魔力の流れ”を、狂わされたかのように。




