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第29話 門番

余裕のあるティアネが2人を気遣いつつ進むと、これまでよりも大きく、豪華な模様が描かれた扉やきらびやかなカーペットが敷かれた広間へたどり着く。


「ねえ……ここって1階のエントランスホールよね?……正門近くの」


「あ、あたしも見たことあります。だって、ここから逆を向いて、左……だったかな。いろんな許可証を発行してもらう受付みたいなところが……」


「ええ。……ティアネ様の背後の扉を開けることで、残るは正門のみとなります。……『作られた空間』でなければ」


ようやく見えたひとつのゴールに、一層身が引き締まる。


「理想は正門よりも警備が薄い裏門付近に出ることでしたが……今は時期が悪いですね。どの道、同じことでしょう」


「……あ、そうですよね……そろそろ、煌王祭こうおうさいですし……」


見回りの間隔が強化されていたことを思い出すアルスティ。


「……もう少しって、ことよね……!絶対に、確定で……!」


高鳴る胸を抑えつつ、『作られた空間』でないことを祈る。


「お待ちください。もしこの空間が現実であれば、門の付近に護衛兵が2人、存在するはずです。それも今は、煌王祭直前――ゴーレムも普段より増員されている可能性が」


「……手強い見張りが、いつもより……ってことよね」


「ええ。まずは私が確認します。【リフェンディング】であれば、壁越しにも魔力の流れを多少ですが読み取れます。護衛兵やゴーレムの数を確認してから、事前に確認した作戦を」


セニーナは音を立てず扉に近寄り、手を添え、目を閉じる。


だが、魔力を秘めた個体の気配は――たったひとつだけだった。


「(――おかしい。夜間は確実に、警備ゴーレムと我々護衛兵が2人ずつ、交代で見ているはず……)」


まさか……外敵?この機に乗じて、侵入者が?


「アルスティさん。解錠をお願いします。――異常事態かもしれません」


「えっ?あ、はいっ……」


アルスティの【フロウ・ブレイク】は、本人の自信と慣れによりさらに精度を高め、ほぼ物音を立てることなく解錠に成功する。


ゆっくりと静かに開閉し、3人はついにベルハリア城の内部から抜け出し――巨大な正門前に辿り着いた。


すぐに近くの茂みに身を隠し、様子を伺う。


「どうしたの?何人いたのか、見えた?」


「報告が遅れました。結論から伝えますと、魔力反応は1人分のみ。私が共有された警備の配置と大きく異なります」


「そ、それって……どういうこと、でしょうか……?」


セニーナが魔力反応を“視た”方角……開閉レバーのある石の台座近くに、1人の人間が座り込んでいるのが見えた。


月夜の淡い光に照らされ、姿はぼんやりとしかわからない。


だが、身を潜めていたこちらに初めから気づいていたか、それとも――“現れることを予期していたか”のような、余裕の雰囲気で声をかけてくる。


「おー、やっぱりマジで来たな!なぁに考えてんだよ、なあ?」


聞き覚えのある、明るく響く通る女性の声に動揺するアルスティ。


「あれっ……この声っ……!」


女性は勢いよく立ち上がり、腰のベルトを掴み、位置を整えながら続ける。


「やっぱここに居んのが一番コーリツ的だな、っと……さーて……まずは楽しいお喋りから始めようじゃねえか?」


「「ミルキス……!」」


ハッとした声で名前を呼ぶセニーナとティアネ。


「えっ?えっ?この人、がっ……?」


今にも飛びかかってきそうな野性的な――ミルキスと呼ばれたその女性は、セニーナと同じ衣装に身を包んでいた。


だが、直接的な行動を起こすことはなく……フレンドリーに手を上げる。


「姫様ーっ!お疲れ様でっす、へへ。なーんかそこのいけすかない女と最近仲良くやってるみたいっすねー?」


「え、ええ、ミルキス!こっこんばんは♪えぇっとぉ……」


普段通りであれば、同様に裏表なくフレンドリーに返していたのであろう。


だが今は、こんなところにいることへの説明を考えていることでぎこちなくなってしまう。


「やっぱりお前もいたかー、新人メイド女!へへ……まとめて、だな」


数歩近づき、舌なめずりをする。


「そん、で……お前までいてくれるなんてなー……セニーナ~……♪」


順番に3人へ向け、突き刺すような視線をおくる。


「……ミルキス……質問があります」


「おぉ、わかってるって。アレだろ?ん~……安心しろって♪アタシは幻でもなんでもねーから。ココはリーヴェ様お得意の……あれだ。転移魔法の類でもねーぜ」


ミルキスは腰のあたりで人差し指を地面に向け、トントンと示す。


「正真正銘、ベルハリア城の正門だ。『おめでとさん』か?♪」


にやりと笑う。


「んでもよぉ、姫様……ダメじゃねーか、こんな夜遅くに出歩いちゃあ……危ないぜ……?」


「……ねえ……ナイショにしてくれない?ミルキス……お願いっ!」


「『ここから出ていくこと』をか?ダーメーだ。護衛騎士として見逃せねー。今はただでさえ祭の時期で色々めんどくせーんだ。さらわれちゃうかもしんねーだろ?」


ミルキスは腰に手を当て、友好的な雰囲気を出してくれる。


ティアネの身を案じて忠告してくれていることは本心だろう。


「その煌王祭を自分の目で見てみたいのっ!ね、ミルキス!じゃあ貴方も私について、守って頂戴!あとでちゃんとみんなに謝るからっ!」


ティアネは両手を合わせ、ぐっと肩に力を込め懇願する姿勢をとるが……


「その願いは聞けねーなー、申し訳ありませんけど。せっかく正門のヤツらと掛け合ってここの警備を変わってもらったんだ。祭が終わるまで、な」


「……成程。ではその分、裏門の方は……」


「おおーガッツリ増やしてもらったぜー?エルグースとかの目もエグいかもな」


妥協案や別ルートの可能性も潰されつつ、セニーナは他の疑問を投げかけようとする。


「おおっと!そろそろ一旦やめにしねーか?アタシ今から仕事があんだよ」


その場で数回、地面を蹴るように足を踏む。


まるで、野生動物が駆け出しやすく足場を整えるような仕草だった。


「姫様を城から連れ出そうとする、わる~い女2人に――お仕置きしなきゃなんねえ!」


ぐっと前かがみになり、両手を広げ――剣を抜かず、走り出した。


「姫様、アルスティさん!下がってください!」


セニーナが剣を抜き、ミルキスと対峙する。



『最後の関門』が今、立ちはだかる。




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