第26話 巨大ゴーレム
「……壁に本棚が敷き詰められて……あ、机がありますね」
「書斎……とも取れますね。ここで誰か、執筆作業を行うことがあったのでしょうか」
ベルハリア城の武器庫で見つけた、謎の個室。
本棚でぐるりと囲われた部屋の中央には、机とペンが置かれていた。
「そもそも、お母様が作った……後から付け足しただけの魔法空間ってこともあるわよね」
「他に扉がない以上、すぐに出た方が賢明ではありますが……少し、調べてから出ましょうか」
本棚に並ぶ古い資料や書物を各自手に取り、読み取り始める。
「ん~……この前見たような書庫の本と変わらないわね」
「あの……机の上に置いてある、この紙って……」
「……これは……設計図、でしょうか」
以前手に入れた『城の設計図』のように、何かを組み立てる図や、それを解説する文章が書かれた紙。
「……これ……ガーディアンゴーレムに似てない?」
「成程……次は、ゴーレムの設計図……ですか」
徐々に明らかになっていく、この『ダンジョン』に付随する様々な仕掛け。
「んにににに……なんだか、すっごく難しいことばっかりで、読みづらいわね……」
「こ、こう……停止ボタンみたいなのとか、あったりしませんかね……?」
「……いえ、残念ながら……。こちらも持ち帰り、後ほど読み進めましょう」
いくつかの紙をまとめつつ、部屋をあとにする3人。
密室から出る瞬間、魔力の波紋が広がったような気がした。
「? 今、なにか……」
「どうかした?……あれ?あっちのゴーレム……」
アルスティに目を向けようと思ったが、ティアネはふと逆側の違和感に気づく。
先ほど鎮座していたガーディアンゴーレムが、その姿こそ変えていないものの……
「すっっっごくおっきくなってませんっ!?!?!」
天井を貫かんとする勢いで、ティアネたちが見慣れたサイズの3倍ほどの大きさになっていた。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと……あんなのが動い、たらっ……」
「ふ、ふふ、不穏なことを言わないでくださいよティアネさんっ……」
「全滅は免れないでしょうね。次に目が覚めた時はおそらく姫様の自室でしょう」
「ですからぁ~~~っ!!」
“ガッ……シャン……”
「ひっ……!」
「落ち着いてくださいアルスティさん。今のは……私が隠し持っていたスイーツをかじった音という事にしておきませんか?」
「ななな何言ってるんですか!どんなスゴいお菓子かじってるんですか!」
現実逃避の提案も虚しく――
“ゴゴゴゴゴゴ……”
「ですよねぇ~~~~っ!!!!」
「逃げましょ!!!あっちに戻るわよっ!!」
ティアネが叫ぶと同時に、セニーナが巨大ゴーレムの前に立つように隊列を揃える。
鈍重な動きだが、強烈な威圧感で拳を振りかぶる巨大ゴーレム。
武具を装備していないものの、あの大きな腕で振り払われたことを考えると……そして、掴まれでもしたら……
「行ってください!──【ルナシエ・クリスタ】っ!」
ティアネたちをかばうように、氷の結界を張る。
“ガキィーンッ!”
「くっ、ぅう……あっ!」
なんとか持ちこたえ、突破されずに済んだものの、衝撃を相殺しきれない。
これまでと桁違いな拳の威力を止めることができず、セニーナの体は大きく後方へ吹き飛ばされる。
「セニーナっ!ん、っしょっ!!」
偶然ティアネの方へ跳ね飛んだこともあり、しっかりと受け止める。
「わひゃっ!す、すごいですねっ!?い、いきましょうっ!」
最初の攻撃に反し、ゆっくりと確実に獲物を確認するかのように近づく巨大ゴーレム。
「ぐっ、ぅ……申し訳、ありません……」
セニーナを抱えるティアネを誘導し、アルスティが率先して扉から出る。
城壁回廊に戻ってきたことを確認し、素早くアルスティが『施錠』を行う。
「こ、壊したり、してきたら、どどどど、どうしましょっ……」
「っく……それは、おそらく……大丈夫、でしょう」
扉越しに聞こえていた金属音は次第に消え、静寂が訪れる。
「ガーディアンゴーレムは基本的に、与えられた区画内で命令を遂行する魔導生物です。それぞれの『持ち場』を離れて、そこを攻め込まれては意味がありません。ですので……」
「ねえ、大丈夫っセニーナ!?」
「……ありがとうございます。姫様が受け止めてくださったおかげで、ダメージを最小限に圧縮できました」
「よ、良かったです……でも、どうしましょうか……あんなおっきいのが、次の扉を守ってたら……」
すでにこれまでの道のりで疲労は蓄積され、重苦しい雰囲気が漂ってしまう――が。
「後で考えましょっか!今日は一旦帰りましょう!次に向けて作戦会議よっ♪」
「ぇへへ……そう、ですね。セニーナさんも、しっかり休んでほしいですし」
「……ありがとうございます」
重ねてお礼を伝えるセニーナの肩は、いつもより小さく見えた。
―
「あんなおっきなゴーレムもいるなんて……お母様、なんてモノを作ったのよっ……」
大きく「あーもー!」と叫び、部屋着へ着替えてからベッドへうつぶせで倒れ込むティアネ。
「今の私たちじゃ、どうしようもなさそうだし……どこかにおびき出すこともできないし……んにににに……」
「煌王祭まで、あと、3日……とにかく、寝るわっ!今日は本当に……疲れ、ちゃ――」
相変わらず1人の部屋でも力強く宣言しながら、最後まで言い切らずに安らかな寝息を立て……ティアネは眠りに落ちていった。




