第25話 隠し部屋
“ガラガラガラッ……ドォオオオン!!”
「姫様っ!」
「ティアネさんっ!!」
金属音と、瓦礫の崩落のような騒音。
「ぷはっ!大丈夫!問題ないわっ♪」
多数のガーディアンゴーレム――を構成していた甲冑兵のパーツと、崩れた石壁の山から顔を出すティアネ。
「本当にすごいわっ、アルスティの【フロウ・ブレイク】!」
「ぇへへ…間に合って良かったです…はい…」
ぱん、ぱんと埃を払い、立ち上がるティアネ。
「びっくりしちゃった!絶好調ねっ♪」
ティアネに襲いかかるように飛び上がったガーディアンゴーレムは、アルスティの新たなスキル――【フロウ・ブレイク】によって自由を奪われ、そのまま石壁に激突し瓦解した。
「アルスティさんの慣れも相まって、特定部位の動きを止めるだけでなく……パーツごと、取り外すような芸当も可能になりましたね。まさに『解錠』の概念が活きているのでしょう」
セニーナは考えを述べる。
「そ、そうですね……カギを開けるような要領で、強く結んであるものをほどくような……。ていうか、セニーナさんも大丈夫ですか……?」
真剣な考察の表情をしつつも、四つん這いでお尻を突き出し、生まれたての子ヤギのような姿勢で震え続けるセニーナ。
「申し訳ありません……もう1ミリも動けません」
「なんでそんな中途半端な体勢なんですか!?い、一旦座って休みましょう!?」
「いえ……次なる危機に備え、せめてすぐに動けるよう体勢を保っ……」
がくがくがくがく……
「気にしないで!【ルナシエ・クリスタ】をもう2回も使ったんだから!助かったわ♪休憩しましょっ!」
――大量の魔力によって、まるで生きるように構造を変え……
魔法による転移も含め、様々なトラップで侵入者を撃退する城。
ダンジョン『ベルハリア城』の本格的な攻略(脱出)は2度目となる今。
「ここは城壁に沿った回廊ですね。それを再現した空間なので、おそらく現実世界のものとは違いますが」
ティアネに「よぃしょ」と担がれ、壁に寄せ座らされたセニーナが分析する。
以前手に入れた『暫定の脱出経路』に目を通しつつ、アルスティが続く。
「さっきは、ええっと……キッチンの近く、でしたよね。頭が混乱しちゃって……」
「高層階を歩いてたと思えば、見張り塔の近くに放り出されたり……メチャクチャよね」
タイムリミットである、城下町のすっごい楽しいこと確定極まりないお祭り……煌王祭まで、残り3日。
それまでにこの城から“こっそり”抜け出し、お祭りを堪能することが目的。
「そうですね。……城を動かすだけではなく、対象を強制転移させる魔法……そして、幻惑の類で空間自体を創造する魔法……。リーヴェ様の魔力量だけでは説明が難しいです」
「リーヴェ様って、昔からそういう魔法が得意だった、とか……?」
ベルハリア王国に辿り着いて日が浅いアルスティは、2人に疑問を投げかける。
「いえ、むしろ逆です。私が聞き、学んだリーヴェ様の武勇は……攻撃魔法を得意とし、圧倒的な身体性能によって広範囲を制圧する剣の使い手だと」
身体性能というワードを出すとともに、リーヴェの愛娘であるティアネの方を見る。
「今はリーヴェ様が城におられるとはいえ、これほどの魔力を城全体に這わせ、魔法を行使することは非常に負荷がかかるはずなのですが……」
「う~ん……でも、さすがに終わりはあるわよね?じゃあ全部のフロアを突破したら、きっと正門前にたどり着けるようになっているわよ♪」
「……そうですね。さすが姫様」
考えても仕方がないことに思考を奪われ、余計に消耗してしまうことを感じたセニーナは息を整えることに集中する。
「あ、そ、そうだ!セニーナさん、これ……」
アルスティが胸元の内ポケットから取り出したのは、小さなクッキーだった。
「っ!!」
『いつもの冷たい表情』のまま、『いつもの動揺』を見せるセニーナ。
「えへへ、ちょっと余ってたんで……持ってきちゃいました。ど「ありがとうございまふ」わひゃああああ!」
アルスティと握手をするかのように受け取り、そのままアルスティの小さな手ごと口元に頬張る勢いで放り込む。
「んむ、んむんむ……美味しいれふ」
「食べながら喋っちゃうなんて珍しいですね、あはは……よっぽどスタミナ切れだったみたいで」
「アルスティさんの気遣いが灯ったのようにわずかに温かく体温が移ったこのクッキーが私を」
「ははは恥ずかしいこと言わないでくださいよっ!?!?」
「ふふふっ♪良かったわね!」
「ありがたくいただきました。万全です。そろそろ行きましょう」
足の震えは嘘のように収まり、立ち上がるセニーナ。
「なんだか、セニーナって……お菓子で動くゴーレムみたいよね。んふふっ……お母様の魔力じゃなくて……」
「……成程……私が甘い物を過剰に欲する理由のひとつが判明しましたね。胃袋で圧縮することで、エネルギーと変換し……」
本心から言っているのか、冗談に乗ってくれているのか。
朗らかな雰囲気が笑顔をもたらし、より大きく3人の気力を回復させた。
―
「え……ここって……どこ?」
「……武器庫…でしょう。城壁の回廊沿いの……。……ティアネ様には馴染みがないのも無理はありません」
次に3人が扉を開いた先は、雑多な収納庫とは明らかに雰囲気が違う武器庫だった。
整然と並べられた武具の数々はセニーナにとって見慣れた景色であり、薄緑色の灯で照らされ静かに佇んでいる。
ひとつのズレもなく、壁際に等間隔で掛けられた長槍や、細剣……装飾の施された鎧から、訓練用に使う木剣。
「……ちょっとコワいけど……なんだか、カッコいいわね……♪」
「ひぇぇ……こ、これ全部……急に飛んできたりしませんよね……」
おそるおそる指で触れようとしつつも、恐怖がまさり手を引っ込めるアルスティ。
「わひゃ……あそこにも、ガーディアンゴーレムが……」
周囲を観察しつつ進むも、セニーナがふと足を止めた。
「――この壁……」
一見、何も飾られていないただの石壁に目をつける。
「どうかしましたか?」
「何か、雰囲気が……。――調べます」
静かに目を閉じ――【リフェンディング】を発動させる。
薄く張られた部屋全体の魔力の流れから、一箇所だけ……セニーナが目をつけた石壁に、不自然な魔力の流れがあった。
「やはり、一部分のみに……魔力が圧縮されています。何か、仕掛けがあるのかもしれません。」
「ん~……あ!よく見たら、なんだかちょっと……継ぎ目があるというか……ズレてるような感じね」
「継ぎ目……あ、ほんとですね。ちょっと暗くてわかりにくいですけど……」
ティアネとアルスティが壁に張り付き、こんこんと音を叩く。
「……アルスティさん。提案ですが……この壁に、【フロウ・ブレイク】を放ってもらうことは可能でしょうか」
「え?……あっ……そっか……」
すぐに納得したアルスティに続き、ティアネが確認する。
「どういうこと?この壁の継ぎ目、に――あっ」
「はい。今のアルスティさんの【スキル】であれば……」
「わかりました!いきます……【フロウ・ブレイク】っ」
アルスティのてのひらに集中させた魔力が、徐々に石壁に波紋のように広がる。
高い金属音が鳴ってから、徐々に低い地鳴りのような異音。
“ゴゴゴゴゴ…………”
石同士が擦れる重い音とともに、壁がゆっくりと横に滑り始めた。
「……や、やったっ」
「スゴいっ!やったわねっ♪」
「お見事です。ありがとうございます」
継ぎ目の先に隠されていたのは──武器庫よりも天井が低い、小さな密室だった。




