第24話 【フロウ・ブレイク】
過去――とある曇り空の日。
「どんな扉でも開けられるってナニ?解錠屋?なんかアブない感じ……」
「え、い、いえっ!その……さ、錆びて開けにくくなった倉庫とか、そ、そういうのを……」
とある街の廃れた一角。
交易通りのようなその区画では、様々な商人や職人が自らの技術と財産を誇示していた。
「いや、やっぱりいいよ。向こうの人に頼むから。じゃ」
「あっ!あのっ…… あ、ぅ……。行っちゃった……」
肩を落とす少女――アルスティ。
彼女は流浪の商人を続ける傍らで、自前の【スキル】を使って仕事を得ようとしていた。
「(……そうだよね……やっぱり、ヘンなイメージ……ついちゃうよね……)」
木箱に座り込み、静寂が訪れる中でふさぎ込む。
はじめは壊れた小物の修理や、手先の器用さを要されてきた内に発展した『どんな扉でも開けられる』技術。
だが、普通に考えれば思いつくものは――窃盗や侵入といった、悪徳行為だろう。
「(そんなコトするつもりないのに……きっと、あたしの言葉が足りてないから……)」
内気な性格が災いし、地道に信頼を積み上げることもできず。
自身に原因があるのだろう、と負のループを繰り返し……さらに自信を失っていた。
「(この前も紹介してもらった仕事……荷物を運ぶだけって聞いてたのに、盗品だったなんて……。なんとか逃げられたけど、ほんとに危なかったよぉ……)」
本人にその気がなくても、そんな便利な【スキル】を知ってしまえば――『活用』したがる人間がいることも自明の理だった。
「(この前も、この前も……わるいコトばっかりで、運がないなあ……)」
ある時は、貴族に頼まれて解錠した倉庫内で……その貴族が不倫している、愛人の手紙が見つかってしまい……責任を転嫁されたり。
ある時は、はじめから壊れきっていた扉を『【スキル】を使ったから壊れた!』と糾弾されてしまったり。
「(……ううん……きっと、ここのみんなもお金がなかったり、危ないところにいるから……心が擦り切っちゃったんだよね)」
うなだれつつ、地図を手に取る。
「(……ベルハリア王国……ここなら……)」
建国されてから一度も抗争、紛争の類がなく、この大陸でいま最も平和とされる国……ベルハリア王国。
ここでなら、きっと正しい人に……自分を、わかってくれる人に……。
「……うん、やっぱり……行ってみよう。……けど……遠いなぁ……」
―
「……って、カンジで……あたしはこのベルハリア城へ……たはは」
「ねえっ!アルスティ、何も悪くなくないっ!?」
「んむんむ……んぐ、ごくん……ですね」
翌日。
ティアネたちの目標である煌王祭の開催まで、残り――3日。
それはもうハチャメチャに美味しいスイーツとかご飯が夜通し数日間提供され散らかしてなんかいい感じに楽しそうな射的とかウキウキな催しもたくさん開かれまくる夢の時間、煌王祭まで……残り3日。
「はむっ!んむんむごっくんっ!ねえっ!アルスティ、何も悪くなくないっ!?んむっ!」
「んむ、はむ……んむ……れふね。……失礼。ごくん……ですね」
「あはは……もう昔のコトですから」
そう言いつつも――代わりに怒ってくれるティアネが、嬉しかった。
ティアネの部屋で作戦会議……とは名ばかりの、仲良しお昼休みを楽しむ3人。
「私の大事な友達に、そんな悪いコトばっかりさせてっ……!許さないわよっ!本当にっ!」
「お言葉ですが、んむ……ごくん。一国の姫を脱走させる行為は、比較にならないかと」
ぴしゃりと放つセニーナの言葉に嫌味はなく、淡々とした事実の確認だった。
「ふぐっ……!!痛いところをつくわね……い、いいの!せ、正当な報酬が、や、約束され、てい、るお仕事だか、らっね!」
「あはは……大丈夫ですよ、気にしてませんから」
「でも、本当にうちに来てくれてありがとっ!すっごく平和なことが取り柄なのは間違いないわっ!お母様の頭はすっごくカタいけどっ!」
ふんっ、と唇を尖らしつつも声には弾みがあり、楽しく明るいまま言い放つ。
「そ……そうですね。それと……タブン……いえ……ティアネさんたちと過ごして、気づいたことがあるんです」
アルスティは手に持ったカップに注がれたミルクティーを覗き込み、視線を落としたまま続ける。
「昨日、ガーディアンゴーレムに襲われた時……あんなに連続で【スキル】を使ったのに、頭がほとんど痛くなりませんでした」
「それについて、昨夜、ずっと考えていたんですが……きっと……『トラウマ』があったんだと思います」
「トラウマ……。……【スキル】のことで、つらい思いをしたから……かしら」
「他にも色々あったんですけどね……あはは。それで、気づけばきっと……この【スキル】を使うことに、抵抗感というか……心の中で、気がかりがあったまま……」
ティーカップを少し揺らし、生じる波紋を眺めつつ自嘲気味につぶやく。
「成程。確かに……【スキル】とは、使い手の精神状態によって大きく効力が左右されます。アルスティさんは自身が知らない内に、『可能性』を閉じていたのでしょう。」
「……後ろめたい職人技として色々言われてきたことで、イヤになっちゃってたのかなって。……でも……ですね」
揺らす手を止め、ゆっくり顔を上げる。
自信に満ち足りているとは言い難いものの……その表情に影はなかった。
「皆さんに出会って……皆さんのお役に立てて……たくさん、褒めてもらって。それも、誰かを助けるコトにこの【スキル】を使うことができて。そう思うと、心がすっごくラクになって……あったかく、なって」
「アルスティ……ふふ……」
嬉しそうに目を細めるティアネ。
得意だと主張しつつも、心の内ではその手腕に向き合いきれていなかった自慢の友人が、自信をつけてくれている。
「だから……頭の痛みも、減ったんだと思います。というか……そういうことにしたいんです。皆さんをお助けできるこの【スキル】で、もっと……チカラになりたくて!」
「ええっ!これからもよろしくねっ♪」
「もちろんです。貴方の【スキル】は、唯一無二といえるでしょう」
あ!と声をあげ、手を叩くティアネ。
「じゃあ、改めて!名前をつけましょうよ!その【スキル】にっ♪」
「名前……ですか」
「そうっ♪生まれ変わったアルスティの、記念にっ!」
「そうですね。自身の職人技……【スキル】に名称をつけることは、私からも推奨します」
同意する2人と、改めて照れながら考え込むアルスティ。
「実際の戦闘においても、必殺技の名称として叫びながら攻防を行うことで瞬発力が高まることは証明されています。繊細さを要するアルスティさんの【スキル】においても、口から発することで集中力を高めるスイッチになるのでは、と」
「そうよっ!とびっきりカッコいいやつか……あ、かわいいやつでもいいわよっ♪」
「ぇへへ…そ、そう言われましても……。あ、昔はちょっと考えてたりしてたんですけど、色々できるようになった今、昔考えてた名前をまたつけちゃうのも……」
指をもじもじとさせつつ、可愛らしく照れ続ける。
「じゃあ、私たちみんなで考えましょっ!セニーナ、何かあるっ?♪」
「……魔力の流れを変え、時には断ち、対象の構造すべてへ干渉する……」
セニーナがぐっと溜め、ハッキリとしたキメ顔でかました。
「【フロウ・ブレイク】というのはいかがでしょうか」
「……【フロウ・ブレイク】……」
「……かっ……」
「「かっこいい~~~~~っ!!!!」」
「すごいっ!センスあるわセニーナ!第一候補だけど、もう決定でいいんじゃないっ!?私の分のマドレーヌもあげちゃうっ♪」
「ありがはむっんぐんぐごくんっとうございまングフッ!!!!ゲホッフ!!!オベッフ!!!す光栄です」
「食!?咽!?!?何!?!?!?!」
ぴんと伸びた背筋のままマドレーヌを剛速球で口内に押し込まれるも秒速で処理し、ピースサインを作るセニーナ。
「……ありがとうございます。すごくいいと思います。ちょっと、あたしには似合ってないかもしれませんが……この【フロウ・ブレイク】で、皆さんを……もっと、お助けしますねっ!」
これまでよりも少し力強く、そして自信ある笑顔を2人に向ける。
「ええっ!早速今日の夜からガンガン使ってもらうからっ♪」
ガッツポーズを互いに向け合い、笑顔で心を通わせる。
「……それにしても……セニーナさんのネーミングセンス、本当に素敵ですね。あの氷の壁……【ルナシエ・クリスタ】とかも、すごくキレイな響きで」
「ありがとうございます。あれは私の大好物である氷菓子から拝借しました」
「お菓子の名前だったんですか!??!?!」ったの!?!?!」
2人揃って椅子からずり落ちるように体勢を崩す。
「ご安心ください。【フロウ・ブレイク】はどこからも拝借せず、私の意思でしっかりと考え抜きましたから」
「じゃ、じゃあ……【リフェンディング】は……」
「それはスイーツを食べすぎた翌日、著しくパフォーマンスが落ちた体を調整するためにとった防御策から来ています具体的にはまず朝目覚めてから水を」
「「結局お菓子関係っ!??!!」」
2人の笑い声に包まれ、優しい時間が過ぎていった。




