第23話 【スキル】の発展
「…………――す、すごいっ!すごいすごいっ!」
ティアネの腕を掴もうとしていたガーディアンゴーレムは、エラーを起こしたかのように動きを止め、震えている。
「はあぁ……よ、良かったぁ……できたぁ……」
まったく確証がない中で行った謎の『制御』が成功し、胸をなでおろすアルスティ。
「……アルスティさん、この魔法は……いえ。魔法……でしょうか」
「あ、あ、えっと……いつまで保つかわからないんで、とにかく行きましょうっ!もうカギは開けておきました!」
「うそっ!すっご~い!カッコいいわ、アルスティ♪」
慌てて3人は扉を越え、施錠を済ませ、扉を背にして仲良く座り込む。
「危なかっ、たぁぁあ…………」
「ありがとうございます、助かりました」
がくがくがくがくがく……
「い、いたたっ、痛いですっ!ガクガクの足が当たってますっ!」
「ちょっと休憩しましょっか!ね、アルスティ。さっきの“あれ”……どうやったの?」
「……実は……わからないんです。無我夢中で、ゴーレムたちに手をかざして……えっと、この前も……」
以前、収納庫の整理中に起きた出来事を共有する。
「……そうでしたか。アルスティさん。……私からの意見も圧縮し、整理しましょう」
セニーナはかねてよりアルスティの【スキル】に抱いていた考察を口にする。
「貴方のその【スキル】は……おそらくですが、応用が利きます」
「応用……ですか」
「解錠をする際、自身の魔力を鍵に流し込み、干渉すること物理的に操作し……または、すでに魔力が流れている物質には、その流れ自体へ干渉できるようなはたらきを持っているのでしょう」
「え、っと……あまり深く、考えたコトは無かったんですけど……そうかも、しれないです」
「お母様の魔力がたくさん流れてるこの城の扉も、難なく開けちゃうものね!もしかして、『そっちの方』がやりやすかったりするの?」
「……あ……た、タブンですけど……普通の錆びた扉よりかは……スムーズなような気がします」
「となると……ガーディアンゴーレムの動きを止めたことも納得がいきます」
足の震えを少しずつ抑え、セニーナはろくろをこねるような手つきで説明を展開した。
「無我夢中で使用した解錠の【スキル】が、ガーディアンゴーレムの関節部分に干渉し……魔力の流れを変え、文字通り……“解錠”したのでしょう。」
「……じゃああの時も、関節が外れて、動かなくなったってこと?」
「おそらく。無意識に行っていたアルスティさんの【スキル】は、ただ『鍵を開ける』だけでなく……対象の魔力に干渉し、時には圧縮して……流れを変えるようなモノへと進化を遂げたのでしょう」
「……そんなチカラが、あたしに……」
「すごいじゃない、アルスティっ!あ、でもっ……頭、痛くない?だって、あんな短い時間で何回も……」
ふと思い出す、無視ができない“デメリット”。
アルスティの強力な解錠行為は、連続使用の代償として激しい頭痛をもたらすというものだった。
「……あ……そういえば、ほとんど……ない、ですね。どうして、だろう……疲れてはいるんですけど、この前と比べたら全然……」
「……アルスティさんの脳にかかる負担や、または……精神的なもの、でしょうか」
「精神的……」
そう呟き、少しだけ顔に影がかかる。
アルスティの感情を読み取ろうと顔を伺うセニーナ。
おそらく、過去を振り返っているアルスティは、握り拳を胸に構えつつ、少しつらそうな表情をしていた。
「……考察は一度ここまでにしましょう。そして姫様、提案があります」
「あ、私も!けっこークタクタになっちゃったの。今日は……ここまでにしない?」
「えっ?」
ティアネに表情を向けるアルスティ。
3人の中ではもう顔から疲労が消えており、すぐにでも走り回れるといった雰囲気だったが……
「アルスティも、新しいコト覚えて疲れちゃったでしょ?まだもう少しあるから、一旦帰って休みましょ!」
アルスティを気遣っていることは明らかだった。
だが、その表情はいつものように『惜しい』はなく、期待と希望に満ちていた。
「はい。一度、アルスティさんの体に変化がないかを確認しつつ……今回得た情報を持ち帰り、再度作戦を立てましょう」
「……ありがとう、ございます……」
数々のトラップにより、疲弊しきった体。
緊張で張り詰めていた脳が弛緩の指示を送り、一気に「ふにゃふにゃ」になる。
「で、でも……今から、歩いて戻るんですか?その……ティアネさんのお部屋の前まで戻してくれる、『ループする廊下』みたいなところって、ちゃんとした場所とか……」
「大丈夫、考えがあるの。っていうか、ほぼ確定で、絶対に……!今すぐに戻れる、便利な方法があるわ」
「お伺いしましょう」
「みんな、私に近寄って!一応、抱きつくようにくっついておきましょ」
指示通りにぐっと身を寄せ、深呼吸をしてから何かを考え込むティアネ。
「あの……えと……ティアネ、さん……?」
瞬間。
“ガコンッ!”
「へっ」
3人が座り込んでいた床が大きく抜けた。
「わひゃあああああああああああああああっ!?!?!?!?」
「大丈夫!このまま落ちれば――」
「お゛にゃっ!」「んぐっ!」「やっぱり痛ったあ!!」
激しい落下の割には、軽く転けた程度の衝撃。
尻もちをついた3人が見上げ、真っ先に視界に入ったものは……
「……姫様の部屋、ですね」
「でしょっ?やっぱり、ほらっ!♪やったあ~っ!」
「えっ?えっ?なんでっ?」
嬉しそうに両腕をあげ、そのまま振るように喜び続けるティアネ。
「私たちを遮ってきたトラップとかって、全部リーヴェお母様が仕向けたものでしょ?それも、私を連れ戻すこと、保護することが最優先って!じゃあ逆に私が『帰りたい』って強く、つよ~く念じ続けたら……どうなるのかしら、って思って!」
「……ほぁぇ……そ、それで……くっついてた私たちごと……」
「保護システムが、最優先で働いて……ということでしょうね。にしては、圧縮された過程が多すぎますが……」
「たくさん頭に木桶を降らされたり、いっぱい転ばされたりしてすっごくムカついちゃったけど……だから逆に、利用しちゃおうって思ってね!ふふっ♪」
思いもよらぬ形で、ワープ手段を手に入れた3人。
「今日はみんなでぐっすり休んで、また明日……挑戦しましょう!このお城に……『ダンジョン』にっ!♪」
かつて絵物語で見た冒険譚をなぞっているようで。
いま、自分が体験しているこれは……まさに、ティアネが夢見たシーンのひとつだった。
「……ふふ……ティアネさん、楽しそう」
「私も情報をまとめ、圧縮しておきます。では、解散としましょうか。休養も立派な『作戦』です」
「ええっ♪みんな、またねっ♪」
―
「……あたしの【スキル】に……こんなチカラが……」
与えられた新人メイド用の部屋に戻りつつ呟くアルスティ。
濡れたタオルで丁寧に体を拭きながら、過去を思い返す。
「……こんなチカラが、あったんだ……」
安堵の吐息。
嬉しそうに頬をほころばせた表情からは『救い』に似た雰囲気があった。




