第22話 魔力奔流
次に3人が辿り着いたのは、古い書庫だった。
迷宮の壁のように並ぶ本棚と、大広間のように高い天井。
皮表紙の古書から、解読できない文字で刻まれた巻物、色褪せ掠れた地図帳……
ティアネが時折、イルゥニから許可を得て絵物語を読む際に訪れていた書庫に酷似していた。
「見覚えある景色だけど……やっぱり、灯りがいつもと違う色ね」
「そ、そうですか……あの……大丈夫ですか?ティアネさん」
真剣な面持ちだが、頭にたんこぶが8個ほど積み重なり腫れ上がっているティアネ。
「お尻の感覚がなくなるほど腫れてしまった私と違い、ダメージが深刻ですね」
何事もなかったかのように語りつつ、自身のお尻に軽く手を添えるセニーナ。
前回の『共同作戦』は今ひとつ功を奏さず、セニーナの方向音痴具合がまんべんなく発揮された。
目を閉じた上での『抱っこナビゲート』は慣れない事もあってか精度が不足しており、連携がとれず、崩落した床を時折……いや、かなりの数踏み抜いてしまい、頭上からの落下を繰り返し今に至る。
「もう本当にお母様には感謝しかないわ。短時間でこんなに私の身長を伸ばしてくれて」
「(すすすすっごい怒ってる!!!)」
穏やかな笑顔をたたえつつ、たんこぶを撫でた。
大きく立ち並ぶ本棚の隙間を細い通路のように交差し、3人は慎重に進む。
本棚の奥には、満を持してと言いたくはないが――ガーディアンゴーレムが数体、鎮座していた。
3人よりも大きな体躯で、飾り物のように立っている個体や、置物のように座っている個体……
この部屋に漂う重苦しい雰囲気と、薄緑色に照らされた照明からも……油断はできなかった。
「(……動かないわね。今のうちに、ゆっくり抜けましょう)」
「(こ、こっそり……ひっそり、ですね)」
「(離れないでくださいね。行きましょう)」
目配せと囁きで意思疎通を済ませ、念のためあまり音も立てないようにして進む。
アルスティかティアネのどちらかから、ごくりと唾を飲む音。
「……扉ね。この模様というか、雰囲気……きっとしっかり施錠されているわ」
「あ、あたしがかわりますね。失礼します」
「ええ。頭、痛くなってない?まだ大丈夫?」
ティアネの気遣いに、しっかりと笑顔で返す。
「ありがとうございます、おかげ様で全然……。おふたりが、ゆっくり進んでくれてるおかげです。えへへ」
施錠されていることを確認すると、アルスティは手をかざしゆっくりと意識を向けた。
「良かったわ♪……あと、ちょっと前から思ってたんだけど……その【スキル】って、名前はあるの?ほら、セニーナみたいな……」
「んっと……昔は、色々考えてたんですけど……」
アルスティは少し過去を思い出し、あまり明るくない面持ちで続ける。
「あたしは今は『解錠』って呼んでるぐらいで……特に決まってはないです」
「ふうん……そう。じゃあ……」
アルスティの両手から小さく広がり始める魔力の波――に応じて、聞き慣れた金属音や、石がきしむような音。
「……皆さん。どうやら起動したようです」
こちらへ向き、ゆっくりと3体の甲冑兵……ガーディアンゴーレムが寄ってくる。
「私が足止めします。アルスティさんはそのまま解錠を!」
徐々に勢いをあげ、行進のような速度から加速し走りかかってくるゴーレム達。
最前に立つセニーナに向け、拳を振り上げ襲いかかってくる。
その勢いを相殺するかの如く、セニーナは剣を優雅に振ってから地面に突き立てた。
「【ルナシエ・クリスタ】っ!」
“ガキィーンッ!”
大きな氷の壁が2体のゴーレムの動きを阻むように現れ、向かってきた方角へと大きく吹き飛ばす。
「あれっ!?このカギ、すごく入り組んでる……!」
背後から聞こえてくる、焦燥の声。
「大丈夫!?開けられそうっ?」
きゅっと唇をしめてから、決意を乗せて喉を震わせる。
「――頑張りますっ!もう少しだけ時間くださいっ!」
2人のやり取りを耳から入る情報だけで判断しつつ、セニーナは残り1体のゴーレムの突進を抑えるべく防御体制をとった。
先の2体と違うタイミングで襲いかかる――が、セニーナではなく、後ろのティアネたちに向けて。
「(っ!?私を狙っていないっ!?最優先は姫様か……っ!)」
身を持って阻むつもりが、勢い良く出し抜かれる。
一瞬、考察による判断で動きが遅れ2人の方へ体を回す。
「任せて!こっちよっ!追いかけっこしましょうっ!」
自身が狙われていると判断したティアネは、アルスティから大きく距離をとるように離れ、駆け出す。
だが――その考察はすぐに外れることとなる。
「!?えっ、えっ!?」
最後のゴーレムが狙いを定めたのは、解錠中のアルスティだった。
武器こそ持っていないものの、手を広げたまま突進をしてくるその姿は脅威そのものだ。
「アルスティっ!!」「アルスティさんっ!」
「わひゃああああっ!スミマセッ――」
普段より高い集中力で解錠を行っていた事により、高い魔力を発露させた手をそのままガーディアンゴーレムへ向ける。
――すると。
“ガキッ……ギ、ギギ……!”
アルスティのすぐ目の前で、ゴーレムの動きが止まった。
うめき声のように歪な金属音を立て、手を振りかぶった姿勢で小さく震えている。
「えっ!?どういうことっ!?」
「あれっ……!?ま、“また”だっ……!」
「また……?」
セニーナはアルスティの呟きを聞き逃さなかった。
「で、でもすごいわっ!私たちが見ているから、アルスティは急いで――」
声のするティアネの方へ向き、返事をしようとする――が。
「――っティアネさん!うしろっ!」
「えっ」
予想外のやり取りに意識を奪われ、気づけばティアネの背後に――もう1体のガーディアンゴーレム。
「姫様、こちらへっ!」
駆け出すセニーナ。だがゴーレムの手がティアネにかかる方が早い。
少し遠くから見ているアルスティ。一瞬、彼女から見た視界が止まる。
「(……さっきのっ……もっかい、起きてっ!)」
「ティアネさんっ!!」
初めて出来た『友達』を守りたい心をもって、魔力を込めた手を伸ばす。
加えて、とある『意思』を明確に。
その意思や想いが実を結び、ゴーレムはふたたび歪な金属音を立て――動きを止めた。




