第20話 撃退トラップの『レベル』
「んなにこれ何これ何コレぇええええっ!?」
「姫様っ!どうかそのままでっ!」
腰から細剣を抜き、ティアネめがけて降りかかる木桶をすべて切り払うセニーナ。
「ありがとっ!アルスティーっ!じっとしててっ!」
幸い入口付近には降っておらず、しがみつくように震えるアルスティ。
ティアネの頭上だけでなく、大広間の様々な場所にランダムで降り注ぐ木桶。
自身に降りかかる分をいくつか切り払い、静寂が訪れると――床に散乱したものから順に魔力光を放ち、消えていった。
「……な、なんなの……今の……」
「……落ち着きましたね。アルスティさん、こちらへどうぞ」
「こ……これも……罠、みたいな……なんなんでしょうか……」
アルスティはいつもの肩をすくめた前かがみの姿勢でそろりと近寄ってくる。
「……私が1人で探索した際は、こういったものは……。木桶という、殺傷力が低い道具も気になりますね」
立ち上がるティアネを支えながら、セニーナは考察を続ける。
「私たちに都合よく捉えるのであれば……ティアネ様がいることにより、当初の目論見通り……『レベルが下がった』とも見れます」
「た、確かに……実際に侵入者を撃退するため、なら……もっと危ないものを降らせることだって、できますもんね」
「2人にケガがなくて良かったわ!んっと……たぶん、普段通りならあっちの扉から出られ……あれ?」
「……ここにも、複数の扉がありますね」
大広間の長い壁には、ずらりと並ぶ同じ模様の扉。明らかに異様な光景だった。
「ひ……ひとつずつ、開けるだけ開けていきましょうか」
「そうね、時間が惜しいわ!私が端から見ていくわね!」
ティアネが軽やかな動きで走り、左端の扉に手をかける。
続けて、セニーナが中央部分の扉へ。
アルスティも右端に歩き始めたところ……また先程のように、魔力光の波紋が足元に広がった。
「えっ!?うそっ!?」
しかも、アルスティの頭上に現れたのは先程よりも遥かに巨大な木桶であった。
おそらく、一度目で撃退できなかったことを感じ取ったこの部屋が、次なる一手を取ってきたのだろう。
「アルスティっ!あぶないっ!」
「わひゃああああっ!!スミマセンスミマセンっ!!」
咄嗟に身を翻す機敏さはなく、怯みながらしゃがみこむアルスティ。
同時に駆け出すティアネとセニーナ。位置取りからするとセニーナの方が近いが……
「やああああああああっ!!!」
“バコォーンッ!!!”
「っ!?」
強い衝撃を横から浴びせられた巨大な木桶は、ティアネたちと正反対の方角へ吹き飛び、壁に激突した。
「えっ!?ええっ!?なっ何がっ……ええっ!?ティアネさんっ!?」
「大丈夫、アルスティっ!?ケガはないっ?!……えっ?あれっ?私……」
徐々にペースをゆるめつつ近寄るセニーナが分析する。
「お見事です、姫様。……とても見事な、『蹴り』でした」
「けけけっ蹴りぃ!?あんな重くて、おっきな木桶をっですか!?」
目視してからはすぐに頭を抱えてしゃがみこんでしまったため、状況を視認することができなかったアルスティはただひたすらに驚く。
「えっと……私……アルスティを助けなきゃって、必死に走って……あの木桶に、ぶつかるような感じで……」
当のティアネ自身も驚き、自らの手を複数回握っては開きを繰り返す。
「想像以上でしたね。ティアネ様にこれほどの身体能力が備わっていたとは」
「でも、その……私も、初めて知ったというか……」
「……扉を確認しつつ、質問をさせてください」
今度は3人で固まるようにひとつずつ開閉し、すぐに『ハズレ』か『当たり』かの確認作業を開始していく。
「まず……ティアネ様。普段の『体育の授業』の内容をお伺いしても?」
「え?……本当につまんないわよ。例えばイルゥニが見てくれる時は、中庭でずっと同じところを走ったりとかしてるだけで……」
「その長さや距離は?」
「うーん、日によって違うからよくわかんないの。体作りのために、色んな説明を聞いたことはあるけど……ぜんぜん興味がなくて、いっつも忘れちゃうのよね」
「……そうですか。ありがとうございます」
いくつか開けたところで、強く抵抗を示す扉を見つける。
「?これっ……施錠されてるわ!アルスティ!」
「はいっ!ま、任せてください!」
「……『努力とも思わない努力』……」
「? どうかした、セニーナ?」
「いえ。おそらくこの扉が『あたり』でしょう。アルスティさん、お願いします」
―
「同じような廊下に出ましたね。ここからは先程のように、頭上からの攻撃にも警戒する必要があります」
「大丈夫!何が降ってきたって、さっきみたいに私が跳ね返してあげるから♪」
自身の未知なる力に高揚感を覚え、笑顔のティアネ。
「あ、でも……ガーディアンゴーレムとかは、壊れちゃうかもだし……あと、普通のヒト相手にぶつかるのもイヤ!ケガさせたくないの!」
姫の持つ“善性”を尊重し、頷きながらセニーナは同調した。
「承知しました。……足元に魔力光が見えたら、注意してください。おそらく……」
「ひぇ……普通に歩くのも、難しくなりますね……」
「いえ……私であれば、あるいは……」
2人に立ち止まるように手で制し、静かに目を閉じる。
視界が遮断された状態で、セニーナは眼前に広がる魔力の気配を感じ取った。
「……お2人はこのまま動かないでください」
ゆっくり目を開け、足元を確かめるような素振りもなく素早くセニーナは進みはじめた。
「えっえっ!?大丈夫なんですかっ!?」
「大丈夫です。私の後ろについてください。ご説明します」
「ええ」「は、はい」
「少し近すぎるかもしれません」
おんぶの勢いでくっつく2人を優しく剥がしてから、あっという間にこの区画を踏破することができた。
「な……何にも起きなかった……すごい……!これもセニーナさんの【スキル】なんでしょうか?ありがとうございます……!」
背を向けたまま、わずかに肩で息をするように息を整えつつセニーナが返す。
「私は長時間の近接戦を不得手とする分……こういった魔力の流れを見極めるような観察力に長けた【スキル】も身につきました。ですが……」
「うわあ汗すごっ!?!??!」
「ものすっごく疲れます。これも」
「それもすっごく燃費が悪そうね!?」
滝のように汗を流し、涼しい顔のまま震えるセニーナに強い既視感を覚える2人だった。




