第19話 攻略開始!
「では、本日この時より……本格的なベルハリア城の攻略を開始しましょう」
「ワクワクしてきたわ!」
「よろしくお願いします……!」
それぞれ1日の仕事を終え、与えられた自由時間。
「ティアネ様の部屋をスタート地点とした上で、私が辿った道を再現します。できる限りガーディアンゴーレムが少ない道を進み、避けて通れない扉はアルスティさんの【スキル】を。細かく休憩を挟み、回復の時間を設けます」
てきぱきと大まかな作戦を再度確認しつつ、3人それぞれ視線を送り合う。
「始めましょう。ついてきてください」
時刻は夜。騒々しくも明るく華やかな使用人たちの生活音がなくなり、聞こえるのは虫の鳴き声や……反響する『4人分』の足音。
「あれ……足音、多くない?」
聞き慣れた3人の誰かの足音に近いような――だが、明らかに多い足音がかすかに聞こえた気がした。
「ぇ゛……こ、怖いこと言わないでくださいよ、ティアネさんっ……」
ぎょっとしつつも小声でヒソヒソと返すアルスティ。
3人が一度立ち止まると、あわせて謎の足音もすでに消えていた。
「不審な気配は感じられませんね。ですが警戒心を高めておきましょう。2人とも、私の後ろについて離れないように」
「ええ」「は、はい」
「少し近すぎるかもしれません」
おんぶの勢いでくっつく2人を優しく剥がし、廊下を進む。
少し歩いたところで、まずセニーナが疑問を覚える。
「……おかしいですね。先日、このあたりで……」
「え……普通の廊下だと思うんですけど、“もう”……ですか?」
「記されたルート通りに進んでいるつもりですが……早速、ティアネ様の影響力が働いているのでしょうか」
「つまり、『危険性が少ない、保護システムルート』……みたいな?」
「いえ、まだ断定は……それに……見覚えのない区画です」
長い廊下を進む内に、セニーナが通ったことのない小さな広間にたどり着く。
3人の目の前には2つの扉。模様から取っ手まですべて同じく、ベルハリア城のものだ。
「この2つの扉は見覚えがありますね。右から左の順に開けましたが、右の扉は何もない行き止まりの空間でした」
「じゃあ、左を開ければ……」
「はい。警戒を怠らないでください。――行きます」
聞き慣れた摩擦音とともに開けられる扉。
ゆっくりと進むが、進んだ先は何もない行き止まりの空間だった。
「あれ……?間違えて覚えてた、とか……?」
「……申し訳ありません。記憶違いの可能性が」
「気にしないで!すぐ戻れるし♪」
分かれ道へ戻り、今度は右の扉へ……だが。
「あれ?こっちも、行き止まりみたいね」
「……?」
「何か、魔法の設定ごと変わったとか……でしょうか?」
気を取り直し、更に廊下を戻り……さらに別のルートを辿る。
次第にティアネが何かを思いついたように、アルスティに向けて小さく囁く。
「ねえ……私、すっかり忘れてたんだけど……確か、ミルキスかイルゥニあたりがこの前言ってたわ」
「え?」
「セニーナって…………ものすっっっっごく……」
「どうかしましたか、2人とも」
また行き止まりの区画へ。
「……ものすっっっっごく…………方向音痴だって」
「え゛」
「ね、ねえセニーナ!ここ、確かにさっき見たところよね。お母様の魔法かもしれないけど……もしかして、同じところをただ回っちゃってるかもしれないわ」
たまらずセニーナと肩を並べ、歩きながら伝える。
「?……確かに」
「試しに、なんだけど!次は、私に扉を開けさせてもらえない?ほら、何か変化があるかもしれないし!」
「ですが、危険が及んでは……」
「大丈夫!すぐにセニーナの背中に隠れるから♪」
主導権を握り、一時的にパーティーの最前列はティアネへ。
先ほどよりもハイペースな歩幅で、優雅に進み、まだ解錠されていない扉を複数開けると――
「あれ?ここって2階の……」
3人が辿り着いたのは、大きな広間。
ここは普段、王族の宴会や外部からの賓客をもてなす公式行事に使われている。
天井が高く、細部まで手入れされ磨き上げられた柱の配置、壁際には豪華なタペストリーや年代物の美術品が飾られてある。
昼に見る景色との違いは……薄緑色の光が全体的に広がり、明るく照らされていること。
この見覚えのある魔力の光により『とある者の手』が介入していることが伺える。
「やっぱり!ここはね、時々外からのお客様をお出迎えするところで――」
スカートを軽くおさえ、跳ねるように中央へ進む。
その瞬間――足元から淡い魔力の光が、水面の波紋のように広がった。
「――え?」
ティアネが首を傾げた直後。
“ぱこーんっ!”
「痛ったぁあああっ!?」
頭をおさえ、尻もちをつく。
頭上から急にティアネの頭部めがけて降ってきたものは――木製の桶であった。
幸い中身は空で、痛みも軽いものではあったものの……突然の出来事に目が点になる。
「姫様っ!大丈夫ですか」
すぐに駆け寄り、ティアネの肩を抱きかばうようにして膝をつくセニーナ。
「んにににに……うん大丈夫……」
「わひゃああっ!?ティアネさん、うえっ!上ですっ!」
天井から魔力の波紋が広がり、波打ち――次々と木桶が降り注いできた!




