第18話 【挿絵あり】ティアネ専用保護システム
ベルハリア王国が国をあげてブチあげる超おっきくて楽しくてすっごい美味しいスイーツとかの屋台が出店しまくるお祭り、煌王祭まで――残り、4日。
着々と迫るタイムリミットに焦りが出てきてもおかしくない頃。
夜に城から抜け出す『意思』を持っただけで、城の自室に強制的に戻されてしまう謎の魔法で足止めを食らっているティアネ姫。
そのさなか、城の収納庫で見つかった謎の古本と、謎のルートが記載された図。
記された通りに進むことで、何か『光明』が見えるのかも……
そう信じ、頼りになりまくる護衛騎士であるセニーナを送り出したのが――前日の出来事。
「大丈夫!?セニーナ!?死んでないわよね!?死んでたら返事して?!」
「死んでたら答えられないですよね!?」
そして、朝。
朝食を終えたばかりの2人の前に現れたのは、疲労困憊で手足を震わせつつもいつもの表情で報告をするセニーナだった。
「はあ……はあ…… すぅう…… ふーっ…… はあ……ふー……おそらく、ゴホッ……15回ほど、はあっ……ふうっ……死線を、ゴホップ」
「いやいやとりあえず落ち着いてください!声、掠れてますよ!お水どうぞっ」
背中をさするティアネと、小さな水瓶からカップを取り出そうとするアルスティ。
「いえ゛……恐れ入りますが、先日のスイーツはゴホッまだ残っていますっでしょうか。できケホッればカステラ系のオォゴホッ」
「余計おくちの中がパッサパサになるじゃないですか!?!?座ってくださいよ、とりあえずっ!!足震えすぎて8つぐらいに見えますよ!?」
髪の毛ボサボサ手足ガクガク食いしん坊女騎士はそれでも座り込むことを拒み、説明を続ける。
「い゛え……このあとすぐ、護衛騎士としての朝の見回りがありますから。素早く汗を流し、着替える必要がありまして。腰を下ろしている時間など無く」
「そ、その……一応、確認なんですけど……この城の中を歩いて、そうなっちゃった……んですよね……?」
「はい……ケホッ……時間の感覚が狂うほどの地獄でした。数多の迷路をくぐり抜け、城の中庭に戻ったと思えば……気づけば、ングッフ……夜明けで……あえて敵意を持って臨んでみたことも、ゴホ……影響していると思いますッホゴ」
「も、もうわかりましたから、また後にしましょう!ヘンな語尾で喋るヒトみたいになってますよ!」
「ですが、判明したことが28個ぐらいありますゴッホ」
「多っ!???!」
「そのうち役に立ちそうなものは1つほどですがベッフ」
「少なっ!?!?!?!」
セニーナは大きく深呼吸を繰り返し、間を置く。
「……やはり、脱出経路はティアネ様をともに行動することで大きく危険性を減らせるものと思われます」
「実はね、セニーナ……ごめんなさい!私もガマンできなくて、昨夜……また、ちょっとだけ出歩いてみたの」
やはり……と少しため息をつきつつ、非難はせずに視線を向けるセニーナ。
「ご、ごめんなさい!もうしないから!……で、やっぱり……気づいたら部屋の前の廊下に戻ってきてたわ。でも、剣が飛んできたりとか、何かに襲われるっていうのはなくて……」
「やはり、姫様だけに働くものは『無事に安全地帯まで誘導する』『連れ帰る』といった魔法でしょうね」
「うん。この前のガーディアンゴーレムも、走ってくることはあっても乱暴してくる感じはなかったし……」
「(……母としての、愛……でしょうね)」
愛情による手厚い保護としても、今のティアネにとっては煩わしい過保護な施策でしかなく――
「情報を圧縮し、整理しましょう。私たち3人で深夜に、誰にも知られずこの『生きる城』を踏破――脱出すること。それが目標です」
セニーナは自身の顔の前で指を折り、要素をまとめる。
「おそらく、ティアネ様と共に動くことでベルハリア城防衛システム――『ティアネ様を保護するシステム』は、『攻略難易度』を大きく引き下げることが可能です。ティアネ様がいなければ、この脱出作戦は現状成り立ちません」
「ええ。私1人だけなら、どの道まともにカギも開けられなくてお手上げだもの。3人で出るのは必須条件よ!絶対に、確定で!」
「期限は煌王祭までの残り1週間。この期間でできる限りの知識を経験を重ね、おふたりを必ずベルハリア城の城下町までお連れすることを約束します」
「はい……セニーナさんも、一緒……ですから!」
小さな手でぎゅっと拳を握り、強い意志をあらわにするアルスティ。
「そうよっ!一緒に堪能するんだからっ♪有名スイーツの数々をっ!」
「……はい。必ず」
真面目な顔で唾液が垂れそうになるのをアルスティに指摘される食いしん坊女騎士。
前途多難ながら、団結心が芽生える3人。
「ええ!♪じゃあ、また夜に私の部屋に集合ねっ♪」
―
「(もし全部うまくいって、煌王祭の期間中に抜け出せたとしても……)」
ティアネは自身の部屋でふと考える。
「絶対すぐ帰るなんてできないし、絶対バレちゃうわよね……ふふっ」
無事に脱走を成し遂げても、親からの叱責がほぼ確定となってしまった今。
だが、その顔に不満や怒りはなく、笑顔に満ちていた。
「お母様、ごめんなさい!先に謝っておくわ。でも私……今、すっっごく……楽しいのっ!」
愛娘ティアネの安全のために仕掛けられた数々の防衛システム。
これを見事出し抜き、攻略することで――母の手から逃れ、成長を主張することができる。
そう考えてやまないティアネだが、彼女の心にはさらにひとつ、新たな感情が芽吹いていた。
「みんなと協力して、友達と一緒に何かを頑張るのって……こんなに楽しいことなんだって、思わなかったわっ……!♪」
型にはめられた箱入り教育だけでは得られない体験が、確実にベルハリア城のお姫様を成長させていた。




