第17話 ルート確保
「この少人数で、城を脱出するにあたり……必要なものは、まず――『経路』でしょう」
ようやく訪れた全員の自由時間――お昼休み。
ティアネ、アルスティ、セニーナの3人はテーブルを囲み、情報共有を始める。
「既にご存知の通り、はむ……んむ、ん……こくん。ティアネ様の部屋から正門、または裏門へ向かうとして……私たちだけだと、はむ、もぐ、もぐ……ごくん。……危険が少ないルートを選ぶ必要があります」
「すっごい勢いで食べてますね!!?さっそく無くなっちゃいますよ!?」
ティアネから差し入れられたデザートのお茶菓子を、真剣な面持ちで会話しつつ頬ばり消し去るセニーナ。
「あまりにもこのタルトが絶品でして。私の意思に関係なく手が……いえ訂正しますはむっ、んむんぐ……んむく、んぐ……ごくん……。……私の意思で欲しています。脳が驚異的なまでの勢いで信号を発しこのスイーツを胃袋で圧縮せよと……」
「ねっ!ねっ!私、色々考えたんだけど!いいかしら、セニーナ?」
一切の言及なく本題に入るティアネ。この景色はきっと日常であったことが伺える。
「えっと……まず、『飛んでくる武器』のことだけど……この城に、たくさん飾られているのよね?」
「そうですね。すべては把握しておりませんがはむもぐもぐ……」
頬に少しクリームがついたまま答える護衛騎士。
「あれって、この前はセニーナが『壊す』って意思をあの剣に伝えたから襲いかかってきたのよね?じゃあ、そういうのを見せずに……全部無視して、進むことはできないのかしら?」
考えることが苦手なティアネなりに、余った時間で精一杯悩んだ質問を投げかける。
確かに、と頷くアルスティを横目に、セニーナは静かに答えた。
「難しいですね。確かに、いくつかはやり過ごすことが可能でしょうが……例の『ループする廊下』を覚えておいでですか?」
「ええ。あれのせいで迷っちゃったし、私の部屋の前まで戻されちゃったし……」
「おそらくそれは『侵入者を迷わせるための罠』として……あるいは、『ティアネ様を安全に自室へ送り届ける仕掛け』のどちらかが作動し、体験した事象でしょう」
スイーツへ伸び続ける手を一度止め、さらに説明を続ける。
「『侵入者を迷わせるための罠』として起動していた場合、迷い込んだ者の意思に関係なく防衛システムが働くでしょう」
「……あの……その時って、あたしも居たから……両方、発動した可能性も……」
おずおずと手をあげるアルスティ。
「そうですね。加えて、圧縮せずお伝えしておかねばならない事ですが……『そういった罠』は、この城のほぼすべての区画に備えられております」
「んににに……私がアルスティを連れて走ったりした時も、廊下ごと動いて回転したりしてたってこと!?そんなコト本当にできるの!?廊下に置いてたモノも、全部見覚えあるカンジだったのにっ……」
「仰るとおり、このベルハリア城は……時には城の一角すべてが動き、部屋の位置ごと変動することもあります。ですが他にも……空間ごと、対象を転移させるような魔法も存在します」
想像を上回るスケールに、「ほぁ……」と息を漏らすアルスティ。
「まるで冒険者が財宝を探すダンジョンみたいね……絵物語で見たことあるわ。行ってみたいって思ったことはあるけれど、今じゃなくていいのよっ……んも~~……!」
「ですので……まず、安全なルートを模索する必要があります。ですが、日程が限られている以上……煌王祭までにそれらをすべて解き明かすのは厳しいですね」
ルートと聞き、ふと今朝の出来事を思い出すアルスティ。
「あっ……スミマセン、それなんですけど……あたし、2人に見せたいものがあって……」
「……成程……これは、確かに……」
セニーナは興味深そうにぺージをめくる。
その手に握られた本は今朝、アルスティが収納庫で逃走劇の末に手に入れた例の本だった。
「ココ……キッチンかしら?だとすると、こっちまで……」
セニーナの左側から覗き込むように肩を持ち、時折指でなぞるようにつぶやくティアネ。
「私が記憶しているベルハリア城の配置図とは違いがあるものの、確かにいくつか合致する点があります。おそらくですが……アルスティさんが言った通り」
「つまりっ……この手順通りにいけば、夜に私がこっそり出ても……何も作動しないってこと!?」
「もちろん断定はできませんが、何を意味しているのかは確認する価値はあります」
ティアネたちを惑わす『ダンジョンの罠』のような、ベルハリア王国城で特定の条件下で起動する数々の仕掛け。
何もかもが手探りな状況の中、ようやく見えてきた『最初の一手』に、笑顔が生まれた。
「すごい、お手柄じゃないっアルスティ!さすがっ♪」
アルスティの手をぎゅっと握り、満面の笑みで褒め称える。
セニーナもぱたんと本を閉じ、称賛を加えた上で立ち上がる。
「では、まずは今夜、私が偵察を兼ね確認を済ませてまいりますので」
「ええっ!?何言ってるのよ、私たちも行くに決まってるじゃないっ!」
アルスティからセニーナの方に向きを変え、握っていた手も同様にセニーナの手首ごと握りしめる。
「お待ちください、姫様。まずは私が安全を確保するという意味もありますが……もう一点、検証したいこともございまして」
「確認ってなに?私も確認したいことならたくさんあるわっ!百聞は一見にしかずって言うでしょ!」
不満を覚える子どものようにセニーナの肩を揺らす。
あまりにも大きな間隔で前後左右に揺れるセニーナを心配するアルスティの視線。
「私1人で確認作業を行うことで、『姫様にのみ動作する専用の仕掛け』であるのか、その強度やタイミングなど様々な疑問点を解消することができます」
「あっ……この前は、あたしが一緒だったし……」
納得の行かない表情で震える様子のティアネへ、ゆっくりと指を添えるセニーナ。
「姫様。貴重な1日をいただく分、必ず成果を持ち帰ります。どうか明日の朝までは探索以外の行動を」
「んにににに……ほんっっっと~~~~~にダメ?」
「姫様のお願いであれば、とお答えしたい所ですが……今回ばかりは」
ティアネは『ぐっ』と溜めてから、振り切ったように笑顔を作る。
「……~~~~~~……わかったわっ!じゃあ、お願いねっセニーナ!」
扉に手をかけつつ、セニーナが振り向く。
いつもの涼し気な表情だが、雰囲気は自信や気高さに満ちあふれていた。
「お任せください。このセニーナ・ヴァルハート。姫様のために必ず」
「ええっ!死なないでね、セニーナ!」
冗談かどうかわからないいつもの元気なトーンで送り出す姫を見て、気弱な笑顔でツッコむアルスティ。
「死ぬなんてそんな大げさな……」
―
「危うく死ぬところでした」
「何事ですか?!?!?!?!??!??!!」
翌朝。朝食を終えたばかりの2人の前に現れたのは――バリバリに疲労困憊のふにゃふにゃ護衛騎士だった。




