第16話 さらなる護衛騎士
「問題はガーディアンゴーレムだけじゃないのよね……きっと……」
アルスティとセニーナの自由時間が来るまで、ティアネはひとり考え続ける。
「セニーナに言われて、改めて思い返してみたら……いろ~んな鎧が並んでいるのよね……この城って……」
大小様々なプレートアーマーだけでなく、不自然に鎖が巻かれた甲冑……盾のみを持った兵士の像……
「セニーナの『足止め』も、何回も使えないとなると……対処法を考えないと、よね……絶対に、確定で……」
「でも、あんまり壊したりしたくないし……んにににに……」
―
「わひゃああああスミマセンスミマセンっ!!!」
大きく叫びながら薄暗い収納庫の入口へ走り抜ける少女。
視点は再びアルスティへ。同じ室内に待機していたガーディアンゴーレムが起動し、ゆっくりと彼女に向かってきたのだ。
足元に散乱した小物が何度もぶつかり、その度に「スミマセンっ」と漏らしつつも騒々しく扉の前へ到着する。
「えっ、あれっ!?開かないっ!?なんでっ!?」
大きく力を込め引っ張る。が、鈍い音を立てきしむように開閉を拒否する。
「あ、こっちにも鍵穴っ……か、カギ、おんなじやつかなっ……ああ、いっぱいあってわかんないよお~~~!」
背後から徐々に大きくなる、歪な金属音や石壁が擦れる音。
「こうなったら、あたしの【スキル】でっ……!」
体勢を整えるが、薄暗く視点が定まらない足元のせいで、床に落ちていた古布に足をとられ……大きく転んでしまう。
「んぃっったあっ!?」
側頭部を強く打ち、カラダを起こす間もなく……ガーディアンゴーレムの手がゆっくりとアルスティに向かって伸びる。
「わひゃあああぁ!こここ、来ないでぇっ!」
思わず手を伸ばす。
解錠の【スキル】を使うため、手に込めていた魔力ごと。
――すると。
“ギギッ……ガシャンッ!ガタンッ!”
「…………へっ……?」
急に甲冑の兵士は動きを止め、動作を停止した。
自らの体に異変を感じとったのか、各関節ごとに歪な動作を繰り返し、前に進めずにいる。
「(……に、逃げなきゃっ!今のうちにっ!)」
震え、おぼつかない足取りを必死に抑えつけ、収納庫から脱出し……素早くカギを閉め直す。
「はぁーっ……はあっ……あ、危なかったぁ……」
ふにゃふにゃと扉にもたれかかり、手に持った袋と『謎の本』に目を向ける。
「……でも……戦利品、って感じかな……えへへ……役に立つといいけど……」
逃走劇で噴き出た汗を拭い、身なりを整え、呼吸を整え……イルゥニから指示された次の仕事場へ、ゆっくりと歩き始めようとした……その矢先。
「……ったく……セニーナのヤツ、どこ行きやがった……絶対ブッ飛ばしてやる……」
低く唸るような声が廊下に響き、目の前から護衛騎士の女性が歩いてくる。
苛立ちを隠さず、床を強く蹴るような歩き方で……アルスティを視界に入れた。
「オイ!そこのメイド!!」
「わひゃあっ!?は、は、はいっ!?」
突然勢いよく呼びつけられ、体が浮く。
「セニーナ見てねえか!?」
アルスティやセニーナよりも背が高く、比べると少し体格のいい女性だった。
外に跳ねたオレンジ色の髪が特徴的で、野性味あふれる雰囲気だが右耳のあたりに小さな編み込みがある。
セニーナと似た服を着ていることから、このベルハリア城の護衛騎士であることだけはわかる。
華奢なイメージをもつセニーナと比べ、おそらく自主的に鍛錬に励んでいることが伺える体つきだ。
獣のような目つきで睨みつけることで、萎縮してしまったアルスティは声を出せずにいた。
「聞こえねえのか!?ワケねえよな!?見たのか、見なかったのかっ!?」
「わひゃああああ!スミマセンっスミマセン!」
反射的に出る謝罪の声。
望んだ答えが返ってこないことに更なる苛立ちを覚えるが、一度トーンを抑える。
「つか、誰だお前。見ない顔だな。新人か?」
「へっ!は、はいっスミマセン!あるっ……アルスティれすゅ!」
「名前は聞いてねーって。んだよ、新人ならまだわかんねーか」
意外にも理性的な流れを見せ、視線を外しながら舌打ちをする高身長の騎士。
「セニーナってのはアタシと同じここの護衛騎士で……髪が長くていっつも冷てえカオの……クセに成績は落ちこぼれで不器用で筋トレがヘタクソでいけすかなくてそのクセに生意気でいけすかなくてムカつく女だあ!!」
途中から主観や感想が入り混じることでまったく参考にならない情報を提供しつつも、名も知らぬ女性騎士は再度ヒートアップする。
「す、スミマセン……まだ、今朝は見かけてませんっ……」
「……ちっ……じゃあいい。ったく……アイツ、また勝手に食いやがって……」
怒りの声は荒いものの、アルスティに八つ当たりをするようなこともなく肩を落とす。
すれ違い、去っていく姿を眺め安堵するアルスティ――だったが。
「オイ新人」
「わひゃあっあ!?」
「コーリツ(効率)的に仕事できねえのか知らねえけど、せめてその薄汚れた見た目だけはなんとかしろ。見栄えが良くねえだろ」
それは不潔なものを見たことによる侮蔑のトーンではなかった。
「え、あ……スミマセン、気をつけます……」
「ふん。カンタンに辞めんじゃねーぞ。お前らの数が減ったらアタシらもめんどくせえコトやらなきゃいけなくなるんだ」
片手で髪を乱暴にかきあげた後に、背を向ける。
「おらよ、食え。じゃあな」
「えっ!?わっ」
背を向けながら、アルスティの手元に見事なコントロールで投げつけられたのは……小さなリンゴだった。
「え、あのっ……ありがとうござい、ます…」
振り向かず、手を軽くあげながら護衛騎士は去っていった。
「……あっ!やばっ……早く戻らないとっ……!」
足元に置いた袋を持ち上げ、しっかりと『例の本』があることを確認しつつ……指示された持ち場へと小走りで戻っていくアルスティだった。




