第13話 生きている城
世界中からすっごい美味しいスイーツがそれはもう集まりまくって売られまくる夢の期間――
城下町の楽しいお祭り『煌王祭』まで……あと5日を迎えた朝。
「では、ティアネ様。そちらの剣をご覧ください」
ベルハリア城の廊下の一角。
壁に飾られた大きな剣を手のひらで示す女性――護衛騎士セニーナ。
「ん?なに?」
きょとんと疑問符を浮かべる姫、ティアネと……その友人であるアルスティ。
セニーナは2人を守るように前へ出つつ、腰に提げた細剣をゆっくり、美しい動作で抜く。
右手に持った剣でしっかりと指示した方角を見据え、左手は胸の前あたりでかざすように構える。
「2人とも――そこから動かずに、ご覧ください」
次第に、壁に飾られた大剣が静かに音を立てて震えだした。
「えっ?えっ?」
ひとりでに動き出す大剣。ついには留め具から外れ、ゆっくりと浮遊をはじめる。
「わひゃあああああっ!と、飛んっ…!!」
驚きつつ、ティアネの後ろへ隠れる。
「ちょっ…しかもっ…こっちに来ない!?」
そのティアネも驚きつつ前かがみに。
急激に速度をあげ、セニーナたちの方角へ突っ込んでくる大剣。
「行きます!【ルナシエ・クリスタ】っ!」
何かを叫びつつ、手首のスナップをきかせスマートに振る。
その直後、セニーナの眼前に大きな氷の壁が現れた。
“ガキィイイイインッ!”
質量ある大きな金属物が飛んでくる風切り音から、冷たく渇いた衝突音。
『壁の大剣』は大きく弾かれ、床を転がるように落ちる。
あっという間の出来事に処理が追いつかない2人に対し、振り向きながら説明を始めるセニーナ。
「これが私の……【スキル】と言ったほうがわかりやすいですね。【ルナシエ・クリスタ】……氷の壁をはり、攻撃を防ぐことができ……対象の危険性を圧縮することができます」
「……すっ……ごい!すごいすごいっ!♪初めて見たわっ!」
「姫様に直接披露する機会はありませんでしたからね」
セニーナの【スキル】。
体内の魔力を練り上げ剣に乗せ、氷の壁という形で抽出する能力。
「すごいです……!あんなに重そうでおっきな剣を、簡単に……!」
「ありがとうございます。この技のみを鍛え上げ、護衛騎士として認められ……今に至ります」
説明を続けながら大剣を拾い上げ、ティアネの前に静かに差し出す。
「ティアネ様。お手数ですが、この剣を一度お持ちになっていただけますか」
「? ……こうかしらっ?」
セニーナが少し重そうに反動をつけ持ち上げた剣を、難なく片手で受け取るティアネ。
完全に静止し、動く気配がなくなった大剣を目視で確認してから顔を向ける。
「ありがとうございます。……では、お答えしましょう。どうぞ、お好きな質問から」
「氷以外にも何か出せるのっ!?♪なんで氷なのっ?!氷菓子は何が好きだっけっ?!♪」
「氷関係ばっかりじゃないですかっ!?」
頼れる仲間がとても頼りになる興奮から、無邪気な質問を押しつけまくるティアネ。
「特に意図はありません気づけば氷で作れるようになっていました暑い時期は熱を帯び蒸れた体を冷やす事に最適なのでそのまま続けていますその分寒い時期は最悪ですが好きな氷菓子はシャーベット系でフルーツが圧縮されているものは」
「一個ずつ真面目に答えてるっ!!」
ティアネの濁流のようなテンションに、清流のままついていくセニーナ。
「……私の【スキル】についてですが。実際に披露する機会を作った理由があります」
セニーナが【ルナシエ・クリスタ】と名付けた氷の壁は、静かにぱきぱきと渇いた音を立てつつ崩れ、気づけば足元で冷気を残すのみとなっていた。
「デメリットとして……この氷の壁は連発することができません。使用することで、数十秒~もしくは数分間の『準備時間』を必要とします」
「そうなのね……それで?」
「そして、使用する度に……。……私の足元をご覧ください」
がくがくがくがくがくがく……
「すっごい震えてませんか!?!?!?」
「はい。膝が笑いまくっています。それはもう。この【スキル】を一度使用するだけで、私の体力は大幅に奪われます」
「そんなにつらい思いして見せる必要あったのかしら!?」
「お褒めいただきたい承認欲求が先走りました」
「スミマセンっ!やっぱりセニーナさんってどこか天然だったりしません!?」
ティアネが焦ってツッコミに回るほど、セニーナの一挙手一投足に振り回される2人。
「お伝えしたかったことのひとつは……私が協力するといっても『正面突破』はほぼ不可能ということです。この【スキル】を軸とした戦法は長期戦に向きません。ガーディアンゴーレムをはじめとした多くの障害を、真っ向からすべて制圧することは難しいでしょう」
「加えてこの城の扉は防犯上、様々な種類の鍵にて施錠されており……アルスティさんが解錠に長けていると言っても……」
「ふふん……セニーナ、まだ見たことなかったわよねっ!アルスティのスゴさっ!♪」
自分のことのように得意げに胸を張り、アルスティへ向けて手を広げる。
「アルスティっ!その扉もちゃんと施錠されているはずよ!ちょっと開けてみてっ!」
「あ、は、はいっ!んっと……」
アルスティが扉へ向け、手をかざす。
数秒も経たないうちに、まるで施錠などされていなかったかのようにスムーズな開錠音が聞こえた。
「――驚きましたね。我が城の扉を……これは……」
「どうっ!私の自慢の友達の、スゴい【スキル】っ!」
「え、えっと……でも、私も……一度にたくさん使っちゃうと、頭が痛くなっちゃって……。おんなじ、ですね。えへへ」
アルスティの両肩を握り、自慢げに軽くぽんぽんと叩くティアネ。
思いの外チカラが入っていたのか、「あだっ」という声とともに床のきしみが聞こえた気がした。
「ええ、とても秀逸な【スキル】だと思われます。きっと並々ならぬ努力を積んだのでしょう」
「ぇへへ……あ、ありがとうございます……」
ぎこちない笑顔がさらに上乗せされ、ふにゃふにゃと体がやわらいでいく。
その度にティアネにぽんぽんと叩かれ、床に固定してされ続けていく。
「……解錠、ですか……。……ふむ……」
口元に手をあて、思案するセニーナ。
アルスティが能力を行使する際の情景を思い出し、何かを考察するようだった。
「あ、あの~……何か……?」
「いえ。……驚異的な能力であるとともに、デメリットも考慮しますと……私の【スキル】と合わせても、やはり遠回りを強いられることでしょう」
「んにににに……そうよね……ちゃんと地図を書いて、正門とか裏門、どちらかのルートを考えなきゃ…… あっ!」
忘れていた疑問をひとつ、新たな仲間と再度共有をする。
「そ、そうよっ!この前もちょっと言ったけど!私、アルスティを連れて正門へ行こうとしていたの!でも、気づいたら私の部屋の前の廊下に戻されてたりして……扉を開けても、なんだかおかしくて……」
「……その件についてですが……姫様。アルスティさん。共有するべき情報がございます。それも、簡単に圧縮できないほどの……」
「情報?」
セニーナは視線をゆっくりと廊下内の景色に向けつつ発した。
「まず、私たちが今、立っている場所……ベルハリア城についてですが」
「この城は――『生きて』います」




