第四話
エマに小さく見えていた敵性生物が、肉薄するごとに大きく見える。エマはナイラの言った弱点……目、鼻、口を集中的に狙って自動小銃を連射しながら、敵性生物をすぐ近くで観察した。
外殻部の防御力はやはり高いようだ。これまでの男子部の攻撃と、女子部の第何波かの攻撃は、敵性生物の外殻をほんのりと焦がした程度のようだった。
敵性生物が大きく口を開けて吠え猛る。衝撃でびりびりと空気が揺れる中、ナイラが敵性生物の口の中を目がけて、手榴弾を投げた。
敵性生物の頭上を旋回して部隊後方に戻る途中で、爆発音が聞こえた。敵性生物が足元をよろよろとふらつかせている。べろりと長く伸びた舌が、垂れ下がっていた。熱い食べ物を食べた直後みたいだなと、エマは自動小銃を構え直す。
≪敵性生物に損傷!≫
管制科の興奮した通信に、待機中の部隊がわっと歓喜の声を上げる。
「ナイラ、ナイス爆破!」
「口の中を攻撃するのは、なかなかいいみたいね」
「口の中に、吸収能力を低下させる化学兵器、ぶちこんでやったら?」
「ええー、でもそんなに都合よく、口を開けてくれる?」
エマより先に攻撃を仕掛けた小隊にいたメリッサが、癖毛に指を巻きつけながらぼやいた。
「でもこれさー、銃撃が外殻に弾かれるってことは、ジリ貧にならない? 弾切れで」
「でしょうね」
「つーことはよ? 奴に口を開けさせて、そこを攻撃するのがいいってことだよね。……おーい、管制科、聞いてるー? 技術科にパイナップル用意させといてー」
≪こちら管制科。技術科と整備科で手榴弾の準備をしておきます。10分後に地点Aに届けますので、後方部隊から取りに来てください。座標を送ります≫
エマの腕時計型端末がピピっと音を立てて、座標を表示する。ゴーグルの端に見えていた地図に、座標を示す赤い丸印が追加された。
「敵性生物め! 昼飯に、たんまりパイナップル食わせてやるぜ!」
「私たち、お昼ご飯を食べ損ねたものね」
エマは送信された座標を視界の中で探して、ゴーグルで拡大表示する。技術科と整備科がトラックに乗ってやってきた。荷台には手榴弾が積んである。
≪攻撃後に手榴弾の補給をして、次の攻撃に備えてください≫
「了解!」
再び敵性生物へと向き合ったエマはゴーグルの縮尺を直すと、敵性生物に向かって飛んで行った。
空気抵抗で、髪が後ろに引っ張られるような感覚がする。エマは最大速力で直進して、敵に接近した。
敵性生物が尻尾を地面に打ち付けて、大きく口を開ける。ナイラが手榴弾のピンを抜いて、敵の口の中に放り込んだのが見えた。爆風に身構えるエマの目の前で、敵性生物が手榴弾を吐き出す。
「ナイラ、危ない!」
敵性生物の吐き出した手榴弾が弧を描いて、ゆっくりと飛んでくるようにエマには見えた。
──間に合え!
エマは構えていた自動小銃の引き金を迷いなく引く。汗で指先が滑るような気がして、ぎゅっと力強く引き金を握り込んだ。
連射しながら、自動小銃の弾丸の軌道を修正する。射線が動いて、こちらへ向かって飛んできていた手榴弾が空中で爆発した。
ドン、という激しい音と衝撃で、隊列が崩れる。ナイラの手がエマの前に割り込んできて、魔法シールドが展開される。エマはそのままナイラに抱えられて前線を離脱し、旋回態勢に入った。
敵性生物は遠距離攻撃をしかけている同級生たちに弾丸や手榴弾を吐き出して、攻撃を仕掛けている。
──私たちの戦い方を見て、吸収したんだ。
息を呑むエマの前で、ナイラが旋回途中で動きを止めて、ブレードを構えた。
「ナイラ! ダメ!」
「ここで止めなきゃ、増援があるかどうかもわからない!」
エマの手をすり抜けてナイラが敵性生物に向かっていく。空気を切って次々と敵の攻撃をかわしながら、切りつける。重力制御魔法、浮遊魔法を使って不規則な軌道で撹乱するナイラを、エマは自動小銃で援護した。
敵性生物は、顔の周りを飛ぶ羽虫を追い払うように、ぶるると身体を震わせた。
──こっちは必死なのに。
思わず唇を噛んだエマの前で、敵性生物が尻尾を地面に打ちつけ、土煙があがった。




