第三話
本科のカタパルトから発進するのにも、もうずいぶんと慣れた。エマは手早く支度をして前傾姿勢をとる。レールを走るシャトルが加速して火花が散り、滑走路の淡い黄色の誘導灯と白色の誘導灯が連なって見える。脚部パーツとバックパックの噴射タイミングに手こずった一年生の頃が、遠い昔の出来事のようだ。
轟音とともに空に射出されたエマは、男子部のフィールドの様子を確かめながら上空を進んでいく。
「エマ」
あとから発進したナイラに呼びかけられて、エマはうなずいた。普段通信を聞くのを忘れがちなナイラから呼び止められるとは、予想もしていなかった。
「行こう、ナイラ。……音楽聴いてる?」
「ええ。聴いてるわ。大丈夫。行きましょう」
上空で待機していた戦闘科の二年生たちが、何組かの小隊に分かれて隊列を組む。今のナイラを中央に布陣させるのは心配だとエマは表情を曇らせたが、音楽を聴きはじめたナイラは「大丈夫」とくり返して、自動小銃の弾丸を確認した。普段の訓練ではペイント弾を使っているから、実弾に換装されているか確認したのだろう。
≪こちら、管制科。通信聞こえますか? 戦術科からの作戦を伝達します。現在、王立魔法士官学校男子部フィールドにて、男子部の二年生たちが敵性生物と応戦中です。敵性生物の動きは素早く、丸まって攻撃してくる際に回避できない可能性があります。女子部の戦闘科二年生たちは、上空からの遠距離攻撃を敢行してください。男子部も女子部と合流後、すみやかに遠距離攻撃に移行するとのことです。なお、敵性生物の吸収能力を妨げる化学兵器は、現在効果が見られません。敵性生物の吸収能力にはくれぐれも注意して、攻撃してください≫
「やー。男子部、いつも空から見てはいるけど、いざ行くとなると緊張すんね」
隣の小隊にいるメリッサが全く緊張していなさそうな声をあげる。エマは小さくうなずいて自動小銃をぎゅっと握った。
≪各小隊は上空から敵性生物とすれ違いざまに攻撃。波状攻撃を行います。攻撃後はすみやかにその場から離れてください≫
≪すげぇ簡単に言うと、ヒット・アンド・アウェイ戦法っす!≫
≪──だ、そうです≫
「今の戦術科の人かな」
≪負傷者が発生した場合は、後方……女子部への退避を行なってください。着陸後、医療班が救護に向かいます。作戦は以上です≫
管制科の生徒に通信が聞こえないようにインカムのマイクをふさいで、メリッサが「ちょっとざっくりした作戦だけど、負傷者をあんまり出さないための作戦っぽいね」と肩をすくめた。
≪開始まで3、2、1……作戦開始です≫
腕時計型端末がピピっと音を立てたのと同時に、エマはジェット噴射の出力を上げる。轟音と空気を切る音が混ざる中、エマはそっとナイラの様子を見た。ナイラの銀髪が風にそよいでいる。その横顔は前を向いていた。
──以前のナイラみたい。
エマは気付かれないように、そっと自分の拳を握りしめる。ナイラとコンビを組んだ今、彼女に不調が出れば、すぐに支えられるように心づもりをしておかなくてはいけない。
ナイラの耳には、音楽が聴こえているらしかった。
上空を進むうち、映像で見ていた敵性生物が肉眼で確認できた。その大きさは、近くの建物と比較すると、およそ6メートルほどだろうか。
「すっげぇ、マジでアルマジロっぽい!」
メリッサの笑い声が通信で聞こえてきた。
「……アルマジロなら、外殻部の防御力は高いはずよ。目、鼻、口……そういうところを狙うのがいいでしょうね」
ナイラが静かに通信で付け加えた。退官した魔法士官の記憶や経験を受け継いでいるナイラならではの視点だろう。
「了解! 各小隊、攻撃準備いいかー!」
「なんでメリッサが仕切ってんのよ」
「ノリだよノリ! こういうとき、テンションは大事だろー!? 士気にも関わるんだから!」
エマとは別の小隊にいるメリッサが、拳を上げてぶんぶんと振り回しているのが小さく見えた。
「じゃあもう一回いくよー! 各小隊、攻撃準備はいいかー!」
「いえーす」
生返事が、女子部戦闘科の各小隊からまばらに起きた。
≪そろそろ敵性生物付近です。男子部は後退して、女子部と合流、その後遠距離からの攻撃に移行を≫
≪イエッサー!≫
男子部の学生たちの声が揃っていたのを聞いて、メリッサが肩をすくめた。
≪第一陣、最左翼部隊、攻撃開始。攻撃後は速やかに戦闘空域から離脱して旋回、部隊の後方に戻ってください。……つづいて第二陣、最右翼部隊、攻撃開始≫
上空から見れば、敵性生物が荒波にもまれる岩のように見えるのかもしれない。だから波状攻撃というのかなと、エマは高まる緊張をなだめるためにふと考えて、上空に待機した。




