第六話
夕食時の食堂は混み合っている。授業を終えた生徒たちが所せましと集まり、めいめいの皿に料理を乗せている。エマはトレイの上の皿にグラタンを盛った。チーズが少し伸びたのを、くるくると巻く。
「エマー。お疲れさん」
メリッサは今日も皿にたくさんの料理を乗せている。トレイの上の皿に、俵型のコーンクリームコロッケがこんもりと積んであった。
「メリッサって、いつもすごく食べるよね」
「まあね! 医食同源、健康は食べることから! 食べないと、体力もたないからねー。ご飯食べないと、頭もまわんないし」
はつらつと答えるメリッサの横に、通りがかったナイラが立った。
「……真似してみようかしら。今日の戦闘訓練の作戦、メリッサが立てたんですって?」
「おー、ナイラじゃん。そうだよ。ナイラももっと食べな! いっつもスープとサラダとパンばっか食べよってからに」
「お肉や果物も食べてるわ」
「いーや、少ないから、食べたうちに入らないね! もっと! わさっと! 盛っときな!」
給仕用の大きなスプーンを構えて、メリッサがナイラに詰め寄る。ナイラは今日の戦闘訓練で負けたのがよほど悔しかったのか、食べるか真剣に悩んでいるようだった。エマは助け舟を出した。
「ナイラ、もし食べる量を増やすんだとしても、毎日ちょっとずつ増やしていくといいよ」
「……そういうものなのね」
ナイラはそう言うと、ずらりと並んだバイキング形式の料理にためらいながら手を伸ばし、デザートを二つ選んだ。
「デザート!? 飯食え飯!」
「……疲れたときは、甘いものを食べたくなるのよ」
学生寮の食堂は大いににぎわっていて、ナイラとメリッサのやりとりも、喧騒の中の一つでしかない。
──ナイラもメリッサも、予科のときはあまりしゃべらなかったのに。
いつの間にか、ナイラも同級生たちの輪に溶け込んでいることに気が付いて、エマはくすくすと肩を揺らした。あと半年ほどしたら、エマたち二年生も王立魔法士官学校を卒業する。
***
夜の運動場はよく声が響く。野球のスタジアムのように明るい照明がついているが、そこから少し外れれば夜の気配は濃く、虫たちの奏でるリーリーという音色が聞こえてくる。たまにフクロウらしき鳴き声も聞こえてきて、エマがじっとその方角を見つめていると、羽ばたきの音がする。
運動場で食後の自主訓練をしているナイラに付き合いはじめて、二ヶ月は経った。エマは走るのが得意ではない。基礎体力訓練では、ゴールするのはいつも最後の方だ。走っていると喉の奥の方がいがらっぽくなってきて、息が吸いにくくなる。エマはぜえぜえと肩を上下させながら、少し前を走っているナイラに視線を送った。
──いつもなら、私のことを待たずに走り終えてしまうのに。
ナイラが少しゆっくりと、エマに合わせるように走っている。どうやらナイラには、今日の戦闘訓練で思うところがあったようだ。
「ねぇ、エマ」
前を走っていたナイラが振り向いて、後ろ向きに走りはじめる。器用だな、とエマは足元をふらつかせた。
「私と組まない?」
ナイラの足が止まる。エマは急に止まりきれずに、ほんのわずかに前に出た。
「……どういうこと?」
膝に手をついて、大きく息を吸う。切れ切れの息の間でたずねると、ナイラは珍しく不安そうに、黒目がちの瞳をさまよまわせた。
「コンビとかバディとか、そういうもの」
「……私でいいの?」
あのナイラが、という思いと、信じられないという思いがないまぜになる。エマは額に浮かんだ汗を拭いながら、喉の奥に引っかかっていた息を飲み下した。
「エマがいいわ。……あなたの通信は、よく聞こえるんだもの」
照れくさそうに言ったナイラに、エマは目を丸くする。そんなふうに言ってもらえるとは、考えてもみなかった。
「……わかった。よろしくね、ナイラ」
「今までと、あまり変わりないけどね。……でもほっとした。結構緊張したんだから。あなたがいてくれると、心強いわ」
エマが差し出した手を、ナイラはおずおずと握った。まるで、知識としては知っているが、初めて経験するような、遠慮がちな握手だ。汗ばんだ手のひら同士が、きゅっと吸い付く気配がある。
エマが握手をしていた手を顔の前まで上げると、ナイラはうれしそうに笑って、ハイタッチをした。暗くなってきた運動場に、小気味いい音が響いた。




