第五話
翌日、強化パーツを装着して本科のカタパルトから発進したエマたちは、フィールドの所定位置についた。もうすぐ模擬戦闘訓練がはじまる。エマはひそめていた息を、そっと吐き出した。
「作戦開始したら、1班、2班、3班に分かれて行動ね!」
「了解!」
エマたちの腕時計型端末がピピっと作戦開始を告げる。各班に分かれて空を飛び、所定位置へと向かう。ジェット噴射の轟音の中、インカム通信が入った。
「健闘を祈るー!」
メリッサの声に、3班のエマは手を振って茂みに隠れた。狙撃銃とガトリング砲を並べて配置し、待機する。エマは再び息をひそめて、じっと空をながめた。上から見えていないだろうかと気になって、ごそごそと身を伏せた。
しばらくすると、上空から、ごおっという音が聞こえてきた。中央にナイラを配置した敵チームが遠くから飛んでくる。相変わらず単騎で先行している誰かがいる。おそらくナイラだろう。青い空に伸びていく飛行機雲をながめながら、エマは味方チームに通信した。
「1班、そろそろ敵チーム来るよ!」
≪めっちゃ緊張するんだけど! あのナイラと正面から戦うんでしょ? ひー、できるかな?≫
少し離れた空域で、ナイラと1班が接近する。1班はナイラに遠距離射撃をしつつ、じりじりと後退した。1班を見つけたナイラはぐんと速度を上げて猛追してきた。敵チームの他の生徒たちは、置いて行かれた格好だ。陣形が崩れている。
──また、単騎で突出して。
エマはナイラの動きをながめながら、苦笑いした。
≪よっしゃー! ナイラが食いついた! 逃っげろー!≫
メリッサの底抜けに明るい通信が聞こえた瞬間、1班は踵を返して、2班の元へと向かう。ときどき振り返って、ナイラに射撃することも忘れない。ナイラの注意を引き付けるのが、1班の役目だ。距離はとっているが、ナイラも速い。スポンジ製のブレードを構えて突進してくる。後退するタイミングを間違えた1班の生徒が、一人撃墜された。
≪2班の地点、もうすぐ越えるよ!≫
≪了解!≫
1班の生徒たちが2班のいる地点を越えたところで急上昇する。1班を追いかけてナイラが上空へと駆け抜けた瞬間、2班が地上からナイラを狙撃しはじめた。1班と2班がナイラを上下から挟み撃ちする。
ナイラは一瞬減速して辺りを見回し、再び加速した。重力制御魔法でBチームのペイント弾の軌道を変えて、華麗にかわしていく。くるくるとした動きが、バレリーナようだった。
≪エーマー! 決めちゃって!≫
「了解!」
エマは狙撃銃のスコープをのぞいた。スコープの中で、ナイラが1班2班のペイント弾を避けながら減速するのを待つ。
──ナイラはペイント弾を避けるために重力制御魔法を使ってる。急激な方向転換をするとき、必ず抵抗が発生するはずだ。ナイラでも、二つの魔法を同時に使うことはできない。
予想通り、ナイラが急激に方向を転換する。さまざまな抵抗がかかってスピードが落ちるのが、スコープごしのエマの目に映った。
エマはナイラの進行方向を予測して、迷わず引き金を引く。立て続けにペイント弾が飛んで、ナイラの胸にべったりとインクがついた。
ときを同じくして、エマの腕時計型端末に「ナイラ・サイード」の文字が表示される。撃墜した生徒の名前が表示されるものだ。
≪いよっしゃああああ!≫
≪エマ! ナイス・モンキーハンティング!≫
Bチームの喜ぶ声を通信で聞きながら、エマはナイラの様子をうかがった。ナイラは信じられないという顔で、自分の胸元についたインクをながめていた。
≪敵機まだ来るよ!≫
≪アーイアイサー!≫
勢いづいたBチームの快進撃は止まらない。エマは狙撃銃の前から移動して、ガトリング砲を構える。Aチームの生徒たちが地上の2班を狙っているのに向けて、ガトリング砲を連射して次々と撃墜していった。
***
「エマ、やってくれたわね」
戦闘訓練が終わったあと、更衣室で制服に着替えていたエマに、ナイラが話しかけてきた。その表情は若干むくれている。
「お疲れさま。ナイラ、突出しすぎるから」
「……本当よ。気が急いてた」
ナイラは深々とため息をついて、自分のロッカーを開ける。パイロットスーツのチャックを下ろすと、ナイラの褐色の肌が見えた。
「……今日のこと、覚えておくから」
ナイラの大きな黒目がちの目で、キッとにらまれる。エマはわずかに首をすくめて、制服のジャケットに袖を通した。
「戦闘訓練は、チーム戦だから」
「わかってるわ。わかってる。……でもデータベースの検索に、忙しいの」
ナイラがパイロットスーツを脱ぎながら、手早く制服に着替えていく。エマは脱いだばかりのパイロットスーツをたたみながらたずねた。
「供与された才能の?」
「そう。戦場での最適な行動を、検索してるの。合理的だわ」
「……ああ、それで味方の通信が聞こえなくなっちゃうんだ」
ナイラが制服のジャケットを着て、ぱたんとロッカーを閉じる。その手がぎゅっと握られていた。
「でも痛感したわ。結局、供与された才能って過去の経験や記憶なんだって。……それで今の状況がわからなくなってしまうのは、本末転倒ね」
エマはうなずいて、先ほど買ったばかりのペットボトルを一本、ナイラに差し出した。
「ありがとう」
ナイラはペットボトルのフタを開けると、悔しさをまぎらわすように、一気に飲み干す。エマはナイラの喉が上下するのをぼんやりとながめた。
「次は、負けないから」
そういえばクイニーも似たことを言っていたなと、エマはナイラを見つめる。それがクイニーの記憶に影響された言葉のような気がして、エマはほんの少し戸惑った。




