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イカロスの翼では届かない  作者: 網笠せい
第六章 ナイラの翼
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第四話

「明日の戦闘訓練のチーム分けを発表します」


 エマたち王立魔法士官学校本科の二年生は、教官が読み上げる名前を真剣に聞いた。仲のいい生徒と同じチームになることを祈る者もいれば、ナイラのような成績優秀者と違うチームにならないことを祈る者もいる。


「それから、ナイラ・サイード……Aチームは以上。つづけて、Bチームの編成を発表します」


 ナイラの名前は呼ばれたが、まだ自分の名前は呼ばれていない。エマはきょとんとしながら、教官に名前が呼ばれるのを待つ。


「エマ・リーデル……Bチームは以上です」


 ようやくエマの名前がBチームとして発表された。どうやら今回の戦闘訓練では、ナイラと敵同士になるらしい。


 学生寮で同室の生徒は大抵の場合、同じチームに編成されるものだ。そうでなければ、自室での作戦分析などがしにくい。珍しいこともあるものだなと、エマはタッチペンをタブレット端末に戻す。しまい損ねたタッチペンがころころと机の上を転がって、あわてて捕まえた。


 ──模擬戦とはいえ、ナイラと戦うことになるなんて……。


 想像もしなかったチーム分けに、エマはぎゅっとタッチペンを握りしめ、タブレット端末に格納した。


「それでは、今から各チームで作戦行動の立案などを行うように。Bチームは隣の教室を使いなさい。それでは、はじめ」


 教官の言葉に、Bチームの生徒たちが席を立つ。廊下に出て隣の教室に入ると、戦闘訓練で使用するフィールド上の地図が送信されてきた。大きな画面のついたテーブルの上に、立体地図が浮かび上がっている。


「ナイラはAチームかぁ……瞬殺されないようにしないとね」

「こっちには、エマちゃんがいるじゃん。狙撃してもらおう!」


 Bチームの生徒たちがめいめいに意見を言い合っている。その中には、癖毛に指を巻き付けているメリッサもいた。エマは、ナイラと戦うことになると予想もしていなかったのもあって、まだ気持ちの整理がつかない。胸の奥がざわざわして落ち着かない。


「……普段って、相部屋の生徒は一緒のチーム分けになるじゃん? なんで今回、ナイラとエマを別々にしたんだろ?」

「最近ナイラが、エマちゃんにべったりだからじゃない?」

「ああ……本科を卒業したら、多分別の配属先になるもんね。今のうちに慣れとけってことか」

「いやー、しっかし、ナイラと戦うの、面倒臭いなー。……エマ、なにか弱点とかないの?」


 そんなことを言われても、とエマはたじろぐ。しばらく思案してから、おそるおそる口を開いた。


「さっき私に狙撃させようって話が出てたけど。……多分、それはAチームも予想してると思う」

「……あー、まあ、そっか。じゃあ戦術科の奴に連絡とって、アドバイス求めてみる?」

「いやー、こっちの作戦が戦術科経由でAチームに漏れないとは限らないなー」


 Bチームの面々はそれぞれに考え込んでいる。額に手を当てて悩む者、腕組みをして立体地図に見入る者、タッチペンでいらいらとテーブルの端をつつく者など、反応はそれぞれだ。エマは乾いた唇を開いて、ゆっくりと自分の考えを伝えた。


「みんなも知ってるだろうけど、ナイラは単騎で突出することが多いから……先にナイラを狙った方がいいんじゃないかな」

「わかってるけど、それが難しいんだって。正面からやりあったら、あのナイラに勝てるわけないじゃん」


 生徒の一人が座ったまま脚を投げ出して、深々とため息をついた。Bチームの面々は悩みを深くして、うなったり、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回したりしている。


「ナイラは多分、イヤホンで音楽聴いてるから、いつも以上に単騎で行動すると思う。連携はすごく取りづらいはずだよ」

「恐妻家って言ってたけど、妻、こっちだもんね。ナイラを制御できる奴、Aチームにいないんじゃない?」

「だから妻じゃないって。だけど通信できる人がいないのは、きっとその通りだよ」

「しっかし、訓練中に音楽かー! 余裕だな!」


 不満そうに眉間にしわを寄せた生徒に、エマは身を縮める。ふと口をついて出た言葉が、ナイラの評判を下げてしまったのではないかと申し訳なくなる。


「余裕とか、そういうのじゃなくて」


 あわてて打ち消したエマに、生徒の何人かが身を乗り出した。


「ナイラは今、ブレードで横薙ぎにするときに、手が止まることがあって。それを音楽の流れに乗ることで、克服してるから……」

「あー、そういうことか……」


 突如として、メリッサがぽん、と両手を叩いた。エマは顔を上げる。


「つまり、味方から通信がばんばん入る状態にすれば、音楽を聴いてる余裕がなくなって、手が止まるかもしれない!」

「……うん。単騎で突出してたら、Aチームの人たちが通信をかなり入れると思う。味方から、ちょっと引き離せれば……」

「さっきエマも言ってたけど、Aチームはエマが狙撃に回るって予想してそうだよね。だったら、最初にエマを狙ってくるはずだよ。その裏もかけばいいじゃん!」

「……どうやって? エマが近接戦闘に回ったら、すぐに目視できるじゃん」


 メリッサはニヤリと不敵に微笑んで「エマを伏兵にする」と、指に巻き付けていた癖毛を放した。


 初めて自分が作戦行動の真ん中にいることが落ち着かなくて、エマは視線を落ち着きなくさまよわせた。


「まーかせて。イタズラなら、得意だから!」


 制服の袖をまくりあげたメリッサが、イヒヒと笑いながら作戦について語りはじめる。Bチームの面々は、真剣に耳を傾けた。

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