第四話
「明日の戦闘訓練のチーム分けを発表します」
エマたち王立魔法士官学校本科の二年生は、教官が読み上げる名前を真剣に聞いた。仲のいい生徒と同じチームになることを祈る者もいれば、ナイラのような成績優秀者と違うチームにならないことを祈る者もいる。
「それから、ナイラ・サイード……Aチームは以上。つづけて、Bチームの編成を発表します」
ナイラの名前は呼ばれたが、まだ自分の名前は呼ばれていない。エマはきょとんとしながら、教官に名前が呼ばれるのを待つ。
「エマ・リーデル……Bチームは以上です」
ようやくエマの名前がBチームとして発表された。どうやら今回の戦闘訓練では、ナイラと敵同士になるらしい。
学生寮で同室の生徒は大抵の場合、同じチームに編成されるものだ。そうでなければ、自室での作戦分析などがしにくい。珍しいこともあるものだなと、エマはタッチペンをタブレット端末に戻す。しまい損ねたタッチペンがころころと机の上を転がって、あわてて捕まえた。
──模擬戦とはいえ、ナイラと戦うことになるなんて……。
想像もしなかったチーム分けに、エマはぎゅっとタッチペンを握りしめ、タブレット端末に格納した。
「それでは、今から各チームで作戦行動の立案などを行うように。Bチームは隣の教室を使いなさい。それでは、はじめ」
教官の言葉に、Bチームの生徒たちが席を立つ。廊下に出て隣の教室に入ると、戦闘訓練で使用するフィールド上の地図が送信されてきた。大きな画面のついたテーブルの上に、立体地図が浮かび上がっている。
「ナイラはAチームかぁ……瞬殺されないようにしないとね」
「こっちには、エマちゃんがいるじゃん。狙撃してもらおう!」
Bチームの生徒たちがめいめいに意見を言い合っている。その中には、癖毛に指を巻き付けているメリッサもいた。エマは、ナイラと戦うことになると予想もしていなかったのもあって、まだ気持ちの整理がつかない。胸の奥がざわざわして落ち着かない。
「……普段って、相部屋の生徒は一緒のチーム分けになるじゃん? なんで今回、ナイラとエマを別々にしたんだろ?」
「最近ナイラが、エマちゃんにべったりだからじゃない?」
「ああ……本科を卒業したら、多分別の配属先になるもんね。今のうちに慣れとけってことか」
「いやー、しっかし、ナイラと戦うの、面倒臭いなー。……エマ、なにか弱点とかないの?」
そんなことを言われても、とエマはたじろぐ。しばらく思案してから、おそるおそる口を開いた。
「さっき私に狙撃させようって話が出てたけど。……多分、それはAチームも予想してると思う」
「……あー、まあ、そっか。じゃあ戦術科の奴に連絡とって、アドバイス求めてみる?」
「いやー、こっちの作戦が戦術科経由でAチームに漏れないとは限らないなー」
Bチームの面々はそれぞれに考え込んでいる。額に手を当てて悩む者、腕組みをして立体地図に見入る者、タッチペンでいらいらとテーブルの端をつつく者など、反応はそれぞれだ。エマは乾いた唇を開いて、ゆっくりと自分の考えを伝えた。
「みんなも知ってるだろうけど、ナイラは単騎で突出することが多いから……先にナイラを狙った方がいいんじゃないかな」
「わかってるけど、それが難しいんだって。正面からやりあったら、あのナイラに勝てるわけないじゃん」
生徒の一人が座ったまま脚を投げ出して、深々とため息をついた。Bチームの面々は悩みを深くして、うなったり、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回したりしている。
「ナイラは多分、イヤホンで音楽聴いてるから、いつも以上に単騎で行動すると思う。連携はすごく取りづらいはずだよ」
「恐妻家って言ってたけど、妻、こっちだもんね。ナイラを制御できる奴、Aチームにいないんじゃない?」
「だから妻じゃないって。だけど通信できる人がいないのは、きっとその通りだよ」
「しっかし、訓練中に音楽かー! 余裕だな!」
不満そうに眉間にしわを寄せた生徒に、エマは身を縮める。ふと口をついて出た言葉が、ナイラの評判を下げてしまったのではないかと申し訳なくなる。
「余裕とか、そういうのじゃなくて」
あわてて打ち消したエマに、生徒の何人かが身を乗り出した。
「ナイラは今、ブレードで横薙ぎにするときに、手が止まることがあって。それを音楽の流れに乗ることで、克服してるから……」
「あー、そういうことか……」
突如として、メリッサがぽん、と両手を叩いた。エマは顔を上げる。
「つまり、味方から通信がばんばん入る状態にすれば、音楽を聴いてる余裕がなくなって、手が止まるかもしれない!」
「……うん。単騎で突出してたら、Aチームの人たちが通信をかなり入れると思う。味方から、ちょっと引き離せれば……」
「さっきエマも言ってたけど、Aチームはエマが狙撃に回るって予想してそうだよね。だったら、最初にエマを狙ってくるはずだよ。その裏もかけばいいじゃん!」
「……どうやって? エマが近接戦闘に回ったら、すぐに目視できるじゃん」
メリッサはニヤリと不敵に微笑んで「エマを伏兵にする」と、指に巻き付けていた癖毛を放した。
初めて自分が作戦行動の真ん中にいることが落ち着かなくて、エマは視線を落ち着きなくさまよわせた。
「まーかせて。イタズラなら、得意だから!」
制服の袖をまくりあげたメリッサが、イヒヒと笑いながら作戦について語りはじめる。Bチームの面々は、真剣に耳を傾けた。




