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イカロスの翼では届かない  作者: 網笠せい
第五章 おそろいじゃないけど
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第六話

 本科のカタパルトから強化パーツをつけたエマが発進すると、少し遅れてナイラがつづいた。晴れ渡った空に、強化パーツのジェット噴射の音が響いている。本科に進学したばかりの頃は強化パーツを装着して発進するだけでも苦労したなと、エマは懐かしみながら空を飛ぶ。


「ナイラー! 調子どう?」

「問題なさそう」

「よっしゃ! ナイラがいるなら、今日はうちのチームの勝ちだな!」


 戦闘訓練で同じチームに振り分けられた同級生たちが、インカム通信でナイラに話しかけている。ケガをしたとき、リハビリに苦心していたときよりも、ナイラはずいぶんと回復した。今日は彼女がケガを負ってから、初めての戦闘訓練だ。


 久しぶりの空を楽しむように、ナイラは両腕を広げて飛んでいる。ナイラの銀髪が風に踊るのをながめながら、回復してくれてよかったと、エマはゴーグルの奥で目を細めた。


≪今日は管制科と戦闘科の合同訓練です。戦闘科は各チームで事前に作戦計画を立てているでしょうが、戦場は必ずしも計画通りに進むわけではありません。相手チームの作戦行動もよく見て動くように。管制科の学生はそれをサポートし、逐一状況を伝えること。いいですね? それでは、3分後から訓練開始です≫


 戦闘科の同級生たちが各チームに分かれて、フィールドの所定位置につく。3分後にエマの腕時計型端末がピピっと鳴った。それを合図にナイラがジェット噴射を最大出力にして、相手チームの元へと向かう。


「ナイラのやつ、まーた突っ込んで!」

「変わってないよねー」


 同じチームの同級生たちは苦笑いしながらも、陣形を崩さないようにナイラを追う。エマも陣形の後方から、ペイント弾を装填したガトリング砲を手に飛んだ。


≪陣形の中央、突出しすぎてます≫


 管制科からの通信を聞いて、エマはナイラに向かって叫んだ。


「ナイラ、前に出過ぎ!」

「兵は神速を尊ぶって言うでしょう」

「陣形が崩れたら、意味がないよ!」

「……わかったわ」


 ナイラの速度が少し落ちて、味方チームの陣形が保持される。同級生の誰かがヒュウと口笛を吹いたのが、通信で聞こえてきた。


「エマちゃん、あのナイラの手綱、よくとれるねぇ」

「しょっちゅうお見舞いに行ってたもんねぇ」

「……そんなんじゃないよ」


 ナイラは訓練用のスポンジ製ブレードを構えて、「私、恐妻家なの」と、冗談めかして言った。


「恐妻!? え、なに!? そういう関係!?」

「だからそんなんじゃないって!」

「えー? エマはクイニーでしょ?」

「それも違うよ!」


 相手チームと上空ですれ違いざまにペイント弾を撃つ。相手が魔法で防御シールドを張って、ペイント弾をはじいた。


「ま、そう簡単には落とさせてくれないよねー」

「……私が切り込むわ。援護よろしく」

「エマー! 相方が援護よろしくってー!」


 同級生の笑い混じりの言葉に、エマはむくれながらもガトリング砲を構えた。


 空中でガトリング砲を構えたエマに、敵チームが向かってくる。敵チームのペイント弾を防御魔法で弾きながら、エマはガトリング砲を連射する。


 ──30メートル。


 バレルがぐるぐると周り、ペイント弾が次々と吐き出されていく。エマは視界の隅で残弾数を確認しながら、敵チームの生徒を何人か撃墜した。狙撃訓練の成績優秀者として何度も名前が上がったエマは、遠距離攻撃に長けている。エマの腕時計型端末に、撃墜した相手チームのメンバーの名前が表示されていく。


 ──残弾数70。20になったら交換。


 相手チームが撃墜されながらも近づいてくる。エマから10メートルほどの距離に近付いたとき、敵チームに、さっと銀色の影が落ちた。エマはガトリング砲を撃つ手を止める。敵チームの目がエマに集中している隙に、ナイラが動いたらしかった。


 ナイラがすれ違いざまにスポンジ製のブレードを振る。振り抜けるはずのナイラの手が、途中で止まる。ためらったように見えた。エマはガトリング砲の引き金に添えた指をあやうく引きそうになった。


「ナイラ?」

「……ごめん、討ち漏らした」


 ──いつもなら、速度を落とさず撫で切りにしていくのに。それになんだか……苦しそう?


 ナイラが少し遅れて相手チームとの近接戦闘から離脱する。エマはそれを見計らって、ガトリング砲の引き金を引いた。エマのペイント弾の軌道が、相手チームの重力制御魔法で逸れていった。


 エマが万事休すかと身構えたとき、上空をひらりと影が舞った。スポンジ製のブレードと、ライフルのペイント弾が相手チームを襲う。


「ったくさぁー、ナイラとエマだけじゃないんだからね」

「私たちにも残しといてくれたなんて、ラッキー!」


 味方チームの同級生たちが文句を言いながら、相手チームを撃墜していく。宙空を駆け回りながらブレードを振る生徒、援護射撃をする生徒など、めいめいにその役割を果たしている。


「ありがとう!」

「チームでしょ! 気にしないこと!」


 先ほどブレードを振りながら空を駆け抜けたナイラが、旋回して戻ってくる。口径の小さい機関銃を構えて、相手チームを一騎ずつ確実に仕留めていく。


≪敵機撃破。相手チームの残存兵力0です≫

「狙撃班は?」

≪今回はいないようですね≫


 腕時計型端末に訓練終了を知らせる連絡が来て、エマたちは空中でハイタッチをした。


 カタパルトへ向けて帰投しながら、それにしても、とエマはちらりとナイラの横顔に視線を向けた。先ほどナイラが手を止めたのは、一体なんだったのだろう。


 ──まだ本調子では、ないのだろうけれど。


 ナイラが唇を噛んでそっとまぶたを伏せるのを、エマは不安に駆られながら見守る。


「ナイラ」


 エマはナイラに近付いて、インカムを通さずに話しかける。ナイラの肩が小刻みに震えているのがわかった。


「……平気。飛んでみせるわ、意地でも」


 ナイラはそれだけ言うと、空でくるりと回って、先に行ってしまった。

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