第三話
「次の班、カタパルトへ!」
教官から呼ばれて、エマはあわててカタパルトへのタラップをのぼった。待合室でほんの少し、うとうとしてしまった。同じ班にいる同級生が起こしてくれなかったら、完全に寝てしまっていたかもしれない。
「次! エマ・リーデル」
「はい! 王立魔法士官学校予科2年、エマ・リーデルです」
「カタパルト発進準備に入れ」
前回の発進訓練を思い出しながら、エマはカタパルト内の所定の位置につく。命綱の装着と確認も忘れない。ゴーグルをつけ、射出装置にかかとを乗せて滑走路の先を見たとき、ぐにゃりと青空が歪んだ。
「準備ができ次第、スイッチを押すように」
「はい! エマ・リーデル、発進します!」
違和感を覚えながらもスイッチを押す。射出装置が動き出して、青空に押し出される。エマは前屈みになって、射出の速度をこらえた。重力制御の魔法を使わなければと気がついたときには、すでに滑走路から宙に放り出されていた。
こみあげる吐き気をこらえながら、昨日勉強してきたように、ナイラがしていたように、懸命に全身を伸ばす。タイミングがずれている。空気抵抗の中、必死に脚を伸ばし終えたときには、落下がはじまっていた。
水泳の飛び込み競技のように、地面が近づいてくる。怖い、とエマは目を閉じる。半ば反射的に重力制御の魔法を自分にかける。発進時に魔法を使えなかったことが幸いした。
命綱に宙吊りにされたエマの身体が、ゆっくりと地面に近づいていく。訓練補助の上級生たちがやってきて、命綱をはずした。
エマはバランスを崩してよろつきながら着地した。ナイラのように華麗な着地ではなかったけれど、前回より、着地だけはうまくいった。
やった! 全身を伸ばすタイミングを、射出する瞬間に合わせることができれば──。
ゴーグルの奥で目を輝かせたエマは、次の瞬間、こみあげる吐き気をこらえきれずに嘔吐した。
***
せっかくうまくいったのに。やっぱり寝不足はよくない──。
エマは更衣室でぐったりしながら、水分補給をする。胸の辺りが、胃液でイガイガしていた。
モニターの中で、クイニーが飛んでいる。射出時に全身を伸ばし、落下中に両腕を胸の前でクロスさせていて、前回のナイラの動きにとてもよく似ている。エマはぼんやりとそれをながめながら、うまいな、と感心した。同時に、遊んでたくせに、と不満を持った。ナイラの発進訓練の映像を何度か見ていたようだったけれど、クイニーが勉強しているところはほとんど見たことがない。
更衣室に戻ってきたクイニーが、友人たちと「いえーい!」とハイタッチする。彼女たちのにぎやかな声は、モニターの中にナイラが映ったときに止んだ。
ナイラが発進する。射出時に全身を伸ばして飛び、今度は宙吊りにはならず、立ったままの姿勢で飛行する。モニターを見ていた生徒たちが「おお……」とざわめいた。
「きれい……」
放心状態の誰かがつぶやいた声が聞こえた瞬間、クイニーが地団駄を踏んだ。
「なーにをー! ナイラのやつ、また新技開発しちゃって!」
「……今日は『あたしにもできるもん』って言わないんだ?」
友達の声に、クイニーがぼそぼそと反論している。
「悔しいけど、これは無理。だってどうやってるのか、全然想像つかないもん」
「まあまあ、またナイラの映像研究しようぜー!」
クイニーの友達の言葉に、エマはゆっくりと顔をあげる。遅くまで遊んでいると誤解していたけれど、クイニーはクイニーで勉強していたらしい。
──やっぱりみんな、努力してるんだ。
クイニーもナイラも、それぞれ努力しているのに違いない。ならば自分ももっとがんばらなくては──睡眠不足には気をつけながら。
エマが決意を新たにしたとき、ベンチの横に置いてあったタブレット端末から、ピロンと着信音がした。A-……今回の発進訓練の評価だった。Bだった前回よりは、成長している。




