第四話
≪こちら管制科。照明弾発射します!≫
管制科からの通信に合わせて、エマはゴーグルを遮光モードに切り替える。ひゅうと空気を切る音がして、空が一気に明るくなった。照明弾だ。
敵性生物の動きが一瞬止まってぎゅっと身を縮めたように見えた。閃光で目がくらんだのかもしれないが、敵性生物の身体にそれらしきものは見当たらない。
「好機!」
ゴーグルを通常モードに戻すエマの横で、ナイラがガトリング砲を放り出し、敵性生物に突進していく。その手には近接戦闘用のブレードがある。照明弾で目がくらんだところを狙っているのは明らかだ。
──突出しすぎだって言ってるのに!
「ナイラの援護お願い!」
エマは味方に通信しながら、ナイラが構えていたガトリング砲を受け止めた。ずっしりとした重みがエマの両手に伝わる。重力制御魔法を使って負担を軽減する。
距離を確保した同級生たちが、敵性生物に銃口を向ける。しかし彼女たちの手は、引き金を引くのをためらった。
「射線にナイラが入っちゃう! こんなんじゃ、フレンドリーファイアになりかねないっての!」
≪こちら管制科。敵性生物の接地面付近を目標に砲撃。戦術科からの伝言です。それから技術科より、3分後に現在の照明弾の効果が切れるとのこと。2分50秒後に追加の照明弾を発射します≫
「了解!」
戦闘科の同級生たちが、今度は迷いなく引き金を引く。敵性生物の足場を狙った銃弾の雨あられは、もうもうと土煙を上げた。せっかく照明弾で明るくなったというのに、これではナイラの姿も敵性生物の姿も見えない。
「やべ、砲撃中止! 土煙でナイラも見えなくなる!」
「私にとってはちょうどいい! 煙幕になってる!」
ナイラから入った通信に、戦闘科の同級生たちは困惑して顔を見合わせた。土煙の中で、ナイラのブレードの青白い光が軌跡を描いているのがうっすらと見える程度だ。
ひゅうう、と不気味な空気の音がした。敵性生物に銃口を向けるエマたちの目の前で、大きな口が土煙を吸い込んでいく。ナイラが吸い寄せられて、空中でバランスを崩したのが見えた。
「なに、あれ……」
敵性生物は身体を大きくふくらませると、煙幕に身を隠していたナイラに、ひゅんとツタをふるった。
「ナイラ!」
ツタがナイラの腹部に直撃する。すんでのところで半歩引いて衝撃を逃したものの、回避しきれなかった。
「ウソ……あのナイラだよ?」
呆然とする同級生たちの目の前で、跳ね飛ばされたナイラの足をツタが捕える。敵性生物はナイラを捕らえたツタを大きく振り上げた。叩きつけるか、放り投げるか──エマははっと我に返る。
──させない!
「一斉斉射!」
「あいよ!」
戦闘科二年生たちの銃口が、敵性生物めがけて一斉に火を吹いた。
戦闘科の二年生たちが放った弾丸が、敵性生物に当たる。後ろによろめくように後退した敵性生物がツタをくねらせている。エマは斉射中止を告げた。
ぶん、と放り投げられて、ナイラが飛んでくる。射撃をつづけていたらナイラにも当たっていたかもしれない。エマは飛んできたナイラの身体を受け止めるが、そのまま一緒に後ろに吹っ飛ばされた。
「ナイラのことは、私に任せて!」
≪こちら管制科。戦術科より伝言。距離をとって威嚇射撃を続行≫
「了解!」
同級生たちの威嚇射撃がだんだん遠くなる。エマは脚部パーツとウィング型バックパックのジェット噴射を最大出力にしてブレーキをかける。
「ナイラ! ナイラ!」
何度も名前を呼ぶが、ナイラはぐったりとして動かない。ナイラの長い銀髪が、風圧ではたはたと踊った。
──意識を失っている人間が、こんなに重いなんて。
エマのパイロットスーツの背中が、じわじわと熱を持ちはじめる。以前整備科の教官が、パイロットスーツの断熱性能と冷却剤について授業していたのを思い出した。長時間の最大出力には、さすがの性能ももたないだろう。
「ナイラ──!」
エマは必死で呼びかけるが、ナイラはぴくりともしない。エマの背中に、ドンと大きな衝撃が走る。一瞬、意識が遠くなる。視界が真っ暗になる。息ができずにうめくエマの耳に、瓦礫の崩れる音がした。訓練準備室にあった本が数冊、衝撃の余波を受けて地面に落ちた。




