第三話
エマたち戦闘科の二年生は、めいめいに強化パーツの置き場所に寄ると、カタパルトに集合した。発進訓練で使用してきた更衣室で手早くパイロットスーツに着替える。
モニターには、敵性生物の様子が映っている。長く伸びたツタが周りを確かめるようにうねうねと動き、ときおり地面や訓練準備室に当たる。そのたびに土煙や瓦礫が増えていく。
エマたちは急いで強化パーツを装着すると、カタパルトに上った。教官は手早くシャッターを開けると、大量の武器を一つ一つ学生たちに渡していく。
「準備のできた者から、順次発進!」
教官の指示に従い、強化パーツを装着した二年生たちが次々とカタパルトを発進していく。
順番を待っていたエマの目に、ナイラが飛んでいくのが見えた。エマはナイラに少し遅れてカタパルトを発進する。
薄暗くなってきた空を、エマは目を凝らして飛ぶ。発進訓練をするときは日中で、空が明るい。夕暮れや夜間に飛んだのは初めてだ。
エマはゴーグルに手を当てて、夜間モードに切り替える。暗視カメラのような視界に、一瞬頭がぐらりとする。まだ夜間モードに切り替えるには、少し時間が早いようだ。すぐにゴーグルを元に戻す。
≪聞こえますか。こちら管制科。戦闘科の一部生徒が敵性生物に近づきすぎています。既に化学兵器を使用して、敵の吸収速度は低下していますが、我々の任務は本隊到着までの戦線維持です。突出せず、威嚇射撃を行ってください≫
「こちら戦闘科二年、エマ・リーデル、了解しました。突出している僚機を連れ戻します」
「まーたナイラじゃないの?」
「……そうかも」
隣を飛んでいたメリッサが、肩をすくめた。狙撃訓練で使うフィールド上を敵性生物がじりじりと動いているのが見える。進行速度は速くないから、おそらく本隊到着前に校舎に到達することはないだろう。
「管制科、聞こえますか。敵性生物を肉眼で確認。でも黄昏時で視界不良です」
≪ゴーグルの夜間モードは?≫
「試しましたが、夜間モードを使うには、まだ明るいみたい」
≪照明弾の使用が戦術科から提案されてます。現在技術科が準備中。ちょっと待っててー!≫
「了解」
エマは身体を傾けて、先行していた戦闘科の二年生に近付いていく。焦りと使命感で敵性生物を取り囲むように飛んでいた数人の手が止まった。
「敵性生物に近づきすぎ! 管制科の通信、ちゃんと聞いて!」
「ごめん! 下がります!」
もしかしたらナイラの突出に合わせて、他の生徒たちも前に出過ぎてしまったのかもしれない。ナイラを単騎で最前線に送るよりはずっといいが、陣形を保持しようとして、他の生徒たちも追いかけてしまったのだろう。僚機の間隔もせまい。
「距離とって!」
エマがそう言ったとき、後退しようと方向転換した数人の生徒めがけて、敵性生物がツタを振り下ろした。
「危ない!」
エマが叫んだとき、ナイラがガトリング砲を連射した。敵性生物のツタが阻まれ、不気味な軌道を描いてぐにゃりと地面に崩れ落ちる。
ツタは後退しようとした生徒たちに直撃こそしなかったものの、何人かをかすめたようだ。
「今のうちに、行きなさい!」
「ありがとう!」
「ナイラ! あれ……!」
エマの目に、敵性生物が新たなツタをもたげる様子が映る。先ほどよりも、ツタの本数が増えている。
敵性生物が種子の殻を破るように、ゆっくりと口を開いた。口の中に、先ほど跳ね飛ばされた訓練準備室の屋根の残骸が見えた。




