第二話
王立魔法士官学校の生徒たちは、予科二年、本科二年の訓練期間を経て、王立魔法軍に実戦配備される。春になればエマたちも士官学校を卒業し、各地の駐屯地にいる魔法士官たちとさまざまな任務……大半は防衛、治安維持のための出動である……に赴く。
四年は長い期間だった気がするが、あと数ヶ月でこの士官学校ともお別れなのだなと、エマは校舎をぐるりと見渡した。本科に進学できなかったクイニー・グレイと、予科の屋上から校内を見たことを思い出す。
士官学校を卒業したあとは、大半が当人の出身地の近くにある駐屯地に配備されるという。地形などを把握しているためだ。戦力の分散を鑑みて、そうでないこともあるというが、おそらくナイラ・サイードのような優秀な生徒に限っての話だろう。
各学年にはそれぞれ優秀な首席がいるが、駐屯地に配備されるようになれば、学年はもちろん性別も関係ない。上官や先輩、いずれは後輩……異なる年齢、性別の士官たちと作戦行動を共にすることになる。
エマは、幼い頃にニュースで見た女性士官を思い出す。住宅街に降ってきた何かを防御シールドで防いでいたあの女性士官の名前は、わからない。調べたけれど、機密保持のため、知ることはできなかった。
──もしかしたら、会えるかも。
そんなふうにエマは考えるが、なにせエマがまだ幼い頃の話だから、すでに退役している可能性もある。退役していなければ、きっと前線指揮ではなく、司令部や後方支援の部隊に残っているだろう。
あの女性士官の司令を受けて飛ぶことを想像すると、エマはほんの少しだけ、わくわくする。
──そのときに足手まといにならないように、しっかり訓練しておかなきゃ。
学生寮の自室で勉強をして、それから食堂で夕食を摂ろう。学生寮に向かうエマの靴音が、いつもより律動的に響いた。
こつこつと響いていたエマの足音が、突然けたたましく鳴る校内アラートにかき消された。
「未確認飛行物体が本校に接近中。現在調査中です。学生の皆さんは、その場で耐衝撃姿勢をとって、待機してください」
エマは瞬時に身構えて空を見上げる。何かが落下してきたような衝撃が、少し遅れてあった。
「未確認飛行物体が敷地内に落下。現在調査中です。学生の皆さんは、ただちにホールに集合してください」
校内放送の指示に従い、エマはホールへと走り出した。他の生徒たちもあわただしくホールへ向かう。
ホールに向かう途中、訓練用の広大なフィールドから、一筋煙が上がっているのが見えた。
「あっ……あっ……」
途中で地面に座り込んでいた一年生のえり首をつかむと、エマは無理やり立たせた。
「早くホールへ!」
一年生をかばうようにホールへと走り出して、開きっぱなしになっている扉をくぐる。まだホールにいる生徒たちは多くない。見覚えのある教官たちが、集まって何事かを話し合っていた。
「未確認飛行物体は敵性生物の可能性があります。本学の学生の皆さんは、すみやかにホールへの避難をお願いします」
校内放送が流れたあと、ホール正面の大きなモニターに、未確認飛行物体の姿が映った。人間の二倍ほどの大きさで、オシロイバナの種子のような形をしている。今のところ、動く様子はない。立ち上った一筋の煙が、フィールドを吹く風に揺らめいていた。
「未確認飛行物体は、敵性生物と判明しました──」
続々と、生徒たちがホールに駆け込んできた。
固唾を飲んでエマたちが見守る中、敵性生物がにょろりと長いツタのようなものを出す。
敵性生物は長いツタをうねらせると、フィールドの傍にある訓練準備室の屋根をあっけなく跳ね飛ばした。
「なに、あれ……」
モニターの中でもうもうと土煙があがっている。敵性生物の様子が見えなくなった。
絶句する生徒たちをよそに、校内放送は淡々と告げる。
「現在、王立魔法軍に出動を要請中」
生徒たちがざわついている。一年生はやっと強化パーツに慣れた頃だろうと、エマは去年の自分たちを思い出した。
校内放送を聞いた教官がホールの壇上に上がり、声を張り上げた。
「軍の本校到着まで、15分ほどかかる見通しだ。本校の戦闘科二年生は男女ともに強化パーツを装着し、軍の到着まで威嚇射撃を行う! 教官を中心に、戦術科は作戦立案を、管制科は戦闘科への作戦伝達を、整備科と技術科は強化パーツや武器の準備を進めるように! 準備が終わり次第、戦闘科は発進! 以上、散会!」
先ほどまでホールでうろたえていた学生たちは、教官の指示を受けて敬礼したあと、それぞれの役目を果たすべく散会した。




