第四話
学生寮の食堂は混み合っていて、ひっきりなしに人が出入りしている。他の学年の生徒たちもいて、要領のいい学生は上級生と仲良くなり、コツや勉強を教わるのだそうだ。エマにはそんな器用な真似ができない。クイニーなら、それができたかもしれないけれど……と、エマは予科でのことを思い出した。
「ねぇねぇ、エマ、聞いた? 予科の座学教官、学校辞めたらしいよ」
夕食を乗せるトレイを手にしたエマに、メリッサはそっと耳打ちした。クイニーと仲のよかったメリッサは、ときどきエマに話しかけてくれる。
「え、どうして」
「本科で習う内容を、予科で教えたから。……あの最後の授業のやつ」
メリッサは癖毛に巻きつけていた手を下ろして、食堂でトレイを受け取り、次々とお皿を乗せた。
「そんな……」
「あの授業だけプリントだったから、ちょっと怪しいなって思ったんだよねー。タブレットへのデータ転送だと授業の途中で止められるから、プリントにしたのかも」
エマの頭に、メガネをかけた座学教官の姿が思い起こされた。教官の行動の何がおかしいのか、エマには理解できない。おそらく規律違反だと見なされたのだろうが、クイニーが本科に進学できない理由を伝えるために最後の授業をしてくれたのなら、生徒のことを第一に考えてくれるいい先生だ。
それでも、予科の教官がプリントを配布したということは、自分の処遇がどうなるのか、ある程度悟っていたのに違いない。
メリッサがホワイトソースとチーズの絡んだマカロニをお皿に盛る。エマはそれを横目に見ながら、遠慮がちに自分のお皿にミートボールを乗せた。トマトソースで煮込まれたミートボールは美味しそうだが、急に喉が詰まったような気がした。
──さっきまで、お腹が空いてたはずなのに。
エマのお皿をのぞきこんだメリッサが、目を丸くした。
「そんな少しでいいの? 食べないと体力、もたないよ? 私の食欲を、ちょっとは見習いなよ!」
メリッサは横から、気落ちしているエマのお皿にマカロニを乗せると、自慢げに笑った。
「うん……。そうだよね」
予科の座学教官は、学校を辞めて、どうしているのだろう。元気でいるといいなと、エマは窓の向こうを見つめた。
***
予科時代と同じように、エマはタブレット端末に授業で習った情報を書き込んでいる。それは教官たちが口頭で解説したもので、疑問があれば授業後に教官に質問しに行く。質問やそれに対する答えも書き込んでいるから、内容はかなり充実している。
本科に進学して困ったのは、訓練でくたくたになってしまって、タブレット端末に書き込んだ内容をおさらいできないことだ。週末になると、エマは復習できていないページを開いて頭を悩ませる。
相部屋になってから、ナイラがどんな勉強をしているのか気になっているが、特に長時間勉強している様子もない。
ナイラは座学も訓練も成績優秀で、総合成績では首席の座を他の生徒に譲ったことがない。エマは狙撃訓練でナイラを上回ったことが何度かあるが、それでもナイラの成績には届かなかった。
「ナイラって、どんな勉強してるの?」
「どんなって、普通だけれど」
ナイラはこともなげにそう言う。実際、相部屋になってからナイラの勉強する姿を見たが、特別なことはしていないようだった。むしろ、エマよりもタブレット端末に向かう機会が少ない。勉強しているかと思えば、写真立てをじっと見つめて何かを考え込んでいる。
同じ写真ばかり見ていて、飽きないのだろうか。やっぱりナイラは少し変わっているなと、エマはため息をついて天井を見上げた。
クイニーが写ったナイラの写真立てが、エマの視界の端に映った。写真はすぐに変わって、知らない人に変わった。
エマは携帯型端末を取り出して、久しぶりにクイニーにメッセージを送ることにした。




