第二話
新一年生たちが次々とカタパルトから発進しては、悲惨なことになっていた。更衣室でモニターをながめていたエマは、恐怖と緊張で身をこわばらせた。
見てられない、とモニターから目を逸らす。手を見つめる。指先が震えている。ぎゅっと自分の手を握り込んで震えを抑えようとするが、拳ごと震えた。
おそるおそるモニターに視線を戻す。じっと画面に見入っていたナイラが振り向いて、彼女の黒曜石のような瞳と視線が合った。ナイラが少し考えたあと、こちらに近づいてくる。発進訓練におびえた新一年生たちは、すっかり静まり返っていた。更衣室にナイラの靴音が響いた。
「バックパック」
「え?」
「脚部パーツだけじゃなくて、バックパックも使ってみて」
ナイラが自分からすすんで助言をくれたのは、初めてだ。
クイニーみたいだな、とエマは落ち着きなく視線をさまよわせた。レクリエーションルームで友達と勉強会をしていたクイニーなら、きっとそうしただろう。
「ありがとう」
「……がんばってね」
「次の班、待合室へ!」
エマは訓練補助の上級生の声に飛び上がるほど驚いて、おずおずと待合室に向かった。強化パーツが、やけにずっしりと重く感じられる。
タラップを上る足音が響いている。緊張しすぎて、口の中が乾いていた。唾液を飲み込むとごくりという音がして、エマはその大きさに縮こまる。バックパックを背負って胸の前で固定ベルトを留めようとするが、なかなかうまく装着できない。手が震えている。
待合室のモニターから「いやああああ!」という絶叫が聞こえて、エマはぶんぶんと頭を振った。
──集中しないと。
脚部パーツを装着していくが、ふとした瞬間に頭をよぎるのは、同級生たちの発進訓練の様子だった。エマはちらりと待合室のモニターを見て、すぐに目を逸らした。どうやらエマの前に発進した同級生は、網で回収されたらしかった。
***
強化パーツを装着したままカタパルトに上るだけで、エマはぐったりとした。本科の発進訓練を担当する教官は、タブレット端末を片手に、「次! エマ・リーデル」と、叫ぶ。
「はい! 王立魔法士官学校本科1年、エマ・リーデルです」
「学年と名前だけでいい」
「はい! 1年、エマ・リーデルです!」
「カタパルト発進準備に入れ」
所定の位置にかかとを置いて、エマはぐっと深く前傾姿勢をとる。予科の発進訓練にあったような命綱はない。滑走路に淡い黄色の誘導灯と、白色の誘導灯が見える。事前に受ける授業で、距離を示していると聞いた。1メートルごとに黄色の誘導灯が設置されている。
──15メートル。
エマは瞬時に滑走路が何メートルあるかを確認して、バックパックの点火位置を決めた。
「エマ・リーデル、発進します!」
脚部パーツがアイドリングをしはじめる。エマが発進スイッチを押すと、レールを走るシャトルがぐんと加速して前に押し出された。速い。予科のときとは、圧が段違いだ。
エマの金色の髪が風圧で後ろに引っ張られているような気さえする。のけぞりそうになる身体をこらえて、エマは重力制御魔法を展開した。ほんの少し圧が軽減された。
すぐにナイラの助言通り、バックパックに点火する。脚部パーツの推進力と拮抗して、バランスを取りやすくなった。浅い前傾姿勢をとるエマの耳は、轟音でキンキンしている。レールの上で、シャトルが火花を散らしていた。
視界が急に開けた。跳躍のタイミングこそ少し遅れたが、エマの身体はふわりと宙に浮いた。脚部パーツの噴射を弱めて、バックパックは小刻みに噴射させる。左右にふらふらと揺れるが、比較的安定していた。
ゆっくりと地面が近付いてくる。脚部パーツの噴射を止めようとしてバックパックを操作してしまい、エマは顔面から地面に落ちた。
訓練補助の上級生が駆け寄ってきたとき、エマは顔を上げて、えへへと笑ってごまかした。




