ようこそ新しい世界へ! ただし安全の保証はマイナス
『ご主人様、ご主人様、起きて下さーい!!!』
どこからか明るい声が聞こえる。
こっちには俺一人で来たはずだから他の人の声がするはずないんだが。幻聴だな。きっとそうだ。
『いい加減にして下さい! こんなところでいつまでも横になってたら死にますよ??』
―――幻聴じゃない!!! いま確かに聞こえた!
飛び起きて周囲を見回すと、そこは鬱蒼と木が生茂っている森の中。人影などは見当たらない。
もしかして幽霊の類か? いきなりモンスターエンカウント!?
『失礼ですね! 私はモンスターなどではありません!! ご主人様の誠実かつ優秀なナビゲーターですっ!』
「ナビゲーター? 俺にそんなものあったか?」
改めてキョロキョロするも、やはりここには俺以外誰もいない。じゃあこの声は一体どこから……
『私はご主人様のユニークスキルです。そして今、ご主人様の頭の中からお話させていただいてます』
「ってことは、俺の思考がそのまま読める感じなのか?」
『そうですね』
いや待てよ、ユニークスキル??? スキルは苦痛耐性以外付けられなかったんじゃないのか?
『奇妙だと思うなら、“ステータス”と念じてみてください』
おぉっ!! 眼の前に本格的なゲームのような表示が出てきた。しかもこれ、どうやら触れるっぽい。なんか不思議な感覚だな。
個体名:荒木 京也
種族:人族
年齢:17
Lv:1
HP:100
MP:0
スキル:苦痛耐性
ユニークスキル:ナビゲート
加護:転生神の加護
称号:不運の象徴、異世界人、苦痛に耐えし者
試しにLv、HP、MP、加護、称号の表示を順に触れてみるとそれぞれの詳細が展開される。
『Lv:自分のレベル。獲得経験値によって上がる』
『HP:生命力。0になると生命活動を停止する』
『MP:魔力。魔法を使用するときに必要なエネルギー』
『加護:超越者から与えられる己の特性の一端』
『称号:世間一般的に見て、自分がどのように見られているのかを示すもの』
適当に流し読みしてたら、ふとあることに気づく。
称号の欄の一番初めに見える “不運の象徴” の文字。これ最早、称号化してるのか?
次に苦痛耐性を押すと、
『苦痛耐性:当スキル使用時の精神的、肉体的な苦痛を緩和する』
と表示された。
「あぁ、なんとなく分かったよ、ありがとなナビゲーターさん。ところで俺のユニークスキルはどこでできたんだ? 神様を名乗る爺さんには、俺には苦痛耐性しか付けられなかったと言われたんだが」
『えぇと……ご主人様が転生神のところからこちらの世界に来るときに、転送用魔法陣に微かな異変を感じたので勝手にご主人様にくっついてきちゃいました!』
え、なになにスキルって自分で勝手にくっついてくるもんなんですか? しかも自我持ちで??
「ユニークスキル:ナビゲーションか。このままだと言い難いな……ナビゲーション、ナビゲーション、ナビ。これから君のこと“ナビ”って呼んでいいか?」
『ご主人様が私に名前をつけてくれるなんて! あぁ、嬉しくてナビ故障しちゃいそうっ!!』
あ、あぁ、それはどーもです。でも故障はしないでくれよ、せっかくのナビなんだから。
ていうか、ナビゲートっていうんだからもっと機械的で淡々としてるもんだと思ったけど、思ったより人間っぽいなコイツ。ま、それはそれで面白いから良いけど。
「そういえばここってどこなんだ?」
『“龍獄の杜”という場所ですね。人間界において最強を謳う生命体である龍ですら、この森に一度入れば二度と生きては出てくることができないとさえ言われています』
………おい、ちょっと待った、ちょっと待った。
人間界において最強を謳う生命体であるドラゴン? やっぱりこの世界にもいるんだね。
そしてここはその最強種たるドラゴンですら生きて帰ってこられない“龍獄の杜”だと。ふーーん。
おい神様、行き先は保証できないとは言ってたけれど、あまりにこれは酷くないかぁぁぁ?? これも俺の不運のせいってか。恨むぜマジで。
「んでナビさん、こっから出ていくにはどうすりゃいいんだ?」
『抜け出すにはこの森の主を斃す必要がありますよ』
………すなわち死ねと申すか。
このままだと呆気なくまたあの爺さんのところに行く羽目になりそうだ。
おいジジイ、いつかまた会ったら絶対ぶっ飛ばしてやるからな? 覚悟しとけよ!!
辺鄙な場所に飛ばしやがった転生神に心の中で中指を立てながらも、俺はどうしようもないこの現実を受け入れようとしていた。
だが俺は転生神を恨めしく思うのとは裏腹に、本当にこちらの世界で第二の人生を歩めることへの喜びで一瞬忘れていた。
ここが安全な元の世界とは全く別の世界だということを。命のやり取りが日常的に発生する場所だということを。
―――ガサガサッ、と背後の茂みが揺れる。
ベランダに蹴り出されて靴すら履いてないまま転生した哀れな京也くんですが、実は彼、今は靴履いてます。
ベランダから落ちたゆえ、マトモなモノ履いてなかった彼を見兼ねた転生神様のお情けで、普段使いしてる運動靴を持ってきてもらいました。
だからクソジジイとか言っちゃダメだぞ!




