【おにぎり(ゆめ)】
大家さんと元軍人のいないさいはて荘。
それはぽっかりと胸に穴が開いたように、とても寂しいものだった。
「大家さんが帰ってくるころには新しい家族が増えているから、しばらくの辛抱だね~」
「うん。楽しみ」
ころりんころりん。
「ラストサムライの血を引く侍の末裔──どんなヒーローに成長するか考えるだけでもゾクゾクするねっ!」
「なるべく人外にはなってほしくないんだけど」
ころりんころりん。
「魔女さまの弟君なのでございますから、きっと心優しい御子にございましょう」
「そ……そうかな?」
ころりんころりん。
「魔女の弟か。阿呆が移らないか不安だな」
「呪うぞ」
ころりんころりん。
「うはは。さいはて荘で生まれて、さいはて荘で育つガキか~。ちょっとやそっとじゃ揺らがねぇ図太い精神になるのだきゃー間違いねぇな」
「確かに……」
ころりんころりん。
「孫が増えるような気分じゃわい」
「増え……? あ、ワタシか」
ころりんころりん。
「てかさぁ~今更なんだけどぉ、みんなでおにぎり作ったって大家さん食べられなくない?」
「あ」
なっちゃんの指摘にぴたり、とみんなの手が止まる。
大家さんにお土産持って行こうと、大家さんの好きなおにぎりを作ることになったんだけど……確かに全部食べられるワケなかった。
なんで誰も気付かなかったし。
「まぁ、個室だろ~? もっと作ってさ、ぼくらも食べればいいよ~」
「だな。てかおにぎりだけじゃ寂しいからおかずも作ろうぜ」
「では、わたくしだしまきたまごを作りますね」
「ふむ、ならボクも何か作るかなっ。タコさんウインナーはどうだい?」
「それ料理っていうかぁ、工作ぅ? おいしいけどねぇ~。じゃああたしはデザートにフルーツ切ってくるねぇ」
「コンロが足りんな。部屋に戻って味噌汁作ってくるわい。水筒にでも入れて紙コップに注げばええじゃろ」
「魔女、肉団子作れ」
「アンタが作れ!!」
わいのわいの。
おもしろおかしく騒がしく、ボケとツッコミ入り混じりで混沌とした空間を創り上げながらも──ワタシたちは重箱に各々で用意したお弁当を詰め込んでいった。
みんなが好き勝手に好きな物を詰め込んでいっただけの、雑多でまとまりがない弁当。おにぎりも大きさがバラバラで、具がはみ出ているものまである。いや待て、あのおにぎりの中に入っているのタコか? なんでタコ入れた。誰だタコ入れたの。
おかずだって出汁巻き卵とかタコさんウインナーとか肉団子とかはまだいい。なんでたこ焼き入ってるんだ? おにぎりに使った具の使い回しか? 誰だコレ。
社長が持ち込んできたキャビアをささみ肉に載せただけのヤツもある。アレ崩れないか? 大丈夫なのか?
デザートにカットフルーツやごま団子、鈴カステラも詰め込まれていて本当に混沌としている。統一性のかけらもない。
──でもなんでだろう。
──世界のどの高級料理よりもおいしそうに、見える。
「うはは、さいはて荘らしい弁当になったじゃねーか!」
あまりにも混沌としている弁当を前に、お蝶が大爆笑しながら言った言葉に──ワタシたちはああ、と納得したように笑顔を零す。
「確かに。ぼくらって感じだ」
「これならきっと大家さまも元軍人さまも美味しくいただいてくださいますでしょう」
「うんうん! あっ、飲み物も用意しないとねぇ~!」
「行きがけに買えばいいじゃろ。スーパーに行こうぞ」
「お菓子も買って行こうじゃないか! うめぇ棒がいいかな」
「庶民臭い」
「そう言うアンタだってチロリチョコ好きでしょ」
やんややんや。
本当に騒がしい。本当に混沌としている。でも、これがさいはて荘だ。ここに大家さんと元軍人と──そしてもうすぐ産まれてくるワタシの弟も加えて、〝さいはて荘〟なのだ。
ワタシの、誇りである。




