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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
79/185

【裏の畑のきせついろやさい】




【裏の畑のきせついろやさい】




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 さいはて荘のエントランスに飾られている巨大なキャンパスの下に陳列されている、十体のぬいぐるみ。


 その中から血まみれの狼のぬいぐるみを選んでおんぶ紐で背負った。予行練習。


「重さが足りないだろ? 赤ちゃんって三〇〇〇グラムなんだから」


 と、大王が狼のぬいぐるみとワタシの間にでっかい百科事典を挟み込んできた。おっも!


「黒錆ちゃんなんだかメルヘンな感じでかわいい~」


 もっとメルヘンにしちゃおう、と今度はゆゆがワタシの髪をいじり出した。ツインテールにするらしい。


「メルヘン目指してるっすか? ならこうすればどうっすか」


 なんか勘違いした坊主がゆゆの鞄から大きなリボンのブローチを外してワタシの胸元に取り憑けた。おい。


「……何してんだよ」


 いおりん、それはワタシが聞きたい。予行練習のつもりでおんぶしたはずがなんでこうなった。


「……ずいぶん可愛くなったな、魔女」


 さいはて荘のエントランスでわいわいしているとワタシたちを呼びに来たらしい元軍人がワタシを見てふっと口元を緩める。あんま見んな恥ずかしい。


「ちゃんと体操服に着替えているな。では裏においで」

「はぁい」


 ツインテールになったワタシは邪魔にならないようそれをさらに纏め上げてツインお団子にして、みんなと一緒に裏の畑へ向かう。

 元軍人は半ば隠居状態で、大家さんの稼ぎを軸に半自給自足生活を送っている。ワタシの学費とか生まれてくる赤ちゃんにかかるお金は傭兵時代の貯蓄を使っているらしい。だけどそのうち畑の作物を売ることも始めるつもりらしくって、最近は畑の改良に余念がない。

 そして今日はめでたく中二になったワタシたちのお祝い──ってワケじゃないけど、元軍人の畑で収穫したものを使ってみんなで料理しようってことになった。裏庭で作業するからメニューはカレー。野菜たっぷりカレーの予定である。


「畑には色々な野菜があるがね、この時期が旬の野菜は何か知っているか?」

「はい! カブがばあちゃん家の畑で採れたっす!」

「うむ。カブも旬だな──あそこにある」


 元軍人が年月をかけて広げ続けてきた裏の畑はかなり広い。農家ほどではないけれど、個人が趣味でやっているとは到底思えないレベルで広い。ビニールハウスまであるし。

 個人でやっている畑だからそれぞれの野菜の数はそれほど多くないが、ほぼ一年中色んな野菜を楽しめる。果物も少ないけれどあって栄養補給には困らないのだ。


(うね)を踏まないように気を付けろよ」


 ワタシはいつも元軍人の手伝いをしているし、坊主もおばあさんの畑をよく手伝うようで畑の中を澱みなく歩けている。畝という、作物を植えている盛り上がった土の部分の間を歩くんだけど、慣れていないと畝を踏んでしまったり畝につまずいてしまったりするのだ。現に、あまり畑に親しみがないらしい大王とゆゆ、いおりんはおぼつかない足取りで畝の間を歩いている。


「これがカブだ。サラダに使えるだろう」

「オレたち五人に黒錆ちんのお父さんお母さん、それにアパートの住人で……何人だ?」

「今日は爺と元国王、元王子、お蝶に元巫女がいるね~」

「社長も帰ってくると言っていた。だから十三人だな」

「大人数っすね!! 張り切って作らないとっす」

「野菜もそれなりの数がいるねぇ。ざくざく収穫しちゃおうよぉ」


 元軍人の指示の下、ワタシたちはざくざくと野菜を収穫してはかごに入れていく。時間がもったいないので途中から分担して、収穫を坊主といおりんが、収穫した野菜の洗浄と下処理をワタシとゆゆと大王で行うことになった。

 カブにじゃがいもにレタスにアスパラガスににんじんにたまねぎにそらまめに、わらびにたらのめなんかの珍しい野菜もたっぷり収穫して、野菜たっぷりカレーと新鮮野菜サラダの材料は揃った。牛肉やカレーのルーはもう買ってある。


「包丁やピーラーの扱いには気を付けろよ」

「はいっす。なんか黒錆のおじさん、先生みたいっすね」

「そうか? まあ元々軍属だったからな。堅苦しい自覚はある」


 うん。基本大家さん以外には無機質だよね。

 でも社長のように無情緒ではない。ただ表情が変わらないだけで意外と感情豊かだ。まあ社長も最近は無情緒な部分が減って来た気がするけど。その分腹立つことも増えた気がするけど。


「黒錆ちゃんのお父さん、ちょっと怖いけど男前よね~。でもやっぱ断然レオンさんの方が好みだけどぉ」

「オレは王様のようにもっとほんわかしてるほうが好みかな」


 いや、ワタシは断然元軍人を推すね。ファザコン上等。


「おしゃべりもいいが手元に気を付けるようにな」

「はぁ~い」


 十三人分、多めに十五人分の材料を処理するってかなり大変だ。五人で分担してるからいいけど、ひとりだったらかなりきつい。

 でもお蝶や元国王は毎朝こんな作業をひとりでこなしてるんだよね。やっぱあのふたりはすごい。


「そういえば黒錆のおじさん、ばあちゃんから聞いたっすけど野菜を売りに出すんすよね?」

「ん? 君のおばあさんというと──ああ、坂口さんか。畑を作るときに君のおばあさんにだいぶ助けられたよ。──売りに出すとはいっても地元のスーパーに少し出すだけだがね」

「ばあちゃん言ってたっす。〝黒錆さんとこの野菜は()()できるよ〟って」


「ああ、それはありがたいな。何事にも〝()()()〟だからな」


 〝()()()

 ふいに飛び込んできたそのキーワードに、ワタシは思わず喰いついていた。


「お父さんは〝()()()〟が仕事に一番必要だって考えているの?」

「ああ。魔女──お前、私が作った野菜を採ったその場で丸かじりできるか?」

「え? うん」


 いつもしてるし。


「では、豹南中学校の隣にも誰かの畑があるだろう? あそこの野菜を採ったその場で丸かじりしてもいいと言われたらどうする?」

「えっ」


 それは──うん、なんというか。


「……洗いたい、かな?」


 元軍人の野菜はあれだ、その場で服にごしごし擦ってがぶっていける。でも元軍人以外の畑の野菜は……食べられないってワケじゃないけど、水洗いしてからいただきたいかも。


「それはひとえにお前が私のことをよく知ってるからだ。私がどういう風に野菜を育てているかお前は知っている。だからこそ躊躇しない──だろう?」

「うん」

「スーパーでも国産や名のある農家の作物がよく買われるだろう? 作物に限らず、お前たちの使っている日用品や家具類もメーカーによって信頼度が変わる」


 うん、確かに消しゴムはあのメーカーが使いやすいとか、シャーペンはあそこのは壊れやすくてダメだとか、そういうのがある。


「商品に対する信頼度だけでない。スーパー自体の信頼度も重要だ──お前たち、近いが態度が悪くて商品の扱いも乱暴なスーパーと遠いが清潔感があって丁寧なスーパー、どちらを選ぶ?」

「遠いとこ行きますねぇ~。そっか、うちら無意識のうちに色んなものを見定めているんですねぇ」

「そういうことだ」


 あそこは信頼できる。あそこは信頼できない。──そんな大袈裟なことを常日頃からワタシたちは考えているワケじゃない。

 でも、無意識のうちに〝これはいい〟〝あれはちょっと〟〝あの人はいいな〟〝態度悪い人だなあ〟と──()()している。


「人間は常に何かを選び、何かを選ばない生き物だ」


 選ぶか選ばないか。


()()()()()()()()()、というのは必要だ」


 選ばれるために必要なこと。


「商品の質を上げるだけじゃない。お客様との信頼関係、地域との信頼関係、同業者との信頼関係……そういったのも大切ってことよね」

「そうだ」


 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()

 ──〝()()()


 みな、言っていることは似ている。みな、仕事をする上で気を付けなければならないことは変わらない。けれどやはり、違う。〝()〟とする部分が違う。

 例えばお蝶の〝()()()〟と元国王の〝()()()〟はとても似ている。だがお蝶は〝()〟を人間関係に置いていて、元国王は〝()〟をお店そのものに置いている。それぞれ、最も大切に想うものが違う。


「コンビニのレジ打ちにしてもイラストレーターにしてもデスクワークばかりの事務員にしても、どんな仕事にも共通して言えることだ。まずは信頼されるための努力をせねば何も始まらぬ」


 全てにおいて全力を出せとは言わんが、適当で中途半端な結果しか生まない人間を好き好んで選ぶ人間はいないことを忘れるな──そう言って元軍人は目を細めて笑った。


「恋愛面でも、な」


 その悪戯っぽい笑みに、ゆゆがきゃーと女の子らしくはしゃぐ。


「やっぱりあれですかぁ? 黒錆ちゃんのお母さんを落とすために頑張った感じですかぁ?」

「まあな」

「この畑だって元々はお母さんのために改良して広げてたものだしね」


 元軍人はとにかく大家さんに尽くしていた。そしてその献身ぶりに大家さんもまた応えて、元軍人に尽くした。

 そうして培ってきたふたりの信頼関係は何物にも代えがたいほど、硬い。


「いいなぁ~、ラブロマンス。うちもラブロマンスりた~い」


 ラブロマンスりたい。新しい。


「彼氏彼女とか面倒臭ぇだけじゃん……そんなに恋したいもんかね」

「うっせぇ童貞」

「どっ……!?」

「でもいおりん、小学生の時おれのねえちゃん好きだったすよね」

「だっ、黙れ坊主っ!!」

「今はおちばさんにトキめいてる感じだよな」

「黙れ大王!!」


 ほほぉ、いおりんは元巫女のことが気になってると。青春だねぇ。青春してるねぇ。


「こら。手が止まっているぞ」


 いおりんを囲んでわきゃわきゃしていたワタシたちに元軍人がほんの少し呆れたような顔で注意してきて、ワタシたちは真面目にカレー作りにとりかかることになった。




 ◆◇◆




「や~、いい匂いだねぇ」


 元軍人が裏庭に組んだかまどでカレーを作っていると匂いに釣られてか、元国王がふらふらさいはて荘から出てきた。


「やだぁ、王様おじさんくさ~い」

「…………休日くらい許してくれよぅ」


 ステテコパンツ姿の元国王をゆゆが容赦なくこき下ろす。哀れ。


「元国王。管理人室から机と椅子を下ろすから手伝ってくれ」

「いいよ~」

「みんな~ごはんたけてるからすいはんき、もっていってね~」

「あっ、おれといおりんで行くっすよ! いおりん行くっす」

「はいはい」


 男衆が力仕事に励むべくてきぱきと動いている中、ワタシたちはせっせと器にサラダを盛り付けていく。じゃがいもがたくさん採れたから管理人室で一気に茹でてポテトサラダにしたのだ。


「大変だけど楽しいよな」

「うん。地味に一番疲れたのがそらまめの皮むきだった」


 さやから外して薄皮を剥く、ちまちました作業が地味に疲れた。分担して作業していたからそらまめの皮むきはワタシひとりでしたんだけど、終わるころにはすっかり眉間に力が入りすぎてしまっていて目が痛かった。


「たまねぎのみじん切りが一番大変だったっつぅの」


 じゃんけんで負けてたまねぎのみじん切りをする羽目になってしまっていたゆゆがぼそりと低い声で唸る。大粒の涙をぼろぼろ流しながら頑張ってたもんねぇ。

 我が家のカレーはたまねぎはスライス切りなんだけど、今回は甘めのカレーにしようかってみじん切りすることになったのだ。食感もさることながら、カレー自体にも甘みが出るらしい。切り方で変化する味、奥が深い。


「途中から黒錆ちんのお母さんにバトンタッチしてたもんな」

「お母さん曰く、切り方で涙が出にくくなるんだって。ワタシたちは慣れていないからたまねぎの断面を潰しちゃって、それでつーんと来る成分が漏れちゃうって」

「なるほど」


 長年料理をこさえてきたからこそ磨かれた腕、ということだ。

 と、ここで管理人室から男衆が帰ってきたのでいよいよ食べる準備を始める。縁側と裏庭に元からある椅子、それに管理人室から持ち込んできた椅子でテーブルを囲む形に設置して盛り付けたサラダを並べていく。


「HEY! 素敵なパーティーへの招待、感謝するよっ」

「みなさま、ご機嫌麗しゅうございます。本日はお招きいただきありがとうございます」


 何故か日曜朝の特撮ドラマに登場するレンジャーものの黄色いヤツと同じ格好をしている元王子と、いつも通り巫女装束に身を纏った元巫女がやってきてお土産にといくつかのジュースをもらう。

 ……黄色いレンジャーをチョイスしたのはアレか? 黄色はカレーとかいうアレか?


「おう魔女っ子。けったいな格好しておるのぉ」

「おーすみんな! ……なんだ魔女、ミッ●ーか?」


 違う。ってかそういえばそうだ、今のワタシはツインお団子におんぶ紐で狼のぬいぐるみ背負ってる恰好なんだった。忙しくしているうちにすっかり忘れていた。

 爺とお蝶はデザートにってアイスを買ってきたらしくって、大家さんが冷凍庫にしまいに行った。


 カシャッ


「ん?」


 不意に撮影音がして振り返ると、そこには社長が立っていた。無表情で。スマホを構えたまま。


「痛快」

「うるせぇええぇぇ!! 消せぇええぇぇ!!」


 無表情で言うんじゃねぇええぇぇ!!


「──貴様らか。魔女の同級生は」


 がなるワタシを無視して社長はカレーを机に並べているゆゆたちを上から眺め下ろすようにじっとりとねめつける。

 ──そうか、そういえばコイツとゆゆたちは会ったことが一度もないんだった。職業体験を行う上で社長が裏で色々動いてたみたいだからゆゆたちのことは知っているだろうけど、実際に会うのは初めてなはずだ。


「え、えっとぉ……はじめまして、由良ゆら子って言いますぅ」


 無表情で上から見下されるもんだからみんなすっかり萎縮しちゃって、でも挨拶だけはちゃんとしないとって思ったのかゆゆがおずおずと進み出る。おい、怖がらせるな社長。


「知っている。由良ゆら子、大々王子、坂口敦、庵賢人。──〝()()〟にちょうどいい」


「しゃちょうさん」


 社長の背後から大家さんがゆったりとした足取りでやってきて、とても優しくて──けれど、なんだか有無を言わせぬ威圧感も混じっているような、そんな笑みを浮かべて静かに社長を呼んだ。

 そこで、社長の視線がゆゆたちから外れる。

 蛇に睨まれた蛙状態から解放されたゆゆたちはどっと脱力したようにほうっと息を吐いている。──そんなに、怖かっただろうか。社長は。


「みんなおつかれさま! とってもおいしそうなかれー。ほんとうにありがとう」


 大家さんの柔和な笑顔で張り詰めていた空気が弛緩してあっという間にほんわかした空気に塗り替えられる。そうして先ほどまでのがやがやとした賑やかさを取り戻したゆゆたちを眺めつつ、ワタシはちらりと大家さんの背後で視線を伏せたまま控えている社長にも視線を向ける。


「……社長め。アレは後で大家さんに怒られるな」

「えっ、なんで?」

()()()()()()()()()


 …………、…………?

 いや、それは知ってるけど。


「お前は気にしなくともよい。今まで通り、あの子らと仲良くしてゆけばよい」

「え? うん……うん?」


 言われなくてもゆゆたちはワタシの大切なともだちだから仲良くしていくけど……うん? どういうことだ。


「──……〝さいはて荘〟はあまりにも()()()すぎるからな」


 そう言って元軍人はワタシの頭に手を置いて、強めにぐりぐりと押してきた。ちぢむちぢむ。


「あの子らは()()にいい子たちだ。お前にとって、きっといい繋がりになる」

「うん……?」

「まっとうに〝()()()〟を築いてゆけよ」


 うん……うん?

 何が言いたいのかさっぱりだぞ、おい。


「さて、食べるとしようか」


 頭にハテナマークを大量に浮かべているワタシをよそに、元軍人たちはそれぞれ席に着いて食べる姿勢に入ってしまった。

 わけがわからぬと頭をひねりながらワタシもゆゆたちのところに向かって、ゆゆと大王の間に収まる。眼前には野菜たっぷり大ボリュームのカレーライスとこれまた野菜たっぷりのポテトサラダ。そして差し入れでもらった愛媛県でしか買えないというみかんジュース。うん、食べる準備万端である。


「えっと、黒錆のおじさん、畑作業を教えてくれてありがとうっす! それに黒錆のおばさんも、カレー作りを助けてくれてありがとうっす! すっげー楽しかったっす! カレーいっぱい作ったんで、いっぱい食べてくださいっす!」


 小競り合いの末に音頭を取ることになった坊主が緊張しつつもそう言って、坊主が手を合わせたのを合図にしてみんなで一斉に手を合わせる。


「いただきま~す!!」


 感謝いたしますとかカレー万歳とか亜種の挨拶も混ざった食前の挨拶を始まりの鐘にしてみんなでの食事会が始まった。


「そらまめとカレーって意外と合うんだねぇ~」

「つーかカレーに合わねーモンはねーよ」

「マシュマロはまずかったですね」

「なぜマシュマロ入れた」

「いや、オレの妹がいつの間にか入れてて……」

「……キムいちご思い出しちゃった」


 元国王とお蝶、大王は何やら不穏な話をしている。カレーにマシュマロ……?


「キミ、ブロッコリーは食べないのかい?」

「え、あ……苦手、なので」

「OH、ダメだよ。食べないのなら食べる前に除けたまえよ。ボクだって納豆が嫌いだけれどね、一度食べ始めたら涙を堪えながら最後まで食べるんだ」

「いおりんさま、ブロッコリーは食物繊維が豊富で整腸効果がございます。それに免疫力を高めてくださる効果もあってとてもいいのですよ。たんぱく質も豊富でございますので最近は筋とれをなさる方々にも好まれているとのことでございます」

「あっ……そう、なんですか。じゃあ……食べ、ます」

「はい。ですがどうしても召し上げられないようでしたら無理をなさらず、どうぞお遺しくださいませ」


 ……イケメンと美女に攻められていおりんの顔が真っ赤になっている。おうおう、頑張れ。


「おいしい。とってもおいしい。みんなとってもじょうず」

「そっすか? なんか照れるっす」

「黒錆ちゃんのお母さんの料理の方がおいしいですよぉ。また大王ちゃんと一緒に泊まりに行きたいくらいですぅ」

「うふふ、ありがとう、いつでもおいで。だいかんげい」

「いいな~。おれも泊まりたいっす。あの浴場、入ってみたいんすよね~」

「……空室を客間代わりにすれば問題なかろう」

「そうですね、おじいさん。ぼうずくんといおりんくんもぜひおいで」


 坊主とゆゆは大家さんや爺と和やかに談笑している。爺が珍しくさいはて荘の住人以外に反応した、と思ったらそれきり坊主たちには見向きもせずもくもくとカレーを食べることに没頭してしまった。嫌ってはないけど、やはり関心を持てない感じかな。


「あまり圧を出すなよ。みな〝()()〟の子らなのだからな」

「分かっている。元よりこれ以上関わるつもりもない」

「まあ、でもさっきのは少しやらかしてしまったな。後で大家さんに絞られるといい」

「ぐ……」


 おお、珍しく社長が呻いている。


「大家さんは怒ると怖いからな」

「知ってる」

「知ってるってことは、怒られたことあるの?」

「…………」


 あるんだな。

 ほほぉ、大家さんにはやたら甘い社長だと思っていたけど大家さんには頭が上がらないと言った方が正しいのかもしれない。新発見である。


「やれやれ。社長もまだまだ青いな」


 ふ、と愉快そうに笑う元軍人に社長は不機嫌そうな顔を向ける。そんな子どもっぽい仕草にワタシも思わず笑ってしまって、それにカチンときたらしい社長にほっぺたを抓られて喧嘩が勃発したというのはここだけの話である。


 呪うぞこのやろう。



 【信頼性】


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