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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【すてーき】


「分厚い!」

「じゅーしぃ~!」

「しかもA5ランクの高級肉!!」

「な、なんだかぜいたくだねえ」

「……わたくし、お肉は少々……」


 冬の寒さから解放されてなだらかに温かくなってきたある日、さいはて荘の元巫女の部屋にてワタシたちは女子会を開いていた。

 ワタシとなっちゃんと、お蝶と元巫女と大家さん。さいはて荘の女性陣ここに集結せり、である。

 そしてワタシたちが囲むのは可愛らしいケーキやおしゃれな飲み物ではない。

 A5ランクの高級和牛ステーキである! それも分厚い! そして人数分!


「社長のやつも太っ腹だぜぇ~。わざわざA5ランクを取り寄せてくれるってんだから思わず熔岩プレート買ってしまったぜ」


 まさに今じくじくとホットプレートの上で焼かれているステーキは社長がプレゼントしてくれたものである。前、漫画肉食べたいと思って、けれど結局エセ漫画肉しか食べていなかったから一度分厚くておいしい肉食べたいと社長に言ってみたら調達してくれたのだ。なんだろう、ひょっとして甘いのか社長?

 貰った肉を前にどうしようかと考えあぐねていたワタシと大家さんにお蝶が女子会しようと言い出して、何やら熔岩プレートなる、お肉がおいしく焼けるらしいプレートまで買って今に至るのである。


「元巫女、別に精進料理しか食べませんってワケじゃないでしょ?」

「そうなのでございますが……なるべく穢れを溜め込まぬよう……」

「も~、だから元巫女、ワタシたちは元巫女が寝っ転がって腹出してむしゃむしゃスナック菓子食べてたって穢れてるとは思わないって」

「魔女ちゃん、その例えはどうかなぁ~。でもそうだよぉ~、元巫女ちゃんが汚いんならお蝶さんなんか真っ黒だよぉ~」

「なっちゃん? なっちゃんさん、お前爽やかな笑顔で何言ってんの? アタシの綿よりも柔らかいハートが割れそうになっているんだけど?」

「綿って落ちても傷一つつかないよねぇ~潰してもすぐ元に戻るしぃ」

「割れた、今割れたぞパリンッて」

「大丈夫だよぉ~。お蝶さんのハートが割れてもあたしは元気ぃ」

「お前可愛い顔してえげつないな!?」


「──ね? 元巫女、誰も気にしてないよ。元巫女が綺麗か、汚れているかなんて」


 ワタシの言葉に元巫女はしばらく考え込むように目を伏せて黙り込み──やがてこくりと、緩慢ながらもしっかりと頷いた。


「では、有難く頂戴いたします。わたくし、実は一度でいいからすてーきを食してみたかったのです」

「お? 食べたことないのか。最初に食べるステーキがA5ランクの超高級ステーキって贅沢だな~」


 お蝶はそう言ってけらけらと笑いながらプレートの上の肉をひっくり返し、おいしそうな匂いを立ち昇らせるステーキの焼き具合を確認する。

 十分だと感じたのか、お皿にステーキを移していくお蝶を見てワタシたちはいそいそと姿勢を整える。


「よっし、食べようぜ!」

「いただきまーす!!」

「いただきまぁす」

「おいしそう。いただきます」

「感謝いたします──いただきます」


 みんなで手を合わせて、ナイフとフォークを手に取ってステーキに手を伸ばした。するりと滑るようにナイフが走り、とろりと赤々と熟している切れ目が覗く。たまらなくなってひと切れ口に運べば口内にじゅわりと肉汁が広がる。


 なんだこれ。

 やばい。おいしい。

 柔らかい。やばい。マジおいしい。

 ひと噛みひと噛みごとに肉の凝縮された旨味が舌に染み込んでいく。とても柔らかくて、けれど決して崩れやすい儚い柔らかさではない。弾力がしっかりとあって──やばい、本当においしい。


「はぅあ~」


 思わず変な声が出てしまったが、仕方ないと思う。

 高い肉って──こんなに、違うのか。いつものお肉も十分おいしいけれど、ここまで差があるとは思っていなかった。


「おいしいねぇ~! これならいくらでも食べられちゃう~!」

「ほんとうに。でも、このおにくになれちゃったらせいかつできなくなりそう」

「確かにこの肉に慣れてしまったら堕落一直線だ。たまに食べるので十分だな」

「…………」


 元巫女は無心にステーキを食べている。初めて食べたステーキがこれだもん、さぞ衝撃も大きかったことだろう。……堕落しないかな?


「しゃちょうさんへおれいしないと」

「そうだなぁ~女たちで何か作るか?」

「社長さんの好きなものってなにぃ?」

「きつねうどん。ちなみに嫌いなものはなめこ」


 社長のくせに意外と貧乏臭いのである。キャビアが好物だとか鼻高々と語ってきそうなのにきつねうどんなのだ。いやワタシも好きだけどさきつねうどん。


「うどん……うどんこねる?」

「え~。女子力ゼロじゃん~。アップルパイとかぁ、キッシュとかぁ」

「ステーキ貪り食ってるこの現状を見て女子力云々語るのはどうかと思うの」

「魔女に同意」


 よし、うどんこねてきつねうどん作ってやろう。女子五人で踏んでこねて作ったうどんならば社長も喜ぶだろう。まあ喜ばないだろうけど。微妙な顔をされるだろうけど。でもそれはそれで面白い。



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