誘拐犯と軟禁
迅たちが一日中の模擬戦をした翌朝。
カトリーナの屋敷の一部屋を貸してもらっていた迅は、窓からの日差しを浴びながら心地の良い眠りについていた。
すでに朝食の時間ではあるのだが、迅は昨日の朝練や用事がある時でしか早起きをしないため、朝食を抜く前提で眠り続けていたのだった。
「ジンさん!大変ですわ!早く起きてください!」
勢いよく扉を開け放ちながら迅を起こしに来たのはシルフィアだった。
それなりに長い付き合いというのもあり、朝寝坊程度ならば突っかかることをしなくなったシルフィアだが、今回はいつもと様子が違っていた。
しかし、敵意に晒されている訳でないからこそ眠りこけている迅は、一向に起きる気配がなかった。
本当に大変だからこそ慌てているのに、それを気にせず眠り続けている事にキレてしまったシルフィアは、掛け布団を剥ぐと迅の胸ぐらを掴んで全力で揺さ振り始めた。
「ジンさん!起きなさい!大変だって言ってるでしょうが!」
「わ、分かった!分かったから!寝起きに揺さ振るのはやめろ!」
思わぬ力技に叩き起こされた迅は、まだ少し眠さを感じながらも体を起こした。
「うぅ……酔いかけた。で?こんな朝っぱらからどうしたってんだよ?」
「朝っぱらと言うほど早くはないんですけど……いえ、起きたなら結構です!とにかく見た方が早いので来てくださいな!」
そう言って迅の手を取って部屋から引っ張り出すシルフィア。
そのまま広い屋敷の中を迷わず進んでいき、カトリーナの使っている部屋までやってきた。
そこの開け放たれたままの扉をくぐると、その中の惨状を見た迅は否応なしに表情を引き締めていった。
まず、そこかしこに戦闘の後らしき斬撃の跡や壊れた装飾品などが散らばっており、カーテンは破り裂かれ、絨毯のあちこちが燃え焦げてしまっていた。
そして、羽毛が飛び散っているベッドの傍らには、ティアと咲恵たち勇者組がなにやら話し込んでいた。
「知らぬ間に大変な事になってるみたいだな」
「ジンさん。すいません、寝ていたところを起こしてしまって」
「緊急事態だから気にすんな。それで、いま分かっている事は?」
「……実は、カトリーナさんが攫われてしまったようなんです」
迅に問いかけられたティアは、俯きながら答えた。
その答えを聞き、部屋の惨状を再度見渡した迅は、今度は咲恵に目を向けた。
「間違いなさそうか?」
「色々と確認してみたんだが、そうとしか思えなかったんだ」
険しい表情のままでいた咲恵が、迅に話しかけながら部屋の中心に散らばっているテーブルの残骸を一つ拾ってみせた。
「まずこの部屋。色々とボロボロになってるけど、戦闘があったにしては壊れ方が軽すぎる。リーナが全快していなかったとはいえ、まともに戦ったなら隣の部屋も貫通してるだろうし、それだけの戦闘なら私たち全員が気付けないはずもない。だからこそこの部屋の惨状は犯人がわざとやったもののはず。たぶん、リーナはろくな抵抗も出来ずに攫われたんじゃないかと思うんだけど、ジンくんの意見はどうかな?」
咲恵の推測を聞いて、手を口元に当てながら自らも考えを巡らせる迅。
少しして、他に目ぼしい理由が浮かばず、咲恵に同意するように一つ頷きをみせた。
「……それで間違いなさそうだな。だとすると、カトリーナが抵抗も出来ない状況を作れるだろう人物も限られるな。まずはカトリーナですら手も足も出ないほどの実力者って線だが、悪意を持ってる奴だったらこの屋敷の敷地内に入った時点で俺が察知出来ないはずはないからあり得ない」
「それは夜中だったから気付かなかっただけじゃないのかな?それこそジンよりも手練れの暗殺者だったり」
やけにキッパリと言い切る迅に対して和輝が持論を上げたものの、迅はそれに首を横に振って明確に否定した。
「気付かないのは絶対に無い。悪意であれば尚更だが―――」
自身の能力も関係するため、その事について話そうとしたところで何かに気付いた迅は、話を中断して開け放たれた窓へ歩み寄って屋敷の正門へ目を向けた。
「ジン?」
「……どうやら、向こうは準備万端で仕掛けてきたみたいだな」
その言葉にハッとした咲恵も一緒に確認すると、統一された鎧を纏った軍団が駆け足で屋敷に入り込んできていた。
その軍団は身なりからも国の正規兵であることは一目瞭然なのだが、何かを警戒した様子の迅を見た咲恵はある懸念を浮かべた。
「……まさか私たちを捕らえに?」
「可能性はあるな。場合によっては力尽くで切り抜けるから準備しろ」
「え?なんで敵対することに?カトリーナさんの件を調べに来たんじゃないのか?」
早々に判断して指示を出した迅に対して、和輝が疑問を問いかけながら窓の外を見ていた。
「俺たちだってさっき気付いたんだぞ?なのにこんなにも速く、しかもあれだけの人数を揃える必要があると思うか?元々嵌める気で準備してましたと言われても驚かないぞ俺は」
「もしそうなら随分と大胆ですね。まさかとは思いますけど、私たちも対象の可能性があるということですが……一体誰からの指示なのかが―――」
王族までも捕らえようというのなら立派なクーデターである。
ティアがその可能性を考えて焦り始めたところで部屋の外が騒がしくなり、それから程なくして扉が勢いよく開け放たれた。
そして、揃いの鎧を着込んだ一団がゾロゾロと入ってくると、隊長と思しき男を先頭にティアの目の前で跪いた。
「ティア殿下、シルフィア殿下、何の知らせもなくこの様な行動を取った事、深くお詫び致します。しかし、これも貴女様と国の為だからこそ。つきましては勇者様方と一緒に我々の守護する【南宮殿】に来て頂きたく思います」
隊長の声音からは嘘っぽさ等は感じられなかったが、その感覚を信じきれていないティアは警戒したままで隊長に問いかけた。
「その前に答えていただきたい事があります。貴方達はナンジョウ様の件で動いているのですか?」
「その通りでございます」
「では、なぜこんなにも速く動けたのですか?」
ティアからの当然の疑問に対して、隊長は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「……誠に申し上げにくいのですが、詳細はまだお話しできません。ですが一点、我々は事前に〝何かが起こる”と知らされて準備をしておりました」
「……一体誰からの指示なのですか?」
「……申し訳ありません。お話しすることは出来ません」
「私が聞いているのにですか?」
「はい」
肝心なところが伏せられた返答に困惑を隠せなかったティアだが、隊長の方も困り気味である事が見て取れるため、この場は情報を集める為にも言う通りにするしかなかった。
「……分かりました。とはいえ、事はナンジョウ様の誘拐という大罪です。これから解決に向けて行動するわけですが、貴方達は私に協力してくださるのですか?」
「もちろんでございます。だからこそ早急に我々の拠点に来て頂きたく思います」
「……分かりました。皆さん、ひとまずは彼らの所で情報を集めましょう。私もお父様を頼るしかないようですので」
「それしかないな」
ティアが迷う事なく国王である父を頼ろうと判断し、咲恵を始めとした全員が同意して動きだした。
団員の数名がティアたちを先導する為に退出しだし、迅もそれにならって歩き出そうとした瞬間、目の前に隊長の男が立ち塞がった。
「失礼、そこの少年。君は勇者様だったかな?」
「いや?俺はティア殿下とシルフィア殿下の護衛の任を受けている者だが?」
急な問いかけに対して当然の返答をした迅だったが、隊長の男からはキナくさい物を感じた。
すると、それを裏付けるように隊長は敵意のこもった目を向けてきた。
「そうか、では君が例の覚醒者なのか……総員、抜剣!」
隊長の指示により一斉に剣を鞘から抜き放つ団員たち。
しかも、わざわざ迅が孤立するようにティアたちを分断させたタイミングでの行動であった。
「なっ⁉︎これはどういう事ですか!」
「ティア殿下、お下がりください。我々は元より、この男を捕える為にここへ来たのです」
突然の行動に慌てるティアの問いかけに近くの団員が答えるが、その答えにこそ理解不能であった。
「なぜですか!彼は私たちの護衛にして恩人です!無礼な真似は許しません!」
「いくらティア殿下のご命令であっても聞けません。どうかご容赦を……お連れしろ!」
隊長が指示を出すと近くにいた団員が腰のポーチから深紅色の転移鉱石を取り出し、ティアたちのそばで魔力を流し込んで起動させた。
「待ちなさい!ジンさ―――」
ティアが慌てて動くよりも早く【転移鉱石】の力が発動し、一瞬の光と共にティアたち7人だけが転移していった。
「……別に放ってくれても良かったんだぞ?」
残された迅が笑みを浮かべながら後ろを向いた。
するとそこには、転移する為の包囲網を脱出していた咲恵たち生徒会と繭と凛、それとイリスとエリスが佇んでいた。
「ジンくんが謂れのない罪を押しつけられるのを黙ってるはずないじゃないか」
「ん、それに不意を突いてレディに触ろうとするのはいただけない」
「え?あれ?他の人は?」
凛だけは繭に助けられたからこそ困惑していたが、咲恵たちは瞬時に『身体強化』をして転移鉱石の範囲外に逃れていたのだった。
そして、それぞれが魂剣を取り出して戦闘態勢をとった。
「姫さん2人は仕方ないとしても、神崎たちは油断しすぎだな。後で制裁のゲンコツを喰らわせてやる」
「それはナンジョウ殿だけでなく、新しい勇者様たちにも危害を加えるというつもりなのか?」
迅の軽口に真剣な表情で問いかける隊長。
その様子を見て隊長自身は利用されてるだけなのだと理解した迅は、笑みを浮かべて身構えていた姿勢を解いた。
「……ふーん、なるほど。そういうシナリオね……咲恵、繭。悪いがここは大人しく姫さんたちと合流してくれ。その方が都合良くいきそうだ」
「待つんだジンくん!このままでは冤罪を着せられてしまうんだぞ!」
迅を助ける為に残ったというのにまさかの指示をされた咲恵は当然の如く反論したが、迅は含みがある笑みを浮かべるだけであった。
「承知の上だ。あっ、でもカトリーナを探すのと姫さんが王様へ掛け合えるようにしてくれ。イリス、エリス、お前たちもだ」
「そんな!」
「師匠!」
「これは命令だ。俺の為にも姫さんたちの力になってやれ」
「「……分かったの!」」
イリスとエリスはこんな窮地に師匠である迅を置いて行く事に抵抗を見せていたが、真剣な表情で頼まれた2人はどうにか納得した。
そして、予備の転移鉱石を持っていた団員が咲恵たちに近付いて起動させ、この場には迅と団員たちのみが残っていた。
「さて、俺はどうすればいいんだ?」
「理解が速いようでなによりだ。まずはお前の魂剣を出してくれ。急に暴れられても困るから封じさせてもらう」
迅が問いかけると、隊長が懐のポーチから紫色の手錠を取り出してきた。
この手錠は『精魔封の手錠』というアイテムで、東のダンジョンから取れる力を吸収する特性を持つ鉱石たちを混ぜ合わせた物だった。
元は『精封鉱』と『魔封鉱』という、それぞれの力を蓄えておける鉱石なのだが、それを混ぜ合わせて錬成するだけで大量の精神力と魔力を吸収していく効果を持つ鉱石になったのだ。
それを使って手錠や鎖の形に変化させ、危険な犯罪者などを捕縛する時などに使用されていた。
『ちょっと何よそれ!勝手な言いがかりで封じられてたまるもんですか!』
『まったくです。ジンさん、ここは一暴れして分からせてあげましょう』
「…………」
サラとセラの抗議を聞きながら少し考え込む迅。
迅としてはわざと捕まるのは問題ないのだが、いざという時に自由が効く2人を封じられるのは少し面倒だったのだ。
『2人とも、よく聞け。わざわざ尻尾を出してくれたマヌケの本体を徹底的に叩くために動きたい。俺も探してはみるがお前たちも独自にカトリーナを探してくれ。それから、精神力は遠慮なく使っていいから絶対に捕まるなよ?』
『それってどういう事?』
『わざわざ離れて行動するのですか?』
テレパシーで迅の方針を聞いた2人から若干の抵抗ある声音が返ってきた。
『そういう事。あとは頼んだぞ!』
2人の口から反対意見が出る前に剣の状態で呼び出した迅は、開いたままの窓の外へ思い切り投げ飛ばした。
「なっ⁉︎いきなりどういうつもりだ!」
「理解が遅くて困るなぁ。お前らの思い通りにはならねぇってことだよ」
慌てる隊長をよそに首や手の指をほぐしていく迅。
パキパキと関節を鳴らしながら兵士たちに向ける瞳は鋭くなっており、この人数差に対して乗り切る気満々であることが窺えた。
それに対して油断なく剣を構える隊長は、格上からの気迫に若干気圧されながらも迅に向き合っていた。
「それにしたって愚かなことだ。ナンジョウ殿の誘拐といい、魂剣を手放した事といい、貴様は一体何がしたいんだ?」
「本当に叩くべき敵を見誤ってるお前らに話しても意味はねぇだろ?こっちで勝手に解決してやるから引っ込んでろよ」
「……あくまでシラを切るつもりか……総員、かかれ!」
隊長の指示と同時に斬りかかる大量の団員たちに対して、ニヤリと笑みを浮かべて拳を構えた迅。
何者かに嵌められた無謀な戦いの火蓋が切って落とされた。
〈翌日 ティアサイド〉
勇者誘拐犯と騎士団の衝突という大事件から一夜明け、無理矢理に【南宮殿】で軟禁されてしまったティアたちは早朝から動いていた。
と言っても、騎士団員たちの監視と【南宮殿】の緊急防衛措置である転移阻害の魔導具のせいで部屋をウロウロするくらいであったが。
現在はティアの為に用意された部屋にほぼ全員が揃っており、ティアだけはどうにもならない現状に苛立ち、もうすぐお昼前という時間になっても部屋の中で忙しなく行ったり来たりを繰り返していた。
そこへ、さすがに見ていられなかった咲恵が声をかけた。
「ティア、少し落ち着くんだ」
「ですがっ……いえ、すみません」
反論しようとしたところで咲恵から気遣う様な笑みを向けられたティア。
それを見て近くの椅子に腰をかけると、開け放たれたままの窓から吹き込んできた風を浴びながら、どうにか心を落ち着けていった。
「焦る気持ちは分かるよ。今のところ軟禁状態にされたままで碌な情報もないからね。でも、何もしない訳にはいかないからこそ彼女たちを向かわせたんだろう?心配しなくてももうすぐ帰ってくるさ」
「……はい」
「普段ならばあり得ないことですわ。私たち以上の権限で動いているとしても、事情を教えてくれさえしないのですから」
多少落ち着いても拭いきれない不安を感じているところへ、すぐ近くからシルフィアの声が聞こえてきた。
その声に反応したティアが顔を向けるとそこには誰もいなかったが、次の瞬間には頭から色が付いていくようにシルフィアとイリスとエリスが現れた。
「シル、ジンさんはどうでしたか?」
はやる気持ちが抑えられず立ち上がって問いかけるティア。
それを見てよほど不安に思っていた事を察したシルフィアは、笑顔を見せながらティアの反対側の椅子へ移動して腰をかけた。
「全くの杞憂でしたわ。だって―――」
時は遡り、シルフィアとイリスとエリスの3人は、現状をどうにかする為にまずは迅の様子を調べるべく、ティアの指示のもと魂剣を駆使して【南宮殿】を抜け出したのちにカトリーナの屋敷へと向かった。
カトリーナの屋敷と【南宮殿】は直線距離で2キロほどしか離れておらず、割とすぐに屋敷へと着いた。
しかし、迅と騎士団による激しい戦闘の跡はあったが、肝心の迅たちが見当たらずに探し回るハメになった。
ひとまず街中に隠れているだろうと推測し、姿を消したままで歩き回っているところで妙な会話が聞こえてきた。
「おい!なんか闘技場で面白い事をやってるらしいぞ!」
「あん?誰か使う予定でもあったっけか?」
「それがよ、騎士団がたった1人を相手にしているらしいんだよ!」
「なんだそりゃ?つーか、戦ってるなら音が聞こえねぇのはおかしいだろ」
「そんなん俺だって意味わかんねぇよ。とりあえず見に行こうぜ!」
会話もそこそこに真偽を確かめに走り去っていく男たち。
これは当たりだと確信したシルフィアたちも急いで闘技場へ向かった。
すでに野次馬たちで入口が詰まっていたため、イリスとエリスの『魔力結界』による階段で吹き抜けになっている空から中を確認してみると、今まさに迅と騎士団が戦っているところであった。
しかし、よく見てみると騎士団はもう数人しか立っておらず、その数人もボロボロになっていた。
一方で、戦ったとは思えないほど小綺麗なままの迅は両手の拳に魔力を纏うと、残りの団員もあっという間に全て殴り倒してしまった。
イリスとエリスはその圧倒的な勝利に興奮していたが、シルフィアだけは違和感を感じていた。
(あれほどの実力差があるのに騎士団が丸一日も耐えた?)
迅の実力を知っているからこその疑問であったが、次の瞬間には解消された。
というのも、場外に控えていたらしい数名の団員が手分けして魔法で治療を始めると、迅はそれを止めるどころか客席で抜け目なく商売していた串焼きの元へ飛んで行ってしまったのだ。
その後も騎士団の回復を待って戦闘を行うという繰り返しだったので、シルフィアは呆れながら帰ることになったのだった。
「―――こんな感じで、ただの教官と見習い騎士団って状態でしたわ」
シルフィアは肩をすくめて呆れていたが、ティアと咲恵以外はドン引きの表情をしていた。
「丸一日戦っても余裕があるとかどんだけだよ」
「逆に騎士団の人たちが不憫に思えるな」
「でも周りに音が聞こえないくらいだからそこまで激しくはないんじゃないかな?」
どんどん迅に対しての苦手意識が強くなっていってる和輝と剛に、苦笑いしながらもフォローする麗奈。
それに対して、イリスとエリスが揃って首を横に振っていた。
「それは違うの。あの闘技場には目に見えない結界が張られていたの」
「あれはきっと音を遮る結界なの。私たちは魔力と精神力を使ってたから違和感に気付けたけど、あの規模で結界を張れるのは師匠しかいないの」
「音の遮断……あれ?ジンの魂剣の能力は炎と氷だよな?」
イリスとエリスの話に新たな疑問が浮かび、和輝を筆頭に悩み込む面々。
そこへ、ずっと聞くだけであったティアがガタッと鳴らすほどの勢いで椅子から立ちあがった。
「問題無いなら構いません。ジンさんが耐えている間に私たちも出来ることをしましょう」
「とは言ってもどうしようか?ここじゃ転移石ですら使えないし」
「ここでなければいいのです。皆さん、是非とも協力してください」
「もしかして、無理矢理ここから出るの?」
「はい。そもそも、私がお父様に会うのに他人の許可なんていりませんから」
麗奈からの問いかけにニッコリと笑顔で返したティア。
しかし、その笑顔からは隠し切れていない怒りが滲み出ていた。
「そうと決まれば早めに行動しようか」
怒り心頭であるティアを宥めるように肩を叩いた咲恵。
それに追随するように和輝たちも立ち上がった。
そこへ、部屋の扉が大きくノックをされた後、よほど急いで来たらしい団員が駆け込んできた。
「ご歓談のところ失礼します!例の覚醒者の件でご報告に参りました!」
「何かあったのですか?」
「はっ!覚醒者捕縛にあたっていたカランボラ隊長が捕縛に成功いたしました!」
「っ⁉︎」
「なんだって⁉︎」
「うそだろ⁉︎」
団員からの予想もつかなかった報告を受け、その場の全員が驚愕の表情を浮かべていた。
「それは、本当の情報ですか?」
ティアが再度尋ねるが、動揺が強く、その声音はとても強張ったものだった。
しかし、よく見れば報告をしに来た団員も困惑の表情を浮かべていた。
「はい。ですが真相は覚醒者が自ら投降してきました。その際にカランボラ隊長へ言伝をしたらしく、護送が終わり次第こちらへ出向くとのことです」
「……明らかに何か考えがあってのことですわね」
「えぇ、でなければジンさんが捕まるはずありません」
その団員の追加報告を聞き、一瞬で動揺が解けて確信を持つティアとシルフィア。
他の面々も落ち着きを見せていると、咲恵が団員に声をかけた。
「とりあえず直接話を聞いてみたいんだけど、今すぐジンくんと話すことは出来るのかな?」
「それは不可能でございます。覚醒者ということもあり、身柄の方はすぐに【要塞監獄】へ送られることになっていましたので」
「……そ、それはどういう事ですか!」
驚愕を通り越し怒りの声を団員にぶつけるティア。
しかし、ただの連絡員として来ただけの団員は縮こまるだけであった。
「ティア、要塞監獄って?」
和輝の問いかけられて俯いたティアは、一つ息を吐いてから説明を始めた。
「……大罪人を収容する為の施設です。基本的には罪人だけですが、戦闘力が高い人に対して仮の収容所として使われることもある場所です。そこはあらゆる兵器や屈強な看守によって管理され、脱走はおろか、外からの襲撃さえ跳ね除けられるほどに堅牢な要塞なのです」
「でも、それだけではありませんわ。罪人の中には冤罪を掛けられていた者もいましたが、たった1ヶ月そこに収容されただけで廃人となって帰って来た者もいますの。犯罪者は絶対に許さない。そんな信念に基づく徹底的な設備と規律によって作り上げられた確かな実績もあり、貴族も平民も平等に恐れられた結果、今の【要塞監獄】という呼び名が付きましたの」
ティアとシルフィアの説明が終わると、和輝たちは息を呑んで冷や汗をかいていた。
「そんなやばい所なのか……」
「でもよ、ジンなら多少の拷問は問題ないんじゃねぇか?」
「いえ、そうとも限りません。あそこでは魔力と精神力を封じるアイテムを使用しているらしく、あらゆる能力も魔法も使えないと聞いています」
「それって……」
「ジンさんといえど、力の根源を封じられてしまっては厳しいはずですわ……」
今朝の動向を見ていたうえにすぐさま【要塞監獄】へ送られるとは思っておらず、シルフィアも悔しげに俯いてしまった。
動こうと思った直後のまさかの報告によって、ティアたちは重苦しい雰囲気の中で迅からの言伝を待つしかないのであった。
〈迅サイド〉
自らの投降によって捕らえられた迅。
今は後ろ手に手錠を嵌められた状態で騎士団員数名に護送されていた。
と言っても、手錠を掛けられた後すぐに転移石で移動して来たので、疲れも無ければ腹もいっぱいで万全の状態であった。
転移してすぐに周りを見渡してみると濃い霧が発生しており、その中に点々と5メートル程の木が生えていた。
そして、多少の雑草しか生えていない少しぬかるんだ地面を歩いていると、僅か5分程で目的地が見えてきた。
ひと目見た印象は城だった。
視界に収まりきらないほどの巨大さであり、端の方の通路には大量の砲撃台が備え付けられていた。
そして、観察をしながら思わず顔を顰めた極めつけは、軍服姿のガタイの良い看守たちであった。
というのも、よほど迅の事を待っていたのか、数十人はいるであろう看守たちが血走った目で迅を見ていたのだ。
「堅固で巨大な城に無数の兵器、そこかしこに鍛えられた看守。なるほど、まさしく【要塞監獄】って訳だ」
「その通りでございます」
迅が軽く引きながらぼやくと、まるで覇気の無い声が響いてきた。
そして、正面の鉄製の門が鈍い音を立てながら開いていき、その奥から細身の男が現れた。
「……ここの親玉か」
「はい。私がこの施設の最高責任者、アヴィン・グレモールと申します。短い付き合いでしょうし、呼び名はご自由にして頂いて構いませんよ」
グレモールと名乗った男は、何の感情もこもっていない死んだ様な目と声で迅を歓迎してきたのだった。




