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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
要塞監獄編
77/77

解決への行動

大変お待たせしました!

先に本編の方をどうぞ!

 〈サラ&セラサイド〉


 時は少し(さかのぼ)り、迅によって遥か遠くまで投げ飛ばされたサラとセラは、山道を抜けてようやく【南セントレア】が見える所まで来ていた。

道中で魔物に襲われながらも持ち前の火炎と氷結で余裕に対処していた2人だが、変わり映えのない山道を延々と歩き続けたことで精神的な疲れが溜まっていた。


「はぁ……やっと戻って来れた」


「怪力なのは知っていましたが、それにしたって飛ばし過ぎです」


 迅の考えに賛同する前に投げ飛ばされ、挙げ句の果てに長距離徒歩移動も相まって迅に対する不満を(つぶや)きあっていた。

そして、街の門の手前まで辿り着いた2人は、これからの方針を話し合い始めた。


「さてと、どこから探す?」


「……普通に考えれば街中からですけど、そこらの家に勇者を隠すとも思えませんね」


「なら大きな所ね。もしかしたら今回も領主が原因なんじゃないの?」


「……そうですね。どうせ主要な場所は限られてる訳ですから、まずは領主の元へ行ってみましょう」


 2人の中では悪いイメージで固まっているがゆえに、領主が真っ先に候補に挙げられてしまった。

サラの言い分に確証などは無いのだが、元々大した手掛かりが無いということもあり、セラもあまり迷わずに領主の元に攻め込む事に納得していた。

そして2人は、門を潜ると一番大きくて目についた城を目指し歩き始めたのだった。




 〈ティアサイド〉


 迅が捕まり【要塞監獄】へ送られてしまったものの、その迅の言伝(ことづて)を確認する為に再び待つ事になったティアたち。

それまで何も出来ないというのと、一報を受けてから1時間も経ったことで焦りや怒りがかなり(つの)っていた。

特にティアとシルフィアが顕著(けんちょ)で、椅子に座りながらもしきりに窓の外を気にしたり時間を確認したりと、全く落ち着きがない状態であった。

そしてようやく―――


「失礼致します!覚醒者の護送から戻って参りました!」


「「遅い(ですわ)!」」


「も、申し訳ございません!」


 待ち人であったカランボラ隊長は入室した途端にティアとシルフィアから叱責(しっせき)を受け、そのあまりの剣幕に顔を青褪(あおざ)めさせながら平謝りした。

それを見てさすがに可哀想に思った咲恵は、2人を(なだ)める為にも間に入った。


「2人とも落ち着くんだ。それで、早速だけどジンくんからの伝言を聞かせてくれないかな?」


「はっ!(くだん)の覚醒者の言葉を一字一句違わずに伝えさせて頂きます!『こいつらの話を聞いたら敵がわざわざ尻尾を垂らしてくれたみたいだから噛みつきに行ってくる。サラとセラも自由にしてあるからカトリーナはそっちに任せるぞ。あと、姫さんはどうにかして王都で誰の指示なのかを確認してきてくれ』とのことです」


 迅からの伝言を聞き終えたティアたちは揃って困惑顔をしていたが、真っ先に疑問を浮かべたのは和輝であった。


「敵の尻尾ってどういう事だろう?」


「間違いなく【要塞監獄】のことだよ。リーナを誘拐してからの騎士団の動きは速かったし、その後の【要塞監獄】行きも決まってた。だからそれを指示した者、もしくはそれに関係する者が黒幕だと睨んでいるんだよ」


「えっ、でも、騎士団に指示出来るなんて相当偉い人ですよね?そんな人がカトリーナさんを(さら)ったりするんですか?」


「そこは元の世界と一緒なんだよ、和輝くん。どれだけ偉かろうが悪事に手を染める人は少なからずいる。そうだろう?」


「それはそうですけど……」


 和輝が咲恵の言葉に微妙な表情をする中、口元に手を当ててずっと思案をしていたティアが決意を秘めた目を一同に向けた。


「誰が相手であろうと関係ありません。とにかく、私たちに出来る事をしましょう」


 そう言い放ってから部屋を出ようとすると、その前にカランボラ隊長が立ち塞がった。


「無礼を承知で進言いたします。今は外へ出られるのをお控えください。相手は勇者様をも攫えるような手練れです。もしティア殿下も狙われているとしたら危険でございます」


「黙りなさい!今回の件、私は貴方たちを信用していません!よくよく考えてみれば私たちをここに軟禁しているのも私がお父様を頼れないようにする為の策です。敵は戦力として強力過ぎるジンさんを封じ、そのジンさんを解放しうるであろうお父様の力を使わせず、その間に攫ったカトリーナさんで何か事を起こすつもりです」


 ここまで想定外の事が多かったせいもあり、ティアはとても感情的になっていた。


「で、ですが……」


「くどいですわ。そもそも騎士団の動員に幽閉にと、あまりにも流れが良過ぎるんです。そんな敵の思う壺になるつもりはありませんし、貴方如きの指示に従う義理も義務もありませんわ」


「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。彼だって上からの指示には従うしかないんだから。でも、だからといってこのままという訳にもいかない。これ以上止めるなら気絶していてもらうけど、それでいいかな?」


 続けてシルフィアと咲恵にも反論されたカランボラ隊長はそれ以上何も言えず、恐縮しながら警備の仕事に戻るしかなかったのだった。


 その後、ひとまず【南宮殿】の建物外に出たティアたちは、正門前で行動確認をする事にした。

そんな中、和輝と剛は女性陣から少し離れて内緒話をしていた。


「なぁ、和輝。やっぱ女って怒らせると怖いんだな」


「そうなんだよ。僕も何度か麗奈と柑奈を怒らせてしまった時があって……うっ、悪寒が……」


「和輝くん、どうしたの?」


「な、なんでもないよ!」


 女性の恐ろしさを語り合ってたところに麗奈から声をかけられ、慌てて誤魔化す和輝。

その反応からは、割と強いトラウマがありそうであった。

するとそこへ―――


「たーのもー!」


 門の外から女の子の声が聞こえてきた。

ティアたちがその声の主を確認してみると、サラとセラが仁王立ちしていたのだった。

しかも、2人の周りには火球と氷塊が無数に浮かんでおり、明らかに攻撃する気満々であった。


「クソ領主!とっとと出て来なさい!」


「すぐに出てくれば半殺しで済ませてあげます」


 とんでもない脅しの宣言であった。

しかし、2人が攻撃する前にサラとセラであることを気付いたティアたちは、門を開けて2人に駆け寄っていった。


「サラちゃんにセラちゃん!」


「あれ?もう乗り込んでたの?」


「いえ、ここは領主の館ではありませんよ」


「えっ⁉︎そうなの⁉︎」


「とんだ無駄足ですね」


 ティアの言葉で勘違いをしていた事に気付いた2人は、火球と氷塊を霧散させてため息をついた。


「2人とも、なんで領主の元に乗り込もうとしてたんだい?」


「そこらの民家に勇者を隠すはずはないと考えまして、なら立派な屋敷を持ってて性格が悪いであろう領主しかいないと判断しました」


 曇りの無い偏見に満ちた回答であった。

ホクラービの一件はティアも知るところではあったが、今回ばかりは完全な誤解なので、ティアは思わず苦笑いをしてしまった。


「それは思い違いですよ。この街の領主はお父様とも縁のある方が治めていまして、住民からも強い支持を得ている善良な人ですよ」


「え?そうなの?」


「あと、今回に限っては領主が犯人という事はあり得ません。そうであれば騎士団が私に対して答えられないと返答するはずがありませんから」


「つまり、もっと上の存在が関与しているという事でしょうか?」


「そうなります。ですが、そんな存在が動くとしたらお父様に無断でという事は出来ないはずですから、私とシルが王都へ戻れればどこが関わっているのか分かるはずです」


 ティアの答えを聞いて一瞬もどかしく感じて顔を(しか)めたセラだったが、少し考え込んだところで敵の正体の条件が減った事に気付いた。


「……思ったのですが、わざわざ確認しに行く必要はないかもしれません。事はこの【南セントレア】で起こったんです。相手の迅速な動きを見るにこちら側のある程度の情報をそれなりの速さで手に入れているはずですから、まずこの街に関係がある者だと思うんです」


「ですが、関係者と言っても貴族だけでも結構な数がいますし……」


 セラの言葉に悲観的な様子のティア。

だが、セラの方は状況を整理するように口を出していくにつれて敵の正体に検討がついていった。


「ティアさん、貴女は一つ条件を見落としていますよ」


「条件、ですか?」


「この街で王族並み、もしくはそれ以上の権力を有している組織や人物とくれば?」


「教会しかありませんわね」


 セラの問いかけに一早く答えたシルフィア。

しかし、つい最近に接点があった凛は驚きを隠せなかった。


「え⁉︎で、でも、この間お話しをしたモルザリーって人はとても優しい人だったよ?」


「モルザリー・アゲンスト、確か副神殿長だったね」


「西野さんも知ってたんですか?」


「まぁね。神崎くん達は知らないみたいだけど、実はあの人が神様からの神託を受けている人なんだ。だから私がいつ元の世界に帰れるのかと聞きに行った事があるんだよ」


「実際に彼の神託による助言で人々が助かった事が何度もありますの。それ故に王族とも張り合えるほどの権力と支持を得ていますわ。ただ、その神託が降りたとしても本人がそれなりに動かなければいけないという事もあり、その神託を遂行する為に動きやすい【南セントレア】の副神殿長という役職に就いてるんですの。確か似顔絵があった気が……これですわね」


 咲恵の説明に付随して教会の事情を話したシルフィアは、持っていた魔法袋から一枚の羊皮紙を取り出した。

そこには男の似顔絵が描かれており、とても優しい雰囲気のある絵だった。


「うん、私たちが話したのはこの人だよ。ね?繭。……繭?」


 凛が繭にも似顔絵を確認してもらおうとしたところ、繭はブツブツと小さな独り言を呟きながら俯いていた。

ただ、その瞳は地面の方を向いていたものの、空虚な何かを見ているかのように光が無かった。


「……わたし、の…ほんしつ………わたしの……のぞみって、なに?……」


 どこかおかしい雰囲気を放つ繭に対しほぼ全員が違和感を感じた直後、凛が繭の両頬に優しく手を添えて顔を上げさせた。


「繭、ちゃんと顔を上げて私を見て」


「……あ、り、凛?」


「あの人の言葉は参考にしてってだけでしょ?そんなに気にしなくてもいいの。それより、繭はもう私の事を見てはくれないの?」


 凛の優しい言葉と柔らかな笑みを向けられ、繭は徐々に落ち着きを取り戻していった。


「……ううん、私は凛を見てる。凛も、私を離さないで」


「うん、大丈夫だから。安心して」


 完全に戻ったのを確認した凛は、繭を力強く抱きしめた。

その様子を見て落ち着いたのを察したティアは、心配そうに近寄った。


「マユさん、大丈夫ですか?」


「ん、もう大丈夫。ごめんね。実はこの間あの人に会った時に魂剣(ソウルアーツ)の事を聞いてみたんだけど、その内容が私のトラウマに引っ掛かっちゃっただけなの」


「本当ですか?何か酷い事を言われたりしたんじゃ……」


「ううん、ただの事実。だからこそ深く刺さっただけ……でも大丈夫、私には私の考えがあるし、何かあれば凛がいる。だから今はジンくんとカトリーナさんを助ける為に動くだけ」


 そう言って凛から離れた繭。

その瞳には悩んだりするような色はなく、少なくとも今は問題無いようであった。


「……分かりました。ですがマユさん、無理だけはせずに何かあれば私たちを頼ってください」


「ん、頼りにしてる」


 繭が落ち着き一段落したところで、咲恵が手を叩いて注目を集めた。


「それじゃあまずは教会を調べに行こうか。それと同時にもう1人だけ調べたい」


「もう1人ですか?」


「あぁ、こんな事態になってれば必ず動いてると思ったんだが、昨日も今日も姿を見てないから怪しいかなって」


 咲恵の言葉に頷く女性陣と揃って首を傾げる和輝と剛。


「シャムニカさんは今どこにいるんだ?」


 咲恵の一言でもう一つの探す対象が決まり、一行は迅とカトリーナを救う為に行動を開始したのであった。




 〈迅サイド〉


 手錠を掛けられたままの迅は、グレモールの案内で監獄の中を歩いていた。

通路そのものは雑な石造りになっており、3人も並べばぶつかってしまうほどに狭い。

そして両壁に付けられた蝋燭(ろうそく)の灯りしか光源が無いため、ひたすらに長い通路を何回も曲がって歩いてると進んでいるのか分からずに錯覚してしまいそうであった。


 かれこれ10分ほど迷路のような通路を歩き回り、〝まるで肝試しだな”と思いながら進んでいると、グレモールの力無い(かす)れ気味の声が響いてきた。


「この度は当施設にお越し頂き、誠にありがとうございます」


「こんな所で礼を言われても嬉しくねぇよ」


「ですが、私からすれば貴方様のお陰でこの施設の劇的な改善が(もたら)せるかもしれないとなれば、大した礼儀作法も知らない私めであってもお礼を言いたくなるものです」


「劇的な改善ね……この()()()()で何をしようってんだ?」


 迅がこの場所に着いてから気付いていた地下の存在を尋ねると、グレモールは立ち止まって振り向き、その無機質な瞳を迅へ向けた。


「これは驚きました。地下の機械をご存知だったのですね」


「秘密を指摘された割にはやけに落ち着いてるな」


「驚いたのは本心でございます。ですが、あれが外にバレたところで私たちには何の落ち度もありませんので」


 反応はしても一切の感情を表さないグレモール。

そしてすぐに歩き始めてしまい、迅の揺さ振りは不発に終わった。


(何か知れればと思ったが、予想以上に要領を得ないな……マジで何がコイツの狙いなのかが分からん)


 結局それ以上話すことはなく、迅はグレモールの案内で更に10分ほど歩き続けることになった。


 やがて迷路も終わり、迅の目の前に巨大な扉が現れた。

その扉には彫刻等のデザインは一切なく、ただ岩から削り出しただけのようにゴツゴツとしていた。

そして、グレモールが扉の横に備え付けられてあるレバーを動かすと、重くて鈍い音を響かせながら扉が開いていった。


「さあ、ここが貴方様の過ごしていただく部屋でございます」


 グレモールに促されて中に入ると、すぐさま異臭に顔を顰めることになった。

広さで言えばかつての古代遺跡ほどであったが、窓や吹き抜けが全く無いので全体的に暗く、備え付けの灯りのみでは部屋の天井や壁の端の方などはよく見えないようになっていた。

そして、部屋全体の地面には無数の岩の小山があり、そこには黒い十字架が突き刺さっていた。

さらにその小山の周りには血の付いたままの棍棒等の鈍器が落ちていて、それだけで何を目的とした場所なのかハッキリとしていた。


「拷問部屋にしては広すぎるんじゃねぇか?」


「元は囚人の運動用広場だったらしいのですが、私がここに来た時には拷問用広場になっておりました」


 2人が淡々と話しながら歩いていると、急に暗闇の奥から鈍い音と共に人が飛んできた。


「げほっ!ごほっ!」


「おい、大丈夫か?」


 迅がすぐさま容態を確認すると、飛ばされてきた男は全身ボロボロの青痣(あおあざ)だらけであった。

ひとまず命に関わるほどの重傷ではないため、迅が強引に力を使って治すかを迷っているところへ、複数人の足音が近づいてきた。


「おっ?あれって新しいオモチャじゃねぇか?」


「マジかよ〜。俺は充分遊んだから今日はもう帰りてーんだけどなー」


「お前はそうだろうが俺はまだ足りねぇんだよ!次は俺にもっとやらせろや!」


「おーい!総監長!そいつが新しい囚人ですかい?」


 随分と物騒な会話をしながら近づいてくる男たちは全員が軍服をだらしなく着崩しており、その手には鉄製の棍棒やハンマーなどを持っていた。


「そうです。彼にはいつもの様に30分の自由行動を与えます。もちろん君たちも自由に出来ますが、彼には手出ししない事をお勧めします。1人で対応するのも論外です」


「はいはい。いつもの小言なー」


「おいお前!これから俺たちはお前を全力で殴り続けてやる。だから精々捕まらんように逃げることだな!」


「ひゃっひゃっひゃ!一度捕まったが最後!お前は死ぬ寸前までボコられることになるんだよ!」


 一方的で簡潔な説明しかしない軍服たち。

しかし、迅は飛んできた男の状態と軍服たちの会話からある程度の事を察した。


「なるほどな……俺は30分自由にしていいってことだが、その間に脱獄しようが()()()()()お咎め無しって認識でいいのか?」


「はい、その通りでございます。ですが、その手錠だけは付けたままとなります」


 たったそれだけを伝えたグレモールは興味なさげにその場を離れていった。


「ははははは!おい聞いたか?こいつ、たった30分で逃げるつもりなんだとよ!」


「こりゃ傑作だ!是非とも成し遂げてほしいな!」


 迅の言葉にうるさいくらいの高笑いをする軍服たち。

しかし、それらを無視するかのように迅は体をほぐす様に動かしていき、グレモールは心なしか軍服たちに呆れたような視線を向けていた。


「それでは始めさせていただきます」


 そう言ってグレモールが人差し指を回した直後―――


 バツン!


 何かが破裂したような音が響いた。

そして、軍服の1人が真っ先に迅に向かって駆け出していった。

その勢いから身体強化をしているのは間違いなく、魔力と精神力を封じられている囚人に対する配慮などは微塵も感じられなかった。


「おら!くらいやがブッ⁉︎」


 ズドン!


 軍服が力の限りに棍棒を振り下ろした瞬間、それよりも速く振り下ろされた迅の踵落としが軍服の脳天に直撃していた。

そして軍服はそのまま地面に頭を踏みつけられてしまうと、ピクリとも動かなくなった。


「自由に出来るなら丁度いい。勘違いしているてめぇらに地獄を見せてやるよ」


 軍服たちの歓喜から一転、冷徹で不気味な笑みを浮かべる迅の宣言により、地獄絵図の前の静寂が訪れていた。

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