怪物のカラクリ
クラゲ型の怪物たちが作ったとてつもない質量のドリルを巨大な『魔力結界』ひとつで受け止めた迅。
その後ろから、転移鉱石で一緒に来ていた咲恵たちが少し遅れて駆け寄ってきていた。
「姫さん、まずはこいつから回復してやってくれ。俺はあいつを倒してくるからよ」
「任せてください」
迅の指示を受けたティアは魂剣を取り出し、さっそくカトリーナの治療に入った。
それと同時に咲恵が剣精霊のルーを成体の姿で呼び出し、そのフサフサな尻尾を枕にさせた。
「リーナ、大丈夫か?」
「……さき、え?」
咲恵の呼びかけに反応したカトリーナだったが、体の半分以上の感覚を失っているうえに裂傷も酷いため、顔を動かしながらも弱々しい声しか出せていなかった。
「まったく、こんなになるまで無茶して……とにかくもう大丈夫だから、あとは私たちに任せてくれ」
「でもっ、てき、は……っ⁉︎……ほんとうに、つよく、て」
ボロボロだというのに無理に体を動かそうとしたカトリーナ。
しかし、すぐさま激痛に襲われて固まることとなり、見かねたルーが尻尾の一つをカトリーナの額に乗せて抑え、その尻尾の先に銀色の輝きを放つ癒しの光を作り出した。
限界を超えているはずのカトリーナが足掻く姿を見ていた迅は、その意志に対して自然と笑みを浮かべながら再度声をかけた。
「さっきも言ったが、あいつは俺に任せてもらう。あんたはそこでゆっくり見てな」
そう言って『魔力結界』でドリルを押し返しはじめる迅。
そこへ、和輝たちが魂剣を取り出しながら近付いてきた。
「ジン、僕たちも戦うよ」
「いや、少し調べたい事があるからお前たちは下がっててくれ」
「分かった。必要な時はいつでも呼んでくれ」
「はいよ」
迅に助太刀を断られた和輝たちは、倒れている冒険者たちの救助に向かった。
そして迅はというと、ドリルを受け止めたまま怪物たちの目の前にもう一つ『魔力結界』を張り、それを怪物たちに向けて勢いよく押しつけた。
「キュオッ⁉︎」
怪物たちは突然現れた『魔力結界』に抵抗出来ず、100メートル以上は押し飛ばされていった。
ひとまず力尽くで距離を置かせた迅は空中に足場となる『魔力結界』を張り、怪物を海岸に接近させない為に自分の方から追いかけていった。
すると、体勢を立て直した怪物たちは一体が迅の前に立ち塞がり、あとの二体はその後ろで触手を振りかぶっていた。
「キュオッ!」
前の一体が全ての触手を迅に向けて振り抜き、後ろの二体は海水弾を飛ばそうと海面を切るように触手を振り抜いた。
しかし―――
「『魔力結界』」
たった一言で迅を覆った結界が全ての触手を防ぎ、後ろ二体の触手は海面に当たる前に結界に受け止められていた。
「高い知能とは言っても少し考えられる程度だな。そんなもんで勝てると思ったら大間違いだ」
淡々と吐き捨てた迅はサラとセラを剣の状態で呼び出すと、精神力を込めながら真横に引いて構えた。
「『サーマル・バランガ』!」
迅が勢いよく振り抜いた瞬間、燃え盛る炎と凍てつく氷が重なったような刃が放たれ、火花と結晶を散らしながら大気すらも斬り裂いて怪物たちの頭部へ衝突していった。
ズバァン!
炎と氷の刃は衝突した箇所を爆散させていき、やがて海面に衝突して消えていった。
後には頭半分を失った怪物たちと、空中を鮮やかに彩っている火花と結晶が残っており、戦闘を見守っていた者たちは誰もがその光景に目を奪われていた。
「……きれい」
治癒を受けているカトリーナも思わずポツリと零し、何一つ心配することなく迅の戦闘を見守っていた。
一方で、頭半分を失った怪物たちはすぐに青い魔力光で包まれたかと思うと、かなりのペースで再生を始めていた。
そして、それを待っていた迅は【変換】で瞳に紋様を宿らせると、怪物たちの魔力そのものを見透していった。
「その回復に使ってる魔力、どこからのものか視せてもらうぞ」
迅が魔力だけを見透してみると、怪物の体に目に見えない1本の回路が繋がっており、その回路の力そのものを辿っていった先に巨大なクリスタルと魔導具が繋がっていた。
(やっぱりあのクリスタルか……だがこの魔力回路自体は人の手によるものじゃねぇな)
遥か数十キロ先のクリスタルを発見した迅だったが、そっちよりも魔力を送り続けている回路の方が気になっていた。
というのも、迅は回路そのものに神力が使われているのを感知したからであった。
今まで謎に包まれていたクリスタル。
その使用法を確認できた迅は〝これ以上調べる必要はない″と判断し、腰を落として戦闘態勢に入った。
『サラ、セラ、今からお前たちのテストをする。だから絶対に気を緩めるなよ?』
『テスト?何をするつもりなの?』
『以前セラにほんの少しだけ使った力を多めに使う。一応、お前たちが耐えられそうな量にするつもりだが、場合によってはお前たちが壊れるかもしれないからな。意識をしっかり持っておけよ』
『分かりました』
迅がサラとセラに忠告した直後、ほんの一瞬だけ発生した黒いエネルギー光がサラとセラの剣身に入っていった。
一方で、回復を済ませた怪物たちは触手のほとんどを持ち上げて海岸へ向けると、その先端に魔法陣を作っていった。
「キュオオオオッ!」
怪物たちの咆哮と共に魔法陣が光を増していき、そこから無数の水の槍が生成されていった。
その水の槍は明らかに迅ではなく海岸に向けられており、まだ倒れている者が多い冒険者たちを狙っているのが窺えた。
「っ⁉︎みんな!可能な限りの防御壁を作るんだ!」
遠目からでも怪物の魔法攻撃を視認できた和輝が、その場の動ける全員に指示を出した。
海岸で和輝たちが慌てふためくなか、迅は襲いかかって来る水の槍を見据えながらセラを真横に引いて構えていた。
「俺を無視して他を殺れるわけねぇだろ」
膨大な魔力と精神力を蓄えて白く発光し始めたセラを、迅は力の限りに振り抜いた。
「『グレイ・ウェーブ』!」
セラの剣身が空気を斬り裂いた直後、大量の氷塊が生成されていき、瞬く間に水の槍と怪物たちを飲み込む氷の大津波となった。
そして周辺の海面と共に凍らされた怪物たちは、その体に繋がっていた目に見えない魔力回路と供給源であるクリスタルの機能そのものを凍結状態にされ、身動きだけでなく魔力すらも使えなくされていた。
周囲の気温が一気に下がったことで白い息をひとつ吐いた迅は、今度はサラに魔力と精神力を注ぎ込んでいき、その剣身が赤く輝き始めたところで弓を引くようにして構えた。
「『インテンス・バースト』!」
迅がその場で勢いよく突きを放った瞬間にその剣先から紅蓮の炎が放出され、氷塊と化した怪物たちを貫いていった。
さらに貫通したところから炎が広がって全体を呑み込んでいき、魔力回路とクリスタルの方まで広がると炎自体が一瞬だけ白く輝き、その直後には大爆発を起こして氷塊もろとも塵すら残さず焼き尽くした。
「どれだけ離れていようが関係ねぇ。力の在り処さえ分かればそこは俺の射程範囲だ」
蒸発した海からの熱風に晒されていた迅は、怪物たち、魔力回路、そしてクリスタルの消滅を確認してからその場を離れて海岸へと戻っていった。
ちなみに、魔力回路とクリスタルも消滅したわけだが、これらは直接凍って燃やされたわけでなく、迅がサラとセラに混ぜ込んだ黒いエネルギー光に触れてしまった為に、概念化していた凍結と焼却を受けて連鎖的にその力を失ってしまったのだった。
魔力結界の足場を飛んで海岸に戻ってきた迅。
すると、サラとセラは人型へと戻り、そこに戦闘を見守っていた和輝たちが駆け寄ってきた。
「ジン、お疲れ様!」
「相変わらずとんでもねぇ戦い方だな」
「ふふふ、強者の戦い方はこうでなくちゃ面白くない。でも、個人的にはジンくんと張り合うような敵との戦闘が見たい」
「バカなこと言わないの。サラちゃん、セラちゃんもお疲れ様!……2人とも、どうかしたの?」
各々が労いの言葉を掛けてくるなか、人型になってから妙にフラフラしているサラとセラに気付いた凛が、心配そうな声音で2人に声をかけた。
すると―――
「アッハハハハハ!何コレ⁉︎こんな感覚初めて!」
「フフ……フフフフフ……」
凛の言葉を気にした様子もない2人は、なにやら恍惚な表情を浮かべながら笑っていた。
「あ〜、まさかの相性が良すぎたか……こりゃしばらくは慣らすようにしなきゃだめだな」
「ジンさん、2人に何かしたんですか?」
悩ましいように頭を掻いている迅に、ひとまずの治療は終えたティアが声をかけてきた。
「単純に力に酔っただけだ。こればっかりは想像がつかなかったが、壊れるよりはマシな結果だな」
「力に酔う…ですか?ディーネはそんな事一切無かったんですけど……」
「俺の問題だから気にすんな。それよりも早くここを離れようぜ。暑すぎて参っちまうよ」
話を早々に切った迅は、手をうちわにしながら帰ることを促した。
それもそのはずで、サラの強力な炎に晒された海は熱湯風呂の状態になっており、その熱気が潮風に乗って海岸へ吹いていたのだ。
そこへ、いつもの如く不満を抱いたシルフィアが、汗をかきながら迅に詰め寄ってきた。
「自業自得ですわ。少しは周りの事を考えてくださいな」
「街中に竜を落っことす奴に文句を言われる筋合いはねぇよ」
「いつの話をしてるんですの?そんな前の事を持ち出してくるなんて、性格が悪いですわよ?」
「おいおい、詐欺まがいの事をしようとした―――」
暑さも相まっていつもの口論がヒートアップしかけたところで、2人に向けて肝が冷えるような空気が流れてきた。
「2人とも、そこまでにしてください」
「「はい……」」
ティアの圧力を伴った笑みを向けられた2人は、すぐさま大人しくなった。
「よろしい。では移動しましょうか」
2人を鎮めていつもの様子に戻ったティアは、護衛たちに冒険者たちへの指示を任せてこの場から離れる準備を始めたのだった。
海岸から移動を済ませた迅たちは、カトリーナが所有している豪邸へとお邪魔することになった。
戦闘をしなかった和輝たちは応接間で寛ぎ、迅は〝眠いから″ということで空き部屋を借りて仮眠中であった。
そして、ティアとルーの回復魔法のお陰で動くことは出来るようになったカトリーナは、戦闘での汚れを落とすための入浴を済ませて身支度をしていた。
「お待たせしました」
わざわざ外で待ってくれている者を察知していたカトリーナは、長い金髪をポニーテールにして学院の制服姿で私室から出てきた。
そして、カトリーナの頑張り屋な性格を知っている咲恵に、心配そうな表情で迎えられていた。
「リーナ、本当に大丈夫なのか?私たちは明日でも構わないんだぞ?」
「まだ疲れはありますけど、戦うわけではないので問題ありませんわ」
「そうは言ってもなぁ……君はいつも無茶を我慢するから心配なんだよ。今日だって救援が無かったら死んでたんだぞ?」
咲恵から呆れ顔で忠告されたカトリーナは、バツが悪そうに下を向いてしまった。
「……確かに思い当たる節はありますけど、あまり貴女たちに迷惑をかける訳には……」
自責の念に駆られているカトリーナに対して、咲恵は優しい笑みを浮かべて肩に手を置いた。
「その心掛けはリーナの美徳だよ。でも、それが今日の様に最悪な事態を招くこともあるんだ。……リーナ、私たちは勇者だけど、それ以前に心を持った1人の人間だ。どれだけ力を持っていたって出来ない事は必ずある。だからこそ、せめて私にだけは遠慮なく頼ってほしい。だって私たちは世界を越えて巡り合った親友だろ?その親友に一切頼られないのは少し寂しいし、何よりも『親友の力にもなれないのか』って情けなく思っちゃうからさ」
そう言って、悲しげな表情をする咲恵。
一方で、カトリーナは咲恵の言葉に嬉しくなりはしたものの、すぐさま脳裏に焼きついている両親の教えを思い出していた。
〝いいかい、他人に迷惑をかけてはだめだよ″
カトリーナは両親の事を誇りに思っていた。
普段から自分に厳しく他人に優しい両親は、カトリーナからすればとても凄い人だったからだ。
だからこそ両親のようになろうと努力していたわけだが、それがもたらした今回の結果も相まって、カトリーナの考えや理念に変化が起きようとしていた。
「咲恵……ごめんなさい、私はこんな生き方しか知りませんから、自然と周りに頼ることに抵抗がありましたの。おそらく、これから先も同じようにしてしまうかも……だから、その時は無理矢理にでも私を救ってくださいな。私も、大切な親友である貴女の力になれるように頑張っていきますわ」
「まったく、どこまでも不器用だな。でも、そんな風に頼ってもらえて嬉しいよ」
お互いに胸の内を伝え合った2人は、自然と笑みを浮かべながら手を握り合った。
「「これからもよろしく」」
より一層仲を深めた2人は、笑い合いながら和輝たちが待つ応接間へと向かっていった。
応接間に着いたカトリーナと咲恵は、ノックしてから中へ入った。
中ではソファーに座って寛ぐ和輝たちとノエルとミーナ、それと不安そうな表情でソワソワしているシャムニカがいた。
「みんなお待たせ」
「シャムニカ、貴女もおつか「カトリーナ様!」きゃっ⁉︎」
カトリーナが部屋に入ってすぐに労いの言葉をかけようとした瞬間、シャムニカが一目散にカトリーナへ抱きついていった。
「もう、いきなり抱きつかれたら驚きますわ」
カトリーナが呆れ気味に声をかけると、シャムニカはボロボロと泣き出しながら顔を上げた。
「だって……だって、カトリーナ様が、あのまま、死んでしまうのではないかと……」
「もう大丈夫ですから落ち着いてくださいな。でも、今後は心配させないように努力していきますわ」
「っ!カトリーナさまぁっ!」
感極まって更に泣き出してしまったシャムニカ。
それをカトリーナが頭を撫でてあやし、和輝たちはシャムニカが落ち着くまで穏やかな表情で見守っていた。
やがて泣きやんだシャムニカと共にソファーに座ったカトリーナは、すでに用意されていた紅茶を注いでから和輝たちに向き直った。
「では改めまして、ここ【南セントレア】で勇者を務めている『南條 カトリーナ』ですわ。以後、お見知りおきくださいな」
自己紹介と共に会釈をしてニッコリと笑顔を見せたカトリーナ。
すると、初対面である和輝たちは妙にソワソワしだした。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、そのぉ、南條さんの佇まいが、ですね?」
「なんていうか、変に緊張しちまってる…です」
カトリーナの問いかけに辿々しく話す和輝たち。
というのも、和輝たちは高校生であり、ちょっとした振る舞いでも高貴なオーラを醸し出しているカトリーナに対して萎縮してしまっていたのだった。
「そういう事ですか。私の母は作法や礼儀を重んじていまして、この振る舞いは母から習っているうちに呼吸をするように染み付いてしまったのです。一応、他の方たちと同じように振る舞ったことはあるのですが……」
そこまで話したところで、今度はカトリーナが照れるような仕草をしだした。
そこへ、事情を知っている咲恵が割って入った。
「あまりにもぎこちなさ過ぎて私が止めたんだ。もともと無理して変える必要もないしな」
「申し訳ありません」
「い、いえ!南條さんが謝ることじゃないですよ!」
「そう言って頂けるとありがたいですわ」
申し訳なさそうに謝罪をしてきたカトリーナに慌てた和輝が制止すると、これまた自然な動作でニッコリと笑顔をして見せたカトリーナ。
そして、その笑顔によって惚けてしまった和輝は、隣に座っていた麗奈に脇腹をつねられた。
「いたっ⁉︎いきなり何するんだよ麗奈」
「べつに〜」
全く自覚のない和輝の抗議に対して、麗奈は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
それを微笑ましく見ていたカトリーナは、ふとこの場に居ない者がいることに気付いた。
「シャムニカ、もう1人の方はどこにいらっしゃるの?」
「あっ、ジンさんという方でしたら別室でお休み中です。〝用が済んだら起こしてくれ″と言われてますので、今すぐ呼んできます」
「あっ、それなら後で構いませんわ。あの方にちゃんとお礼をしたいだけですから、今はゆっくりと休ませてあげて下さい」
「承知しました!」
迅を呼ぶ為に立ち上がったシャムニカを止めたカトリーナは、代わりに別の指示を出すことにした。
「あと、咲恵たちにもお礼をしたいので、チャマール商会の方を呼んでおいてくださいな」
「いや、それには及ばないぞ。もともとジンくんが〝すぐに行く″と言っていなければ私たちは本当に明日に来ていたんだ。だからお礼はジンくんだけにしてあげてくれ」
咲恵の遠慮する言葉に不満な表情をしたカトリーナだったが、〝押しつけはよくない″と思い、それ以上は何も言わなかった。
しかし、同時に迅に対してふと疑問を抱いた。
「……分かりましたわ。でも、彼はなぜすぐに動いてくれたのかしら?あの強さからすれば彼が噂の西の覚醒者なのでしょう?それなら他の所からも要請されてて忙しいはずなのに」
「あぁ、ジンくんはちょっと特例でね。学院生でもあるから色々と免除してもらってるらしいんだよ。でもまぁ、なぜすぐに動いてくれたのかは、彼の事情によるところが大きいと思うけどな。詳しくはジンくんに聞いてみるといいよ」
「なるほど、それならあとで聞いてみますわ」
カトリーナは後で確認することで納得していたものの、話題になったことで和輝たちも疑問を持ちはじめた。
「そういやぁ、今回は本当に急だったよな。ジンは今まで何かに誘っても渋ってたのにさ」
「言われてみればそうだな。僕は今回もめんどくさいとか言うと思ってたよ」
「イリスちゃんとエリスちゃんは何か聞いてないの?」
「私たちも急に呼ばれたの」
「だから何も知らないの」
「そっかぁ……」
ふとした疑問ではあったものの、対象が迅で珍しいことだった為、誰もがその行動の真意を当てようと頭を捻らせていた。
カトリーナと和輝たちの会談が終わって夕方になった頃、4時間ほど眠っていた迅がようやく目を覚ました。
そしてのっそりと起き上がってひとつ伸びをすると、今度は長めのため息を吐いていた。
「…………はぁああ……」
頭を掻きながら怪物たちとの戦闘を思い返す迅。
具体的にはサラとセラに使った力の影響の件が気になっていた。
(ゆくゆくはと思ったからこそ試したが、まさか相性が良い方だとはな……悪いわけじゃないが、多用しすぎるとどうなるか分かったもんじゃねぇな)
頭を悩ませながら精神世界に戻したサラとセラを確認すると、2人とも迅が寝ている間ずっと本能のままに暴れていたので、現在は疲れ果てて眠りこけていた。
迅が2人に使った力は確かに神力の一種だった。
しかし、今回のは【鬼神化】や【龍神化】とは少し違ったもので、今の迅でさえ扱うのに難儀しているものであった。
その力は神との決戦で必ず使うことになるわけだが、その力に触れる可能性がある以上、サラとセラには耐性が備わっているのが望ましかったのだ。
迅はそれを調べる為に試し撃ちに丁度いい魔力回路を対象に使った訳だが、ある意味で壊れかねない2人の反応を見た迅は今後の使用に悩むことになっていた。
悩む迅が色々とプランを練っているところへ、誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「どうぞ」
「失礼しますわ」
ゆっくりと開いた扉の先には、制服で金髪ポニーテール姿のカトリーナがポットとティーカップを乗せた台車を引いて入ってきた。
「南の勇者様か」
「はい、『南條 カトリーナ』と申します。だいぶ時間が経ったので確認しに来たのですが、お目覚めのようでなによりです。まだ体調が優れないようでしたら治癒魔法に長けた方をお呼びしますけど、どうされます?」
「いや、必要ない。べつに負傷した訳じゃなくて、ただ寝たかったってだけだからな」
そう言ってベットから立ち上がった迅は、ひとつ伸びをしてから部屋に備え付きのテーブルとイスの方へと移動した。
「そうですか、でしたら何か必要な事があればなんでも言ってくださいな。すぐにご用意させて頂きますわ」
「はいよ。その時は遠慮なく頼むわ」
「はい!」
ここでふと会話が途切れてしまい、2人の間に微妙な静寂が流れた。
しかし、迅は〝何か用があるんだろう″と察して話し合いの為にイスに座ったのだが、肝心のカトリーナは何やら赤面しつつソワソワし始めた。
「そ、そうですわ!私、紅茶を用意してきたんですの!よければお飲みになってくださいな!」
何かを誤魔化すように紅茶の用意を始めたカトリーナ。
その様子からは変に緊張しているのが見てとれたが、紅茶の準備だけはテキパキとしていた。
そして、迅と自分のカップに注いだところでイスに座ると、迅が手に取って飲むところまでをじっと見守っていた。
「ん……美味いな。あっさりしてて飲みやすい」
「お口に合ったようでなによりです。これにはリンゴの果汁を混ぜてあるので、スッキリとした味に仕上がってますの。この世界では茶葉だけのものが主流なのですが、私はこれが一番好きなんですの」
「確かにこっちの方が楽しめていいな」
迅に褒められたことで緊張がほぐれたカトリーナは、少しニヨニヨしていた表情から真剣な表情へ戻すと、少し潤んでいる碧眼で迅を見つめだした。
「あ、あの!今日は本当にありがとうございました!それで、もしよろしければお礼をさせて頂きたいのです…けど……」
話しているうちに迅から目を逸らして声を萎ませていったカトリーナ。
すると、その反応に見覚えのある迅は、視線を紅茶に戻して淡々とした声音で返した。
「今日の事なら気にすんなよ。俺が勝手にやったことだからな」
「そ、それはそうですけど……いえ、私は貴方にお礼をしたいんです。明日1日だけで構いません。どうかお付き合い頂けませんか?」
恥ずかしそうで不安そうな表情をしていたカトリーナだったが、一度首を振ったかと思うと、次の瞬間には強い意志を孕んだ瞳を迅に向けていた。
それと同時に、無意識に胸の前に持ち上げられた手が震えているの見た迅は、その心意気に根負けする形で肩をすくめてみせた。
「……分かったよ」
「ありがとうございます!詳細はまた後ほどお伝えしますので、夕食までごゆっくりしててくださいな!」
迅がOKをした瞬間に綺麗な笑顔を咲かせたカトリーナは、持ってきた紅茶セットの事すら忘れてすぐさま部屋を出ていってしまった。
「……どうしたもんかなぁ」
背もたれに首をかけて天井を見上げた迅は、これから起こるであろう厄介事を想像して軽く憂鬱になっていた。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




