最強の片鱗と親との誓い
王族との会談をしていた迅。
予想よりも穏便に済むかと思っていたところで、シルフィアの一言によって場が荒れることになってしまった。
大事な愛娘の口から『辱められた』と聞いたフィガラム王はもちろん激昂し、数刻と待たずに大剣型の魂剣を取りだした。
そして、憎っくき敵を葬ろうと動いた瞬間に、虚空から現れた青色の鎖に締め付けられていた。
「わっ、分かった!もう何もしないから離してくれ!」
「本当ですか?そう言いつつも貴方は2度も暴走しているではありませんか」
「もうしない!絶対にしないと誓うから!だからジリジリと締めつけないでくれ!」
鎖の締めつけと精神的な焦りから顔を真っ青にしているフィガラム王に対して、困ったような表情で頬に手を当ててため息をつくアスティリア。
突然目の前で起きた一瞬の捕縛劇にティアたちが唖然とするなか、アスティリアはフィガラム王の表情を少し見た後に鎖を霧散させた。
解放されたフィガラム王はホッとしていたものの、少し痛むのか体を手で摩っていた。
「うぅ……なんで俺がこんな目に……」
「普段の行いが悪いからだろ」
「っ!おのれぇ……ここぞとばかりに調子に乗りやがって!」
ニヤニヤとしながら悪ノリしてきた迅に怒りが増したフィガラム王だったが、また鎖で縛られるのを予感し、握り拳を作って堪えるしかなかった。
「それでジンさん、本当のところ、娘たちはどうなのでしょうか?」
「ん?まぁ……」
アスティリアから改めて聞かれた迅は自然にティアの顔を見たあと、優しい笑みをこぼしていた。
「最近は良い顔をするようになったと思うぞ」
「っ⁉︎」
迅の表情と言葉に敏感に反応したティアは、今までの助けられた時や悩みを打ち明けた時の事などを思い出し、照れるのと同時に妙な恥ずかしさから顔を赤くして俯いてしまった。
(あら?……ふふっ、そういうことね)
ティアの反応をしっかりと見ていたアスティリアはその様子から色々と察し、微笑ましそうな笑みを浮かべていた。
そして、次にシルフィアを見た迅は、残念そうな表情を向けていた。
「シルフィアは……構ってほしいからってイタズラが多過ぎるな」
「っ⁉︎勝手な解釈をしないでください!あれは普段の仕返しをしてるだけですわ!」
迅に不本意な告げ口をされてしまったシルフィアは即座に反応し、座ったままでいる迅に掴みかかった。
「おわっ⁉︎こんな所で掴みかかってくるんじゃねぇ!少しは姫だっていう自覚を持てよ!」
「そう言うんなら姫に対しての接し方に気を付けなさいな!今までの行いが無かったら本気で監獄に入れてるところなんですからね!」
迅は咄嗟に腕を掴んで止めたものの、まさかシルフィアを投げ飛ばすわけにもいかず、取っ組み合いをし続けるしかなかった。
またもや場が荒れたことでアスティリアが鎖を出そうした直後―――
ズガァアアアン!
かなり近い所からの落雷により、轟音と共に城全体に地響きが走った。
「っ⁉︎今のはっ⁉︎」
突然のことで驚いたシルフィアは迅を掴んでいた手を離し、すぐに周りを警戒した。
タツヤも瞬時に魂剣を取り出しており、音のした方を向きながら全方位を警戒していた。
すると、今の轟音の原因を把握していた迅が、慌てる様子もなく声をかけた。
「下でやってる模擬戦だ。神崎が全力を使ってるみたいだぞ」
迅はそう言いながら左斜め下の方を向き、【変換】で透視ができる魔眼へと変えた。
その視線の先には王城の中庭訓練場があり、そこには倒れ伏す剛と麗奈と繭、さらには決死の表情で青光の長大剣を構える和輝がいた。
その正面には無表情で疲れた様子も無い騎士団総隊長、『シクザール・サヴァン・バーラグワー』が佇んでおり、和輝の全力ですら脅威に感じてはいないようだった。
一方で、中庭訓練場の様子を知らないティアたちは迅の言葉でひとまず安堵し、落ち着きを取り戻していた。
「ふむ、どうやら今回の勇者も相当な実力者のようだな」
「皆さん、本当に成長が速いんですよ。ジンさん、今のカズキさんたちならシクザールさんといい勝負が出来るのではありませんか?」
関心するフィガラム王に対して自慢気に話したティア。
それと同時に迅の予想を聞いてきたが、話を振られた迅は首を横に振っていた。
「無理だな。俺と同じように傷一つも付けられないと思うぞ」
「ティア様、自分も同意見です。あいつを倒すとしたら大陸ごと吹き飛ばすくらいはしないと通用しませんよ。そもそもそれだけの規模で攻撃したとして、それがあいつに届くかも分かりません」
迅に続いてタツヤまでもがティアの考えを否定し、その大袈裟な言い方にシルフィアが少し引いた表情をしていた。
「そんな戦いをしたら決着の前にこの世界が壊れますわね……ジンさん、貴方だったら勝てますの?」
「今のまま真剣勝負をしたら即死だろうな」
「えっ⁉︎そんな……」
「なんで姫さんがそんなに落ち込んでんだよ?」
シルフィアの問いかけに珍しく率直に答えた迅が簡単に『敗北』を宣言した途端、ある意味で絶大な信頼を持ちつつあったティアが落胆していた。
しかし、迅の言葉をそのまま受け取っていたのはティアだけであった。
「お姉様、ガッカリするのはまだ早いですわ。ではジンさん、貴方が身体強化などを使った本当の全力全開で戦ったらどうなります?」
「さぁなぁ、やってみないと分からないなぁ」
今度の問いかけには適当な感じで答える迅であった。
その様子を見たシルフィアは、呆れてため息をついた。
「はぁ……そんなことだろうと思いましたわ。つまり、何も強化していない場合なら即死で、強化さえしていれば勝てる可能性はあるということですわね?でも、貴方のその表情からは負ける事など微塵も思ってなさそうですわね?」
「想像はご自由に」
シルフィアが追加で核心をつく問いかけをしてみたが、迅は明言を避けるだけであった。
するとそこへ、タツヤが話に入ってきた。
「ジン、俺はお前には敵わないと感じたが、それでも断言できるぞ。多少の強化をしたぐらいじゃお前は勝てない」
「べつに戦うわけじゃねぇからどうでもいいさ」
「いや、どうせなら今からでも実感してみるといいぞ?」
「だから、そんなもんはどうでも―――っ!」
タツヤからのしつこい問答を適当に流していた迅だったが、突然、覚えのありすぎる力を感知し、中庭訓練場の方を凝視し始めた。
「ジンさん?」
いきなり迅の雰囲気が変わったのを訝しんだティアが問いかけたが、ほんの数秒間の間、迅が反応することはなかった。
「……話はもう終わりだよな?」
「あ、ああ……」
ようやく言葉を発した迅。
それはいつもの淡々とした口調ではあったものの、眼だけはフィガラム王が言葉に詰まってしまうほどの圧力を伴っていた。
迅の様子が急変してすぐの頃、中庭訓練場ではシクザールと模擬戦をしていた和輝、麗奈、剛、繭の4人が倒れ伏していた。
そして、そのすぐ近くにはシクザールが仁王立ちしており、特に何も無かったような無表情を和輝たちへ向けていた。
「随分と良い能力だ。鍛錬次第ではもっと強力になるはずだ」
「は、はい……ゲホッ、あ、ありがとう……ございました……」
「はぁ、はぁ……強すぎるよ……」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……チートずるい……私たちのお株が奪われてく……」
「だから辞めておけばって言ったのに……それにしても、何も効かないし、麗奈ちゃんたちも消耗が早かったね」
「…………」
参戦しなかった凛と柑奈が介抱の為に近付いてみると、4人全員が魔力と精神力をほとんど消耗しており、しばらくはまともに動くことすら出来そうになかった。
その中でも剛は完全に気を失っており、ずっと動かずにいたせいで戦闘の余波による砂埃や雑草にまみれていた。
一方で、シクザールの圧倒的な実力と和輝たちの惨状を目の当たりにしたイリスとエリスは、何かを決意した表情でお互いに向き合った。
「イリス」
「エリス」
「「やめておくの」」
双子らしい見事なシンクロで戦意を喪失しており、〝先に戦わなくてよかった″と安堵していた。
やがて和輝たちが回復してきたところで、会談をしていた迅たちが揃って中庭訓練場へとやってきた。
そして、未だに疲れたままでいる和輝たちを見たティアは、迅の予想通りであったことに苦笑いしていた。
「相当揉まれたみたいですね」
「その割には戦闘があったようには見えませんわね?」
「あいつの戦闘の風物詩ですよ。どんな強敵だろうと、戦ったとすら思わせてくれないですから」
シルフィアの疑問に投げやりな感じで話すタツヤだったが、その表情はどこか誇らしげな笑みを浮かべていた。
和輝たちの様子をほんの少しだけ確認した迅は、いつでも反応出来るような臨戦状態のまま、無表情で見据えてきているシクザールの近くまで歩いてきた。
「俺を見て参考になったか?」
「大いに。だが、疑問も出てきたがな」
唐突な、2人だけが理解している会話。
そんな2人は、迅の後方で談笑している面々を隅に、急速に意識を研ぎ澄ませていき―――
「『サンダーボルト』」
「『魔力結界』」
中庭訓練場を飲み込もうとするほどの雷球と、それを防ごうとする魔力の壁を作りだした。
ズガァアアアン!
衝突した瞬間に轟音と衝撃をもたらした二つの力。
このまま衝突が続けば城壁が崩れるほどであったが、その前に迅の『魔力結界』が雷球を包み込んで遥か上空へと持っていき、やがて雷球が『魔力結界』を喰い破って爆散した。
後には驚いたままのティアたちと、強力な力を使った後とは思えない迅とシクザールが向かい合っており、大惨事を免れた中庭訓練場には穏やかな風が流れるだけであった。
「俺の後ろに姫さんたちがいたのに、全く躊躇いなく撃ちやがったな」
「お前が止められないはずはないと分かっていたからな。どう止めるのか気になったんだ」
「へぇ、参考になったか?」
「全く、魔力の塊を見せられただけでは何も分からん」
迅の問いかけに淡々と返すシクザール。
その表情からはフィガラム王たちを危険に晒した事を気にした様子はなく、迅の実力をある程度まで把握したうえでの行動だったようだ。
そして、シクザールと迅が再びにらみ合いを始めたところで、頭を痛そうにしているフィガラム王が歩み寄ってきた。
「はぁ……そこまでだ。シクザール、前から何度もいってるが、相手を試すにしても手段を選べ。万が一でも私たちを囮にしていたなんて知られてみろ。有能なお前でさえも監獄行きにせねばならんのだぞ」
「失礼いたしました。以後、気を付けます」
フィガラム王に咎められた途端、シクザールは戦意を納めてお辞儀と謝罪をした。
「その言葉も何度聞いたことか……本当に頼むぞ?」
フィガラム王の念押しにもう一度一礼したシクザールは、用は済んだとばかりに迅の横を通り過ぎて中庭訓練場を出て行こうとした。
しかし、まだ確認したい事があった迅が呼び止めた。
「待てよ。その力、一体どこで手に入れたんだ?」
「よく分からない事を聞くんだな。どこでと言われても、この力は俺が生まれ持って鍛え上げてきた力だ。周りはよく〝特別で羨ましい″と口にするが、俺にとってこの力は枷でしかない。お前ももっと力をつければいずれ理解出来るさ。所詮、力なんて肝心な時には全く役に立たないんだからな」
迅の問いかけに対して淡々と返したシクザール。
しかし、最後に振り返って向けてきた瞳には、諦めや諦観からくる負の感情が宿っていた。
そして、シクザールはそれ以上は何も言わずにその場から歩き去っていった。
迅も追及をせずに見送っているところへ、タツヤがシクザールを心配そうな表情で見ながら歩み寄ってきた。
「戦った後のあいつはいつもあんな感じなんだ。今まで何度もあの力でたくさんの人々を救ってきたんだが、あいつは一度たりとも満足することなく、それどころか何かに失望したように落ち込むことの方が多いんだよ。聞き出そうとしても一切教えてくれねぇしよ……」
タツヤが今までの事を教えてくれるなか、迅は話を聞き流して別の事を考えていた。
(僅かに感知できたあいつの力、あれは確かに俺と同じだった。神々の盟約が効いている以上、何かしらの抜け道で力を手にしたんだろうが、それならグライドを倒した俺を目の敵にしてもおかしくねぇ。だが、仲間意識が弱いにしても俺に関心が無さすぎた。なら、あいつは関係ないってことに……いや、それなら何であの力を?)
迅が疑問に思っていたのは、シクザールが使った力とその関係であった。
というのも、迅は和輝たちの模擬戦を透視や感知で見ていたのだが、和輝が『青光雷刃』を放った直後、神通力ではなく神力が使われるのを感知したのだ。
つまり、シクザールは神そのものか神核保持者であり、迅の敵である可能性が高い。
しかし、迅は実際に体感して神ではないと断定し、シクザールからは敵意などは持たれていなかった。
敵なら神力を持っててもまだ理解できたが、そうではなさそうなのに持っているというのが理解不能であり、この世界の神と敵の狙いがますます分からなくなった迅であった。
翌日、ティアとシルフィアが久しぶりの里帰りだからと一晩泊まっていくことになった迅たちは、朝食を済ませてすぐに【西セントレア】へ帰ることになった。
「なぁティア、そんなに急ぐ必要はないのではないか?久しぶりに会えたのだから、もっとゆっくりしていってもいいのだぞ?」
もっと娘たちと戯れていたいフィガラム王は、不満顔を隠すことなく粘っていた。
しかし、北の学院との対抗戦に迅のドラゴン討伐と、それなりに長く学院から離れてしまっているのを自覚していたティアは、苦笑いしながら首を横に振った。
「いいえ、お父様。これ以上サキエさんを待たせるわけにもいきませんし、私たちには学業もありますから」
「そんなものは王権でどうとでもできる。だから安心してゆっくりできるぞ」
「お父様、そんな事をしたら家臣たちに無駄な苦労をかけてしまいますよ?」
「そのための家臣なのだから問題ない!」
どうしても娘たちと一緒にいたいフィガラム王は、まさかの王権乱用も辞さない覚悟だった。
しかし、それを見兼ねたアスティリアが止めに入った。
「問題大アリです。娘たちと離れるのが寂しいからって駄々をこねないでくださいな」
「し、しかしだなぁ……」
「ティア、それにシルフィア、何かあった時はいつでも頼りに来なさい。それとジンさん、貴方には今までの功績を称えて、魔法袋と鉱石類を差し上げます。どうかこれからも娘たちを守ってあげてくださいな」
「あぁ、俺の存在意義に賭けて守り通してみせるさ」
アスティリアからのお礼をタツヤから手渡しで受け取った迅は、確固たる意志を込めた瞳と力強い言葉で返した。
するとそこへ、サラッと話の隅に置かれていたフィガラム王が、微妙に情けない様子で割り込んできた。
「あの、それは俺の役目では?」
「そういえば、お母様。謁見の前に兵士が使っていたのは何ですか?誰かと話しているように見えましたけど……」
「えっと……あの〜」
遠慮気味だったせいか、ティアに自分の訴えを掻き消されてしまったフィガラム王。
そして、その事に気付いているはずのアスティリアはそのまま流れるように無視をしつつ、ティアの疑問に答えはじめた。
「見た通りの新しい鉱石、【通信石】よ。二つの鉱石に同じ人が魔力を注ぐと回路が出来るみたいなの。その回路を使って話せるようになるんだけど、同じ人が魔力を注いだとしても二つまでしか繋げられないの。しかも離れた分だけ魔力が必要になるから、少し使い所に迷う鉱石なのよ」
「………………」
どこまでも無視されたフィガラム王はついに空気となり、いじけて落ち込んでしまった。
今回、東のダンジョンから発掘された【通信石】は、その名の通りに石を介して会話が出来るものだ。
これは二つ揃ってないと使えない物で、一度でも魔力による回路を繋げてしまえば誰でも使うことができるのだ。
ただし、使用時は魔力が必要となり、離れた距離に応じて段階的に消費量が多くなる。
一般的な魔力量であれば王都や各街の中でなら2〜3時間ほど続けて会話が可能だが、数百キロも離れた街から街への会話は和輝たち勇者でも不可能である。
ちなみに、魔力の負担はお互いに発生するため、話したら話した分だけ魔力を消費し続ける仕組みになっている。
アスティリアの話を聞いて使い勝手の悪さを把握したティアだったが、それと同時に【通信石】の有用性も理解していた。
「それでもその鉱石がもたらす恩恵はかなり大きいですね」
「そうでしょう?だから貴女たちへ優先的に渡しておくわ。王都では候補が多過ぎて揉めてしまうのよ」
「ありがとうございます、お母様。大切に使わせていただきます」
「その代わりと言ってはなんだけど、ティア、それとジンさん。手が空いた時で構わないので、東の勇者に力を貸してあげてくださいな。どうやらダンジョン探索が難しくなってきているみたいなんです」
「はいよ」
「分かりました」
アスティリアのお願いを聞いた迅とティアは、2人ともに断る理由が無かったので即答した。
その直後、東のダンジョンの話を聞いてピクッと反応したフィガラム王が、いじけた表情から戻って迅の前にやってきた。
「オッホン!東のダンジョンは我が国にとって重要な役割を持っているものだ。ゆえに、国王としてジンにダンジョン探索を許可する。それと―――」
迅が〝急に何だ?″と思った直後、途中で区切りをつけたフィガラム王の雰囲気が変わり、激情を孕んだ眼で迅を睨みつけた。
「この私を前に威勢を張ったのだ。それが嘘偽りではない事を示してもらうために、私の娘たちの正式な護衛としての任を与える。相手がどこの誰であろうと、お前の意志による判断で命を賭けて守り通せ。もし娘たちに万が一の事があれば、その時は貴様の首を刎ねると理解せよ」
王として、そして父親としての心からの言葉であった。
というのも、まずダンジョン探索は『命じる』のではなく『許可する』としたことで、いつでも自由に出入りしても良いことになった。
そしてもう一つ、ティアとシルフィアの正式な護衛に認められたうえで、2人を守るためであればそこらの貴族よりも上の権力を持ったことになった。
しかし、これは決して迅を優遇する為ではなく、〝ここまでしたからには絶対に娘たちを守ってもらう″という、言外の意味が込められているのだ。
フィガラム王の言葉と表情から意図を察した迅は、その気持ちに対してしっかりとした一礼をもって返した。
「……この命と誇りに賭けて、必ずやお二人をお守りします」
その後、迅たちは転移鉱石を使い、【北宮殿】を経由して護衛のベンたちを回収してから【西セントレア】へと戻っていった。
迅たちが転移で居なくなった後、少しムスッとした表情を浮かべているフィガラム王を見たアスティリアが、笑みをこぼしながら近寄った。
「ふふっ、まさかあんな事をお願いするとは思いませんでした。貴方も彼を信頼しているのですね」
「あいつの力と実績を考慮した結果だ。私の経験上、ああいう奴はある程度自由にさせた方が良い方向に転びやすいからな。あとはもう一つ、あいつの言葉は実体験から来る重みがあった。だが、それにしては若過ぎると感じたんだ。ティアと同じ歳であの実力にあの達観した様子……考えれば考えるほど矛盾点が多すぎるのだ。だからこそ、その秘密をさらけ出してもらうためでもある」
フィガラム王が迅に下した今回の判断は、決してティアたちの為だけではなかった。
そもそも謎の組織がいると分かった時点であらゆる可能性を考慮しており、迅に対してもまだいくらか疑念を持っていたのだ。
だからこそ、あえて自由に動けるようにして本当の狙いを探りつつ、ティアたちを守るように楔を打つ形にしていた。
警戒はしつつも全く信頼していない訳ではないフィガラム王に対し、アスティリアは柔らかな笑みを向けた。
「色々と心配なのは分かります。私も同じように、彼の事を知らないですから。でも、あの娘たちが信じた彼であれば、きっと大丈夫ですよ」
「俺もそういう思考ができたらどれほど良かったか……やはり今からでもアイツに監視を付けるか?」
どこまでも不安が拭えないフィガラム王。
そのどうするか悩んでいる様子を見たアスティリアは、呆れてため息をついていた。
年末に近付くにつれて仕事が忙しくなる日々。
定期更新はまだ先になりそうです。
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