↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
要塞監獄編
68/77

王族との会談

皆さま、お久しぶりでございます。

細かい報告よりも先に本編をどうぞ。

 玉座の間でフィガラム王と謁見することになった迅たち。

そのフィガラム王から自己紹介を促されて和輝から順番に名乗り、最後に迅の番がやってきた。

先に自己紹介をすることになった和輝たちは周りを囲む貴族たちの視線もあって緊張していたのだが、迅の挨拶が来た瞬間に別の緊張をしていた。

それはすなわち、〝迅がまともな挨拶をするのだろうか?″という、不安からの緊張であった。

そしてそれはティアとシルフィアも同じであり、今更ながらに迅に対して不安を抱いていた。


 この場の全員に様々な視線をぶつけられるなか、一歩だけ前に出た迅は(うやうや)しくお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。私は迅、彼らと同じく学院生をしております」


 可もなく不可もなくといった平凡な挨拶であった。

しかし、ティアたちはその平凡であったことに対して心の底から安堵していた。


「……ほう、貴様がジンか。ところでジンよ、貴様の話はいくつか私の耳にも入っていてな。それに関して確認しておきたい事がある」


 ティアたちがホッとしたのも(つか)の間、フィガラム王の明らかに敵視している目と声音を目の当たりにして、この場の全員に緊張が走った。


「……それは一体どのような事でしょうか?」


「貴様……」


 いつでも戦えるように感覚を研ぎ澄ませた迅が静かに尋ね返すと、フィガラム王は怒りを堪えるように握り拳を作って俯いた。

そして、誰もが得体の知れない緊張に固唾(かたず)を飲んだ直後―――


「この俺の可愛い娘たちを抱いたというのは本当なのかっ!」


 勢いよく立ち上がったフィガラム王は、迅に人差し指を向けながら怒鳴った。


「……はぁ?」


 何を言うかと思えば全く身に覚えのない事を言われ、つい普段の態度が出てしまう迅。

それと同時に、この場にいる他の者たちも揃って首を傾げていた。


「あぁ……この俺が大事に育ててきた可愛い娘たち……この世のどんな物でも言葉でも言い表せない最愛の娘たち……それを、それを貴様のその汚い手で抱いたと言うのかっ!」


 目に涙を浮かべながら怒鳴り散らすフィガラム王。

すると、そのすぐ横に座っている妻らしき女性は頬に手を当ててため息をつき、傍に控えているシルフィアは遠目からでも分かるほどに慌てた表情をしていた。

そして周りの貴族たちはというと、全員が興味を失せたような反応をしていた。


 実は、フィガラム王は娘たちを溺愛しており、普段の公務中であっても娘を第一に行動することで有名であった。

そのため、今回のように突飛な行動をするのは珍しくなく、だからこそほとんどの者たちが〝またか″と呆れていたのだった。


 では反対に、なぜシルフィアが慌てているのかというと、フィガラム王が口にした『抱いた』というワードに心当たりがあるからであった。

というのも、ティアとシルフィアは報告も兼ねた手紙を定期的に送っているのだが、シルフィアは迅にからかわれた日は鬱憤を晴らすかのように手紙へ書き殴っていたのだ。

その中にティアと自分が『力強く抱かれた』と書き込んでおり、人によっては別の意味にも捉えられるような報告をしていたのだ。

その時は〝存分に困ってしまえ″という思いから書いていたのだが、いざ父親の反応を見て大事になったと理解し、どうすればいいのか分からずに珍しく慌てていたのだった。


 一方で、シルフィアの表情から全てを悟った迅はというと―――


(あいつめ……あとで立てなくなるまでくすぐらせてやる)


 サラとセラを使った報復を計画していた。

しかし、まずは目の前で怒りに満ちているフィガラム王をどうにかしなければならなかった。


「だいたい貴様!この俺が忙しいことにかこつけて娘たちと仲睦まじくするなど!……なんて羨ましいことをっ……」


 悔し涙を流しながら体を震わせるフィガラム王だったが、迅からすれば鬱陶しさしか感じられなかった。

そして、周りも〝どうするか″と悩んでいると、フィガラム王の隣に座っていた女性が声をかけた。


「はぁ……あなた、みっともないのでそこまでにしてくださいな」


「し、しかしだなぁ……」


「そんなだから娘たちに相手にされないんですよ?」


「なん……だと……」


 女性からの言葉にショックを受けたフィガラム王は、顔を青ざめさせながら固まってしまった。

しかし、女性はフィガラム王の様子を気にせずに迅へ目を向けると、ニッコリとした笑みを浮かべた。


「すみませんね、ジンさん。この人は娘たちの事になると少々暴走してしまうんです」


「いえ、お気になさらず」


 女性の謝罪に対して、本当に気にした素振りを見せずに一礼をして返した迅。

それを見届けた女性は一つ頷き、この場を仕切るように一度手を叩いてみせた。


「ではこの辺りでお開きにしましょうか。ですが、学院での娘たちの事を聞きたいので、この後で私の部屋に来てくださいな」


 女性の笑みを浮かべながらのお願いに、つい〝面倒だ″と思い表情を曇らせる迅。

すると、立ち並んでいた家臣たちの中から1人、ふくよか過ぎるでっぷりとした体型の金髪の男が声を上げた。


「お待ちください、アスティリア様。先ほどの麗しき姫君たちを抱いたという件も聞き捨てなりませんが、そこの素性が曖昧な勇者でもない輩を部屋に招くなど、華麗なるあなた様の家臣として許すわけにはいきません。万が一にも蛮行を許したとあっては家臣の名折れです」


「あらあら、それは困りましたね……ではこうしましょう。タツヤさん、彼を調べてみてくださいな」


「御心のままに」


 アスティリアは男からの指摘に見かけだけの困った素振り見せると、後ろ側に控えていたタツヤという黒髪の騎士に指示を出した。

そして、タツヤが抜剣して構えた次の瞬間、体がブレたと錯覚した直後にその姿が消えてしまい、慌てた和輝たちが周りを見渡した時にはすでに迅の真横へと移動していた。

しかも、持っていた剣は迅の首元に添えられており、少し動けば斬れてしまうのが明白であった。


「ご覧の通り、私でも容易に倒せる輩です。バーラグワー様、これで問題ありませんか?」


「……実力に関しては把握しましたが、それでも監視の目は多い方がよろしいかと。なので、私めも同行いたしますぞ」


 どういうつもりなのか、あくまでも同行しようとするバーラグワー。

それに対してタツヤの方が目元をピクッと反応させており、どう見ても迅よりもバーラグワーを招きたくないようであった。

しかし、理由自体はしっかりとしているからこそ返答に(きゅう)していると、アスティリアと同じくバーラグワーを招きたくないティアとシルフィアが動いた。


「それには及びません。そもそもジンさんは私の大切な友人の1人であり、何度も私たちを助けてくれた恩人でもあります。ですから、ジンさんはとても信頼できる殿方だと断言できます」


「お姉様の言う通り、私も何度か助けていただきました。なので、私からも問題無いと公言させていただきますわ」


 王女姉妹揃っての擁護に家臣たちから感嘆の声が出ていたが、家臣たちのほとんどは、男嫌いで知られているシルフィアが男である迅を庇った事に関心を示していた。

このまさかの擁護は予想していなかったバーラグワーは、さすがに無表情とはいかずに苦い顔をしていた。

しかし―――


「……陛下はよろしいのですかな?どこぞの輩がアスティリア様の部屋を伺ったとあれば、無粋な憶測を吹聴する者たちが出てきますぞ。そうなれば、民たちにも少なくない動揺が広がるかと思いますが?」


 バーラグワーは搦め手を使って食い下がってきた。

要は〝噂を流されたくなければ自分の提案を聞け″、そう脅しているも同然であった。

何の理由でアスティリアの部屋へ同行する事に固執するのかは分からないが、フィガラム王に対して脅しとも取れる発言をする時点で相当な胆力の持ち主であるのは間違いなかった。

しかし、多少の脅しに反応するくらいであれば、大戦を終えた国のトップに立つことなど出来るわけがなかった。


「ん?まぁ確かに、アスティリアの私室へ招くのは俺も反対だ。だが、応接間なら俺も同行することで許可する。バーラグワー、これなら問題無いな?」


「……陛下のお言葉に反対などありません。私の言を考慮していただき、ありがとうございます」


 これまた予想外の対応をされ、今度こそ何も言えなくなったバーラグワーであった。




 何度もヒヤヒヤとした謁見が終わり、ひとまず休憩として全員が各部屋に戻った後、フィガラム王の後ろで護衛をしていた金髪の騎士とタツヤは2人きりで話をしていた。


「タツヤ、剣を向けてみてどうだった?」


「どうもこうもねぇ、ありゃ俺如きじゃ手に負えねぇよ……殺気を向けられたわけでもないのに理解させられた。だってよ、俺が『瞬動』で動いた時にはすでに意識を向けてやがったんだぜ?俺が本当に攻撃をするわけじゃないと察知したうえで『いつでも反撃出来る』と言われたようなもんだ。あいつが敵だったら俺は瞬殺されてるだろうよ」


 苦い顔をしながら投げやりに話すタツヤ。


 タツヤの魂剣(ソウルアーツ)は『ヤタガミ』という真っ黒な長剣である。

その能力は『瞬間移動』なのだが、色々と使い所の難しい能力でもあった。

まず前提として転移ではなく移動であり、ゆえに移動したい所の間に障害物があるとそこに衝突してしまうのだ。

しかも範囲は最大で20〜30メートルほどしか移動できず、最大距離で移動を続けようとしても3〜4回くらいしか使えないほどに燃費も悪かった。

しかしながら、5〜10メートルほどの近距離であれば数十回は移動できる為、1対1の近距離戦では無類の強さを誇っていた。

そもそもタツヤは勇者の里出身なので、戦闘センスがずば抜けているのは当たり前であった。

そんなタツヤが〝敵わない″とあっさり認めたことに関心を持った金髪の騎士だったが、国が誇るNo.2を戦わずして認めさせた強者()に対しては特に興味を持っていなかった。


「へぇ、お前にそこまで言わせるのか。なら、あの覚醒者は本物だということだな」


「そんな白々しい言い方すんなよ。どうせお前は最初から分かってたんだろ?あのジンってやつが相当な実力者だってよ」


「まぁな。だが、俺も底が見えない奴は初めてだ。あいつなら、俺の代わりを務められるかもしれない」


 そのまま聞けば期待の言葉であったが、淡々と話す金髪の騎士の目は凪いだ水面のように落ち着いたままであった。

それもそのはずで、この男こそ、王都騎士団総隊長を務める、『シクザール・サヴァン・バーラグワー』なのだ。


 ちなみにシクザールの父親は、玉座の間で意地でもアスティリアについて行こうとした貴族であり、名を『グリケード・サヴァン・バーラグワー』と言う。


 いつになく弱音を吐くシクザールに対して、タツヤはちょっとした怒りから指を突き付けた。


「おいおい、冗談はよせよ。現存する勇者たち、名だたる凶悪な犯罪者たち、そして勇者の里出身の俺にすら無傷で勝ちやがったクソ野郎だろ?」


「……なぜクソ扱いをされなければならないんだ?」


「お前にずっと勝てなくてイライラしてるからだ。とにかく、お前こそが最強なんだから、そう簡単に弱音を吐いてくれるなよ。でないとお前に負けた俺が惨めになるだろうが」


「……分かってる」


 タツヤから呆れたような目で叱咤されたシクザール。

しかし、シクザールは悔しがるでもなく、なぜか落胆するような表情をしていた。




 しばしの休憩時間を広々とした部屋で過ごした迅たちは、兵士たちの案内を受けて応接間までやってきた。

中に入るとティアたちはすでにソファーに座っており、フィガラム王とアスティリアの後ろにはシクザールとタツヤが控えていた。

そして、それぞれが(はす)向かいに位置する空いている所に座ると、待っていたフィガラム王が口を開いた。


「では改めて、新たな勇者たちよ、本来なら真っ先に行うべき挨拶が遅れたこと、フィガラム・ミロード・セントレアの名において謝罪させてもらう。大変、申し訳なかった」


 確かに責任を感じているのか、威厳のある声音ではっきりと謝意を口にしたフィガラム王は、座ったままで深々と頭を下げた。


「い、いえ!僕たちは全然気にしてませんので!頭を下げるだなんてやめてください!」


「いや、これは一国の王としてすべきことなのだ。そうでなければ、私は王を名乗る資格などない!」


 堂々とした勇ましい言葉であった。

その真摯で威厳のある姿に和輝たちが圧倒されていると、ニコニコと笑みを浮かべているアスティリアが割って入った。


「あなた、そういうことでしたら、ジンさんにも頭を下げるべきではないかしら?」


「な⁉︎なぜ俺がそんな事をしなければならんのだ⁉︎」


「なぜって、あなたがジンさんに敵意丸出しだったから無駄に噛み付かれてしまったんですよ?だから仕方なくタツヤさんにお願いしたんです。事前に打ち合わせをしておいて正解でしたわ」


「ぬぐっ⁉︎だ、だが、親である俺は当然の事をしただけでだな―――」


 アスティリアの指摘に先ほどの威厳がカケラも感じられないフィガラム王。

すると、そんな言い訳を続けるフィガラム王に、いくらか冷たい目をしているティアが声をかけた。


「お父様、だったらこの場で話せばいい内容ですよね?わざわざあんな公の場で話す必要がありましたか?」


「うぐっ⁉︎お、俺はお前たちの身を案じて……シルフィアよ、お前なら分かってくれるよな?」


 ティアからも責められたフィガラム王は、〝もはや最後の希望!″とばかりにシルフィアへ同意を求めた。

そのシルフィアはどことなく気まずそうな表情をしたあと、最後にはそっぽを向いて―――


「……お父様、常識を考えてください」


 容赦のない無情な一言を放った。


「グハァッ!」


 シルフィアからも見捨てられて冷たい言葉を受けたフィガラム王は、胸を撃ち抜かれたように手で抑えながらソファーから崩れ落ちた。


 実は、シルフィアは迅への負い目があるからこそ、後々のために迅を庇ったのだ。

というのも、シルフィアは自分の手紙のせいで迅に余計な迷惑をかけたのは理解しており、あとで受けるであろう報復を緩和してもらうために迅を庇ったのだった。


「なあ、和輝。俺の中の王様のイメージが崩れていくんだが……」


「あはは、子供想いの良い親なんだよ」


 目の前で残念な姿のフィガラム王を見て、剛と和輝だけでなく、麗奈たちですら苦笑いすることしかできなかった。


 一方で、一連の流れをシラけた目で見ていた迅だったが、唐突にタツヤから声をかけられた。


「ジン、事情があったとはいえ、いきなり剣を向けて悪かった。詫びに美味いメシを奢るからよ、今回の事には目を瞑っちゃくれねぇか?」


「まぁ、王族って立場は基本的に面倒だからな、その言葉だけで充分だ」


「……随分とアッサリしてんだな」


「そういうもんだと理解してるだけだ」


 タツヤから謝罪をされた迅は、肩をすくめて簡単に受け流していた。

すると、崩れ落ちていたフィガラム王がようやく立ち上がった。


「ごほん!取り乱して悪かった。今までの言動は家族を愛しているからこそなんだ。ぜひ大目に見てほしい」


 王様であるからこそ、そう簡単に頭を下げる訳にはいかない。

この場の誰もが理解していることであったが、この部屋にいる者たち全員がどこか納得しがたい感情を抱いていた。


 刺さるような視線を受けながらもソファーに座ったフィガラム王は、表情を真面目なものに変えて話しだした。


「では本題だが、カンザキくんたちには国庫の中から好きな物を持っていってもらう。装備でも良し、魔導具でも良し、神の言う、いずれ起こるであろう戦いの為に存分に備えてほしい」


「本当に申し訳ありません。異世界から来たあなた達を頼るしか出来なくて。せめて物資に関してはいつでも補充させますので、必要な物があれば言ってくださいな」


「い、いえ!そこまでしてもらわなくても―――」


 フィガラム王とアスティリアからの有難い申し出だったが、性根の優しい和輝は咄嗟に断ろうとした。

しかし―――


「ダメ、和輝くん。この世界には私たちよりも強い人たちがいる。それに備える為にも受け取っておくべき。私はここにいる皆を失いたくない」


 繭から強い口調で引き止められた。

それは繭だからこそ出来た判断であった。

なぜなら、繭はこの世界に来てから何度も死にかけており、何度も力不足を痛感していたからであった。

遠征中のカジット戦、学院でのサイクロプス戦、スタンピードでのワイバーン戦、他にも迅と一緒に討伐クエストに行った時など、迫力のある戦闘が見れて喜んではいたものの、それと同時に今の力量に不安を感じていたのだ。

だからこそ、繭は強くなれるチャンスを逃したくないのであった。


「繭……そうだな、繭の言う通りだ。王様、その申し出、ありがたく受けさせていただきます」


「うむ、ではシクザールに案内させる。そのついでに訓練場で手合わせをするといい。シクザールは我が王国騎士団の総隊長を務める覚醒者だ。きっと、君たちにも良い刺激になるはずだ」


「はい!色々とありがとうございます!」


 だいぶ気前の良い提案に対して礼を言ったあと、いざ移動する為に立ち上がった和輝たち。

迅もそれに倣って立ち上がったところで―――


「ジン、悪いが君だけは残ってくれないか?娘たちのことで話がある」


 先ほどまでよりも少しばかりトーンが落ちた声音で呼び止められた迅。

その瞬間こそ〝面倒な″と思った迅だったが、フィガラム王が向けてくる眼を見た瞬間にその考えが失せていった。


「……分かった。イリス、エリス、お前たちも神崎たちと一緒に行け。たまには俺以外の奴と戦うのもいい刺激になるはずだからな」


「「分かったの!」」


 フィガラム王の眼から自分だけとの対話を望んでいるのを察し、イリスとエリスに指示を出した迅。

その際に繭と麗奈だけが違和感を感じたものの、〝口を挟むべきではない″と判断し、和輝たちと共に大人しくシクザールの案内について行った。


 一気に広く感じられるようになった応接間では、何も知らずに少し不安になるティアとシルフィア、護衛役のタツヤ、フィガラム王とアスティリア、そして改めて座り直した迅が残った。


「色々と察しが良くて助かる。覚醒者は思考でさえも特殊なのかと疑っていたからな」


 もしかしなくても1番身近にいる覚醒者の事を言っているであろうフィガラム王。

その言葉からは、普段から扱いに困っている様子が伺えた。


「身内のボロなんざいいからとっとと済ませてくれ。先に言っておくが、権力絡みの厄介事だったら絶対に断るからな」


「……やはり覚醒者はダメだと再認識しておこう」


 すんなり話せるかと思いきや、まさかの王に対しての不遜な態度に呆れてしまうフィガラム王。

しかし、気にしてもどうにもならないと理解しているフィガラム王は、すぐに気持ちを切り替えて話に入ることにした。


「では本題だが、俺の娘たちを何度も救ってくれた事、心より感謝する。本当にありがとう」


「他にもこの娘たちの為に何度も協力してもらった事も聞いています。それに関しては後ほど、魔法袋や転移石などを報酬としてお渡しします。他にも必要な物があれば融通させますので、遠慮なく言ってくださいな」


 玉座の間でいちゃもんを付けられたからこそ変な警戒をしていた迅だったが、まさかの感謝のお礼だったことに少しだけ安堵していた。


「ありがたく貰っておく。他は……今は特に無いからいい」


 あっさりと魔法袋と転移石を貰えることになり、更に追加も構わないと言われた迅だったが、もともと自分の能力でほぼ全ての事が出来る迅は特に要望が出るはずもなく、それ以上を求めることはなかった。

しかし、それが逆に良くなかったらしく、フィガラム王が表情を険しいものにさせていた。


「……やはり分からないな。俺の娘たちに目が眩んだわけでなく、財宝にも目をくれず、力を誇示するわけでもない……お前は何を求めている?その強すぎる力を一体何の為に手に入れた?それに、お前は何の為に暗躍する敵を追っている?こっちから聞いてばかりで悪いとは思うが、正直なところ、これ以上娘たちが危険な目に遭うかもしれないなら、お前を娘たちの側には置いておきたくないんだ。だからこそ、お前の目的は何がなんでも聞かせてもらうぞ」


 フィガラム王の疑問は最もであった。

人は誰しも欲深い生き物であり、何かしらの行動には裏がある。

王族だからこそ人よりもその醜い部分に敏感なフィガラム王は、迅からの要求が無さすぎることに訝しんでいた。

そして、そこに与り知らぬ敵の存在がいるとなれば、尚のこと放置しておけなかった。


 一方で、あっさり終わりかと思ってたらいきなり雲行きが怪しくなった迅は、内心で〝えぇ……″とため息をついていた。

するとそこへ、さすがに黙っていられなくなったティアが割って入った。


「お父様!そんな聞き方は彼に失礼です!彼は私たちを助けてくれた方なんですよ!」


「ティア、それにシルフィアも、あなた達は一切口を出さないで。これは私たちの、親として当然の疑問なのよ。あなた達がカンザキさん達と一緒に学院に通い、それと同時にジンさんも入学した。それから短期間でいくつもの問題が起きていて、そこには必ず勇者以上の存在が関わってきている。これがもし普通の生徒であったなら疑いはしなかったわ。でも貴方は違う。遺跡を丸ごと壊すほどの力を持ち、遂にはドラゴンですら倒してしまった。はっきり言って、貴方が何かしら関わっているとしか思えないのよ」


「だが間違えないでほしい。お前は街まで巻き込むほどの爆発を止めた。その事実だけで、ふざけた企みをしている者たちと敵対しているというのはハッキリしている。だからこそ、お前が何か知っているのであれば素直に話してくれ。そうすれば俺が騎士団を総動員させて鎮圧にあたらせるし、お前の目的にも全面的に協力しよう」


 フィガラム王とアスティリアは迅を敵と思っての警戒でなく、迅が追っていると推測している敵の対処の為に問いただそうとしていた。

というのも、ティアとシルフィアの身に危険が迫る可能性もあるし、国内の問題事は国が率先して解決しなければならないからであった。

そんな2人の懸念をしっかりと理解した迅だったが、現時点で敵の詳細は分からないために、肩をすくめて返答するしかなかった。


「せっかくで悪いが、俺も敵の組織についてはさっぱりだ」


「そうか。それでお前自身の事は?」


「俺は気にいらねぇ奴らを叩き潰す為に力をつけただけだ」


「……嘘ではないようだが、真実を話すつもりでもないようだな?」


「覚醒者っていう便利な称号があるからな。組織自体か指導者がはっきりするまでは隠れ蓑にさせてもらうつもりだ」


「なぜそこまで頑なに話さない?お前がそうやってひた隠しにすることで誰かが犠牲になったらどうする?お前のその決断が正しいと、そう言い切る根拠を話せ」


 どうあっても全てを確認するまでは納得しそうにないフィガラム王。

迅としてはこの世界に来た理由から話しても構わないと思ったが、つい最近に繭とした約束を思い返し、〝この場で全ては話さない″と判断した。


「……俺は奴らの黒幕へと繋がる手掛かりを待ってる。それが敵の組織なわけだが、そいつらを芋づるみたく引っ張り出さねぇと、その黒幕はすぐに行方を眩ますんだ。そうなると力ずくであぶり出すしかないが、それまでの被害が大きくなるのは間違いない。俺はそれを防ぎながら動くために話せないんだ。ましてや王族なんか、関わる人間が多すぎていつどこから漏れるのかすら分からねぇからな」


「俺たちの立場ゆえか……だが、お前はすでにかなり目立ち始めている。これでは正体を隠す必要も無いとは思うが?」


「ただの強者である事に意味があるんだ。敵は力そのものを集める事にご執心みたいだからな。効率良く力を集められる素体がいるというのは、敵にとって魅力的だろうよ」


 嘘ではなく真実でもない話し方をし、暗に〝囮になる″と宣言した迅。

しかし、迅が当たり前のように話しているのに対して、フィガラム王はその内容を理解して不安を感じていた。


「……何もかもを1人でやると言うのか?」


「いや、ほとんどのリスクを俺が引き受けるってだけだ」


 フィガラム王からの問いかけに、まるで何でもない事のように軽い笑みを浮かべて返した迅。

その表情や声音からは重責を背負っている事などが微塵も感じられず、フィガラム王から見ても〝本当に全てをやってのけてしまいそうだ″と思わせるほどであった。


「……これ以上なにを聞いても無駄なようだな……最後にあとひとつだけ聞かせろ。お前がそこまで体を張るのはなぜだ?そこまでやって、お前にどんなメリットがある?」


「……目的を果たした人間ってのは、さらに次を狙うか空っぽになるかのどちらかだ。俺は後者にしかなれず、だからこそ理不尽()という存在の全てを終わらせるつもりだった……だが、それを望まない奴らがいてな。あれだけ頼み込まれたら終わらせるわけにもいかなくなって、『気に入らない奴を潰し回る』っていう目的を作ったんだ。……俺自身はもう生きることに固執なんざしてない。だが、俺が死ぬことで悲しむ奴を作るのは本望じゃねぇから、可能な限りは生きてやることにしたんだよ」


 懐かしむように長く語ったあと、清々しくも穏やかな表情を見せた迅。

そこに普段は見せない柔らかさがあり、ティアとシルフィアなんかは揃って驚いていた。


「あくまでも他人の為ということか……お前自身の事はよく分かった。お前のその我儘も特別に見逃してやる。だが、娘たちに被害を出さないという条件を付けさせてもらうぞ。お前のそれがどれだけ崇高な信念を掲げた正義であろうと、それを理由に他人に被害をもたらしては何の意味も無い。いずれそれを理解する時が来るはずだが、それが俺の娘たちに降りかかった時は、どんな地獄よりも辛い目にあわせてやる」


「そんなもんはとっくの昔に理解したうえで覚悟してるさ。だが、そんな事をさせないために俺がいる。くだらねぇ思想を押し付ける理不尽(奴ら)なんざ、理不尽(この俺)が叩き潰してやるよ」


 親だからこそ放てる威圧を受けた迅だったが、先ほどの穏やかな表情が消えて、逆に不敵な笑みを浮かべていた。


「ふっ、随分と頼もしい言葉だな……それで、俺の娘たちはいつも学院でどんな風に過ごしている?」


「……は?」


 話が一区切りしたところで、フィガラム王が突然全く別の話を切り出してきた。

それに対して迅は、あまりにも突然なことに呆けてしまっていた。

そこへ、同じく急な話に疑問を持ったティアが割って入った。


「あの、お父様?学院で起きた事などは手紙でお伝えしたはずですが……」


「確かにそうだがな、他人から話を聞くことも大事だと思うのだ」


「まったく、お父様は心配性ですわ。私たちは何も問題なく過ごしていますわ。ね?ジンさん?」


 真面目に親として心配するフィガラム王に、いたって普通に答えたティアとシルフィア。

そしてシルフィアに話を向けられた迅はというと、一瞬だけニヤリと笑い、腕を組んで考え込むような表情をとった。


「……いや、俺から見た限り、シルフィアは少しやばい気がするな」


「なに?それはどういう事だ?」


「ちょっとばかし看過できない行動が「させませんわ!」おっと」


 迅が話している途中で、シルフィアから無詠唱の空気弾が放たれた。

それを首を傾けて躱した迅は、無表情を装いながらシルフィアに顔を向けた。


「いきなり何すんだよ?」


「ジンさん、いま絶対に余計なことを言おうとしましたよね?」


「酷い言いがかりだ。俺は嘘をつくつもりなんてないのに」


「そうでなくても真実を曲解させるつもりでしょう!私はあなたが少しだけ笑ったのを見ていましたわ!その顔をした時はいつも私を辱めるじゃないですか!」


 親に自分の醜態を聞かせまいと必死なシルフィア。

しかし、シルフィアが迅に対して文句を言ったところで、その内容に危機感を覚えた迅が焦りはじめた。


「ちょっ、バカお前、少しは言い方を―――」


「俺の娘を辱めたとはどういう事だキサマァッ!」


 慌てて止めようとしても時すでに遅し。

シルフィアの言葉にピンポイントで反応したフィガラム王が怒り心頭で立ち上がり、迅に指を突きつけて問いただした。

その様子からは、返答の仕方次第で飛びついてくるのが目に見えていた。


「あぁもう、なんて面倒な……」


 珍しく失敗したと痛感している迅は手を頭に当てると、どうやって穏便に済ませるか悩み始めたのであった。

さて、近況報告なのですが、本職の新しい部署があまりにも忙しく、土日でさえも出勤せざるを得なかったりで、なかなか執筆活動が出来ませんでした。

もちろん、これからもその状態が続くわけなのですが、できるだけ早めに投稿が出来るように頑張っていきます。

なので大変申し訳ありませんが、これからも長い目でお待ちいただけると有難いです。


感想やレビュー、評価などをお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。