北から王都へ
〈北宮殿〉
時は遡り、北の領主であるフォディッチの妻、ミラニアとの会談を終えた迅は、北宮殿に戻って一晩を明かしていた。
その際に、先に戻っていたイリスとエリス、さらにはシルフィアからも詰め寄られていたが、いつも通りに振る舞ってのらりくらりと躱していた。
ただ、ドラゴンを倒した事だけは包み隠さずに話し、それと同時にフォディッチは〝ドラゴンに殺された″と伝えていた。
片やティアたちの方はというと、迅たちが帰ってくる前日に、馬で移動をしていた護衛たちが到着していた。
普通ならばあと1週間ほどはかかるはずであったが、王都から転移石を使って西の学院に戻り、咲恵から教えられて北セントレアへと転移していたゴール副部隊長が迎えに行ったことで、予定よりも断然早く到着していた。
ちなみに、なぜ護衛でしかないゴールが貴重な転移石を躊躇なく使ってるのかというと、端的に言えば国王の命令であった。
というのも、『娘たちが気軽に王都へ帰って来れるように』という、父としての気遣いであった。
その背景にはただの親バカというだけでなく、つい最近になって転移石と転移鉱石がよく見つかるようになったというのもあった。
そんなわけで、国王は国庫にあった半分ほどの転移石と転移鉱石をティアたちに送っており、それを受け取ったティアは躊躇うことなく護衛の為に使ったのであった。
ようやく勢揃いして休息もとった一行は、『帰る』という一報を受けて集まった北の学院の面々から見送りをされていた。
ただ、トンチンカンの三兄弟とカグニースは〝問題を起こすかも″というルイーナの考えで、学院の留守を任されていた。
「皆さん、今回はわざわざこちらまで出向いていただき、ありがとうこざいました。また機会があれば是非ともお越しください」
「こちらこそありがとうこざいました。その時はまた模擬戦をさせてください」
「次はもう俺抜きでやってくれ。わざわざ弱い奴に合わせてやるなんざ御免だからな」
それぞれの代表としてルイーナと和輝が挨拶をしているところへ、今までの刺々しい様子が抜け落ちている北沢が怠そうに口を出した。
その言葉には圧など込められてはいなかったが、それでもこの場の空気を凍らせるには充分であった。
誰もが口を噤んでしまうなか、それをまるで気にしていない北沢に、はっきりと怒った様子のルイーナが詰め寄った。
「もう、会長。口が悪いですよ。……もしかして、私を誘ってるんですか?その悪い口を早く塞いで欲しいからわざとそんな事を言って……はっ!だとしたら今までの冷たい態度も私へのアピール?もう!それならそうと言ってくれれば良かったのに!」
「いきなり訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ!頭沸いてんのか!」
「安心してください、会長。私はいつでも準備万端ですから。では、その欲望のままに私を貪ってください!」
「頼むからもう黙ってくれ……」
唐突に始まったルイーナと北沢の掛け合い。
その暴走気味のルイーナに押されている北沢という光景を見て、迅以外の者たちは全員が口を開けて驚いていた。
そして、唯一固まることのなかった迅は、自分の用を済ませるために北沢とルイーナへ近付いていった。
「おい、夫婦漫才はそこら辺にしろ」
「この野郎……たった一度勝ったくらいで調子に「ほらよ」……それは……」
迅から心外なあだ名で呼ばれた北沢がキレかけたが、それすらも無視した迅が差し出してきた物を見て、怒りも忘れて固まった。
その驚いた様子の北沢の目の前に差し出された物は、掌いっぱいの大きさを持つガラス瓶であった。
そのガラス瓶の中には緑色に発光している玉が詰め込まれており、見る者を魅了してしまうほどの優しい光を放っていた。
「追加で作っておいた飴だ。お前は『ダメ』って言ってもあの力を使うだろうからな。どうせなら完璧に使いこなしてみせろ」
ガラス瓶を差し出しながら、ニヤリと笑みを見せる迅。
実はこの飴玉は、今朝方に作り上げたものであった。
というのも、ルイーナの想いに応えて北沢の考えを改めさせたのはいいが、自らの体を壊してしまう『身体強化』の件が残っており、北沢の性格からして使い続けるであろうことは容易に想像できる。
そうすると、北沢はそう遠くないうちに副作用によって命を落とすだろう。
そうなればルイーナの想いが無駄になり、勇者という戦力を残したい迅にとっても大きなマイナスとなる。
だからこそ、辞めさせるのではなく成長させる為の飴玉であった。
最強の一種である『龍神化』、その真髄たる『完治』という概念の力によって作り出されたその飴玉は、ただ舐めるだけで様々な回復効果を発揮する。
なので、たとえ体を壊し続けたとしても、手遅れになる前に治すことができるのだ。
だが、結局はリスクを除いただけであり、迅の飴玉が無くなれば同じことである。
ゆえにここから先は北沢の頑張り次第なのだが、迅に発破をかけられた北沢は不敵な笑みを浮かべた。
「……ふん、当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」
北沢がそう言いながら受け取ろうとしたところで、瞬時に横から伸びてきた手によってガラス瓶は持っていかれてしまった。
「……おい、ルイーナ。それは俺のだぞ?」
「会長はよく物を無くすので私が管理しておきます」
北沢が犯人であるルイーナにジト目を向けながら問い詰めると、ガラス瓶を胸に抱いたルイーナは答えながら後ろを向いてしまった。
その時のルイーナは頬を染めてニヨニヨと笑みを浮かべていたのだが、ちょうどその方向にいたラムスしかその表情を見ることはなかった。
北沢はルイーナが何の為に飴玉をパクったのか見当がついていたが、イラッとはしても力ずくで奪おうとはしなかった。
というのも、迅によってルイーナたちがそれなりに大切である事を自覚させられたことで、ルイーナたちに対して力を振るうことに躊躇いが生まれていたのだ。
だからこそルイーナから取り返すのを早々に諦めた北沢は、バツが悪そうな表情で迅に向き直った。
「……なぁ、報酬は出すから追加をくれ」
「そこにあるんだから必要無いだろ」
おそらくこの世界で初めて素直に頼んだであろう北沢の願いを受けた迅は、露骨にニヤニヤしながら断った。
それにより、北沢は口もとをヒクヒクさせながら青筋を浮かべた。
「てめぇ……この状況の俺を楽しんでんじゃねぇだろうな?」
「お前にしては気の利く報酬を貰ったよ。末永くお幸せにな」
わざと怒りを買うような言い方をした迅は、後ろを向いて手をヒラヒラとさせながら歩き去ってしまった。
「っ!ざっけんなテメェ!」
身内には出し抜かれ、強者には弄ばれたことで堪忍袋の尾が切れた北沢の怒鳴り声は、山脈中に響き渡っていた。
最後に一悶着あったものの、どうにか北沢たちを北の学院に送り返した一行は、ようやく帰ろうと転移石を用意していた。
「さて、私たちも帰りましょう。……と、言いたいところですが、ちょっと王都に寄ってから帰りましょう」
「王都に?ティア、どうしてまた急に?」
ティアの急な提案に、素直に聞き返す和輝。
「実は王都へ行っていたゴールさんがお父様からの伝言を預かってきたんです。なんでも、〝ようやく時間が出来たから勇者たちに挨拶をしたい″、とのことです」
「そういやぁ、まだ王様とは会ってなかったな。色々とありすぎてすっかり忘れてたぜ」
「ん、ずっと戦ってたような気がする」
「あははは、そうだね」
「ティアのお父さんかぁ……どんな人なのかな?」
「きっと優しい人だよ、お姉ちゃん」
ティアから詳しい説明を聞いた剛たちは全員が前向きであったが、迅だけは面倒そうに顔を歪ませていた。
そんな迅の前に、妙にキラキラとした笑みを浮かべているシルフィアがやってきた。
「おい待て、その顔で何を言いたいのかは察したが、俺は絶対に行かねぇからな」
「うふふふ、観念してくださいな、ジンさん。でないと……『覚醒者として宣伝』、『騎士団総隊長との模擬戦』、『極悪人として指名手配』、いずれも面倒な事態に発展させますわよ?」
「……だんだん手段を選ばなくなってきたな、お前」
おそらくは普段の仕返しも兼ねているのだろうが、さすがの迅も軽く引いてしまうほどの本気っぷりであった。
そして、あとから話そうとしていたティアもやってきた。
「すみません、ジンさん。実はゴールさんに頼んだ手紙の中にジンさんの事も書いておいたんです。覚醒者というのは滅多に現れないものですから、貴族たちに目を付けられる可能性が高いと思いまして。それなら表面上はお父様のお手付きにした方がいいと考えたんです」
「そういう事なら納得だがよ、なんで最初に言わなかったんだ?」
迅から当然の疑問をぶつけられたティアは、目に見えて分かるほどに狼狽していた。
「え、えっと、その……色々あって忘れていまして……」
「…………」
だいぶ苦しい、というよりも全く弁解できていないティアに、無言で責めるような視線を向ける迅。
やがてその視線に耐えられなくなったティアは、普段からは考えられないやけっぱちな仕草で反論を始めた。
「だって仕方ないじゃないですか!サキエさんとの事もありましたし、私は真剣に考えていたのにジンさんがシルに全て話してしまいますし……だから私は悪くないと思うんです!」
ティアの言い分を聞いた迅は思わず納得してしまい、脱力するようにため息をついた。
「……はぁ、こりゃ自業自得だな。まぁ、いいよ。遺跡の時にはもう派手にやっちまってたからな。遅かれ早かれってやつだ」
迅が観念したように頭を掻いていると、両手を腰に当てて胸を張ったシルフィアが、心の底から嬉しそうな満面の笑みを浮かべながらやってきた。
「そうです!それもこれも普段の行いが悪いジンさんの責任ですわ!」
「おい、ここぞとばかりに乗ってくんなよ」
「ふふん!いい気味です!」
「うぜぇ……」
迅に対する仕返しのチャンスを決して逃さないシルフィアの挑発に、イラつきから握り拳を作っても反論することができない迅であった。
「シル、そこまでにしなさい。それでは、さっそく王都へ向かいたいのですが、ジンさんは王都へ行ったことはありますか?」
「いや、まだねぇな」
「そうですか。でしたら今回は転移鉱石を使いましょう。これならジンさんが消耗することはありませんから」
ティアはそう言いながら腰に付けていたポーチ型の魔法袋を漁り、深紅色の宝玉を出して見せた。
そして、転移先の王都をイメージして魔力を注ごうとしたところで、またもやシルフィアが迅に絡んでいった。
「いいですか?お姉様はいくらジンさんでも倒れてしまうかもと心配からこそ、と〜っても貴重な転移鉱石を使用するのです。ですから、お姉様の優しさにしっかりと感謝してくださいな」
両手を腰に当てて胸を張り、これでもかと挑発する言い方であった。
それをイラッとしながら見ていた迅はというと、いつまでも懲りないお姫様を教育するべく、一息ついて心を落ち着かせた。
「……おう、そうだな。どっかの詐欺姫だか陰湿姫だかとは違って本当に頼りになるぜ。ありがとな姫さん」
「っ⁉︎……また……また、言いましたわね……」
迅の口から放たれた暴言に反応し、俯いて体を震わせるシルフィア。
そこへ、〝かかった″と悟った迅が、芝居がかった口調で追加口撃を見舞った。
「おいおい、俺は〝どっかの″としか言ってねぇぞ?なのにそんな反応するとか、やっぱり自覚があったのか?」
「っ!今日こそは滅してやりますわ!」
とうとう我慢の限界がきたシルフィアは、勢いよく迅に飛びつきにいった。
しかし―――
「サラ、セラ」
「はーい!」
「はい」
迅に呼ばれて実体化したサラとセラに抱きつかれ、あっという間に両手を取られて動けなくなってしまった。
「ちょっ!何をするんですの⁉︎」
「何って、こうするんだよ」
「へ?っ!あっははははは!」
シルフィアの問いに対する返答は、体中の弱い部分を狙ったくすぐりであった。
「あははは!やめっ!もうっ、やめてっ!あははははは!」
「お姫様にツンツン顔は似合いませんから、私たちがいい笑顔にさせてあげます」
「もういいっ!もういいですからっ!許しっ!あっははははは!」
シルフィアは目に涙を浮かべながら必至に抵抗していたが、サラとセラの2人がかりの拘束を解くことができず、笑わせられながら倒れ込んでいった。
「はぁ……ジンさん、もうそれくらいにしてあげてください」
「はいよ。2人とも、そこまでだ」
ティアの頼みを聞いた迅の指示を受けて、サラとセラは即座にくすぐっていた手を止めて離れた。
するとそこには、笑い過ぎの影響で汗と涙にまみれた顔を赤くさせ、荒い呼吸をしたままうつ伏せに倒れている見るも無惨なシルフィアがいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……し、死ぬかと、思いましたわ」
「……さて、今度こそ王都へ向かいましょう」
なんとも言えない空気が流れるなか、これ以上の混乱を避けるため、無理矢理にこの場を仕切るティアであった。
〈王都〉
倒れたシルフィアをしっかりと回復させた迅たちは、転移鉱石によるゲートをくぐって王城内へとやってきた。
場所としては中庭に位置する所で、すぐ目の前にはかなりの高さを誇る王城がそびえ立っている。
中庭なので空も見えるのだが、王城側は完全に建物に遮られており、まるで自分が小さくなったのかと錯覚させるほどであった。
ちなみに、王城内では誰であろうとこの中庭でしか転移を許されておらず、だからこそ転移場所を中心に360度すべての方向に兵士たちが控えており、この場の警備は手厚いものにされていた。
ゲートをくぐった迅は初めてだからこそ辺りを見回していたが、この世界に召喚されてすぐに王都を離れることになった和輝たちも初めての光景であり、迅と同じように興味深そうに眺めていた。
「久しぶりに見たけど、やっぱデケェ城だよなぁ」
「ん、たった3日だけとはいえ、メイドさんの案内が無かったら迷ってた」
剛と繭がたった少し前の事を思い返しながら話していると、数人の兵士たちがゆっくりと歩み寄ってきた。
「お待ちしておりました、ティア殿下。陛下からは休んでからでも大丈夫とのお言葉を頂いていますが、どうされますか?」
「ご苦労様です。どうせなら早い方がいいと思うので、このままお父様の元へ向かいます」
「かしこまりました。それでは、勇者様方と覚醒者殿もどうぞこちらへ」
代表の兵士はティアの言葉をすんなりと受けてお辞儀をすると、案内の為に王城側へと歩き始めた。
そして、部下らしき兵士に声をかけて、〝陛下へ知らせるように″と指示を出して伝令を走らせた。
兵士を先頭にして、ティア、和輝たち、イリスとエリス、そして迅とシルフィアの順で通路を歩く一行。
そんな中、迅だけはこの対応のされ方に拍子抜けの気分を味わっていた。
「意外だな。もっとめんどくさい目に遭うと思ってたんだが」
「ジンさんが私たちとそれなりの仲であると知っているというのもありますが、たとえ覚醒者であろうとも問題無いと判断されているんですわ」
迅の疑問に対して、先ほどとは別人と思えるほど普通に答えるシルフィア。
「それは随分と自信満々だな」
「王都の騎士団にはそれだけの実力があるということですわ。しかも、そのトップである騎士団総隊長に勝てた方は1人もいませんから。……お願いですから暴れないでくださいよ?」
「誰がそんな面倒な事をするかよ」
話してて不安になったのかジト目を向け始めたシルフィアに対して、迅は面倒そうな表情を浮かべながら返した。
シルフィアは真意を確かめるように数秒間ジト目を向けていたが、やがて納得して前を向くと、今度は微妙に下を向きつつ話しかけてきた。
「そうは言いますけど、貴方は何かあると率先して動くじゃないですか。……本来なら、北の領主だって私たちに任せてくれればよかったんです」
具体的な事は一切言ってないものの、その核心を突くような言い方にピクッと反応する迅。
しかし、迅がフォディッチを殺してからまだ3日も経っていないので、それを知っているとなれば驚くのも無理はなかった。
「……調べたのか?」
「いいえ、ただの推測です。でも、間違いではなかったみたいですわね」
無表情で前を向いたまま、淡々とハッタリをかましていたシルフィア。
実際にシルフィアが把握していたのは、迅の口から〝領主はドラゴンに喰われて死んだ″と言われた事だけであった。
しかし、普段は迅によく突っかかっているものの、根は優しく聡明であるシルフィアはある結論に辿り着いていた。
それはすなわち、『フォディッチが怒りに任せて迅を追いかけたとしたら確実に殺されるだろう』と。
迅とはある意味で1番長く接してきたシルフィアだからこそ、『敵には容赦しない』という迅の性格を読み取っていたのだ。
シルフィアが度々見せる鋭い推察によるハッタリを受けて、迅は肩をすくめて認めるしかなかった。
「大当たりだ。で、どうする?俺を牢獄にぶち込むか?」
「そんな事はしませんわ。ドラゴンに殺された不幸な方がいただけですもの。だから貴方に罪はありませんわ」
そう言いながら、迅の方へ顔を向けたシルフィア。
その真っ直ぐな瞳には責めるような意志は感じられず、逆にどこか気遣うような優しさを孕んでいた。
「……そうか」
一方で、まさか気遣われるとは思っていなかった迅は少し驚いていたが、やがて笑みを浮かべて前へ向き直った。
1番後ろにいた2人だけのやり取り。
そこには普段から喧嘩している仲だとは微塵も感じられず、逆に仲のいい兄妹のようであった。
もしもティアが見ていたらこう言っていたに違いない、『いつも仲良くしてればいいのに』と。
通路を歩き、階段を登り、やがて装飾が派手になってきたのを実感してきた頃、迅たちは一際大きな扉の前までやってきた。
「こちらです。中に入ったら勇者様と覚醒者殿は中央辺りで立ち止まってください」
「分かりました」
先導していた兵士の指示に、代表して和輝が答えた。
すると、その兵士は懐から小石のような青い宝石を取り出すと、それに魔力を流してから唐突に喋り始めた。
「こちらアゾム、扉前にて準備整いました」
『了解、少し待て。…………よし、お連れしろ』
「了解しました。……ティア殿下並びにシルフィア殿下!勇者様方と覚醒者殿の入場です!」
まさかの通信の為の宝石であった事にティアとシルフィアも含めた全員が驚くなか、アゾムという兵士は宝石越しの指示に従って、中に入る合図として大声を張り上げた。
そして、扉が内側からゆっくりと開かれていき、充分に通れるようになったところで先導のアゾムから入っていった。
続いて、ひとまず驚きを抑えたティアとシルフィアが並んで入り、その後ろに和輝たち勇者組、さらに後ろに迅とイリスとエリスが横一列に並んで歩いていった。
扉をくぐった先はかなり広い空間になっており、左右と天井に使われている煌びやかな結晶が放つ光によって、ほどよい明るさに保たれていた。
壁際に目を向ければ等間隔に赤を基調とした旗が飾られていて、そこに黄色で刺繍されている剣を抱えた女神のデザインがよく映えていた。
その前には家臣であろう者たちが左右に10人ずつ立ち並んでおり、全員が興味深そうな様子で歩く和輝たちを見ていた。
そして、入ってきた扉から伸びるレッドカーペットの先には、ちょっとした段差の上に2つの玉座が設けられていて、左の席には群青色の髪を頭の後ろで結っているおっとりとした女性が、右の席には深緑色の短髪で無精髭を生やした剛毅そうな男性が座っていた。
迅たちが中央らしい円形のカーペットの上で止まると、先導のアゾムとティアとシルフィアは玉座へと歩いていった。
そして、アゾムは段差の手前で止まって横に進み、ティアとシルフィアはそのまま段差を上がっていった。
その2人が通り過ぎたところで、壁際に控えていた兵士たちがまるで玉座を守るように段差の前に立ち並んだ。
しかもそれだけでなく、玉座の斜め後ろには明らかに格が違う様子の金髪と黒髪の男2人が立っていた。
見るからに厳戒態勢のなか、玉座の前までやってきたティアとシルフィアは毅然とした笑みを浮かべ、制服のスカートをほんの少しだけ掴んで一礼をすると、玉座の横に立って迅たちの方へと向き直った。
そして、ここまででようやくひと段落したようで、和輝たちを力強い目で見据えた王が口を開いた。
「まず、今回は私の都合に合わせてもらい感謝する。私はフィガラム・ミロード・セントレア。では、まずは1人ずつ自己紹介をしてもらおうか」
野太いダンディーな声をしているフィガラム王は、まさしくこの国のトップであるという絶対的な風格を見せつけていた。
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