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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
要塞監獄編
66/77

崖っ淵の未来

いよいよ第4章の開幕です。


グロありなのでご注意を。

 〈???〉


 そこは街から少し離れた小山の上、辺りを見渡すにはもってこいのその場所に、街の人々がよく通う神殿がそびえ立っていた。

人々にとっては平和の象徴とも言えるその場所は今、かつてない危機に見舞われていた。


「いいか!何としても持ち堪えろ!決して悪魔どもにこの地を踏ませてはならんぞ!」


「そこの者!一旦下がって休憩しろ!空いた所には回復した者がすぐに入れ!」


 複数人の指示者のもと、慌ただしく人の入れ替えがされていく。

その人が動く先には、およそ50人がかりで神殿の入り口にある結界を作動させていた。

彼らは全員の魔力を使って強固な結界を張っており、魔力切れを起こした者が裏に下がってポーションなどで回復していたのだった。


 では、一体何から守っているのかというと、その結界の外に答えがあった。


 ゴォオッ!


 ギィンッ!


 神殿の者たちが必死に張っている結界に、触れずとも溶かしそうな勢いの()()と、魂すら凍らせてしまいそうな()()が衝突した。

それはたった数回の使用で周りの地形を変えてしまうほどの威力だったが、50人がかりで作られた結界はヒビが入るだけで済んでいた。

しかし、それと同時に10人ほどの魔力が一気に持っていかれてしまい、交代を余儀なくされていた。


「今だ!攻撃隊、構え!」


 指示者の1人に従い、数人の空いている者たちが魔法の詠唱を始めた。


 一方で、何度も高威力の攻撃を放っている2人はというと、大技を使った反動で息を荒げていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……あ〜、もうっ!あの結界硬すぎ!」


「はぁ、はぁ……文句を言っても、仕方ありませんよ……はぁ、彼らだって必死なんですから……」


 (したた)る汗すら拭かずに結界に立ち向かっていたのは、赤いドレスと水色のドレスを着ているサラレスとセイドラだった。

2人はとある目的を果たす為に神殿に入ろうとしていたのだが、それを全力で妨害されているところであった。


「ほんとムカつく!絶対に燃やし尽くしてやるんだから!」


 サラは怒り心頭になりながら剣を取り出し、それを上段に構えて炎の力を溜めていった。

しかし―――


「今だ!放て!」


 まるでその隙を狙っていたかのようなタイミングで、サラに複数の魔法が襲いかかった。

だが、その狙いはあまりにも単純すぎた。


「セラ!」


「『イージス・フロスト』!」


 サラの掛け声とほぼ同時にセラが動き、一瞬にして作り上げた氷塊が魔法を全て防いだ。

そして、セラは魔法を防いだのを確認すると、すぐにサラの視界を阻んでいる氷塊を消した。


「『フレイム・エッジ』!」


 目の前の氷塊が消えてすぐに、サラ特製の巨大な炎の刃が放たれた。


 ズガァン!


 炎の刃は結界に衝突すると周囲に熱風を撒き散らし、その結界を喰い破ろうと激しくせめぎ合った。

しかし、炎の刃はすでに修復していた結界に少しの亀裂を入れたところで弱ってしまい、やがて霧散してしまった。


「はぁ、はぁ……これでも破れないなんて……」


「サラ、下がって少し休んでてください。ここからは私がやります。交互に攻撃を続けていればいずれ突破出来るはずです」


「そんな呑気なこと言ってられないでしょ!早くしないと……このままだとジンが!」


 力と時間を消耗していくだけというのも相まって、どんどん焦りを募らせていくサラ。

一方で、表向きは冷静でいるセラも、内心ではこの変わらない状況に対してイラついていた。


 ほんの少し前までは平和の象徴とされて人々の安寧の地となっていたその神殿は、黒煙と共に立ち昇る火炎と悪魔的な冷気を放つ氷塊に囲まれて、この世の地獄にしか見えない場所へと変貌していた。




 〈???〉


 そこはとある廃村、長い戦争の時代に戦火に巻き込まれてしまい、朽ちた建物しか残っていない場所である。

そこは今や近くにすら人が寄らない訳だが、それを利用して野盗どもが住処にしていた。

そんな物騒でしかない忘れられたその地に、この場に似つかわしくない学院の制服を着用している4人の女の子と、それを取り囲む大勢の男たちがいた。


「ふっ!」


「はっ!」


「ぐぁっ⁉︎」


 その内の2人であるイリスとエリスは、双子らしいコンビネーションで不衛生な男の1人を倒した。


「『アクアニマ』!」


 キュイン!


「ぐっ!」


「ぎゃっ⁉︎」


 もう1人のティアは杖から高威力の水鉄砲を飛ばし、複数人の体を貫通させて倒していた。


「『フォース・クラティア』!」


 ズドドドォン!


「「「ぎゃああああっ!」」」


 最後の1人、シルフィアは男たちが放とうとしていた魔法の力そのものを操り、他の魔法を使おうとしていた男たちに命中させて効率よく倒していた。


「ひひひ、随分と粘るじゃないの嬢ちゃんたち。でもいいのかい?そんだけ暴れると俺らにとっ捕まった時に酷い目に遭うぜ?」


 次々と倒されていく仲間を見ておきながら、男たちの1人が下卑た笑みを浮かべながら話しかけた。

人によっては不快感を顔に出してしまうところだが、どこまでも冷静なままのティアは冷たい目で睨み返していた。


「それはこちらのセリフです。王族(私たち)をこんな所に連れてきて集団で襲うなんて、きっと重い刑でも済まされませんよ?」


「お姉様の言う通りですわ!いっそ死んだ方がマシと思うほどの仕打ちをしてやりますわよ!」


「「そうだそうだ!」」


 ティアに続くようにして、シルフィアとイリス、エリスの3人が怒りのままに怒鳴っていた。


「ひひひ、誰も助けに来れないってのに随分と強気だねぇ。まさか本当にたった4人で俺ら100人を潰せると思ってんのかい?」


「ええ、そのつもりです。できれば早めに投降する事をオススメします。『コリエンテ』!」


 ティアはたった一言で4人を中心にした360度の津波を呼び出し、囲んでいる男たちに向けて放った。


 ザパァン!


 その津波は周りにいる男たちを呑み込んで拡散していくはずだったが、急に波の向きが変わり、逆にティアたちに向かって戻ってきた。


「っ⁉︎くっ!」


 ティアはまさかの結果に驚いたものの、急いでその津波自体を消し去った。

そして、その津波が消えた先には、360度に張り巡らされている土の壁が立ちはだかっていた。


「……そういうことですか」


 ティアは自身の津波が操られたのではなく跳ね返されたのを悟り、目を細めて警戒心を高めた。


(早く王城に向かってお父様に会わなければならないのに、なんて面倒な)


 ティアが決して顔には出さずに焦っていると、囲んでいた土の壁が消えて、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている男たちが出てきた。

しかも、その片隅にはせっかく倒した男たちを回復している者がおり、それを囲うように守っている者もいた。


「ひひひ、甘いよお姫様。俺らだって戦い慣れてんだ。しかもこの人数、一体どれだけの能力が揃ってると思ってんだい?」


 男の自信に満ちた声に続くかのように、囲んでいる男たちは高笑いしだした。


(この野盗たちも誰かに使われている。まさかここまで用意周到だなんて……とにかく、早くここを抜け出さないと、このままではジンさんが……)


 ティアはついつい最悪の展開を考えてしまう頭を横に振ると、この場を切り抜ける為に必死に思考を巡らせていった。




 〈???〉


 そこは普段からかなりの賑わいを見せる港であった。

その港では毎日のように屈強な男たちが漁をする為に出向いており、この日は久しぶりに漁を行えるということでいつも以上に気合が高まり、見ている者が暑苦しいと思うほどの熱気を伴って準備をしていた。

だが、その港を出港できた者は1人もおらず、逆にその場から避難を余儀なくされていた。

なぜなら、その港のあちこちに無数の魔物が出現したからであった。


「『雷刃』!」


 ()()()()()()が僅かに電撃を纏い、そのまま恐ろしい速さで振り抜かれ、そこにいた狼型の魔物は爆散して半液体状になって飛び散った。


「神崎くん!それだと飛び散ったモノを浴びてしまうぞ!もっと鋭く、斬り裂くようにやるんだ!」


「はい!」


 魔物の大群の中でも落ち着いて立ち回っている咲恵は、自分に迫ってきた3体の狼を両断しながら和輝に声をかけた。


「くそっ!俺が1番足手纏いじゃねぇか!」


「ん、でも相性が悪いから仕方ないよ」


「八木沼くん、絶対にこの結界から出ちゃダメだからね」


 和輝たちから少し離れた所では、凛の風の防御壁の中からチマチマと魔法で攻撃している繭と剛がいた。

そのなかでも剛は魔法が得意ではなかったので、魔物の討伐数はダントツで低かった。


 ではなぜ外に出て戦わないのかというと、今回の魔物が特殊すぎるからであった。

というのも、この場に出現した狼や熊といった様々な動物の姿をした魔物たちは、体が総じて紫色で見て分かるほどにドロっとしており、その体からは毒素が立ち昇っており、加えて目は赤黒く不気味に光っていた。

ここまでで分かるように、実はこの魔物たちは全て毒で出来ているのだ。

だからその体の一部に触れてしまった冒険者は1人残らず毒に蝕まれており、さらに離れた所で麗奈と柑奈に治療されていた。


「『光精霊の聖光よ、かの者に癒しを、ヒーリングライト』」


 麗奈が唱えた光属性の回復魔法が、毒によって溶けてしまった部分を逆再生するように癒していった。


「柑奈、この人の傷は塞いだからあとはお願いね」


「うん!任せてお姉ちゃん!」


 麗奈は毒にやられた男の傷だけを治して柑奈に引き継ぎ、他の冒険者を癒しにかかった。

そして柑奈は、肝心の毒を消す為にとある緑色の果実を半分に切ったモノを用意し、毒のせいで意識を失っている男の口の上で、その果実を両手で潰すようにして果汁を垂らした。


 実はこの果実は、柑奈の魂剣(ソウルアーツ)の力によって一から成長させた樹木の果実であった。

これは柑奈自身が見つけた偶然の産物であり、この果実は最初に込められた(イメージ)によって効果が変わるものであった。

今回は毒を消してくれるモノをイメージしたところ、緑色のレモンのような形をした果実になったのだ。


「これでよしっと」


 果汁を飲ませ終えた柑奈は、麗奈の治療が終わった他の冒険者たちの元へと向かった。


「やっぱり勇者様は凄いわね。果実も作れる能力だなんて初めて聞いたわ」


「本当になんでもアリですね、勇者って」


 この治療をしている一角のそばでは、ノエルとミーナが勇者としての力に驚いていた。

ちなみにこの2人は咲恵たちが討ちもらした魔物を迎撃する為にいるのだが、今のところは仕事が全く無い状態であった。


「とりあえず慌てるほどではありませんが、あの魔物はいつまで湧き出てくるんでしょうか?」


「そうねぇ、どこかに魔物を召喚している者がいるはずだけど、辺りを捜索してもらってる冒険者たちからは何も報告がないものね」


 困ったように話す2人と同じように、現状を打開する手を打ちあぐねているのはこの場の全員が察していた。

というのも、魔物自体の強さは大したことはない為、体に触れられないように戦えば問題は無い。

しかし、いくら倒しても次から次へと現れる魔法陣から這い出てくるのだ。

これが固定されている魔法陣ならばそれを壊せば終わるのだが、出現する時にしか発生しないタイプなので、まるで終わりの無いモグラ叩きをしている状態であった。


「せいっ!」


 ザン!


 また一体、和輝のゼヴォルスによって両断され、地面のシミと化した。


「くそっ!本当にキリがない!すぐにでもここを出港したいのに!」


「それは私も同じだが、ここで焦ってヤケになってはいけないぞ、神崎くん」


 どこか焦りを見せながらも斬り伏せていく和輝と、危なげなく冷静に立ち回る咲恵。

しかし、今の和輝にとって咲恵の忠告は逆効果でしかなく、和輝はギリッと歯をくいしばった。


「それは分かってますけど!この場で足止めをされている間にも、いつジンが殺されてしまうか分からないんですよ⁉︎」


「だからと言ってこの場を放置するわけにもいかない!今は他の冒険者が本命を見つけるまでケガをしないように冷静でいるんだ!」


「くっ!」


 未だに感情のままに動きそうになる和輝を、咲恵が一喝して(たしな)めた。

するとそこへ―――


「おやおや、私の『毒獣(どくじゅう)』たちをここまで倒してしまうとは。流石は勇者様と言ったところですかねぇ」


 ()()()ゆっくりと降りてきた神官服の男が、空中に留まりながら話しかけてきた。


「っ!まさか……この魔物たちはあなたが⁉︎」


「この状況……どうやら間違い無さそうだな……」


 まさかの人物が現れた事に驚く和輝と、この場に余裕を見せながら現れた事に警戒する咲恵。

そして、後ろの方にいた繭たち、周りの冒険者たちも意外な人物が現れた事に驚いていた。

それぞれの視線を一身に受けた男は、フードの奥で左頬のタトゥーと紫色の瞳を光らせながら、ニヤリと嫌な笑みを浮かべていた。




 〈???〉


 各地で必死の戦いが続いている頃、この地ではまるで毎朝の小鳥の鳴き声のごとく、日常となっている()()が響き渡っていた。


「ぐわぁあああっ!」


「ひぎゃぁあああっ!」


 その悲鳴の発生源である男の1人は、黒い十字架に磔にされながらの長い拷問によって、昼夜を問わずに悲鳴を上げていた。

その体にはいくつもの青アザや斬り傷があり、顔もあちこちが腫れ上がってしまっていた。

そして、その磔にされている男を、ニタニタと嬉しそうに見ている軍服の男がいた。


「ハハハハハ!いいぜ!もっといい声出してみろやオラァ!」


 狂気の笑みを浮かべている軍服の男は、持っていたこん棒のようなもので男の右膝を思い切り殴りつけた。


 グシャッ!


「あがぁあああっ!」


 えげつない音を立てたその膝は完全に潰されてしまい、その想像を絶する痛みによって男は再び悲鳴を上げた。


「おっとわりぃな!つい力んで潰しちまったよ!ほれ、『ヒール』っと」


 大した腕もない軍服の男の回復魔法により、男の足は中途半端に治されてしまった。

これにより、逆に鈍い強烈な痛みが生じるのだが、もう何時間もそれ以上の痛みを受け続けている男は、それくらいでは気にしないほどになってしまっていた。


「……だ、だの、む……もゔ、やべ……やべで……ぐれ……」


 男は涙をボロボロと零しながら、叫びすぎてガラガラの声で必死に懇願した。

それに対して軍服の男はというと、ニタァと更に笑みを深めるだけであった。


「はははは、やめて欲しけりゃとっとと本当の事を言っちまえよ。そうすりゃすぐラクになれんだぜ?」


「だ、だがら……おれは……やっで、ない……」


「……はぁ〜あ、本当に頭の悪い奴だぜ。てめぇは罪人だからこそここにいるんだぜ?嘘をつくのも大概にしろっつってんだよ!」


 男は懸命に主張したものの、それを全く聞き入れない軍服の男は再びこん棒で腹を殴りつけた。


 ボグッ!


「おぼっ!……げほっ!おえっ!」


 先ほどよりは弱められていたものの、とっくに抵抗する力すらも失っている男には充分強烈であり、男はたまらず嘔吐してしまった。


「ハハハハハ!大変だろうからと朝食を豪華にしてやったのによ!それを全部吐き出しちまいやがった!」


 これだけ無残に痛めつけていても、軍服の男は高笑いするだけであった。

しかし、それでもまだ足りないのか、軍服の男は再びこん棒を構えた。

するとそこへ―――


「いつまでもうるせぇんだよ。少しは静かにできねぇのかよ」


 ドスの効いた声が強烈な殺気と共に響いた。

それをピンポイントで浴びた軍服の男は一瞬で怯み、こん棒を構えたままで動きを止めた。


「な、なんだテメェ!囚人のくせに、俺様に向かってナメた口きくんじゃねぇ!」


「随分とつれねぇなぁ。てめぇらが俺をここに招待したんだろうが。だったらしっかりと歓待しろよ」


 どこまでも不遜な態度と威圧の篭った声であった。

それによって更にビクつく軍服の男が見る先には、一際デカい十字架に()()()()()()()迅がいた。

しかし、意識はハッキリとしてギラつく眼光をしている迅だったが、対照的に体のあちこちにはいくつもの傷がついていた。

今まであらゆる強敵をも倒してきたその肉体はかなり強靭なはずだが、それを感じさせないほどにボロボロになっていた。


「な、なにが歓待だ!いいか?テメェはかつてない罪人としてこの場にいるんだ!分かったらそこで大人しくしてやがれ!」


 怒鳴り散らす軍服の男に対して、じっと殺意を込めて見つめ返す迅。

しかし、軍服の男は確かに怯むものの、迅が磔にされている事で強気のままなのは変わらなかった。


「は、ははは、そんな目で見てこようが関係ねぇさ。そんな状態で俺に危害を加えられるはずがねぇんだからな。おい!結局は口だけの雑魚が!そんな無様な姿を晒してねぇで、悔しかったら反撃でもしてみろってんだ!」


「反撃してもいいのか?」


 軍服の男の言葉を聞き、ニヤリと笑みを浮かべて問いかける迅。

それに対して自分が優位であると理解している軍服の男は、その問いかけに高笑いをしてから答えた。


「ハハハハハ!やれるもんならやってみろよ!」


「……じゃあ、遠慮なく。『魔力結界』」


 迅がポツリと唱えた直後、軍服の男の頭上に白く発光する魔力の塊が現れた。


「……へ?」


「じゃあな」


 軍服の男が呆けながら上を見上げた直後、その魔力の塊はとてつもない勢いで軍服の男に向かっていった。


 ズドォン!


 迅が辺りに粉塵を撒き散らした『魔力結界』を消すと、そこにはちょっとしたクレーターと、軍服と血溜まりしか残っていなかった。


 微量でしかない魔力を使って一息ついた迅だったが、少しばかり息を荒げるほどに消耗していた。

しかも、よく見れば普段からは考えられないほどに汗をかいており、よほどの疲労が溜まっているようだった。

それでも迅が少しずつ息を整えていると、コツコツと足音が聞こえてきた。


「やれやれ、あれほど1人で近付くなと言っておいたというのに、やはりここの人間は頭のネジが外れてしまっている」


「てめぇ自身はまともみたいな言い方してんじゃねぇよ。ここのトップであるてめぇが1番狂ってるに決まってんだろうが」


「えぇ、あなた様の言う通り、こんなやり方しか出来ない私が1番狂っていますね」


 あまり抑揚のない声で話しながらやって来たのは、疲れ切ったサラリーマンのような男であった。

迅の目の前で立ち止まった男は、部下を殺されたというのに表情を一切変えていなかった。


「……そんな事は微塵も思ってなさそうな表情だな」


「何をおっしゃいますか、これでも私は日々悩んでいるのですよ。変えようとしても変わらないこの現状に……ですが、あなた様がここに来られたことで、ようやく私の念願の変化が起こせそうです」


 そう言って、目を閉じて右手を胸に当てる男。

その仕草からは確かに何かの想いがある事を(うかが)えるのだが、相変わらず声の抑揚がなく、しかも目を開けば何も考えていなさそうな無表情である為、ただの演技のようにしか見えなかった。


「そうかよ。それで何の用だ?てめぇは無駄な事をしないんだろ?」


「これは失礼しました。それでは本題ですが、つい先程、あなた様の首を()ねよとの指示がありましたので、わざわざ私が出向いたというわけでございます」


「…………」


 淡々と告げられた死の宣告に対して、迅は表情を険しくさせて睨み返していた。


 ここは大海原に囲まれた孤島にある施設。

しかし、人々の中で知らない者はおらず、唯一この場所の内情を知る貴族たちからは恐怖の対象として知られている。

たとえどんな強者や権力者であろうとも心を折られ、身を壊され、自らの潔白が晴れたとしても別人となって帰ってくる。

加えてここには気の狂った屈強な看守たちと、外敵を排除するための兵器と砦が存在しており、いつからかこの様相をなぞってこう呼ばれていた。

罪人の墓場、【要塞監獄】と。


 磔にされたまま幽閉されている迅は、〝なぜこんな事になったのか″と、つい2、3週間前のドラゴンを倒した頃まで記憶を思い返していった。

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