結果とケジメ
第3章のエピローグとなります。
最後の方にちょいグロ有りなのでご注意を。
〈ソルマール村〉
世界最古の最強の龍、『カース・ロード・ドラゴン』を倒した迅たちは【ソルマール村】に戻って報告したあと、一晩経てから街に戻ろうとしていた。
今は村人総出の見送りを受けているところだが、【龍神化】した迅の力によって『呪い』から解放された村人たちは、誰もが心の底から湧き上がる笑顔に包まれていた。
そして今はその村人たちに囲まれながら、村長であるカンズと迅が話し込んでいた。
「この度は村を救っていただき、本当にありがとうございました。本来ならば、何かお役に立てる物でも渡せれば良かったのですが……」
「報酬はギルドで貰えるからべつにいらねぇよ。あ、そうだ。村長さんに渡した魔法袋はあとから来る奴に渡しといてくれ。あれはギルドの備品だからな」
「分かりました。それと、あの2人なのですが、是非これからも面倒を見てやってください」
「ああ、俺が責任持って強く育ててやるさ」
そう言って迅とカンズが揃って温かい視線を向けた先には、イリスとエリス、それとユリが少し離れた所で話し込んでいた。
「イリスお姉ちゃん、エリスお姉ちゃん、2人とも行っちゃうの?」
「うん、だって私たちは師匠の弟子なの」
「だから、これからもずっとついて行くの」
悲しそうな表情で話すユリに対して、ニッコリとした笑顔で返すイリスとエリス。
ユリは小さい頃2人によく遊んでもらっていたからこそ、久しぶりに会えたのにすぐお別れになる事を悲しんでいた。
しかし、目の前で全く陰りのない笑みを見せられたユリは、〝2人に気持ち良く出発してもらおう″と思い、目に涙を溜めながらも微笑んでみせた。
「……分かった。でも、またいつか会えるよね?」
「「当然なの!」」
「だって、ここは私たちの故郷なの」
「だから、またいつか帰ってくるの」
いくら笑みを浮かべていてもまだ不安であることが伺えるユリに対して、イリスとエリスは優しい声音でハッキリと告げて、最後に2人でユリの小さな体を抱きしめた。
「……うん……絶対だからね……絶対に約束だよ?」
ユリは必至に〝泣かないように″と堪えながら、イリスとエリスの心地よい温もりに目を閉じた。
「イリス、エリス、そろそろ行くぞ」
「「はいなの!」」
迅に呼ばれるまでの長いようで短い別れの抱擁を済ませた2人は、笑顔を一杯に咲かせながら迅の元に駆け寄った。
〈北セントレア〉
活気盛んな喧騒が響く【北セントレア】。
その街を囲う頑丈で巨大な外壁の外の一角で、転移による赤い魔力光が輝いた。
一瞬とも言える輝きが収まると、そこには迅とイリスとエリスの3人が佇んでいた。
【ソルマール村】で別れを済ませた3人は、行きとは違って【転移石】を使って戻ってきたのだ。
そして、迅たちは外壁の正門から街に入ってすぐの所で立ち止まった。
「イリス、エリス、ギルドへの報告は2人で行ってくれ。俺はちょっと別の用事を済ませてくるからよ」
「師匠、別の用事って?」
「領主の屋敷に行ってくる。2人はギルドへの報告が済んだら北宮殿に戻っててくれ」
特に気にした様子もない迅の一言。
しかし、領主の末路を目の前で見ていたイリスとエリスは、迅が領主の件を1人でカタをつけに行くのだと察し、揃って心配そうな目を向けていた。
「……師匠、1人で行くの?」
「まぁな、俺がやった事のケジメをつけに行ってくる。とは言ってもただ話をしてくるだけだから、そんな心配しなくてもいいぞ。遅くても昼飯までには戻るからよ」
「「……分かったの」」
いつもと変わらない様子で言い切った迅を見たイリスとエリスは、渋々といった感じで納得してからギルドへと向かっていった。
そして、迅も領主邸を目指して歩きはじめた。
その後、イリス、エリスと別れた迅は領主邸を正面から訪問し、とくに何事もなくすんなりと客間に通されていた。
ホクラービを殺した時の迅は『龍神化』になっていたので、別人だからと警戒されないのは分かる。
だが、主人が亡くなったにしてはあまりにも動揺した様子が皆無であった。
そのため、〝何か罠でも?″と訝しんだ迅だったが、それ特有の緊張感も感じられず、いよいよどういう事なのか分からずにいた。
迅が様々な可能性を模索していると、兵士2人を引き連れた紫色で長髪の女性がやってきた。
おそらくこの女性こそが領主の妻なのだろうが、手入れをしっかりしているのかシワの一つもなく、それなりに若い印象の女性だった。
「モリガーさん、しばらくこの部屋に誰も近付けないでもらえますか?少し込み入った話をしたいのです」
「しかしミラニア様、それでは御身をお守りする事が出来ません」
「ティア殿下の話によればこの方は覚醒者です。だからもし最初から危害を加えるつもりなら、私たちはすでに殺されていますわ。そうでしょう?」
「……承知しました」
ミラニアの優しい口調に諭された兵士は悔しそうにしながらも納得し、大人しく部屋から退室していった。
そして、ミラニアは兵士を見送ってから着席し、迅と向き合った。
「では改めまして、私はミラニア・ホクラービと申します」
「俺は迅だ。急に訪ねたのに時間を作ってもらって悪かったな」
「いえ、お気になさらず。あの映像を見てから近いうちに何かしらの接触があるとは思っていましたので。でもまさか、正面から堂々とは思いませんでしたけどね」
まるで正体を知っていると言わんばかりの口ぶりであった。
迅としてはこれが推測からのカマかけなのか、はたまた何かしらの手段で突き止めたのかは疑問であったが、今回に限ってはそこまで気にする事でもなかったために、それを問い詰めようとはしないですぐに本題へ入ろうとした。
「映像を見てるんなら話は早い。俺がここに来たのは「その事なのですが」ん?」
迅が話しているところへ、ミラニアが若干強張った表情をしながら遮った。
「話の内容は大体察しがついています。ですが、どうかこれだけは約束してほしいのです。私はどうなっても構いません。ですから、息子のフォルマーだけでも生かしてほしいのです」
ミラニアは膝上でぎゅっと握り拳を作りながら、決死の想いを秘めた目を迅に向けて訴えた。
しかし、まったく見当違いの話をされた迅はというと、珍しく困惑顔になっていた。
「待て待て、全く察しがついてないぞ。俺は誰かを殺すためにここに来た訳じゃない」
「……違うのですか?私はてっきり、あの映像にいたお方と襲撃されるものだと……」
迅のはっきりとした否定を受けて、安堵しながらも驚くミラニア。
それも仕方のない事で、いくら貴族で私兵を持っているとは言っても、彼らの総力だとせいぜい北の魔物一体に善戦出来るというレベルでしかないのだ。
そんな者たちではドラゴンを倒せるほどの実力者に勝てるはずはなく、それをよく理解していたミラニアは、これ以上の不興を買って刺激しないようにと動くしかなかったのだ。
だからこそ、この屋敷にいるミラニア以外の者たちは映像の事すら知らないのだった。
「あの映像を見た奴は他にいるのか?」
「いえ、あれは私しか見ていませんし、他の誰にも話していません」
「そうか……俺がここに来た目的は単純だ。あんたの旦那が死んだことで不幸な目に遭う奴は減った。だが、その代わりに残された家族であるあんた達が不幸を被ることになった。だからその怒りを受けに来たんだ」
「私たちの怒りを受けに?……なぜ、わざわざそんな事を?」
迅の目的に対して当然の疑問を問いかけるミラニア。
「俺は全ての不幸をなくす為に存在しているつもりだが、そんなのは所詮ただの理想だ。結局はどこかにそのシワ寄せがいく。だが俺は、仕方ないからと言ってその少数を切り捨てるなんざしたくない。だからこそ、せめて自分がやった事の責任を取るのが最低限のスジだと思ってる」
迅の目的が悪神を倒すことなのに変わりはないが、目の前の理不尽を放っておくわけでもない。
だが、不思議なことにその理不尽に救われた者がいるのも確かなのだ。
だからこそ、迅は理不尽を倒して〝はい終わり″というのはしない。
関わっていた全ての者たちとまではいかないが、迅が把握できた者たちに限っては必ず何かしらの責任を取ってきたのだ。
人によってはただの自己満足と捉えるかもしれないが、これは迅自身が1番嫌いな理不尽にならない為でもあるのだ。
「なるほど、それで私たちの怒りを受けるという結論に……ふふっ、貴方はとても不器用な方なんですね」
迅の言葉からその意図と気持ちを察したミラニアは少しだけ思案した後、迅の以外な性格を目の当たりにして笑みをこぼしていた。
「それは他の奴にも言われた事はあるが、全力で否定させてもらうぞ。俺は自分の1番嫌いな理不尽になりたくないだけだ」
「……分かりました。そういう事なら、私の言葉を素直に受け止めてもらいます。……結論から言いますと、今回の件で貴方に責任を取らせるつもりはありません」
「……それが本当に本心か?」
念を押すように確認してくる迅に対して、つい苦笑いをするミラニア。
「言ったでしょう?『私の言葉を素直に受け止めてもらう』と。そもそも私たち貴族は、国王と共に国を支える為に存在しています。なのに私の夫はその意味を履き違え、守るべき民に理不尽を働いてしまった。だから全ては自業自得の事なのです」
「それで納得してんならいいが……あんたは知ってたのか?自分の旦那が何をしてたのかを」
「いえ、今この屋敷にいる者たちは誰一人として知りません。ですが、噂自体は耳に入っていました。夫が連れて行った一部の兵士と護衛、それと複数の貴族たちが関わっているものを……でも、私はそれを確認すらもしないで目を瞑ってきました。なので本来ならば夫を止める事が出来なかった私も同罪です。だからこそ、あの映像の方に襲撃されるものだと思ってました。でもせめて、何も知らない我が子だけは見逃してもらおうと、その想いだけを一心に不安な夜を過ごしていました。でも、映像の方の代わりにやって来たと思われた貴方が、まさか私たちを気に掛けてくれるとは夢にも思いませんでした」
そう言って、安堵の笑みを浮かべるミラニア。
今の彼女にとっては、関係者だからと皆殺しにされなかっただけでも御の字と捉えていた。
「まぁ、俺はやった当人にしか手を出さない主義だからな。勘違いさせたようなら悪かったよ」
「それは構わないのですが……その口ぶりだと、もしかして貴方が映像に映ってた方ですか?」
「ああ、そうだ。あれは自分の能力を使って変身した姿だ」
「なら、岩だらけの荒地が緑でいっぱいになったのも?」
「俺の力で死んだ大地を復活させた結果だ」
ここまで立て続けに質問をしていたミラニアだったが、ここで恐る恐るといった感じで次の質問を投げかけた。
「……その力は人に作用しないものなんですか?」
「いや、人にも効くが、死んだ者には作用しないようにしてる」
「それは……夫だったからですか?」
迅の答え方を聞けば当然の質問であった。
しかし、迅は首を横に振って否定した。
「いや、誰であっても同じだ。人の一生は死んだらおしまい。だがそれを捻じ曲げようとすれば……恐らくは俺自身の歯止めが効かなくなる。そうなれば俺はもう人間ではなくなり、自分の理想の世界を作る為に存在する別の何かになっちまう。だからそれだけは避ける為にも自分で制限をかけてるんだ」
ここまで真剣な表情で語ったように、迅がまだ人間であるからこその制限であった。
というのも、たしかに人の生死すら自由に出来れば救われる者は増えるが、それが出来るようになってしまえば際限なく使ってしまうことだろう。
そうなれば迅は完全なる新たな神となり、人間であった迅は消滅することになる。
だがかつて、それを全力で拒み、迅に〝人間のままでいてほしい″と願った神がいた。
その神は自らの世界を壊されはしたものの、たった1人の最後に残った我が子に人としての生を歩んでほしかったのだ。
しかし、当時は【破壊神】を倒すために力をつける事は必須であり、迅はすでに『神核』を取り込んでしまっていた。
それ故に、その神は迅に〝せめて人の生死を覆さないように″という制限を願ったのだ。
『力をつけるのは構わない。でも、人としての矜持を捨てないで。迅が人間である為にも、どうか人間としての心を忘れないで』
(それがあいつとの約束であり願いだからな。いくら神の力を持っていても、そこだけは譲る訳にはいかない)
口には出さない迅の想いの根幹。
それと同時に、今の迅の価値観を創り上げたキッカケの女性の背が脳裏に浮かんでいた。
煌めくように美しく長い銀髪をツインテールにしており、いつどんな時でも笑顔を絶やさなかった今は存在しない女性。
その生涯最後の願いによって、迅を今の今まで人間として繋ぎ止めていた。
「……よかったのですか?私にそこまで話して」
「俺なりのケジメだ。やるだけやって『色々と話せないけど認めろ』なんざ腹立つだろ?」
「ふふっ、やはり貴方は不器用な方ですわ。でも確かに、そこまで話してくれたことで貴方の言葉を信じようと思いました。……なので、これだけは言わせてください。夫がやった事は確かに許されない事で、だからこそ貴方に殺されてしまった……そんなどうしようもない夫でしたが、それでも私は、フォディッチさんを心から愛していました」
一筋の涙を零しながら紡がれた言葉。
それは心の底から想っていたからこその言葉であった。
こうまで言わせるからには、フォディッチが家族に対しては優しかったのだと察することができた。
その後はとくに重要な事は話さず、迅は領主邸から出て北宮殿に向かって歩いていた。
『夫はドラゴンに殺されたという事にしましょう。息子にも上手く誤魔化しておきます』
涙の訴えを受けて迅が何も言えずにいた時、早々に涙を止めたミラニアの言葉だった。
(俺が決めてやった以上、それ自体を後悔するつもりはないが、今回は無関係の奴を泣かせる事になっちまった……その事実に腹が立つ)
つい握り拳を作って顔を強張らせる迅。
迅が望むのは不幸な者が誰もいない世界だ。
だが、それがただのエゴであり不可能な事であるのは理解している。
今回も結果としては多くの者たちを助けたことだろう。
しかし、過程がどうであれ迅が不幸な者を作ってしまった事に変わりはなく、その事に対して自身の無力さを痛感する迅であった。
〈???〉
青い空、白い雲、カンカンとした日照りをもたらす太陽、輝く砂浜、押し寄せては返す穏やかな波。
その天然の遊び場とも言えるビーチに、ガッチリとした装備を纏っている者たちがいた。
しかし、そのほとんどが倒れ込んでおり、中には血を流して気を失っている者もいた。
「各部隊長は被害を報告しろ!他の動ける者は重傷者を運べ!」
重装備に身を包んでいる大柄な男が指示を出し、それに従う部下たちが慌ただしく動き回る。
しかし、明らかに部下でない者たちも動いており、誰も彼もが〝一人として死なせまい″と必死になっていた。
かたや自分でもなんとか動ける重傷者たちはというと、ビーチから引き上げながら苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「くそったれめ、あれだけの準備をしてたのにまた逃げられちまった」
「本当に腹立つぜ。魔物のくせにちょっと賢すぎねぇか?」
「だよな。それにこっからどうすんだ?あの嬢ちゃんでも仕留めきれないんじゃ、いよいよ手詰まりだろ?」
「そこはもう期待するしかねぇだろ。この街ではあの娘が最強なんだからな」
そう話す男たちの視線の先には、高台から海を見渡している黄金の全身鎧を纏っている者がいた。
「出来れば私たちの手で済ませたかったのですが、これ以上は無駄に被害を出すだけですわね……」
そう言いながら、その者は顔全てを覆っていた黄金の兜を消した。
するとそこには、長い金髪を頭の後ろで纏めている碧眼の娘が立っていた。
〈???〉
ゴロゴロと唸りをあげる雷雲の下で、ちょっとした岩や草木しかないほぼ平な道を、両手を後ろで組みながら歩く者がいた。
「チャーリー、カジットだけでなく、まさかセルストとグライドもやられるとは……おまけにクリスタルは遺跡もろとも破壊されてしまった。これは早々に対策を立てねばなりませんねぇ」
フード付きの神官服を着ているその男はこれから先の計画を立てながら、遠目でもハッキリと見える目的地へと進んでいった。
そして30分ほど歩いたところで、男はようやく目的地へと到着した。
男の目指したその場所には巨大な防壁がそびえ立っており、さらに横を見れば先が分からないほど長く防壁が続いており、その防壁の中には城とも呼べる建物がいくつも建ち並んでいた。
そして、男が防壁の中心にある正門の前までやってくると門がひとりでに開いていき、その先には軍服のような出で立ちをしている、疲れきったサラリーマンのような男が立っていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
その軍服の男は全く光のない目と無表情を向けて淡々と告げると、神官服の男に挨拶をすることもなく建物の中へ歩いていった。
神官服の男はその雑な対応に苦笑いしながらも、大人しく後ろをついていった。
「相変わらず淡白な方だ。この私が来たというのに挨拶すらないとは」
「あなた様の高名は聞き及んでおりますが、私が呼んだわけではありません。ですから、すでに見知っているあなた様に挨拶をする必要性が感じられないのですよ。知っての通り、私はあまり無駄な事はしたくないので」
「世の中にはそれが通じない者がいるというのを理解してみては?」
それはいたって優しい口調だったが、神官服の男は立ち止まると同時にとてつもない殺気を放ちはじめた。
それは強者であっても油断ならぬほどの圧力だったが、それに反応した軍服の男は立ち止まって振り返りはしたものの、表情は一切変わっていなかった。
「これは異な事を……ここでは私が全てを決めることになっています。なのであなた様がここで勝手をするというのなら、私もそれなりの対応をしなくてはなりません。あなた様のお力でも無意味である事を、身を以て理解してみますか?」
全く抑揚のない声と何の感情も見せないその表情も相まって、軍服の男からは得体の知れない不気味さが漂い始めた。
「……いえ、遠慮しておきます。そんな事をするために来たわけではありませんからね」
神官服の男が放っていた殺気を鎮めると、軍服の男は振り返って無言で歩いていった。
そして、今この場で対立したら面倒だからこそ引き下がった神官服の男も、今度こそ大人しく後ろをついていった。
男2人は防壁内の中心にそびえ立つ城の中に入り、真っ直ぐに進んで巨大な扉の前までやってきた。
そして、軍服の男が扉の横にあるレバーを下ろすと、重厚な音と共に扉がゆっくりと開いていき、中から光が漏れてきた。
やがて扉が完全に開き、2人は揃って中に入った。
すると、2人の前に巨大なガラス付きの魔導具と、その中に密閉されている巨大なクリスタルが目に入ってきた。
「本当にここは良い場所ですね。たった1年たらずでここまで溜まってしまうとは」
神官服の男はフードを微妙にずらしながらクリスタルを見上げて、1年前に確認した時よりも倍の大きさになっている事に感極まっていた。
しかし、軍服の男は未だに無表情のままであった。
「それもこれも、あなた様が毎日のように彼らを送り込んでくるからですよ。私は仕事だから引き受けていますが、こうも毎日送られてくるとさすがに人手不足なのですが」
「根を上げた者たちを処分すればいいのですよ。そこまでくれば彼らは用済みでしょう?」
「いえ、それがですね。残っている者たちのほとんどはまだ白状していないのですよ。そこをはっきりさせない限りは処分など出来ません」
軍服の男は困ったように話しながら、部屋の片隅へと移動した。
そして、壁の中に埋まるように設置されている無数のスイッチの一つを押すと、壁の一部にとある映像が映し出された。
その映像はどうやら暗い場所のようで、ぱっと見では認識するのが難しいものであった。
しかし、それをよく見てみると思わず目を背けたくなるモノが映っていた。
その映像はある程度の高さから撮影されているのだが、映し出されているのは無数の黒い十字架に磔にされている無数の人たちであった。
磔にされている人たちはボロ布を纏ってはいるが、それの所々に血が付着して汚れており、更に注視してみると彼ら全員の体に無数の青アザと斬り傷がついていた。
だが死んではいないようで、彼らの手や顔が少し動いていた。
人によっては目を背けて吐いてしまうほどの映像なのだが、神官服の男は全く気にした素ぶりを見せていなかった。
「とっとと処分するのがいいと思いますが……まぁ、それはそちらでどうにかしてください。それと、近いうちに大物を連れてくることになるかもしれませんから、最上級のもてなしの準備をしておいてください」
「ここは宿屋ではありません。ですが、その者がよほどの危険人物というのなら、それ相応の対処はさせていただきますよ」
「フフフ、頼もしい言葉です」
神官服の男はここに来た目的を話すと、再びクリスタルを見上げて口元に笑みを浮かべた。
そのクリスタルの放つ光に照らされたフードの奥では、怪しく光る紫色の瞳と、左頬のヘビ柄のタトゥーが見え隠れしていた。
これにて第3章は完結でございます。
ここまで長々とありがとうございました。
本職のせいでまだまだ不定期投稿になってしまいますが、これからも楽しみにしていただけると幸いです。
さて、この第3章で迅の内面をより深く知ってもらえたかと思います。
それと同時に微妙に鬱な展開で終了してしまいましたが、これも次の為に必要なことだと考えています。
なぜなら、これは個人的な考えですが、この部分はもしアニメだとしたら2クール目の折り返し地点と考えているからです。
つまり何が言いたいかというと、2クール目の終了に向けてこの小説らしい盛り上げをしていくつもりでいます。
なので、第4章では本来のスカッとして興奮する展開を予定しておりますので、是非とも期待していてください。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




