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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
北の山脈編
64/77

領主との対峙

皆さん、大変お待たせしました。

とりあえず細かい報告の前に本編をどうぞ。

 ドラゴンを倒した迅たちは歓喜のムードだったのだが、それも空間の揺らぎの中から現れた集団によって遮られることになった。

その馬に乗った30人ほどの集団は、最後尾にいる北の領主ことフォディッチ・ホクラービの指示に従って、迅たちの方へと進みはじめた。


 こちらへと向かってくる集団のリーダーを見たこともないイリスとエリスは、揃って首を傾げていた。


「「……だれ?」」


「あいつは北の領主だ。まぁ、何しに来たのかは想像がつくが、それよりもあの転移の方が気になるな」


 2人の疑問に答えた迅は、まだ『龍神化』になったままで考え込みはじめた。


 ちなみに迅が気になっている転移の仕組みだが、あれは転移石の上位版である転移鉱石によるものだった。

その効果は見ての通りで、複数人でも問題なく転移することができ、しかも転移石が行ったことのある場所だけなのに対して、転移鉱石は見たことのある()を対象にすることもできるのだ。

ただ、この転移鉱石は数年で一個しか見つからないとはいえ暗殺等に使われる恐れがあるため、所持が認められているのは国王から直々に指名された者と各領主たちだけであった。


 ホクラービが徐々に近付いてくるなか、サラとセラも迅の近くまで寄ってきた。

ただ、サラはニコニコとしながら体の周りに火花を散らしており、どう見ても臨戦状態になっていた。


「ねぇジン、どうするの?嫌な奴なんでしょ?」


「それはあいつ次第だが、俺が何かをする必要はなさそうだ」


「……私たちが対処する、ということですか?」


「それも必要ない。ま、少し会話をしてれば分かるさ」


 迅の要領を得ない言い方に疑問を持った2人だったが、許可が出ない以上は迅に任せることにして後ろの方へと下がった。


 一方で、ホクラービたちはようやく迅たちの周りまでやってきた。


「全員で奴らを囲め!」


 ホクラービの指示に従った兵士たちはすぐに展開し、円を描くように囲んで剣先を向けてきた。

これに対してイリスとエリスは、補助を受けたとはいえドラゴンを倒したのにも関わらず、ほぼ反射的に怯えて迅の後ろに隠れていた。


「「し、師匠……」」


「そんなに心配すんなよ。こいつらはどう見たってドラゴンよりも弱いだろうが」


 服の端を掴んで隠れる2人を見た迅は、さっきとはまるで別人のように見える2人に対して若干呆れてしまっていた。

そんなちょっとした会話をしている間に、迅たちの周りを囲む兵士たちの間からホクラービが出てきた。


「誰だ貴様は?見たことのない奇妙な獣人だな」


 『龍神化』に変化した姿の迅を見て、真っ向からケンカを吹っかけてきた本人だとは思いもしないホクラービ。

これに対して〝ラッキー″と思った迅は、面倒を避けるために勘違いさせておくことにした。


「べつに誰でもいいだろ。それよりもここに何の用だ?俺はこれからあのドラゴンを処理しなきゃならねぇんだが?」


「言葉遣いには気を付けろよ、小僧。あのドラゴンはワシが処理しといてやるから、貴様らは早々にこの場を立ち去れ」


「は?お前らがあれを処理するのは無理だろ。そもそもその力がないだろうが」


「それは魔法袋に詰め込むから問題ない。とにかく、つべこべ言わずワシに従え。心配しなくても分け前はくれてやる」


 どこか噛み合わない2人の会話。

それもそのはずで、迅はドラゴンの死骸を綺麗サッパリに片付けるつもりなのに対して、ホクラービはドラゴンを解体して素材として回収するつもりなのであった。


 迅はホクラービがいくつもの魔法袋を見せてきたことでようやくその目的を悟り、今までの会話に感じてた違和感の意味を理解した。


「ん?ああ、そうか。お前はこのドラゴンを解体して売っ払うつもりなのか。それなら尚更やめておけ。お前らじゃ近付くだけで『呪い』に侵されて終わりだ」


 迅にとっては気に入らない相手だが、せっかく誤魔化しているというのもあってわざわざ忠告をした迅。

その忠告を受けたホクラービはというと、さすがに『呪い』にかかるのは嫌なのか、腕を組んで真剣に考えこんだ。


「なるほど……ならば貴様が解体すれば問題無いな」


 あくまで持ち帰るのは決めているらしいホクラービの結論に、あまりに楽観視している事に対して呆れた表情をしてしまう迅。


「はぁ……まずは扱おうとする考えを捨てろ。このドラゴンを素材にしたもんは『呪い』への耐性が無きゃ近付くことすらできねぇよ」


 迅がどこか脱力しながら説明したように、このドラゴンが持つ『呪い』の力は死んでも残るほどに強力なのだ。

なんせその場にいただけで一つの山を汚染してしまったのだから。

だからこそ迅は完全に消滅させたいのだが、『呪い』の脅威をまるで理解していないホクラービは、迅の説明を受けても胡散臭そうな表情を向けてくるだけであった。


「そんなもの、貴様がどうにか出来るんだろう?隠さずに全てを話したらどうだ?」


「そんな事して何になるってんだ?明らかな敵意を向けてきた奴に手を貸すバカはいねえし、そもそもてめぇらはここでくたばるから意味がねぇだろ」


「ほう……貴様、まさか【北セントレア】の領主であるこのワシに刃向かうというのか?」


 どこまでも不遜な態度を続ける迅を睨みつけたホクラービ。

しかし、権力という力に訴えてくるホクラービに怒りを覚えた迅は、逆に底冷えするような目で睨みつけた。


「くだらねぇ……領主である以前にただの人間である事を理解しろ。立場が偉かろうが関係ねぇ。権力だろうと武力だろうと、それを無差別に振るえば犯罪者と同じだ。それを領主であるてめぇがやるってのか?」


「……言葉遣いだけでなく礼儀もなってないとはな……もういい、ワシの言う通りに動けんのならばいらん。ワシに対しての数々の無礼……その命と女どもの体で償うがいい!総員、構えよ!」


 ホクラービの指示と同時に、兵士たちは各々が持つ武器に様々な属性の魔法を付与しはじめた。

その兵士たちは全員が揃って下卑た笑みを浮かべているので、ホクラービと同様に欲にまみれた性格をしていることが伺えた。


「フッフッフ、仮にお前の言うようにドラゴンの素材が使えなくとも、新しい玩具(おもちゃ)を手に出来たのは僥倖(ぎょうこう)だったな。お前たちはワシの気が済むまでよがり狂ってもらうぞ。なぁに、心配せんでもワシの気が晴れれば帰してやる」


(まぁ、その頃には完全に壊れているだろうがな。クックック、最近はつい壊し過ぎてしまったからな。都合良く補充できて助かったわい)


 これまで多くの人を物のように甚振ってきたホクラービ。

その頭の中ではすでに、サラたちを〝どうやって弄ぶか″しか考えていなかった。

なぜなら今まで全てが自分の思い通りになり、反抗する者たちはあらゆる手段をもって従えさせてきたからこそ、失敗する未来などは見えていないのだ。

そして欲しいものを見つけては手に入れて、気の済むまで暴虐の限りを尽くして捨てる。

そのどこまでも自分勝手な理不尽に見舞われた者たちは、ほとんどが命を落としていた。


 少し前に平凡ながらも幸せに暮らしていたとある家族がいた。

しかし、突然やってきたホクラービとその兵士たちによって不当に拘束され、尋問と称して男は動かなくなるまで袋叩きにされ、女は自我を失うほどの欲望の()け口にされた。

その2人の子供である兄妹にいたっては、見込みがあるとして親を人質にされて兵士になるかメイドになるしかなかった。

だが兵士となった兄は定期的に行われる魔物狩りで先頭に立たされて命を落とし、メイドになった妹はほどよく育ったところで〝家族は死んだ″と告げられ、心を絶望の淵へと落とされてから身体を弄ばれて最後には自害したという、数ある中でも最悪な一例であった。

しかし、これだけの悪逆非道を繰り返していてもホクラービが責められることはない。

なぜなら権力で全てを隠し通すからだ。

ある時は手切れ金を渡して黙らせて、ある時は物理的に排除することで難を逃れてきた。

だが、それによって感覚が狂っているからこそ気付けない。

目の前にいるのは理不尽(それら)を嫌い、たとえドラゴンだろうと叩き潰してしまう存在であることを。


「サラ、セラ、手を出す必要はないぞ。そろそろだからな」


「ふん、訳の分からんことを……さぁ仕事だぞ貴様ら!褒美ならあとでたんまりとくれてやる!そこの無礼者を殺して、女どもを縛り上げろ!」


 いよいよ痺れを切らしたホクラービが指示を出したことで、囲んでいた兵士たちは下卑た笑みを浮かべながら雄叫びをあげた。

そして馬をゆっくりと前進させて、少しずつ包囲を縮めていった。

しかし―――


「うっ!」


「これ、は……」


 兵士たちが急に苦しんだかと思うと、乗っていた馬とともに次々と倒れていった。


「な、なんだ⁉︎一体何が……っ⁉︎」


 1人後ろで高みの見物をしていたホクラービだったが、兵士たちに起こった突然の異変に動揺したところで、自らも体に力が入らなくなって倒れていった。


「……なん、だ……これは…………からだ、が……うごか……」


 体の力は抜けていくのに痛みは増していく奇妙な状態になり、徐々に焦りを募らせていくホクラービ。

そして忙しなく動かしていた目が、自らの腕に(うごめ)いている黒い紋様に気付いたことで見開かれた。


「それは当然の結果だろ。ここは『呪い』を司るドラゴンが長年住み着いていた土地だ。だからここら一帯は『呪い』を発し続けてしまうほどに汚染されてんだよ。それこそ、どんな生物でも数時間で腐り果てるほどの強力な『呪い』だ」


「なん、だと……」


 迅の口から告げられた死の宣告に、青白い苦悶の表情を浮かべているホクラービ。

そして周りの兵士たちも同じような表情をするなか、迅はニヤリと笑ってみせていた。


 ちなみに、ホクラービが先に向かわせていた8人の護衛たちだが、彼らは山の中に入って2時間ほどの所で『呪い』によって体を蝕まれて動けなくなっていた。


「だから言っただろ?〝てめぇらはここでくたばる″ってよ」


「くっ……」


「残念だったな。まぁ、てめぇの日頃の行いが悪かったからだろ。悪徳領主の最後が呪い殺されるなんて、なかなかにお似合いだと思うぜ?」


 一度クズと認定したらどこまでも冷たく残酷に突き放す迅。

しかし、まだ死にたくはないホクラービは、まだ感覚の残っている体を必死に動かして迅に近付こうとした。


「……たの、む…………たすけ……」


「〝助けて″、ねぇ……なら、お前にその言葉を掛けたやつらをどうしたのか教えてみろよ」


「っ!」


 迅が冷たい目に怒りを見せながら放ったその一言によって、自身が関わってきた者たちの泣き叫ぶ光景を思い出してつい固まってしまったホクラービ。

もちろん全ての人を覚えている訳ではなかったものの、ここ最近に壊した娘や家族たちだけでも少なくない人数を貶めていたことには自覚を持っていた。


 誰しも問われたらその事に対して考えてしまうものだ。

だからこそその反応を注視していた迅は予想していた通りの反応を見せたホクラービに対して、とことん絶望させるために口を三日月のように開き、その不気味な笑みと共に声をかけた。


「その様子じゃ最近も壊して処分でもしたんだろ?なら尚のこと助ける意味がねぇな」


「……わ、わしには……こども、が……つま、も」


「安心しろよ。お前は〝ドラゴンの『呪い』で死んだ″って伝えといてやるよ。あ、そうだ。お前の部下たちの家族にも伝えないとな。ったく、クズどものせいで余計な手間が増えるなぁ」


 ホクラービが罪も無い自分の身内を持ち出してきたが、すでに方針を決めている迅には全くの無意味であり、めんどくさそうに下を向いて頭をかく様からは助ける様子は皆無であった。

しかし、迅を動かすのには無意味でも、()()()()()()()が動くのには充分であった。


 パリン!


「はぁ、はぁ……くっ!」


 迅が少し目を離したところで瓶が割れたような音が響いたのでそちらを向くと、血色の悪い顔をしているホクラービが荒い呼吸をしながらヨロヨロと立ち上がっていた。


 ホクラービが迅の隙をついて行ったのは、万一の為に所持していた聖水を服用したのだ。

しかし、いくら聖水でもドラゴンの『呪い』に対抗するには不十分なようで、黒い紋様は薄っすらと残り、ホクラービ自身は『呪い』による苦痛で滝のような汗を垂れ流していた。


「なんだ、聖水でも持ってたのか。だがそれも一時凌ぎだな。この場にいる限り『呪い』に侵されるのは時間の問題だ。それに、今だって完全には消せてないから立つのがやっとだろ?」


「ふん!少し動ければ問題ない」


 迅の言う通り、服用した聖水の効果が切れれば再度『呪い』に見舞われることになるのだが、それを指摘してもまだ諦めようとしないホクラービは、腰に付けていたポーチ型の魔法袋を漁りはじめた。

そして、魔法袋から緑色の四角いブロック体を取り出して、それを片手に掲げて迅に見せつけた。


「見ろ、これは【記録石】というものだ。これを使うと対となる【記録石】に映像を送れるのだ」


「だからなんだ?」


「これで送った映像はワシの家族がよく見るからの。貴様がワシを見殺しにする映像も送られるという訳だ」


 苦痛に(さいな)まれながらも、自らの行動が〝生き延びる為の一手を打てた″と確信しているホクラービは、ニヤリと笑ってみせていた。

つまりはこのホクラービの行動によって、『敵意を向ける訳にいかない善人の怒りを買うかもしれない』状況にされてしまったのだ。

こうなると下手に手出しをしたくないのが一般的な心理であり、迅にとっても『罪が無い人に不幸な目に遭わせたくない』という信条に反してしまうのだ。


「なるほどな。つまり、俺が助けざるを得ない状況にしたってわけか」


「よく分かってるじゃないか。理解したのならとっとと助けるがいい」


「……はぁ、仕方ねぇなぁ」


 迅はそのいやらしいやり方の命令に対して少しだけ黙考したあと、投げやりな様子で頭をかきながらゆっくりとホクラービに近付きはじめた。


「そうだ、それでいい。フッフッフ、貴様とて純粋な者からの恨みは不本意であろう?」


 自身の思惑が上手くいった事を確信し、更に悪どい笑みを深めたホクラービ。

しかし、それと同時に迅に対しての怒りを込み上げさせてもいた。


(全て無事に終わったら目に物を見せてくれるわ。このワシに対して歯向った事を後悔させてやる!)


 ホクラービが目を血走らせながら復讐の算段をつけていくなか、いよいよ迅が目の前までやってきた。

そして、右手をスッと持ち上げてその手に()()を纏わせると―――


 ドスッ!


 笑みを浮かべたままでいるホクラービの腹部に突き刺した。


「……は?……ぐふっ!」


 ホクラービは何が起こったのかをあまり呑み込めておらず、疑問顔で口から血を吐き出していた。

一方で、右手に作った『魔力刃』で腹部を貫いた迅は、ホクラービが吐血したと同時に右手を引き抜いた。

それによって、ホクラービは大量の出血をしながらその場に倒れていった。


「がはっ!ごほっ!……な、なにを……」


「何を驚いてんだ?てめぇに俺の答えを行動で示してやっただけだろ」


「ぅぐっ!……き、きざ、ま……いまの、こうどうも……すべ、て……」


「だからどうした?確かにてめぇの家族は俺を恨み、ヘタしたら王国に訴えて犯罪者にされるかもしれないが、てめぇを生かすことで不幸な目に遭う奴が出てくるよりはマシだ」


 ホクラービが苦悶の表情を浮かべながら血を吐こうとも、残された家族の想いを持ち出されようとも、すでに優先順位をハッキリさせている迅には無意味であった。


「くっ!……こ、の……ぎぜんしゃ、め……」


「どうとでも言え。俺は我が身可愛さに他人を不幸にするなんざ御免だ」


 迅はそう言ってひと睨みしたあと、ホクラービに背を向けて離れはじめた。


「……おまえ、は……ぜったいに……こう、かいを……」


「しねぇよ。もし国が丸ごと敵として来ようが、俺の手の届く範囲は絶対に守りきってやる。それに、俺のくだらねぇ甘さや目の前で助けられなかった時こそ後悔するからな。俺は()()()そんな失敗はしない」


 迅は強すぎる感情を出せないようにしているが、それでも怒りに満ちているかのような迫力がそこにあった。

そこから分かるのは、それほどまでに後悔をした事があるというのを裏付けていた。


「……く……そ…………」


 今まで上手くいっていた言葉も力も迅には通じず、最後は無念の想いを抱えながら絶命したホクラービ。

そして兵士たちも次々と命を落としていくなか、迅はイリスとエリスの元へと戻ってきた。


「胸くそ悪いもんを見せて悪かったな」


「ううん!そんな事ないの!」


「師匠はとってもかっこ良かったの!」


「……そうか」


 迅としては本当に〝気分が悪くなるものを見せてしまった″と思っていたのだが、全く気にした様子を見せない2人の返答に軽く驚いていた。

そして、自身がホクラービに直接手を下した事に〝ショックを受けるかも″と考えていたのが杞憂となり、迅は呆れつつも少しホッとしたような表情になっていた。

するとそこへ、サラとセラもやってきた。


「そんなに気にするならあたし達に任せてくれてもよかったのにー」


「私も氷漬けと串刺しの準備はしてたのですが……」


 そう言って、炎と氷をチラつかせる2人。


「俺自身の手でやりたかったんだよ。……さて、あのドラゴン(死骸)を片付けるついでに、もう一仕事しなきゃな」


「ついでに?」


「一仕事?」


 イリスとエリスが疑問を浮かべるなか、迅はスタスタと歩いて奥へ進みはじめた。




 窪んだ大地から抜け出て5分ほど進むと、山の斜面にポッカリと空いた巨大な洞窟が出てきた。


「この穴ってもしかして……」


「あのドラゴンの巣穴だろうな」


「でも師匠、なんでここに来たの?」


「中に入れば分かるさ」


 迅はイリスとエリスの疑問に対して具体的な事は答えず、()()()()()が張られているその洞窟の中へと進んでいった。


 少し冷んやりとする暗い洞窟の中を、サラの火球を光源にして歩き続けていく一行。

やはりドラゴンの巣穴というのもあり、かなりの広さと長さの洞窟であった。

そして中に入ってから10分ほど経ったところで、規模はでかいものの明らかに部屋と言える空間へと辿り着いた。

しかもこの部屋には青白い光が広がっており、隅々まで照らされてよく見渡せるほどに明るかった。

ここが迅の目的地ではあるのだが、迅はこの部屋の奥、つまりは青白い光の発生源の元へと向かっていった。


 やがて青白い光が濃くなってきたところで、岩山の隙間から光を放つ物体が見えてきた。

そしてその岩山の間を抜けると、この場には不釣合いな巨大な魔導具が鎮座していた。


「……すごい」


「……きれい」


 ガラスに覆われている巨大なクリスタルの放つ光を見て、イリスとエリスはどこかボーッとした反応をしていた。


「あのドラゴンを倒してからこれがある事に気付いたんだ。遺跡で知った時から予想はしていたが、やっぱり他の場所にも確保してるみたいだな」


 迅の言葉で分かるように、発光色は違えど、これは紛れもなくグライドたちが守っていた物と同じであった。

この洞窟の入り口にも遺跡と同じ結界が張られていたのもあり、まず間違いなく関係あるものなのは確かであった。

だが、このクリスタルは遺跡の時と比べて6〜7割ほどしか溜まっていないようで、以前のようなはち切れそうな感覚はしていなかった。

そして、迅はこの場所にもあった事にいくつかの疑問を浮かべていた。


(これ自体を見つけたはいいが、なんでこんな所にあんだ?まさかあのドラゴンもグル?……いや、あの性格を考えるとあり得ない。グライドの力で服従させんのも無理だろうし……)


 どれだけ考えても納得できず、いつのまにか若干唸りはじめる迅であった。


「師匠、遺跡にもあったの?」


「師匠、何に使うものなの?」


「これだけの力を溜め込めるクリスタルを複数ってなると、これを元にした兵器か何かの触媒ってところだろ。どっちにしろこんなもんを残す意味は無いからな。どうせなら有効利用させてもらおう」


 結局のところ今は結論を出せないと判断した迅は、クリスタルを消すついでに力を吸収しようとして、魔導具のガラスに右手を当てて目を瞑った。

そしてグングンと力を吸収していき、それを迅の力へと【変換】で変えたあと、『龍神化』の力を全開にして『完治』の概念を付与させていった。


「『ディアネスヘイム』」


 その呪文と同時に目を見開いた直後、迅を中心に癒しの力が緑色の光となって伝播していった。

その力は北の山脈全体へと広がっていき、1番近くにいたイリスとエリスは体の傷も体力も精神も全てが一瞬で治り、黒い大地となっていた場所はちゃんとした土になったあと、すぐに雑草や若木が生えてきた。

それと同時に、ドラゴンの死骸とホクラービ たちの死体は大地に吸われるようにして消えていった。

そして更に奥のソルマール村では、ドラゴンが村全体に掛けた『呪い』が綺麗に浄化され、まともに食事をする事も出来なかった重病者たちは元の血色のいい状態へと戻った。

ユリの母親であるマリもショックから痩せ細っていたが、すっかり健康的な体を取り戻していた。


 溜まっていた力を全て使い切ると、クリスタルは小さくなっていったあとに跡形もなく消滅した。

そして、迅が魔導具をブレスで完全に消し飛ばしてから洞窟を出ると、辺り一面は豊かな大自然が広がっていた。


「これは……」


「……すごい」


「あのクリスタルに溜まってた力を使って、『腐食の呪い』が染み込んでた大地を元に戻した。これで元の自然が帰ってくるだろ」


 クリスタルの力だけでは鬱蒼とした森へと戻す事は出来なかったが、それでも死んだままの大地でなくなっただけでも充分なはずである。

ちなみに、迅の力も含めれば森まで戻すのは可能であったが、〝帰るのが面倒になるし、完全じゃなくてもいっか″と判断した為、クリスタルの力で戻せる分だけにしていた。


「さて、やる事は済ませたから帰るぞ。力も使って眠くなってきたしな」


「「はいなの!」」


 迅は欠伸をしながら『龍神化』を解き、イリスとエリスに声をかけてからサラとセラと共に歩きはじめた。

そして声をかけられた2人は元気よく返事したあと、両親の仇を討てた事と、ピンチに駆けつけてくれた師匠へのまだ気付けていない新たな想いを胸に、晴々とした笑みを浮かべながら帰路についたのだった。

あとは次回のエピローグを投稿すれば第3章は終了でございます。

この章ではバトルよりも迅の内面をより深く理解してもらう事に重点を置いて書いていました。

主人公の数だけ色んな価値観があるわけですが、迅の場合はこういうスタンスだというのを知ってほしかったのです。


次に、この度はひと月以上も投稿できず、大変申し訳ありませんでした。

それでも離れないでいてくれた読者の皆さんには感謝しかありません。

それでこれからなのですが、正直なところ、まだ週一投稿は厳しそうな状態にあります。

せめて隔週投稿できるようにしたいとは思っているのですが、こればっかりはまだハッキリと断言出来ないので、まだしばらくの間は不定期投稿とさせて頂きます。


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