ソルマール村にて
いつもご愛読ありがとうございます。
先月は7482pvとなり、ついに累計5万pvを達成しました。
そしてユニーク数も1万を超え、どんどん読んでくれる人が増えてくれて嬉しい限りでございます。
まだまだ色んな方に楽しんでもらえるように面白いストーリーを練っていきますので、これからもよろしくお願いします。
そして、ついつい長くなってしまった第3章ですが、予定では3月いっぱいでエピローグまで行けると思いますので、こちらも最後までお付き合いくださいませ。
街を出発した迅は、余計な戦闘をしないように『魔力結界』を使って上空を移動していた。
かれこれ二時間以上は上空を跳び続けているが、イリスとエリスとユリの3人は、迅特製の飴のおかげで完全に落ち着いた状態で迅にしがみついていた。
もうすぐ日も完全に落ちてしまうという頃、山の中腹に位置する所に立派な壁に囲まれている村、というよりもちょっとした街のようなものが見えてきた。
「おっ、ようやく着いたか」
「え?こんなに早く村に着くなんて……」
「さすがは師匠なの!」
「うんう……あれ?なんで師匠は村の場所が分かったの?」
驚くユリに対してイリスはいつものように興奮していたが、エリスだけがふと疑問に思って迅に尋ねた。
「村の場所は地図でだいたい把握してたからな、あとは嫌な力を感じる方へ跳んできただけだ」
「嫌な力って……」
「もしかして……」
迅の言葉に表情を曇らせたイリスとエリス。
「ドラゴンってのは総じてかなりの力を持っているもんだ。だからこそ、その隠しきれない力はすぐに見つけられるし、その漏れだす力は周りに色々な影響を与えちまうんだ」
迅は他の異世界でも厄介な存在であったドラゴンについてを説明しながら、下の方に『魔力結界』を張り始めた。
(手遅れになってなければいいんだが……)
迅は村人の状態を懸念しながら、下へと降りていった。
だいぶ近くまで降りてくると、村の建物や人もくっきりと見えるようになってきた。
迅から見た村の印象はというと、重苦しい雰囲気までは無いものの、村人たちの表情からは幸せそうな気配は微塵も感じられない状態であった。
迅がようやく地面に降り立つと、近くにいた村人たちから驚きの声が聞こえはじめた。
「ん?おい!誰か来たぞ!」
「なにっ⁉︎」
「もしかして冒険者⁉︎」
「急いで村長を呼んでくる!」
一気に慌てたように動きはじめた村人は、迅の周りに集まったり他の者たちを呼びに行ったりと分かれた。
迅は3人を下ろすと、周りにいる村人たちを流し目で見て表情を険しくさせていった。
なぜなら、どの村人も顔や腕などにユリと同じような黒い紋様が蠢いていたからであった。
(先に呪いの進行具合を確認した方がよさそうだな)
迅がそう思って動こうとしたところで、集まっている村人を掻き分けるようにして1人の猫獣人の女性がやってきた。
「ユリ!」
「ママ!」
声を掛けられたユリは満開の笑顔を浮かべると、その女性へと一目散に駆け寄って勢いよく抱きついた。
「良かった!ユリっ、本当に無事で良かった!」
「えへへ、私頑張ったよ、ママ」
「えぇ!えぇ!本当に偉いわ!」
ユリママが嬉し涙を零しながらユリの頭を撫でると、ユリは気持ち良さそうに顔を緩ませた。
この場にいる全員が少しの間見守ったあと、近くにいた1人の男が話しかけた。
「ひとつ聞かせてくれユリちゃん、本当に冒険者たちが依頼を受けてくれたのか?」
「うん!他の人たちも後で来るって話してた!」
「後で?」
「そこから先は俺から話そう。それに、俺も確認したい事がある」
男がユリの言葉に疑問を浮かべたところで、迅が近付いて話しかけた。
そして詳しく説明しようとしたところで、男の後方からまた別の初老の男がやってきた。
「それなら私の家に来てください」
「あんたが村長か?」
「そうです。私の名前はカンズ、今回は私たちの依頼を受けてくれて感謝します。それと、イリスにエリス、お前たちも私の家に来なさい」
「「……はい」」
カンズは迅の後ろに隠れていたイリスとエリスにも声を掛けてから、自分の家へと歩き始めた。
そして迅たちも移動しようとしたところで、ユリママに話しかけられた。
「お待ちください、冒険者様!私の大事な娘のユリを連れ帰っていただいて、本当にありがとうございました!このご恩はいつか必ずお返しします!」
涙を零しながら頭を下げてくるユリママに対して、迅は口元に笑みを浮かべた。
「俺はユリの強い覚悟に応えただけだ。だから俺に礼をするくらいならユリを褒めてやってくれ」
それだけを告げた迅は、待っているカンズの方へと歩いていった。
カンズの家の中に入った迅たちは、客間らしき部屋に案内された。
そして、大きめのテーブルの横に置いてある椅子に座ると、カンズが甘い匂いのするジュースのようなものが入ったコップを迅たちの前に置いて、申し訳なさそうな表情をしながら席に着いた。
「とりあえずこれを、大した持て成しが出来なくてすみません」
「こんな事態だ。そんな細かい事はどうでもいいさ」
「そう言ってくれると助かります。それで、先ほどの話なんですが……」
カンズは迅の言葉に少しホッとした表情を浮かべたあと、さっそく依頼の話を聞き出してきた。
その様子を見ても、この村には後がない事が伺えた。
「冒険者たちが後から来るっていうのは本当だ。ただしそれは2〜3日後の話だ」
「そうですか!これでこの村も救われます!」
迅から話された事実を聞いたカンズは、僅かに涙を浮かべて喜んでいた。
「それで俺からも聞きたい事があるんだが、依頼を頼むのになんでユリに行かせたんだ?」
喜んでいるカンズに対して、細めた冷ややかな目で問いかけた迅。
その目を向けられたカンズは一瞬ビクッと反応したものの、すぐにはっきりと答えだした。
「それは私たちにその選択肢しか無かったからです。あれは1ヶ月以上前の事でした。いつも通りの生活をしていたら、一体のドラゴンがこの村へやってきました。そのドラゴンは真っ黒な鱗に覆われているとてつもない巨体でして、私たちは誰一人として動く事が出来ませんでした。私たちが恐怖で固まるなか、そのドラゴンは突然こう言ってきたのです」
『お前たちは撒き餌よ。我の為に大量の餌を呼び寄せてもらうぞ』
「そう言ったドラゴンは私たち全員にこの呪いを掛けていきました。これは村からある程度の距離を離れると死をもたらすそうです。そんな中、ユリだけは別の呪いが掛けられました。その効果は魔物除けと、街に着いてから3日で体を腐らせるというものでした」
その時の恐怖を思い出したのか、下を向きながら事情を説明したカンズ。
その反応を見た迅は〝嘘はついていない″と判断しつつ、ドラゴンが掛けた呪いの意味を察した。
「なるほどな、ようはドラゴンがユリに街へ向かうように指示をした訳か」
「そうです。そしてその呪いの効果についてはユリが出発した後に聞かされたので、ユリの母親、マリを引き止めるのに苦労しました」
「そりゃそう……待て。ユリの父親は?」
迅は〝そりゃそうだろうな″と納得しようとしたところで、カンズが母親の事しか話してないのに気付き、真剣な表情で父親についてを聞きだした。
「父親のユンバは冒険者だったのですが、ユリが産まれてすぐの頃に魔物によって亡くなっています。ですからマリにとってユリは、ユンバとの唯一の繋がりでもあるのです」
「そうだったのか……」
迅はユリの父親がすでに亡くなっている事に心の中で悔んだあと、今までの話から聞けたドラゴンの事が気に掛かっていた。
(それにしても、強力な呪いを扱い、人の言葉も話せるドラゴンか……)
迅がしばしの思考状態に入ったのを察したカンズは、その間にイリスとエリスに話しかけた。
「イリス、エリス、お前たちはこの方に全てを話したのかい?」
「「…………」」
カンズに問いかけられた2人は、無言で下を向いたまま首を横に振った。
その2人の反応を見てついため息をついたカンズ。
そこへ、思考はしていても話は聞いていた迅が割って入った。
「イリス、エリス、お前たちが言ってた倒したい相手ってのは、もしかしなくてもそのドラゴンか?」
「……イリス、エリス、そんな事を考えていたのか?」
あくまでも確認する為の迅の言葉に、カンズが〝何をバカな″という表情で驚いていた。
すると、カンズの言葉を聞いたイリスとエリスは、歯を食いしばりながら勢いよく立ち上がった。
「そんな事なんかじゃないの!」
「私たちにとっては大事な事なの!」
「だから強くなる為に頑張ってきたの!」
「お父さんとお母さんの仇を討つために!」
「イリス、エリス、私たちは2人にそんな事を望んだつもりはないんだ」
感情を剥き出しにしながら訴えてくる2人に対して、カンズは困ったような表情を浮かべながら諭すように声をかけた。
だが、目の前で涙目になりながら握り拳を作っている2人を見る限りでは、全く意味を成していないのがはっきりと分かった。
「村長は言ったの!〝強くなるまで帰って来ちゃダメだ″って!」
「それは確かに言った。だが、あの時はそう言ってでもお前たちをここから遠ざけるしかなかったんだ」
「もうその必要は無くなったの!私たちは師匠のおかげで強くなったの!だから私たちがこの手であいつを倒して、この村を助けるの!」
そこまで言い切ったところで、2人は袖で涙を拭いてからスタスタと部屋から出ようとした。
「待ちなさい!どこへ行くつもりなんだ!」
「そんなの決まってるの!」
「今すぐあいつを倒してくるの!」
「イリス、エリス」
完全にヒートアップしていた2人はカンズの言葉には反応しなかったが、迅に静かな声音で呼ばれただけでビクッと固まった。
そんな2人に責めるでもなく真っ直ぐな目を向けた迅は、そのままじっと見つめたまま声をかけた。
「ドラゴンを倒すのは明日だ。今日は朝からずっと動いてんだから、少しくらい体を休めとけ。これは師匠としての命令だ。分かったな?」
「「……はい」」
慰めるのではなく労わるのでもない至っていつも通りの迅の言葉に、2人はしおらしくなりながらも素直に返事をして従った。
「そしたら部屋を借りて今日はもう休んでおけ。明日はお前らにも頑張ってもらうつもりだからな」
2人はコクンと頷くと、カンズの奥さんを探しに部屋を出ていった。
2人の反応を見て〝ひとまずは大丈夫か″と判断した迅は、カンズに向き直った。
「……村長さん、あいつらの話を聞かせてくれ」
迅に声をかけられたカンズは、沈痛な表情を浮かべながら語り始めた。
「イリスとエリスの両親は、この村を救ってくれた英雄だったのです。元々この村は、遥か昔の戦乱の時に重要な拠点の街とされていました。だから大抵の魔物には対抗出来る防衛力を備えていたのですが、ある時、それが通用しない魔物が現れたのです。その魔物は『アダマント・トータス』、そいつはこの村の主砲でさえ傷一つ付かず、我が物顔でこの村の防壁を食べ始めました。そしてそのまま村に侵入しようとした時、2人の男女が現れて『アダマント・トータス』を村の外れまで誘導してくれたのです」
「それがイリスとエリスの両親か」
「はい。もう十何年も前の事です。それから2人はこの村に住み着いてくれまして、ほどなくして元気な双子を産みました。その時は村人総出で祝ったものです」
その当時の光景を思い返したカンズは、自然と笑みを浮かべていた。
しかし、それは話を再開してすぐに消えることになった。
「それからイリスとエリスが学院で言うところの中等部になった頃、2人に実戦の感覚を知ってもらうために、定期的に両親とその仲間たちと一緒に魔物の討伐をしていました。そしてある時、なぜかイリスとエリスだけが泣きながら戻ってきました。泣き続ける2人から話を聞いたところ、2人以外はたまたま遭遇してしまったドラゴンを相手に立ち向かい、命懸けで逃がしてくれたそうです。それを聞いた私たちはドラゴンが2人を追ってくると予想し、せめて2人だけでも生きてもらうために、この村を出て行くように言ったのです」
「それで西の学院に行かせたのか」
「はい。ちょうど西の学院には私の知り合いがいましたので、2人に手紙を持たせて向かわせました。その時に2人には『ドラゴンを倒せるほど強くなるまでは帰ってくるな』と言ったのですが、私たちとしてはそのままそこで生き続けてほしかったのです。あの2人は私たちの英雄が残した娘たちですから」
過去の事を話しているはずなのに表情を曇らせながら話すカンズからは、他人の娘であるイリスとエリスを心の底から大事にしている事が伺えた。
「なるほどな……村長さん、あいつらの事は俺に任せといてくれ」
「えぇ、構いませんとも。あの2人はあなたを師匠と慕っているのですから、その方がよろしいでしょう。それに私たちは、冒険者がドラゴンを倒せなければ死ぬ運命ですから」
迅の言葉に少しホッとしたカンズだったが、最後にはすでに諦めつつあるような投げやりの笑みを浮かべていた。
しかし、ドラゴンという脅威に屈しかけているカンズを見た迅は、それが自分の1番嫌いなものであったからこそ、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「そんな気に入らない理不尽は理不尽が叩き潰す。だから安心してドラゴンの事も任せてくれ」
「……ありがとうございます」
聞く人によってはその場しのぎのように聞こえてしまう迅の言葉だが、カンズはその言葉に重みがあるのを直感し、自然に深々と頭を下げていた。
これで聞きたい事も全て聞けた迅は、床に置いていた魔法袋を机の上に置いた。
「とりあえずこれに食料が詰め込んであるから、これでしばらくは食い凌いでくれ」
「おおっ!私たちの備蓄も残り少なかったので助かります!」
「それとだ、今日は呪いの状態を確認したいから、村人で重い症状が出てる奴とかいたら案内してほしいんだが」
「それなら是非とも診てほしい者がいます。呪いが発動する手前の所で狩りをしてた者が体調を崩していまして、もしかしたら呪いによるものかもしれません」
「よし、今すぐ行こう」
死んでさえいないのであれば全員を救うつもりである迅は、カンズから話を聞いてすぐに立ち上がった。
しかし、既に夜だというのに移動してきたばかりで休憩をしていない迅に対して、カンズの方が逆に心配そうな表情を浮かべていた。
「今ですか?」
「ドラゴンは明日にするが、かと言って呪いを放置する意味も無いからな」
迅がそう言って部屋を出て行こうとした為に、カンズは急いで支度をして重症者の元へと案内していった。
すっかり夜遅くになって夜中に差し掛かろうかという頃、カンズの家で割り当てられた部屋のベッドで横になっていたイリスとエリスは、自分たちの魂剣である短剣を取り出して立ち上がった。
そしてお互いに向き合うと、短剣を相手の肩に当てながら能力を発動した。
「『ロスト・ノイズ』」
「『インビジブル・カラー』」
イリスの魂剣、『イラミス』の能力で2人から発せられる音を遮断し、エリスの魂剣、『アロスト』の能力で2人の姿を周りの景色と同じに変化させた。
「行くよ、エリス」
「行こう、イリス」
「私たちの手であのドラゴンを倒して―――」
「―――お父さんとお母さんの仇を討ってやるの」
固く決意した2人は、ガッチリと手を繋いでカンズの家を飛び出して、仇であるドラゴンと出会った場所に向かって走りだした。
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