繭との約束
いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
さて、実はつい先日に初レビューしていただいたこともあり、先月は8815pvと飛躍的に記録を更新しました。
とても魅力的なレビューのおかげでブクマと評価も一気に増え、とても嬉しい限りでございます。
この期待に応えられるように引き続き頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします。
北の学院との対抗戦を終えた翌日、迅はイリスとエリス、繭と凛、そして久しぶりに外に出てきたサラとセラを連れて山の中を歩いていた。
ちなみに他のメンバーはというと、王女姉妹は貴族たちからの謁見を、木原姉妹は街中散策とそれぞれで行動している。
そして、対抗戦で脱落したことで頭にタンコブを作ることになった和輝と剛は、絶賛特訓中なのであった。
迅たちはギルドで受けた依頼をこなすために来ているのだが、繭のテンションが異様に高く、鼻唄なんかしながら歩いていた。
「ふんふ〜ん、ふふふふ〜ん」
「繭、嬉しいのは分かるけど、いざっていう時に油断なんかしないでよ?私は〝危ない事はしない″って約束したから認めただけなんだから」
「分かってる!大丈夫!任せて!」
いつ魔物と遭遇するか分からないのに浮かれている繭に、凛は呆れた目を向けながら注意した。
そんな凛の注意に繭は、ニッコニコな笑顔でビシッと親指を立てて返した。
しかし、変な気合も入っているのか目をキラキラさせているため、その様子を見た凛は逆に不安になってジト目になっていた。
そこへ、2人のやり取りを見ていたサラとセラが声をかけた。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「私たちもいるんですから安心してください」
「……うん、分かった。もしもの時はお願いね」
凛はサラとセラの実力は目の当たりにしたことはあったので、自信満々な2人の説得で渋々といった感じで納得した。
しかし、やはり親友の事となると気が気じゃないらしく、不安そうな表情は晴れていなかった。
迅たちがギルドで受けた依頼はというと、『アダマント・トータス』の誘導であった。
『アダマント・トータス』は体育館ほどの体躯を持つ亀型の魔物であり、その背中に正六角柱の巨大な緑の宝石を生やしている。
この魔物は正面から向かってきた敵には無類の強さを誇るのだが、基本的には動きが鈍いために子供であろうと楽に回り込めるので、戦闘では大した脅威にはならない。
しかし、いざ戦えば攻撃し放題なのだが、甲羅だけでなく皮膚まで硬すぎるために誰も傷を付けられないのが現状だった。
だから討伐は出来ないのだが、この『アダマント・トータス』は岩を好んで食べるため、時折街までやってきてしまうというのだ。
街を囲む壁を食べられてはひとたまりもないため、たまにクランを向かわせて問題無い場所まで誘導させているとのことだ。
ちなみに、討伐を北沢に頼んだこともあったらしいが、ギルド自体の隷属を対価にされたため、話は頓挫したそうだ。
「そういえば、サラちゃんとセラちゃんはしばらく外に出てきてなかったみたいだけど、今まで何してたの?」
凛がふと気になった疑問を2人に聞くと、サラが〝待ってました!″と言わんばかりにピースサインをしてみせた。
「へっへー!実はジンにお願いして、ジンの記憶を見せてもらってたんだ!」
「「「えっ⁉︎何それ羨ましい!」」」
サラの言葉に反応したイリスとエリスと繭の3人が、まるで三姉妹のようにシンクロしながら驚いていた。
実はサラとセラの2人は、遺跡での件が片付いた頃からずっと迅の中で記憶を閲覧していたのだ。
見たのは迅がいた世界、神核を取り込んだあとの特訓、それから迅が復讐を成し遂げるまでの分岐点になりうる出来事の一通りを見ていたのだ。
その中には今の迅からは考えられない葛藤や後悔、そして壮絶な戦いに悲しい結末まで含まれており、その容赦のない人生の記憶を見た2人は、自然と〝ジンのために力の限りを尽くして生き残る″という覚悟を持ったのだ。
そして、〝これ以上の悲劇を経験させないために″と、2人は迅の周りの人たちを守ることにもやる気になっていた。
「へぇ、精霊って記憶を見る事も出来るんだ」
「見る事が出来るのは宿主のだけですよ。でも、さすがに全部を見るなんて時間が掛かりますから、ジンさんにとって重要なところだけを見てたんです」
「いいなぁ……ねぇ、ジンくん。そろそろ私たちにもジンくんの事を教えてくれたりって……ダメかな?」
繭からの遠慮気味なおねだりに、迅は即答はせずに少しばかり考え込んだ。
「う〜ん、まぁ、俺の目的は達しつつあるから、そろそろ全部話してもいいかなとは考えてる」
「えっ⁉︎じゃ、じゃあ!」
繭は迅が遺跡を破壊した力について隠しているのを知っていたため、〝ダメだろうな″と思いつつ聞いたのだが、まさかの回答に思わず前のめりになっていた。
一方で、迅はなにも適当に答えた訳ではなかった。
(敵の組織は不明のままだが、それもあちこちを回ってれば分かるし、敵の方針も大体は把握できた。それに、徐々に俺の力を解放してるうえに勇者についてても何も変化がないからな。頃合いと言えば頃合いだが……)
もともと迅が秘密を明かさないのは、神に自分という存在がバレないようにするためだった。
以前、別の世界で神に悪だくみを綺麗さっぱりに隠匿されて、危うくその世界の人たちを危険に晒してしまったのだ。
しかもそれで迅も死にかけたくらいである。
だからこそ今まで隠していたが、迅は遺跡の件で神の力を使って『鬼神化』にもなったというのに、まさかの反応すらない状態である。
だからここまでくれば、〝話しても力を使ってても問題無いかも″と判断していた。
しかし、繭のアニメ好きを知っている迅は、この最終的な決断を繭の意志で決めることにした。
「……なぁ繭、お前はアニメのネタバレは好きな方か?」
「え?私は嫌いな方だけど……っ⁉︎」
唐突な質問に疑問を抱きつつ返した繭だったが、迅の言葉を頭の中で再生しておかしな点に気付き、驚いて目を見開いていた。
繭がその何かに気付いたのを察した迅は、口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺の話はその時が来たらという事にしようか」
「……ん、その方がいい。シチュエーションは大事だからね」
繭は迅の正体をほぼ把握したものの、アニメ好きとしての矜持が〝今は聞かない″という判断をした。
一方で凛も聞いていたはずなのだが、2人の会話の真意に気付いておらず、何か分からないもので通じあっている2人にジト目を向けていた。
「……なんか2人だけで理解し合ってない?」
「凛、先読みは大事なものだけど、展開を深読みするとアニメは楽しめないものだよ」
「急に何を言ってるの?」
諭すように話してきた繭に、その繋がりが分からない言葉の意味を聞き返す凛。
しかし、繭はその先を答えようとはせず、上機嫌で歩き続けた。
そこへ凛が詳しく聞こうと詰め寄った時だった。
ズゥン!
突然、地面が揺れるほどの地響きが聞こえてきた。
「きゃっ⁉︎」
突然だったこともあり、バランスを崩して倒れそうになる凛。
しかし、側で耐えていた繭がすかさず支えた。
「おっと、大丈夫?凛」
「うん、ありがと。ねぇ、今のってもしかして……」
「あぁ、間違いない、俺たちの狙っていた獲物だ」
迅たちが音のする方を警戒して身構えていると、本当にゆっくりとその姿が見えてきた。
「ゲェアアアアアアッ!」
地響きの原因である『アダマント・トータス』は木々の隙間から迅たちを視認すると、雄叫びを上げてゆっくりと移動を再開した。
「さて、お前らは下がってろ。受付の話じゃ、あいつは防御と回復しか魔法を使えないらしいが、繭の要望通りに派手に暴れてやるからよ」
「え?それって私の約束と違う「待ってましたー!」……まさか2人とも!最初から守るつもりなかったの⁉︎」
戦う気満々の迅と大声を上げて喜んでいる繭を見た凛は、2人の意図を察して声を荒げた。
「繭との約束が先だからな」
「えへへ、ごめんね、凛」
「この裏切り者ー!」
あっさりと裏切った2人に飛びかかった凛。
そこへ繭が止めようと抱きついたものの、激しい抵抗に苦戦を強いられていた。
「うっ!ジンくん!今のうちに!」
それでも〝邪魔はさせまい″と踏ん張っている繭に、サラとセラの加勢が入ったことでどうにか凛を抑え込んだ。
それを見届けた迅は、自分から『アダマント・トータス』の元へと歩いて近付いた。
「情報通り、本当に動きが鈍いんだな」
迅が程よく近付いたことで射程圏内に入ったのか、『アダマント・トータス』は首を甲羅の中に引っ込めさせていった。
「ゲェアッ!」
首を完全に引っ込めさせた直後、弾き出されたかのような勢いで真っ直ぐに首が伸びてきた。
その頭突き?によって正面にある木々は薙ぎ倒され、地面すらガリガリと抉りながら迅に向かっていく。
「そぉらっ!」
その光景を見ただけでもかなりの威力を持っているのは確かだったため、迅も右の拳を構えて全力で右ストレートを放った。
ズドォン!
激しい衝突をした迅の拳と『アダマント・トータス』の頭。
迅の拳とぶつかったことで勢いが弱まって拮抗し始めたが、甲羅に付いている宝石が赤く発光した瞬間に力が強まり、そこから徐々に押されていった迅はとうとう弾き返されてしまった。
迅は空中で態勢を整えてしっかりと着地すると、予想以上の硬さとパワーについ舌打ちをした。
「ちっ、甲羅が本命のくせに皮膚でここまで硬いとはな……仕方ねぇ、『身体強化』!」
迅は『身体強化』を掛けたことで体全体が白く発光し、そのまま『アダマント・トータス』に向かって走りだした。
そして、迅が向かってくるのを見た『アダマント・トータス』は首を引っ込めると、宝石を赤と緑の二色を発光させた。
どうやら宝石の力で魔法を使っているらしく、その証拠に『アダマント・トータス』の体全体もその二色の光を帯びていった。
「ゲェアッ!」
さっきと同じように勢いよく首を伸ばした『アダマント・トータス』。
しかし、さっきとは違って自身の防御とパワーを底上げしているため、先程よりは威力自体が段違いである事が伺えた。
だが、それは迅も同じ事だった。
「お前と俺とじゃ、強化の質が違うんだよ!」
ただ拳を前に放つだけ、たったそれだけなのに強烈な唸りを上げるその拳を、向かってくる巨大な頭にぶつけた。
ズドォオオオン!
ぶつかって僅かに拮抗した後、『アダマント・トータス』の頭は吹っ飛んでいき、甲羅の中へと跳ね返されていった。
しかし、頭が甲羅の中に入った衝撃で一歩後退するものの、『アダマント・トータス』は倒れはせずに宝石を青く発光させた。
そしてすぐに体全体が覆われていき、迅に殴られたことで陥没した頭がメリメリと元に戻り始めた。
それを見た迅は何をしているのかを察して、それを阻止するために『アダマント・トータス』の宝石の真上に跳びあがった。
「回復なんかさせるかよ。これで終わりだ!」
迅は青く発光している宝石を、上から力の限りに殴りつけた。
ズドォオオオン!
宝石自体は特別に硬いのかヒビが入るだけだったが、宝石自体がくっ付いていた部分から剥がれたことで『アダマント・トータス』の体を貫通し、重要な器官を破壊していった。
それとほぼ同時に『アダマント・トータス』自体も上からの圧力によって、腹這いになる形で地面に叩きつけられ、その後は動くことすら出来ずに絶命していった。
「……………」
「これ!これが見たかったの!」
「さすが師匠なの!」
「圧倒的だったの!」
「あたしだったら燃やして終わりね」
「私は心臓まで凍らせられます」
離れて見ていた者たちは、唖然としている者、興奮している者、シミュレーションをしている者と分かれていた。
「ふぅ……で、俺は約束を守れたってことでいいか?」
「完璧でした!」
戻ってきた迅が口元に笑みを浮かべて繭に尋ねると、満面の笑みと興奮した言葉が返ってきた。
そこへ、呆けていた意識を戻した凛が話しかけてきた。
「……2人は良くても私は裏切られた気分だよ」
「悪かったな、梶谷。でも、繭が1人で魔物に挑むよりはマシだと思うぞ。こいつはダメって言っても聞かない時があるだろ?実は西にいた時に何回か魔物退治に同行させてやったんだが、その時だって何度も特攻していってたからな」
「ちょっ、ちょっとジンくん!それは凛に秘密にしてるやつで……」
予想だにしていなかった暴露に、ワタワタと慌てる繭。
やはり親友が心配すると考えて話していなかったようで、少し顔を青褪めさせているほどだった。
そんな慌てる繭を見た凛は、〝今更か″と考えて一つだけため息をついた。
「……はぁ、もういいよ繭。そうだよね、繭は前からそういう事をしてたもんね。仕方ないから見逃してあげるよ」
「いいの?」
「もちろん条件はあるよ。今度からは隠さずに私も連れてくこと。それで許してあげる」
おずおずとしている繭に、笑みを見せながら条件付きで許した凛。
凛もまた親友だからこそ心配で、その性格を改めて認識したからこその妥協案であった。
「ん、分かった。黙っててごめんね」
「次は気を付けてよね。じゃあジンくん、そういう訳だからよろしくね?」
「俺はべつに構わねぇぞ」
「ありがとう。それから繭と同じように私のことも名前で呼んでいいよ。梶谷だと言いづらいだろうし」
「はいよ、凛」
繭の秘密騒動も一件落着したので、お昼前というのもあってすぐに帰ることにした迅たち。
ちなみに、北の山脈で倒した魔物は基本的に軽くバラしてから運ぶのだが、迅の場合はバカでかい『魔力結界』の上に乗せることでそのまんま運んだ。
そしてお昼過ぎに街に戻ってきた迅たちは、街の山脈寄りにある特設解体場に魔物を運んだ。
もちろんそこで一悶着あったものの、それをどうにかやり過ごした迅たちは一旦この場で別れることにした。
「それじゃ、2人は先に北宮殿に戻っててくれ。俺たちはギルドであの亀の報告をしてくるからよ」
「ん、分かった。今日はありがとう、ジンくん」
「ジンくん、また後でね」
解体場から5分ほどの位置にある冒険者ギルドへとやってきた迅とイリスとエリス。
ちなみに、サラとセラは解体場で一悶着あった時に迅の中へと引っ込んでいた。
扉を開けて中に入ると、十数人の冒険者がたむろしていた。
しかし、その全員が沈痛そうな面持ちで下を向いており、心なしか重い空気が漂っていた。
「ん?なんか嫌な雰囲気だな」
すぐに違和感を察した迅が冒険者たちを注視していると、その全員が時折同じ方を向いている事に気付き、迅もそっちに目を向けた。
「……あれが原因か」
迅はそっちを見てそれを認識した瞬間に顔を顰めた。
そんな迅につられたイリスとエリスがそちらを向くと、2人は二重の意味で固まることになった。
一つは壁の端っこに倒れている者の異様さに、もう一つは、2人にとってはたった数年前まで見ていたことで覚えていたからだった。
その倒れている者は2人がよく撫でて可愛がっていた猫耳と尻尾を生やしており、まだ成長しきっていないその小さい体は女の子らしい細い体をしていた。
「え?」
「あれ?」
2人はふらふらとその女の子に近付くと、その顔をまじまじと見つめた。
「「ユリちゃん!」」
多少の成長をしていても自分たちの記憶のものと一致し、2人は慌てるようにしてその女の子の元へと駆け出した。
その女の子は大声で呼びかけられてもグッタリしており、血の気が引いている顔と華奢な手足には、なにやら黒い紋様が蠢いていた。
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