対抗戦の決着
まずは謝辞を、この度は定期投稿に遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
なるべく定期投稿を守れるようにしたいのですが、これから先も度々遅れる事があるかと思います。
その時もどうか大目に見ていただけると幸いでございます。
〈早朝の北宮殿にて〉
「―――私の目的なのですが、いずれ訪れるであろう危機から会長を守りたいのです。そのために、今回の対抗戦で私を殺してもらって構いませんので、貴方に協力してほしいのです」
「待て待て、もっと詳しく説明しろよ。それだけじゃ判断のしようがねぇよ」
ザックリな説明と極端な提案に困惑した迅は、頭に手を当てて細かい説明を求めた。
「これは失礼しました。では順を追って説明します―――」
ルイーナの話を簡単にまとめると、北沢自身の言動によって国や覚醒者に目を付けられてしまうから、それを防ぐために北沢を問題無いレベルまで更生させたいので協力してほしいというものだった。
迅としては元からそのつもりだったが、一番被害を受けていたであろうルイーナが頼んで来た事に、〝なぜ?″と疑問を浮かべていた。
「……お前の目的は分かったし協力するのも構わねぇが、お前がそこまでしようとする意図が分からねぇな。あいつの事だ、どうせ普段から手を出されてんだろ?その手首の火傷だってあいつが原因じゃないのか?」
そう言って、ルイーナの左手を指差して指摘する迅。
指摘されたルイーナは、制服の袖をまくって見せた。
するとそこには、手の甲から肘までにかけて火傷の痕が残っており、よほど酷い目にあったことが伺えた。
「確かにミスをしてしまった時には叩かれますけど、この腕の傷は違いますよ。これは私が初等部の頃にイジメっ子たちに付けられたものです」
「そうなのか、決めつけて悪かった」
「いえ、お気になさらず。……突然ですけど、貴方はこの髪色を見てどう思いますか?」
迅の謝罪を笑みを浮かべて流したルイーナは、唐突に自分の髪を触りながら問いかけてきた。
「どうって言われてもな……普通に綺麗な落ち着いた色だと思うが……」
迅は率直に答えたのだが、ルイーナにとってはそれが予想外のものだったらしく、驚いた表情で軽く返答に詰まってしまっていた。
「……そうですか、ありがとうございます。ですが、そんな風に感じる方はこの世界ではほぼ皆無なんですよ。それこそ、この髪色に似ている勇者様たちくらいのものです。大抵の人はこの黒っぽい色に対して畏怖か尊敬するかなのですが、勇者様というのは大々的に発表されますので、ただ髪色が似ているだけの私は『偽物勇者』として知られ、同級生たちのイジメの対象となっていました。これはその時の傷なんですよ。『偽物勇者が調子にのるな』って言われながら、剣に火を纏うことが出来る同級生にやられました。べつに私は何をした訳でもないんですけどね」
ルイーナは力ない笑みを浮かべて話しながら、自分の左腕に右手を添えた。
「手当てが遅れたせいもあって、この火傷の痕は残ってしまいました。ですが、それでも同級生たちのイジメが止まることはなかったです。そんな事が日常になって慣れ始めた頃、いつものようにイジメられていた私の前に会長が立ち塞がってくれたんです。会長はイジメっ子たちに『勇者でもないくせに偉そうにするな』って言って、その場で全員を倒してしまったんです」
そこまで話したルイーナはその当時の事を思い出し、今度は嬉しそうな表情を浮かべていた。
「複数人相手に圧倒してみせた会長はその頃の私にとって鮮烈で、衝撃的で、とても魅力的でした。『勇者なんかいなければ』と恨みを持ち始めてたというのに、それすら一気に晴れてしまったほどです。そこから私は会長の『小間使い』になることでイジメられることは無くなりました。許可もなく私に手を出せば会長からの報復が来ますからね。……私は会長に救われた身です。心の底から恩義を感じています。だからこそ今度は私が助けてあげたい、側で支えてあげたいんです。ですが、弱い私に出来る事なんて限られています」
最後にそう言って、確固たる決意を秘めた目を迅に向けるルイーナ。
「なるほど、それで『殺してもいいから』って訳か」
ルイーナの心情を知った迅はその意志がこもった目を見て納得し、その覚悟に対して自然と笑みを浮かべていた。
「いいぜ、お前のその覚悟が気に入った。俺なりのやり方であいつの鼻っ柱を折って、どうにか考えを改めさせてやる。お前はその代償としてあいつのストッパーになれ。べつに真っ当な道を歩かせろとは言わねぇが、自分から破滅しそうな道へ踏み出そうとしたら死ぬ気で止めろ。それが協力するための条件だ」
「分かりました。全身全霊をもって対処します」
そう言って、迅が協力してくれる事に感謝して深くお辞儀をするルイーナ。
「頼んだぞ。あとはせめて身内には手を出さないようにさせないとな」
「それは有り難いですが、私にだけは影響が出ないようにお願いします」
「ん?何でだ?」
どうするか考え込んだところで意味の分からない事を言われ、ほぼ反射的に聞き返した迅。
すると、なぜかルイーナは頬を染めて恥ずかしそうに話しだした。
「実はですね、数年前から会長のオシオキに快感を覚えてしまいまして、それが無くなるのは少し寂しいと言いますか……」
ついには体をくねらせたりモジモジしながら自分の性癖を語るルイーナ。
「……こんなツートップでよく今まで問題が起きなかったな」
まさかの事実を知ってしまった迅は、気持ちを萎えさせてゲンナリとしていた。
その後はちゃんと何をするかを話し合い、対抗戦へと臨んだのであった。
今朝の出来事を思い出して気分を落としながらも、準備はしっかりと済ませた迅。
そんな迅の前には空中に浮いた状態のルイーナがおり、ちゃんと首を絞めているように見せるために少し力を入れているところだった。
ちなみに浮いている原理はというと、迅が『魔力結界』をルイーナの服の下に張り、それで支えている状態だった。
「さて、これで準備は出来たが大丈夫か?苦し過ぎたりはしないか?」
「はい、大丈夫です。もっと絞めてもらってもいいくらいですよ」
迅の確認に、若干嬉しそうに返すルイーナ。
そんなルイーナに、ついジト目を向けてしまう迅。
「これ以上やったら完全に絞まるだろうが。つーか、あいつからのでしか興奮しないんじゃないのかよ」
「そうなのですが、会長のためにと考えるとこれはこれで悪くないなと」
「……この変態が」
ついには荒い呼吸を始めたルイーナに、思わず毒づいた迅だった。
準備を終えて少し経った頃、北沢がもうすぐこの場に来るのを察知した迅は、ルイーナに声をかけた。
「おい、そろそろ来るから力を抜け」
それから程なくして、北沢が迅たちを見つけて立ち尽くした。
「……な、何してんだテメェッ!」
いくらかボーッとした後にしっかりと現実を見た北沢は、怒りのままに右のホルスターから大型拳銃を取り出して、引き金に指をかけた。
それを見た迅は左手に『セイドラ』を顕現させて、とことんまで冷たい表情をしながら唱え始めた。
「『アイシクル・グレイブ』」
ドパァンッ!
迅が唱えたとほぼ同時に、北沢の拳銃からレールガンが放たれた。
しかし、迅が『セイドラ』を使って創り出した氷柱に阻まれてしまった。
迅はレールガンを防いだ氷柱を霧散させて、淡々と話しかけた。
「随分と遅かったな。後輩の勇者はそんなに強かったか?」
「黙れ!とっととその手を離しやがれ!」
「あぁ、悪いな。ほらよ」
迅は怒鳴り散らす北沢を気にした素ぶりも見せず、『魔力結界』を解除してルイーナを軽く横に投げ飛ばした。
「ルイーナ!」
北沢が地面に転がったルイーナに声をかけるが、もちろん反応は無く、加えて息をしているかも判別がつかないために焦りつつあった。
「……答えろ、殺したのか?」
「さぁな、目は虚ろになってたとは思ったが」
殺気を向けながら睨みつけてきた北沢の問いに、肩をすくめて答える迅。
「っ⁉︎テメェ!何でそこまでしやがった!あいつがお前に何をしたってんだ!」
そんな迅に更に怒りを覚えた北沢は、左手にも大型拳銃を構えて迅に問い詰めた。
「そんなカッカするなよ。なんでも俺という覚醒者がいるとお前に危険が及ぶらしくてな。『危険な存在だから消えてくれ』と言って殺しにかかってきたんだ。だから返り討ちにした。ただそれだけの話だ」
「……あいつがそんな事を?いや違う!それは嘘だ!あいつはそんな事をするような奴じゃねぇ!」
「バカの事を庇うのは構わねぇがそれが事実だ。そんな奴は放っておいて早くかかってこい。俺は早く終わらせて寝たいんだよ」
「っ!ざっけんなテメェ!」
ひたすらに挑発した迅に激昂した北沢は、『身体強化』を掛けて赤黒い光を身に纏った。
「あん?なんだその身体強化は?お前、一体何に手を出した?」
北沢の『身体強化』を見てすぐにその異常さに気づいた迅は、演技をするのも忘れて問いかけた。
「黙ってろクソ野朗!俺がテメェを殺してやる!」
右手の拳銃をホルスターに戻した北沢は迅の問いかけには答えず、全力で踏み込んで迅に向かっていった。
「なんだ、お前も殺されてぇのか」
中々に速い北沢の動きに気を引き締めた迅は、北沢の『身体強化』の秘密を後回しにしてその場から飛び退いた。
そして2人は周りの木々を飛び移りながらの高速戦闘を始め、時には拳を打ち合い、時には銃撃と剣撃をぶつけ合うという、和輝とは次元の違う戦闘を繰り広げた。
しかし、攻撃の全てが相殺される事に焦り始めた北沢は徐々に精彩を欠いていき、逆にギアを上げていく迅が優勢になっていった。
そして、ついには防戦一方になって迅に斬られそうになった北沢は空中に避けたのだが、そこへ迅が更にギアを上げて接近して『セイドラ』で拳銃をはたき落とし、そのまま一回転して北沢の左肩にかかと落としを放った。
ズドォン!
「がっ!」
地面に勢いよく叩きつけられた北沢は、その弾みで仰向けになった。
そのままで軽く怯んでいる北沢を逃すつもりはない迅は、『セイドラ』を逆手に持って構えた。
「『コンゲラート』」
迅は空中にいたままで短く唱えると、持っていた『セイドラ』を北沢の少し横に向けて投げつけた。
そして『セイドラ』が地面に突き刺さった直後、そこを中心に氷が広がり始めた。
その氷はどんどん広がっていき、北沢の両手足まで包み込んで地面に縫い付けてしまった。
「うぐっ!」
「これで動けねぇだろ」
両手足が氷漬けにされて苦しむ北沢の側に着地した迅。
その迅の顔は冷たい目をしながら無表情でいるので、それを見た北沢は自分の攻撃が全くの無意味であったことを理解し、自然と湧き上がる怒りに顔を歪ませていった。
「クソったれがぁっ!なんであそこまでする必要がある!テメェなら手加減する事も出来ただろうが!」
「それをお前が言うのか?誰彼構わずに当たり散らしてるくせに、よくそんな事を言えるな」
赤黒い光を強くさせて抵抗しながら悪態をつく北沢に、迅は今の立場を分からせるために無防備な腹に拳を放った。
ズン!
「がはっ⁉︎」
「お前の事は他の奴らから聞いたよ。敵に対してはどんな奴でも叩きのめしてきたんだろ?俺はお前のようにやってやっただけさ。それのどこに問題があるってんだ?」
「っ!」
その挑発するような迅の物言いが完全に図星だったこともあって、歯を食いしばって睨みつける事しか出来ない北沢。
迅はそんな反論すら出来ない北沢を見ながらも、更に追い詰めるためにサディスティックな笑みを浮かべた。
「結局のところ、弱いくせに歯向かってきたのが悪いんだよ。ザコならザコなりに大人しくしてればいいものを……本当にバカな奴だよなぁ」
「……だまれ……てめぇなんかが、あいつを貶す資格なんざねぇんだよ!『エルヒタン・カロネード』!」
長い付き合いであるルイーナを貶された北沢は、自分の切り札である黄色い大砲を迅の背後に作り上げた。
そして、それが自分を巻き込むことも厭わずに、ありったけの精神力と魔力を注ぎ込んで力を溜めていった。
実は北沢の魂剣は大型拳銃ではなかったのだ。
北沢の魂剣は全ての銃火器であり、普段は使う機会が無いからこそ大型拳銃のみで戦っていたのだ。
チラリと肩越しに後ろを見た迅の視界には、大人でさえすんなりと入れそうなほどに大きな砲口が向けられており、そしてその大砲自体は溜め込んだエネルギーが電気へと変化して、バチバチと激しくスパークしていた。
「消えてなくなれ!」
北沢の意思で自動点火された大砲は、その砲口から特大のレールガンを撃ちだした。
ズガァン!
鼓膜が破けそうになるほどの爆音が響いた直後、そのレールガンは真っ直ぐに空へ向かって消えていった。
「っ⁉︎」
自分が思っていたのと別方向に撃ち出されたレールガンを見た北沢は、バッと大砲の方へ顔を向けた。
するとそこには、地面から生えだしている巨大な氷柱しか見えなかった。
実は北沢が作った大砲からレールガンが撃ち出される直前に、迅が『セイドラ』の氷柱で大砲の砲口を上に向けさせていたのだ。
「まさか遠隔操作も出来るとはな。だが、威力はあっても発射口がこっちを向いてなきゃ意味がねぇな」
迅はそう話したあと、しゃがんで北沢の首を絞めていった。
「うっ……ぁが……おぇっ」
徐々に絞められていくことで苦しむ北沢に、迅は諭すように語り始めた。
「お前は確かに強い。大抵の奴なら敵うはずがねぇ。だがな、お前が今まで倒してきた奴らの数を考えろ。もし復讐された時、お前は乗り切れたとしても周りは違う。汚い奴らは必ずお前の周りの奴に手を出してくる。周りの奴を確実に守れるわけじゃないなら、闇雲にケンカを売るのをやめろ。自分の守れる範囲を理解しろ。なにも叩きのめすだけが強者じゃねぇ、敵によっては上手いこと誘導してみせろ。〝周りに被害をもたらした時点で負け″、そう頭に刻め。本当に大切なもんを守りてぇならお前のプライドなんざ天秤にかけるな。お前の考えなんざ嘲笑うように容赦なく理不尽が襲ってくる。それが嫌だってんなら、お前の全てを賭けて周りごと守り通してみせろ。それを成すのが本当の強者ってもんだ」
迅がそこまで語った直後、北沢は意識を落としていった。
それと同時に赤黒い光が霧散し、迅も首を絞めていた手を離した。
「【変換】」
終わったのを悟ったルイーナが起き上がって近付いてくるが、迅はその前に【変換】を使って黒い瞳を縦長で緑色の瞳に変化させて、北沢の体全体を確かめていった。
この瞳は体の異常な箇所を見つけることが出来るのだが、その瞳で見た北沢の体は〝酷い″の一言に尽きるものだった。
(心臓を中心に体の中のあちこちに結晶みたいなモンが引っ付いてやがる。一体何を取り入れやがったんだ?これのおかげで魔力の質は上がってるが、体の方は拒否反応で腐りつつあるな)
迅の目には北沢の内臓のほぼ全てに赤黒い結晶がくっついており、それが強い魔力と毒素を放出しているようだった。
そこまで確認した迅は右ポケットから布を取り出して左手の上に広げて、右手をその上に被せて力を込めていった。
すると、右手に緑色の光が集まり、それが収束したかと思えば布の上には黄緑色の3つの丸い玉が転がっていた。
それを布で包んでポケットにしまうと、迅は目を元に戻して立ち上がり、ちょうど近くまで来たルイーナに声をかけた。
「とりあえず、これで様子を見てみるしかない」
「えぇ、本当にありがとうこざいました。あとは私が責任持って支えていきます」
「ああ、頑張ってくれ。それと、これからの頑張りに期待して餞別をやるよ」
そう言った迅は先ほどしまった布の包みを取り出して、手の上に広げて見せた。
「これは……飴、ですか?」
「俺特製の飴だ。それをそいつが身体強化を使う時か、使った後にでも舐めさせてやれ。俺が見た感じだと、体が徐々に侵食されてる状態だ。だからあの身体強化を使い続けると数年で体が壊れて死ぬか、化け物に変化するかのどっちかになるだろうな。だがその飴ならいい具合に抑えてくれるはずだから、そいつが嫌がっても無理矢理に舐めさせろ」
包み直して差し出すと、ルイーナは両手で受け取ってしっかりと握りこんだ。
「こんな物まで……本当にありがとうございます」
「気にするな。さてと、神崎を探して学院に戻るとするか」
「場所は把握してるので任せてください」
その後は気絶組を回収し、迅たちは北の学院へと戻っていった。
〈北セントレア学院の医務室にて〉
対抗戦が終わったことで迅たちは北宮殿に戻り、ルイーナたちは医務室へと向かうことになった。
それなりの広さがある医務室では、変態三兄弟、カグニース、そして北沢がベットで眠り込んでいた。
ラムスは完全に無傷だったので自室に戻っているのだが、ルイーナだけは北沢の側で待機したままだった。
ルイーナは北沢の手を握ったまま眠り顔を見つめているのだが、かれこれ3時間以上はそのままだというのに、その優しい表情からは飽きた様子は微塵もみられなかった。
そして、日も沈みそうになった頃、北沢の手がピクッと動いた。
「……ぅ……ぁ」
「会長、大丈夫ですか?」
「……るいーな?……っ!」
ルイーナに声をかけられたことで意識を覚醒させた北沢は、ガバッと勢いよく起き上がった。
「おはようございます、会長。体の方は大丈夫ですか?」
「俺は、大丈夫だが……お前、無事だったのか?」
自分の体よりもルイーナがすぐ横にいることに驚いている北沢。
最後に見たのが力なく倒れている姿だったので、そう思うのは無理もなかった。
「はい、この通りピンピンしてますよ」
「……そうか、ならいいんだ」
ルイーナは心配してくれた事に嬉しくなって笑みを浮かべたものの、反対に茫然自失といった感じで俯いてしまった北沢。
ルイーナはそんな北沢に申し訳なく思いつつも、対抗戦の結果を伝えた。
「すみません、会長。今回の対抗戦は私たちの負けとなりました」
「気にするな、俺もあいつに負けたからな。それに……お前が生きてるってことは、あいつに情けをかけられたんだろうな……」
力なく言葉を吐露した北沢は頭に手を当てて、意識を失う前に迅が話していた事を思い出していた。
(あいつの言葉はハッキリと覚えてる。ようは俺がしてきた行動をそのまましてきやがったわけだ。……あぁ、クソッ!確かに復讐に対処する算段はあったが、今の俺でさえ覚醒者1人にすら敵わねぇならあいつの言う通り……いや、自分の身ですら危ういじゃねぇか。……それに、今回の件で自覚しちまった。こいつらが俺にとって失いたくはないものだってことに……なら俺は―――)
元々クヨクヨ悩むタイプではない北沢は自分の本当の気持ちを理解して、その理想を守るために覚悟を決め、その目に強い意志を宿らせて顔を上げた。
「……あいつの言葉に従うのは癪だが、これからはもう少し考えて行動する。お前もそうだが、3バカ、ラムス、カグニース、長い付き合いのお前らを失いたくはないからな」
「……会長」
ルイーナ自身が望んでいた変化とはいえ、北沢が周りを気遣うと決意してくれた事に、驚き目を見開くルイーナ。
「今まで悪かったな」
「いえ、謝らないでください。私は会長に、キョウシロウ様に救われた身です。どんな事があろうとも貴方について行きますし、どんなものからでも守って支えてみせます」
北沢から謝罪の言葉を初めて聞いたルイーナは、北沢の手を両手で包みながら嬉し涙を流し、自分の本心を余す事なく伝えた。
そのどストレートな想いを聞かされた北沢はなぜか無性に恥ずかしくなり、今の顔を見せないようにそっぽを向いてしまった。
「……そうかよ」
「そうです。あっ、そういえば、ジンさんからこれを頂きました」
そう言って、迅から貰った布の包みを広げて見せたルイーナ。
「なんだこりゃ?」
「なんでも、キョウシロウ様が身体強化を使った時に舐めてほしいそうです。侵食されていく体を抑えてくれるそうです。私もそれは初耳なのですが、一体どんな無茶をしてるんですか?」
「アレのことか……べつに無茶をしようとした訳じゃねぇから気にするな。つーか、そんな事まで分かったのかよ……本当にバケモンだな、覚醒者ってのは」
ジト目を向けてくるルイーナに目を合わせないようする北沢は、意図せず変化してしまった時の事を思い出しながらも、それを説明しようとはせずにはぐらかそうとしていた。
「まぁ、最近は地味に体も痛くなりつつあったからな、遠慮なく貰うとするわ」
自分でも〝どうにかしなければ″と考えていた北沢は、ルイーナの問いかけを無視して飴を取ろうと手を伸ばした。
すると、ルイーナは手に持っていた包みを自分の胸元へと引いてしまい、北沢の伸ばした手は空を切ってしまった。
そのルイーナの突然の行動に、今度は北沢がジト目を向けた。
「……なんのマネだ?」
「キョウシロウ様が教えてくれないなら私にも考えがあります」
「……そのうちに説明するよ。いいから寄越せ」
今までなら怒鳴っているのだが、大切だと自覚した以上は強く言えない北沢。
そして、それを理解しているルイーナは北沢の態度に嬉しくなりつつも、〝ここで引くわけにはいかない!″と強気になっていた。
「ダメです。ですが、今日は使ったので舐めないといけませんから、教えてくれない罰として口移しさせていただきます」
「はぁ⁉︎ちょっと待て!なんでそうなるんだ!」
全く予想もつかなかった宣告をされた北沢は、おそらく今までの人生で一番の焦りを見せていた。
そんな焦る北沢に、頬を染めながら蠱惑的な笑みを浮かべるルイーナ。
「長年かけて積もりに積もった想いがそうさせるんです。この機会を利用させていただきます」
「分かった!説明するからちょっと待て!」
「……そんなに拒むほど嫌ですか?」
思いのほか強く制止してくる北沢に、シュンとした表情を浮かべて落ち込んでみせるルイーナ。
「いや、べつにそういう訳じゃ……」
「では、何も問題ありませんね。今回は私も我慢出来ませんので、甘んじて受け取ってください!」
「そんな極端なんむっ⁉︎」
ルイーナは一方的に捲し立てると、飴を口に含んで北沢に飛びかかった。
咄嗟に動くことなど出来なかった北沢はルイーナを突き飛ばすわけにもいかず、ベットに押し倒されてなされるがままに唇を貪られた。
後日、迅の元へと届いたルイーナからの感謝の手紙には、飴が溶けるまでの十数分間、そのままでいたと書かれていた。
その僅かな感謝と惚気が大部分を占めていた手紙を見た迅は、その内容にゲンナリしてしまったのだった。
長々と続いてしまった対抗戦もこれにて終了でございます。
しかし、この『北の山脈編』はここから折り返しとなりますので、この後のストーリーも楽しみにしててください。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




