北の学院vs西の学院2
〈迅サイド〉
時は少し遡り、和輝が北沢を追いかけていった後、麗奈が背の低い男を倒したことで残りの男2人に睨まれていた。
「カラン!……貴様、よくも我の弟をやってくれたな!」
「許せないんだな!トラン兄ちゃん、あのコンボをやろう!」
麗奈に対して激昂している2人。
実はこの2人とカランという男は三兄弟だったのだ。
まず高等部3年の長男トラン、続いて一つ年下の次男チラン、さらにまた一つ下のカランという、北の学院ではある意味有名な三兄弟だ。
ちなみに有名な理由はというと、この3人は共通して人付き合いが苦手なのだが、本人たちの中で興が乗ってくると性格が変わるのだ。
その変化を分かりやすく言うと、3人揃って『イタイ言動』を取るようになる。
その言動によって他人にも羞恥心を持たせるうえに魂剣の能力もある意味で凶悪なため、〝下手に関わらない方がいい″という認識が根付き、学院内で知らない者はいない有名兄弟になっていた。
次男であるチランに提案された長男トランは、左手で自分の顔を掴むように覆い、右手はチランの目の前にかざすという大仰な構えをとった。
「待て、我が弟チランよ。あれは我らの必殺技、ここでは使わずに温存し、時が満ちた際に使うべき切り札だ」
トランはわざと野太い声で話し、チランの案を否定した。
その頼もしい兄の説明を受けたチランは、トランに尊敬の眼差しを向けていた。
「なるほど、流石トラン兄ちゃん!ふふ、ひひ、命拾いしたなお前たち!本当なら一瞬で勝負が決するところを―――」
チランが体を軽く仰け反らせながら麗奈たちに指を差し、自分でカッコいいと思っているセリフを述べようとした時だった。
「テメェの相手はこの俺だ!この間の借りを返してやるぜ!」
カグニースが怒りに満ちた声で宣言しながら迅に殴りかかった。
ズン!
「こりねぇ奴だな。お前ごときじゃ圧倒的に力不足だ。もう一度その体に教えてやろうか?」
対する迅は体格差のせいで上から降ってくるような拳を、腕をクロスさせて受け止めて、不敵な笑みを見せていた。
「黙れ!そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだ!『メタル・グリズリー』!」
怒鳴り散らしたカグニースが短く詠唱した直後、両腕に付けられていた無骨な腕輪が白く発光し、その部分から体全体を覆うように銀色の膜が広がっていった。
「うぉおおおおおっっ!」
メタリックボディに変化してパワーアップしたカグニースは、雄叫びをあげてから迅に向かって走りだした。
しかし、派手な戦闘音を響かせるわ雄叫びをあげるわで〝やかましい!″と感じた者がいた。
「カグニース!今は我らが決めゼリフを言っているところなのだ!そんなにうるさくす「くたばりやがれっ!」人の話を聞けぇ!」
トランが怒り心頭といった感じで抗議したが、カグニースは全く気にせずに迅に殴りかかった。
ズン!
対する迅はその場から動かずに、右の拳を突き上げる形で受け止めた。
「へぇ、さっきよりはマシになってんじゃねぇか」
「このまま潰してやるよ!」
「やれるもんならやってみな!」
トランの怒りなど知ったことではない2人は、正面からの殴り合いを始めた。
その漢らしい戦いを始めた2人に反応すらしてもらえなかったトランは、〝もう放っておこう″と気持ちを切り替えて、可哀想な目で見てきていた麗奈たちに向き直った。
「……よいか貴様ら、この我が本気を出せば一網打尽にすることなど容易く――ズドォン!――えぇい!うるさいわ!」
いざ仕切り直そうとしたところでカグニースと迅の拳による衝突音が響き、たまらず憤慨するトラン。
するとそこへ、今までずっと剛と戦い続けていたラムスが割り込んできた。
「口ばっかりじゃなくて手を動かしなさいよあんたら!やっぱただのトンチンカンでしかないわけ!」
ひたすらに殴りかかってくる剛の攻撃を躱しながら文句を言うラムス。
一方で、北沢から言われ始めた三兄弟の蔑称とも言える名前で呼ばれたトランは、こめかみに青筋を浮かべて反論した。
「黙れ小娘!我らの名前をわざと間違えるでないわ!貴様こそとっととそいつを倒したらどうなんだ!」
「だってこの勇者が凄い粘着質なんだもん!」
「人を変態みたいな言い方すんじゃねぇよ!」
「このストーカーの変態!」
「ざっけんなテメェ!」
トランとラムスの言い合いだったのに、まさかの飛び火で不名誉なレッテルを貼られた剛は、ラムスを黙らせるべく再度飛びかかった。
剛が硬くて倒せないからこそ三兄弟を頼ろうとしたラムスだったが、すでに1人はやられてるうえに他は頭がおかしくて使えないため、仕方なく切り札を使うことにした。
「しつこいからもう寝てて!『コマ・フラグランス』!」
剛が近付いてくる前に短剣を無造作に振ったラムス。
すると、その短剣からピンク色の煙が大量に噴出してきた。
「やべぇっ!」
煙を毒ガスと判断した剛はどうにかとどまり、急いで後ろに跳び下がった。
しかし―――
「逃がさないよ!」
ラムスが短剣を指揮棒のように動かして煙を操作し、逃げる剛を包んでいった。
「うっ!……やべ、これ……なんか……ねむく……」
煙を吸った剛はすぐさま眠気に襲われてしまい、あっけなく眠り込んでしまった。
「ふぅ、本当は全員が固まったところでやりたかったけど、これ以上は付き纏われたくないからね」
「剛くん!」
「ちょっと繭!少しは援護して!」
剛がやられた事で焦りはじめた凛が繭に声をかけるが、繭はキラキラとした目でカグニースと迅の戦いを眺めていた。
「フハハハハ!勇者と言っても所詮はなりたてのルーキー!貴様らなど、我らが会長に比べれば大したことないわ!」
「ちょっと!あたしがやったのにあんたが自慢しないでよ!」
「やめっ……ごめっ……うぇっ」
トランは勇者である剛を倒せた事に嬉しくなって嘲笑ってきたが、功労者であるラムスに胸ぐらを掴まれて揺さぶられてしまい、一瞬で戦闘不能になりかけていた。
「凛ちゃん、私は剛くんを起こすから、それまで防御をお願い!」
「任せて!」
「おっと!そうはさせぬぞ、『マッド・ティエラ』!」
麗奈が指示を出して剛を起こしに行こうとしたところで、どうにか復活したトランの能力で変化した沼に足をとられてしまった2人。
「きゃっ⁉︎」
「うぐっ!ぬ、抜けないよぉ!」
「今がチャンスだ!我が弟チランよ!」
「待ってたんだな!『ホワイト・スプラッシュ』!」
2人が必死に抜け出そうとしているところへ、チランが杖から大量の白い液体を飛ばした。
「何これ⁉︎臭い!」
「いやぁっ!それになんかドロッとしてて気持ち悪いよぉ!」
抜け出す事に集中していた2人はモロに浴びてしまい、その液体の独特な匂いと感触に涙目になっていた。
「ふふ、ひひ、これでコンボの完成なんだな。『ホワイト・バインド』!」
チランがさらに詠唱した直後、白い液体は凝固していき、2人の体を締め付けていった。
「うっ!」
「なに、これっ。どんどん締め付けられるっ」
2人は『身体強化』を掛けて拘束から逃れようするものの、予想以上に強力な締め付けに苦戦していた。
ちなみに繭も拘束されているのだが、いまだにカグニースと迅の戦闘にのめり込んでいた。
抵抗しても拘束を解くことが出来ない麗奈たちを見たトランは、悦に浸っているかのような高笑いをしだした。
「フッフッフ、フハハハハ!どうだ、我ら兄弟の凶悪コンボは!長男たる我が足を止め、次男たるチランが体を拘束し、本来ならばカランが動けない貴様らに幻覚を見せるという最強のコンボなのだ!」
「やったよ兄ちゃん!完璧に決まったよ!」
いつものコンボが決まり、心の底から喜んでいるトランとチラン。
これこそが北の学院で有名になるキッカケとなった最強最悪の連携プレーだったのだ。
模擬戦をする時は必ず3対3のチーム戦に持ち込み、自信満々でやってきた対戦者の多くを辱めてきた。
北の学院では諍いがあった時には模擬戦の勝敗で決めるのがルールなのだが、この三兄弟はそれを嬉々として使いまくっており、特に女子に対して色々と吹っかけていた。
そしていざ対戦すれば速攻で足を止めて拘束し、最後はカランの幻覚で服が徐々に溶けていく光景を見せて、それによって羞恥に悶える女子たちを眺めるという戦い方をしていた。
しかし、根は小心者である三兄弟はそこまでしかしていなかったが、最近では完全に女子に嫌われてしまい、顔を合わせれば即座に避けられるという日常になり、放課後の自室で涙を流すというのも日常になっていた。
「よくやった弟よ。カランがいないからいつものようには出来ないが、これはこれで充分だ。見ろ、あの勇者の姿を!」
「うっ、くっ!」
「全然、解け、ない!」
トランが指差した先には体のいたる所に白いものを付着させ、匂いと拘束によって苦悶の表情を浮かべている麗奈と凛がいた。
しかも締め付けられているので体のラインもはっきりと強調されているので、もはや戦闘中とは思えない光景だった。
「こ、これはこれで満足出来ますね。あの白い液体で締め付けられることによって、勇者たちのナイスボディが強調されてて……く〜、たまらなくいいコンボです!」
「な、なんかエロいんだな……」
「……最低」
思わず素に戻って興奮しているエロ兄弟を見て、蔑みの目を向けているラムス。
するとそこへ、3人の視界に何やら黒いモヤが漂い始めているのが見えた。
「ん?」
「え?」
「うわ、やば!」
ラムスだけはこれが何なのかを察して、その場から急いで離れた直後―――
「『黒針』」
その黒いモヤは大量の太い針へと変化して、エロ兄弟に次々と襲いかかった。
「「ぎゃああああっっ!」」
エロ兄弟は仲良く体全体を串刺しにされ、あっという間に気を失った。
「今良いところなんだから静かにして」
エロ兄弟を串刺しにした張本人である繭は、観戦を邪魔された事で目から光を消すほどに怒っていた。
そして、その目を逃げていたラムスに向けると―――
「こ、降参しま〜す……」
本能的に〝逆らってはいけない″と悟ったラムスは、即座に両手を挙げてリタイアを告げた。
「うぅ、酷い目にあった……」
「でもこの液体がまだ残ってて気持ち悪いよぉ」
エロ兄弟が気絶した事で沼化と拘束は解けたものの、足は土に埋まってるし臭い液体は残ってるしで散々な思いをしている麗奈と凛だった。
一方で、麗奈たちのとんでもハプニングなど気にしていないカグニースと迅は、いまだに殴り合いを続けていた。
「ぬぅあああっ!」
ガン!
渾身の一撃を繰り出してきたカグニースの右の拳を、真っ向から同じ右の拳で受け止めた迅。
「確かにさっきよりは硬いが、代わりに動きが鈍くちゃどうしようもねぇぞ?」
「うるせぇ!俺はテメェを力で捩じ伏せんだよ!」
迅に指摘された通りに動きが遅くなっているカグニースは、迅がわざわざ合わせているのを理解しようとせずに今度は左の拳を放った。
ガン!
しかし、ここまで何度も繰り返してきたように迅の拳に受け止められていた。
「もうここまでだ。次やる時はその欠点をどうにかしておくんだな」
麗奈たちの方が終わったのを確認した迅は、一言だけアドバイスをしてからカグニースの懐に飛び込み、右の拳で鳩尾辺りを殴りつけた。
ドズン!
「おぼっ⁉︎」
銀色の膜があっさりと砕け散り、それでも足りないと言わんばかりに抉り込まれた拳に、白目を剥いて意識を飛ばしかけるカグニース。
しかしそれだけでは終わらずに、カグニースの体が浮いたかと思うと、まるでトラックにでも跳ねられたかのような勢いで転がっている岩まで吹き飛んだ。
ズガァン!
勢いよく突っ込んだ衝撃で岩は砕け散り、そのダメージも相まって完全に気絶したカグニース。
そして、それをすぐ近くで見ていたラムスは、まるで〝信じられないものを見た″と言わんばかりに目を見開いて驚いていた。
「……何あのパワー……カグニースが吹っ飛ぶところなんて初めて見たんだけど……」
「あはは、今の私たちじゃ絶対に勝てない覚醒者さんだよ」
「うひゃ〜、本当に覚醒者なんていたんだね。あたしは初めて見たけど、身体強化も使わずにあれだけのパワーなんだから納得したよ」
降参して戦う必要もなくなったラムスは、迅の強さに驚愕したというのもあり、あっさり打ち解けた麗奈と談笑していた。
そして、ようやくカグニースと迅の戦いが終わったことで、今までずっとのめり込んで集中していた繭が元に戻った。
「……はぁ〜、堪能しました……うっ、何この臭い」
「今気付くって、どんだけ集中してたの?」
今更ながらに悪臭を認識した繭に、呆れた目を向ける凛。
麗奈たちはひとまず落ち着いたことでオフモードになりかけていたが、迅は次の行動に移すために麗奈たちへ指示を出した。
「さてと、麗奈。俺は北の副会長さんを探してくるから、八木沼を起こして先に戻ってろ」
「あっ、そういえばいつの間にかいない!」
「じゃ、じゃあまたあのゲートで一方的に攻撃されるんじゃ……」
迅が口にしたことで今更ながらに気付いた麗奈は、慌てたように周りを見回していた。
そして凛も、〝また奇襲されるかも″と少し怯え気味だった。
「いや、それは無いと思うぞ。やるんだったらもう撃ち込まれてるはずだからな」
「そっか、でも本当に戻っていいの?私たちは和輝くんと合流した方がいいんじゃないかな?」
まだ戦っているであろう和輝が心配な麗奈は、先に戻る事に難色を示していた。
「いや、俺が副会長さんを捕まえて合流するから問題ない。それじゃ、また後でな」
付いて来られると逆に困る迅は、渋る麗奈をごり押しで残すために言うだけ言って、すぐさまその場から飛び去っていった。
「あっ、ちょっとジンくん!」
「待って!私も一緒に行きたい!」
迅は呼び止めようとする麗奈と欲望丸出しの繭の声を無視して、ルイーナの元へと移動していった。
迅は移動して割とすぐに、北沢を吹き飛ばした延長線上にいたルイーナの元へとたどり着いた。
「悪い、待たせたな」
「いえ、まだ会長は来なさそうなので大丈夫ですよ」
とある事をするために打ち合わせ通りに2人きりになった迅とルイーナは、早速準備に取り掛かった。
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