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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
北の山脈編
54/77

北沢 郷四郎vs神崎 和輝

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

先月は7225pvと一気に跳ね上がって記録を更新し、さらにはつい先日に累計4万pvを達成しました。

この作品をこんなに沢山読んでもらって本当に嬉しいです。

この調子で読み続けてもらえるように精進していきますので、これからもよろしくお願いします。


それと一つ報告を、実は先週の投稿分【北の学院vs西の学院】なんですが、終わりの部分がイマイチだと感じたので加筆修正してあります。

なので、1月6日以降に読んでいない方はそちらを見てから今週分を見ることをオススメします。

こちらの勝手な都合で変更してしまい、申し訳ありませんでした。

 迅に殴り飛ばされた北沢は運良く木の間を飛ばされており、勢いが少し弱まったところで大木に衝突した。


 ズン!


「がはっ!」


 背中から叩きつけられたことで、肺から空気を押し出されてしまう北沢。

飛ばされた直後には『身体強化』を使っていたので致命傷にはなっていなかったが、それでもすぐに動くことができないダメージを負ってしまっていた。


「ゲホッ、ゴホッ……ペッ、くそったれめ、なんつーパワーしてやがんだ」


 大木に寄りかかりながら座り込んでいる北沢は口の中に滲み出てきている血を吐き出し、懐から黄金色の液体が入っているガラス瓶を取り出して、それを一気に飲み干した。

すると、ものの数秒で口の中の傷は塞がり、大木に叩きつけられたことで痛んだ背中も治っていった。


 北沢が使用したのは、この北の山脈の魔物である『ロイヤルトレント』から採れる樹液だった。

全長20メートルほどの大木の姿をしているこの魔物は、倒してから切り傷を付ければ樹液を採取することができるのだ。

その樹液はとても甘くて美味しいうえに、即効で傷を治してくれる強力な回復ポーションとして知られている。

さすがに欠損は治せないが、骨が折れたくらいならば10分ほど、切り傷や打ち身程度なら2〜3分で完全回復してくれる優れ物なのだ。


「ふぅ……さて、こっからどうするか……」


 自分の体の状態を確かめ終えた北沢は、どうやって迅たちを捩じ伏せるかの思考を始めた。

すでに北沢の中で迅は過去最大級の強敵として認識されているのだが、それでも勝負を諦める理由にはなっていなかった。




 北沢はこの世界の学院に送られてからは、常に格上との戦いを強いられていた。

まだ子供なのに勇者だからという理由で高等部と同じ待遇にされ、魔物とも戦わされていたのだ。

しかし、まだ実力などあるはずはなく、少しした頃には1番弱いからという理由で頻繁に囮にされてしまい、死にかけた回数などは数え切れないほどだった。

そんな生活を続けていくうちに北沢の心は(すさ)んでいき、それは次第に怒りへと変化して自身の闘志に火をつけた。


「この世界は力が全て、力を持つ者が優遇される。なら、俺が全ての頂点に立って、あのクソッタレ共を従えさせてやる!」


 学院に来て僅か1年で変わり果てた北沢は、そこから2年以内、つまりは中等部になった頃には学院の頂点に立った。

怒りによって精神力が爆発的に上がった北沢の魂剣(ソウルアーツ)はすぐに進化を遂げて、立ち塞がったかつての強敵たちをたった1発の弾丸で捩じ伏せていき、誰も逆らうことの出来ない絶対的強者として君臨した。

それこそ、学院の指導方針を裏から操っていた北の領主でさえ容易に手を出せないほどに。




 壮絶な人生を歩んできたからこそ、迅という強敵が現れたくらいでは絶対に折れない北沢は、状況を確認してここから勝つための案を練り始めた。


(ルイーナたちはもうやられてるだろうしな、どうにかして1人ずつ……いや、こうなったら()()でごり押しするしかねぇな。他の奴が終わり次第、あのクソ野郎に俺の最大火力をぶっ込んでやる!)


 大体の作戦を決めた北沢は立ち上がって体の状態を確かめたあと、自分が飛ばされてきた方へと歩き始めた。


「あん?」


 しかしその歩みは、木々の奥から白い光が近付いてきたことで止めることになった。

かなりの速度で向かってきた白い光は、北沢から数メートル離れた所で止まり、その正体を現した。


「やっと見つけました」


 北沢の元までやってきた和輝は、ゼヴォルスを取り出しながら声をかけた。


「……てめぇの仲間はどうした?」


 目だけで周りを確認した北沢は、和輝以外が気配すら感じられないことに疑問を抱き、〝まさか1人な訳は″と思いつつ問いかけた。


「皆なら今頃ルイーナさんたちと戦ってますよ。ここには僕1人で来ました」


「チッ、俺とサシでやろうって訳か……随分と舐めてくれんじゃねぇか。同じ勇者とは言っても経験の浅いクソガキが、どんなふざけた考えをすれば俺と張り合えると思ってんだ?」


「いくら勇者の先輩だとしても、勝てる要素がないわけじゃありません。北沢さんには武器に自信があるように、僕にだってこれなら負けないと自信を持って言える機動力があります」


 半ばキレ気味の北沢の威圧を受けながらも真っ向から反論した和輝は、長期戦になる事も想定して出力の低い『黄雷装(おうらいそう)』を身に纏った。

これによりゼヴォルスと半同化した和輝は通常の『身体強化』以上のスペックになり、さらには知覚能力までも飛躍的にアップした。

もはや今の和輝には生半可なスピードでは見極められてしまうだろう。

しかもその身に触れた瞬間に雷撃も喰らってしまうので、容易に手を出せなくもなった。


 しかし、かなりの強化をした和輝を目にした北沢はというと、気にした素ぶりどころか、むしろイラつきから足先で地面をパタパタさせていた。


「……だからよぉ、それが舐めてるっつってんだよ。俺を勇者たらしめているのが拳銃(コレ)だけなわけねぇだろうが!最近呼ばれたばっかのテメェと違って、こっちは7年も戦い続けてきてんだよ!」


 ブワッ!


 北沢が和輝を睨みつけながら怒鳴った直後、体全体から禍々(まがまが)しい赤黒い光が吹き出した。


「こ、これは⁉︎」


 吹き付けられる魔力を伴った風から腕で顔を庇う和輝は、『身体強化』とは異なる違和感、北沢から放たれる力の強さに驚いていた。


「久しぶりに完全にキレたからよ、骨の2、3本は覚悟しとけよ?」


 ゾッとするほどの声音で話した北沢が腰を落として構えた直後―――


 パァンッ!


 一瞬で左腰のホルスターから取り出した大型拳銃で早撃ちをした。


「っ⁉︎」


 知覚能力が上がっていたのに僅かしか見えなかった和輝は、顔に迫り来る炎の弾丸を必死の形相で首を傾けて躱した。

だが、それを見越していた北沢が和輝の懐まで急接近し、みぞおち目掛けて右の拳を振り抜いた。


 ボグッ!


「がはっ!」


 苦悶の声を上げながら数メートルは飛ばされてしまった和輝。

着地にすら失敗し、すぐに立とうとしても痛みで立てず、咳をすれば血反吐を撒き散らす。

どうやら宣言通りに骨を折られてしまい、それと同時に内臓も痛めてしまったようだ。


 対する北沢は、苦しんでいる和輝には目もくれずに、自分の右手を握ったり開いたりしていた。

実は殴った時にゼヴォルスの雷撃をもらってしまい、少しばかり腕を痺れさせてしまっていたのだ。

しかし、北沢は少し確認しただけで放置し、左で持っていた拳銃をまだ動けない和輝に向けた。


 パァンッ!


「うぐっ!」


 北沢の撃った炎の弾丸が和輝の額を貫通し、それによってガクンと力が抜けかけた和輝。


「まず1」


 淡々と呟いた北沢は、今度は右手にも拳銃を装備した。


「『雷魔硬壁(らいまこうへき)』!」


 さすがに何度も喰らうわけにはいかない和輝はフラつきながらも立ち上がり、自動迎撃してくれる『雷魔硬壁』を使い、回復魔法を使うための時間稼ぎをしようとしていた。


 和輝が突然、壁のようなものを出したことにピクッと反応した北沢は、〝壁を破るために一点攻撃しよう″と考え、両腕を前に突き出して発砲した。


 パパァンッ!


 ほぼ同時に撃ち出された炎と氷の弾丸は、まず氷の弾丸が『雷魔硬壁』の雷撃を相殺し、そのすぐ後ろに迫っていた炎の弾丸が壁を突き破って和輝の胸を貫通していった。


「うっ!」


「2」


「くっ!『ヒール』!」


 北沢にとっては偶然であったが、信頼していた『雷魔硬壁』を簡単に攻略された和輝は詠唱を邪魔されてしまい、仕方なく簡単な『ヒール』で回復を済ませた。

そして、いくらかマシに動けるようになった体で、混乱させるために北沢の周りを高速でぐるぐると回り始めた。


 対する北沢は周りを動き始めた和輝をしっかりと見据えており、冷静に一つ息を吐いて集中してから引き金を引いた。


 パパァンッ!


「うぐっ!」


 撃ち出された2発の弾丸は、1発が囮になり、もう1発は見事な偏差撃ちによって吸い込まれるように和輝の胸を貫いていった。


「3」


 また急所を撃ち抜かれた和輝は足をもつれさせてしまい、勢いよく倒れこむと同時に『黄雷装』と『雷魔硬壁』が解けてしまった。


「くっ……1発が重い、けど……僕はまだ―――」


 パパァンッ!


「ぅあっ…………」


 和輝が必死に立ち上がろうとしていたところへ、北沢は容赦なく頭と胸を撃ち抜いた。

そして一気に精神を揺さぶられた和輝は、今度こそ完全に倒れてしまった。


「これで5回。情けねぇ……本当に情けねぇなぁ。あれだけ啖呵を切ってたくせに、結局はこの短時間で5回も殺されてんじゃねぇかよ」


 酷く失望したように冷たい目をしながら、拳銃をホルスターにしまって『身体強化』を解いた北沢。

その視線の先には、うつ伏せの状態でピクリとも動かない和輝がいる。


 実のところ北沢は少し期待していたのだ。

新たな勇者に、新たな強者を倒せることに、その先で更に強く進化できることを想像して期待していたのだ。


 この学院で頂点に立つためにどんなことでもしてきた北沢は、トップまで登り詰めたあとはこの世界での一番を目指していた。

具体的には4年ほど前に負けた王都の騎士団総隊長を倒すために、今まで色々な特訓もしてきていた。

四方に散らばった勇者たちとも模擬戦を重ね、この北の山脈の魔物に対しても銃を使わずにソロで戦うなどの無茶もした。

しかし、それも数年前の事、今では咲恵も含めた勇者は北沢と模擬戦をしようとはせず、魔物なんかは戦略など持たないために倒しているうちに作業のように感じてしまい、実感出来るほどの成長は無いに等しかった。

そんな時に突然、新たな勇者召喚の話を耳にした。

最初はもちろん、この世界に来たばかりの者には期待出来なかったが、次から次へとその新しい勇者の武勇が報告されるようになり、〝こいつらならもしかしたら″という期待が高まったからこそ、今回の対抗戦に踏み切ったのだ。

一応は体裁のためにチーム戦としたが、そのチーム戦での実力次第では多対1も考えていた。

それが蓋を開けてみれば1人で無謀な特攻に経験不足のお子様戦闘、〝まとめて相手をしても勝てるな″と思うくらいに北沢の中での評価はだだ下がりであった。


(こんなんじゃあ何も成長できねぇ……アイツに勝つためにはもっと強い奴と戦わねぇといけねぇんだ)


 かつて戦った騎士団総隊長を思い出した北沢は、自然と拳を握っていた。


 どんな攻撃をしても通じず、かすり傷どころか砂埃ですら付けることが出来なかった。

もはや子供の遊びよりも酷い模擬戦を終えた時、その総隊長が向けてきた目を、北沢はいまだにハッキリと覚えている。


 無だった。

何も無い、まるでそこら辺の石ころを何気なく見た時のように、何の価値も見えていないような目だった。

北沢はその目に恐怖を抱いた。

心を半ば壊しながら強くなっていた北沢は、これまで自分を使役してきた奴らとは比べ物にならないその目に、トラウマに近いものを植え付けられてしまっていたのだ。


 〝こいつに勝てなければまた使役される″


 強者こそが絶対であるという価値観を持ってしまった北沢にはとても酷なことであり、だからこそ今でも必死に強くなろうとしていた。


(こいつらはハズレだったが、ジンって奴は確実に当たりだ。あいつを倒すことが出来ればまた強くなれる)


 迅の事を〝覚醒者だろう″と踏んでいる北沢は、気持ちを入れ替えるために一つ深呼吸をして、今度こそ飛ばされてきた方へと歩き始めた。


「…………ぅ……」


 パチン


「ん?」


 歩き出していた北沢は静電気のようなものを足に感じて、原因であろう和輝の方へと振り向いた。

すると、倒れている和輝の手に持っているゼヴォルスから、弱々しい電流が発生していた。


 そう、和輝の意識はまだ完全に落ちた訳ではなかったのだ。

しかし、ピクリとも動けないのは確かなので、本当に意地で意識を保っているだけのようだった。


「……お前は確かに勇者みたいだが、意地や執念だけじゃ無意味なんだよ。これは餞別だ」


 和輝に対してそう声をかけた北沢は右手に拳銃を持ち、その銃口をゼヴォルスへと向けた。

そして、拳銃自体がスパークしてすぐに―――


 ドパァンッ!


 レーザーとも言える超電磁砲(レールガン)が放たれて、ゼヴォルスを真っ二つにした。


 砕かれたことによってゼヴォルスは霧散していき、和輝は今度こそ完全に気を失った。


「弱い奴は何も出来ない。強者こそが絶対だ。お前みたいなふざけた覚悟で俺に勝とうなんざ、一生無理な話だ」


 とっくに聞こえていない和輝にそう告げた北沢は、拳銃をホルスターにしまってその場を歩き去っていった。




 飛ばされてきた方へしばらく歩いてきた北沢は、両手に拳銃を持って警戒しながら移動していた。


「やっぱり戦闘音はもうしねぇな。とりあえずは出来るだけノーダメージであいつとタイマン張らねぇと」


 おそらく既に体制を整えているであろう他の勇者に警戒しながら、道無き道を進んでいく北沢。

そして、ちょっとした登りに差し掛かった所で、真っ直ぐの方向に人の気配を捉えた。


「ようやくか……また1人だけか?……いや、光なら屈折させて姿を消せる。闇ならもしかしたら影に入り込めるかもしれない」


 最初は油断しかけた北沢だったが、万が一の可能性を考え直して、再び警戒を強めた。

そして慎重に坂を登っていき、なるべく息を殺しながら素早く物陰に隠れて、その気配のする方へ覗きこんだ。

すると―――


「っ⁉︎」


 北沢はそれを見た瞬間に息を呑み、体中から血の気が引いていった。


「…………な……」


 言葉すら上手く発せずにいる北沢の目には、冷たい目をした迅がルイーナの首を片手で掴んで持ち上げており、そのルイーナの両手足が力無く垂れ下がっている光景が広がっていた。

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