弟子と密会と開幕と
まずはじめに謝罪と報告を、今現在、北の山脈編を投稿中なのですが、実は北の勇者の名前を間違えてしまっていました。
今は「東 郷四郎」が北の勇者として登場しているのですが、本来の予定では「北沢 郷四郎」という名前にするつもりだったんです。
大変申し訳ございません。
なので、過去の投稿も含めて「北沢 郷四郎」へと変更させていただきます。
ご迷惑をおかけしました。
北の勇者である北沢との邂逅から二日が経ち、ついに学院対抗戦を行う日になった。
昨日のうちに北の副会長から送られてきた手紙には、〝お昼前に対抗戦を行う″と書いてあったので、和輝たちは軽く動いてしっかりと休息を取る形で調整を済ませていた。
日が昇り始めたばかりでまだ薄暗く感じる早朝に、北宮殿の広い庭では微かな剣戟の音が響いていた。
その音の発生源にいるのはイリスとエリス、それと珍しく早起きをしていた迅の3人がいた。
イリスとエリスはトレードマークであるサイドテールをたなびかせながら動き続けており、双子らしい完璧な連携で迅に斬りかかっていた。
対する迅は左右前後に忙しく動いているのだが、それを感じさせない流れるような動きで2人の攻撃を受け流していた。
「せいっ!」
「やぁっ!」
イリスが姿勢を低くして迅の後ろから左足を斬りにいき、それを見たエリスは〝師匠なら躱す″と見越して、迅が上に逃げられないように空中に躍り出た。
迅は誘導されているのは分かっていたが、それでも右へ軽く跳んでまずイリスの攻撃を躱した。
「しっ!」
すると、空中にいたエリスが自分の魂剣である短剣を迅の顔めがけて投げた。
(なるほど)
自分の武器を投げるという斬新な発想に思わず笑みを浮かべた迅は、その短剣をサラレスを横に振り抜く形で斬り払った。
「まだ!」
エリスの短剣を防いだ直後、今度はイリスが短剣を投げてきた。
迅は同じ手である事に眉をピクッと反応させるが、何も言わずに着地しながらサラレスを戻すことで防いだ。
するとそこへ、一度霧散させた短剣を再び取り出したエリスが、上から振りおろすようにして迅に斬りかかった。
ギン!
今度は避けずにその場で受け止めた迅。
そして、その隙を狙うようにイリスが突っ込んできた。
それを視界の片隅に捉えていた迅は、先にエリスの短剣を弾こうとした。
しかし、エリスは迅が力を入れた瞬間に逆に力を抜き、スルッとサラレスの下に潜り込んだ。
(まずい!)
完全に振り抜いた状態になってしまった迅は、焦りながらも反射的に動いた。
目の前には迅の胸に短剣を突き刺そうとするエリス、その右横には斬りつけようと腕を伸ばしているイリスがいる。
右腕を間に合わせることが出来ない迅は、空いている左手でエリスの腕を掴んで力任せにイリスの方へと投げて、自らは半身になって躱そうとした。
「っ⁉︎」
「うっ!」
投げられたエリスの腕がイリスの頭に当たり、そのまま重なるようにして倒れていったイリスとエリス。
しかし、エリスの突きは腕ごと逸らされていたが、イリスが意地で伸ばしたままでいた腕は迅の方へと向いていて、その手に持っていた短剣は迅の脇腹を掠めていった。
「いったぁ〜」
「重いよエリス〜」
ドサッと地面に倒れた2人は情けない声をあげていたが、先ほどの僅か一瞬の交錯でかつてない連携を魅せていた。
それを1番実感していた迅は2人にしてやられた事に一息ついてから、笑みを浮かべつつ話しかけた。
「ふぅ……よくやったな2人とも。今のは流石にお手上げだったぜ」
迅に称賛された2人は、ショボンとしながら立ち上がった。
「でも結局は防がれちゃったの」
「あともう一撃を狙うべきだったの」
握り拳を作って悔しそうに話す2人。
どうやら最後の部分を見ていなかったようで、〝あと少しだった″と思っているからこそ落ち込んでいた。
「ん?あぁ、2人とも最後は見えてなかったのか。ほら、ここの部分を見てみろよ」
そう言いながら自分の脇腹を指差す迅。
2人が言われるがままに注視すると、そこの部分の制服がパックリと切れてしまっていた。
「え?」
「切れてる?」
「じゃあ、本当に?」
「私たちが?」
「そうだ。よくやったな。これでまた一つ課題をクリアだ」
交互に話しながらお互いを驚いた表情で見合っている2人に、迅は頷きながらハッキリと伝えた。
すると、迅の方へ向き直った2人の目からは涙がポロポロと流れ始めた。
赤の他人から見ればただ掠っただけだが、2人にとっては誰よりも最強である師匠にようやく斬りつけることが出来たのだ。
しかも何十本、何百本とあしらわれていた2人だからこそ、その嬉しさも莫大なものであった。
「うぅ……グスッ」
「やった……ついにやったよぉ」
「おいおい、まだこれから先もあるんだぞ?でもまぁ、俺の想定していたのよりは随分と速いペースなのは確かだ。この想像以上の成長速度は、紛れもなくお前たち自身が懸命にやってきたからこその結果だ。だからこそ忘れるな。自分が勝手に決めた限界なんてのはただの越えられるハードルでしかないんだ。相手が強い?望みを叶えるのは不可能?そんな事を考えるよりも目の前の理不尽を打ち砕くことを考えろ。自分の理想のために全力以上の本気をぶつけろ。それこそが限界を打ち破り、更に高みへ昇るための力になる」
「限界を破って……」
「更に高みへ……」
最高で最強の師匠である迅の言葉を聞いた2人は、それを自分の心に刻むように繰り返し呟いた。
少しだけ凛々しく見えるようになった2人を見た迅は、弟子の成長を微笑ましく思いながら2人に近付いた。
「俺が面倒を見ている以上はまだまだ強くなってもらうつもりだが、ひとまずはここまでよく頑張ったな」
そう労いの言葉を掛けた迅は、最近2人のお気に入りである頭ナデナデを実行した。
「ふぁ〜〜〜」
「ん〜〜〜」
迅に撫でられて、揃って気持ち良さそうにしている2人。
その表情は完全にまったりとしていて、まるで猫のような愛くるしさを見せていた。
しかし、ご褒美とはいえいつまでもやるわけにはいかないので、迅は手を止めて2人に声をかけた。
「さて、とりあえず今日はここまでだ。対抗戦の後の日程次第では、あとで少しやるつもりだからな」
「「はい!」」
「それじゃあ先に戻って支度をしてこい。俺はもう少しだけ調整してから行く」
「「はい、お疲れ様でした!」」
2人は迅に褒められたからか、いつもよりもいい返事をして、準備のために自分たちの部屋へ走っていった。
ご機嫌な2人を苦笑いしつつ見送った迅だったが、2人が見えなくなった直後には真剣な表情へと切り替えた。
「……で、一昨日から俺を監視してたみたいだが、一体何の用だ?」
迅は唐突に、後ろの揺らぎへ目を向けながら問いかけた。
すると、その揺らぎから1人の眼鏡をかけた女が出てきた。
「やはり気付いていましたか。もしかしてとは思っていましたけど、まさか学院からでも察知出来るとはお見事です」
笑みを浮かべながら出てきた女の正体は、北の副会長であった。
揺らぎから完全に抜け出た副会長は、紺色の長髪をたなびかせながら迅の目の前まで歩いてきた。
「世辞はいいからとっとと用件を話せ。監視をしてたくせに悪意がちっとも感じられなかったから、お前が何をしたいのかが分からねぇんだよ」
「悪意が無いのは当たり前ですよ。だって、私はあなた様と敵対するつもりはございませんからね。申し遅れましたが、私はルイーナと申します。私の目的はただ一つ、それを叶えるためにあなた様の力を貸して頂きたいのです。勇者を超えた覚醒者であるあなた様に」
まるで全てを知っているかのように話すルイーナに、眉をピクッと反応させる迅。
そして少しだけ思案したものの、まずは話を聞くことにした。
「……ひとまずは内容を聞いてからだ」
「ありがとうございます。ではまず、私の目的なのですが―――」
ルイーナとの密会のあと、和輝たちと共に朝食を済ませた迅は、ルイーナの案内を受けて北の学院へと向かった。
街の端の方に建てられている学院へやってきた迅たちは、学院の敷地内で1番奥の場所へと案内された。
そこには高さ20メートルほどはありそうなバカでかい壁が見渡す限りにそびえ立っており、その材質は一目で分かるほどに頑丈そうであった。
そして壁が続いているなかで、相応の大きさを誇っている赤い扉があり、そこの前に北沢を含めた全員が待ち構えていた。
一応、その中にカグニースもいるので、迅に喰らったダメージは治ったようだった。
「朝っぱらから見当たらねぇと思ったら、そいつらの所に行ってたのかよ」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、会長。案内が必要だと判断したので、朝一で北宮殿へと向かってました」
あきらかに不機嫌である北沢に、一礼してから弁解したルイーナ。
「そうか」
ルイーナの弁解を聞いた北沢は一言だけ淡々と呟き―――
バチン!
唐突にルイーナの頬をひっぱたいた。
「うっ!」
はたかれた衝撃で倒れてしまうルイーナ。
それを見ていた和輝たちは、迅を除いた全員が息を呑んでいた。
「勝手な事してんじゃねぇよ。案内が必要なら他の奴を向かわせりゃ済む話だろうが。お前は俺の小間使いだって言っただろ。小間使いが許可なく俺の側を離れてんじゃねぇよ」
倒れているルイーナへ鋭い目を向けながら、圧が込められている低い声で話しかける北沢。
「……申し訳、ありません」
体を震わせながら、言葉を途切れさせつつも謝罪するルイーナ。
「……このクズが」
「やめろ、シルフィア。話が先に進まなくなる」
蔑んだ目を向けながら吐き捨てたシルフィアに、迅が淡々とした表情で止めにかかった。
するとそこへ、さすがに黙っていられなかった和輝が迅へ詰め寄った。
「だがジン。目の前で女の子がぶたれたんだぞ?それを見てみないフリをしろって言うのか?」
「無駄に意志が強い奴ってのは、そいつの土俵で叩きのめさなきゃ話すら聞かないもんだ。だから気にいらねぇってんなら対抗戦で潰してから言ってやれ」
「……分かった」
迅の考えを聞いて、渋々ながらも納得した和輝。
するとそこへ、北沢が割って入ってきた。
「言い方はムカつくがそいつの言う通りだ。俺のやり方に文句があるなら、俺を倒してからモノを言え。俺はこのやり方でこの世界を生き抜いてきたんだ。テメェらみてぇに手厚い保護を受けながらのヌルい生き方とは訳が違うんだよ」
北沢の実感のこもっている言葉に、思わずたじろいでしまう和輝たち。
そして、また険悪な状態に入ろうとしたところで、ルイーナが立ち上がって止めに入った。
「皆さん、私の事はお気になさらず。それでは、今回の対抗戦におけるルールを説明させていただきます」
強引に話を止めたルイーナは、細かな説明を始めた。
今回の対抗戦は7対6のチームデスマッチで、先に全員を戦闘不能にした方の勝ちになる。
武器は魂剣の『幻影形態』のみで、魔法は捕縛魔法と身体強化だけ使える。
そして肝心のフィールドはというと、北の学院では『天然訓練場』と呼ばれている、学院のすぐ裏にある山全体で戦うことになった。
一応、学院が管理している部分は壁に覆われているのだが、稀に魔物が入り込んで来ることもあるので、『天然訓練場』と呼ばれているらしい。
まずは北沢たちが【転移石】で所定の位置に着き、それと同時に迅たちは正面の扉から山の中に入り、そこから5分後に試合開始となる。
そして見学者たちはというと、山の中に設置してあるカメラのような役割を持つ【記録石】から送られてくる映像で、中の様子を見ることができるようになっている。
ここまでの説明を済ませて、迅たちの方も問題無いことを確認したことで、いよいよ試合を始めることになった。
「それでは、私たちが移動して5分後に試合開始となりますので、よろしくお願いします」
最後にそう言って、【転移石】に魔力を流し始めた北沢たち。
そしてすぐに、一瞬だけ光を放ってその場から消えていった。
「さて、俺たちも行くぞ」
「おう!」
「よっしゃあ!」
迅の号令に気合い充分な返事を返した和輝と剛。
「皆さん、無理だけはしないでくださいね」
「ジンさん!あのクズを殴ってから戻ってきてくださいね!」
迅たちは王女姉妹の正反対な応援を背に受けながら、扉を開けて中へと進んでいった。
扉を潜った先で迅たちを待っていたのは、樹海とも呼べる巨大な木々と、草や花が鬱蒼と茂っている大自然の光景だった。
まだ扉のすぐ近くなので人の通った跡などは残っているものの、奥の方を見渡すと日差しがあまり届いてないうえに完全な山道になっているので、しっかりと方向を覚えていないとすぐに遭難しそうであった。
「こりゃすげぇな」
「ん、本当に山の中」
「この中を探すのは一苦労しそうだね」
剛と繭が想像以上の大自然に驚くなか、この広いフィールドで北沢たちを探さなきゃいけない事にゲンナリしている凛。
「あいつらを探すのは俺に任せろ。それよりも、俺は神崎がアイツに勝てるのかが不安だな」
凛の心配をすぐに否定した迅だったが、素直な本音を言いながら和輝へジト目を向けていた。
しかし、そんな目を向けられた和輝はというと、逆に自信満々な眼差しを返していた。
「大丈夫だ、ジン。僕は絶対に勝ってみせるよ」
「じゃあ、勝てなかったらゲンコツな」
迅はハッキリと言い放った和輝に対してニヤリと笑みを浮かべると、握り拳を見せながら負けた時の罰を宣告した。
すると途端に、情けない表情を見せながら慌て始めた和輝。
「えっ⁉︎いやっ、まっ、待ってくれジン!罰は無しの方向で……」
「人は追い詰められた方が力を発揮するからな。嫌なら死にものぐるいで回避してみせろ」
「う……わ、分かったよ」
迅に試されるような言い方をされた和輝は、ショボくれながらも納得した。
「さて、そろそろ時間だ。いいか?作戦通りまずは俺が―――っ⁉︎」
作戦のおさらいをしようとしたところで、頭上に違和感を感じた迅が上を向くと、3メートルほど頭上にルイーナが転移してきた時と同じ揺らぎが発生しており、その面の部分は和輝の方へと向いていた。
「上だ神崎!避けろ!」
「へ?」
その揺らぎを〝まずい″と悟った迅が和輝に声をかけたが、避ける前に反射的に上を見上げることしかしない和輝。
しかも和輝が揺らぎを認識した時には炎の弾が飛び出してきており―――
ゴォッ!
燃え盛る火炎弾が和輝へと襲いかかった。
一応、全て「東」から「北沢」へと変更を済ませましたが、もし漏れがあったりしたら報告の方をお願いします。
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