北宮殿にて
北の勇者である北沢との話を終えた迅たちは、北宮殿へと辿り着いていた。
今はそこで待っていたメイドや執事たちの案内を受け、広々とした部屋でソファにどっかりと座って、精神的な疲れを癒している最中だった。
「はぁ〜、これで本当に一息つけるよ」
「だな。にしても、まさか北の勇者があんな性格してるとはな」
「ん、人の話は聞かないし、こっちの配慮もしない。なによりもシルちゃんにいきなり攻撃を仕掛ける卑怯者」
話に聞いていたとはいえ、北沢の予想以上に酷い性格に辟易としている剛。
繭なんかはすでに最低の評価をつけているようだった。
「申し訳ありません、皆さん。キタザワさんの素行は私たちのせいでもあるんです。まだ子供なのに突然この世界に呼ばれ、右も左も分からない状態の時にちゃんとケアをしてあげられなかった私たちの責任なんです」
他の面々も北沢の性格に怒りを覚えているなか、召喚された時の事を覚えているティアが申し訳なさそうに話した。
「いや、それは違うな。確かに面倒を見きれなかった事が原因の一端かもしれねぇが、それでもあんな事をしていい理由にはならねぇ。それに姫さんも子供だったんだから、そんな責任を感じる必要はねぇさ。前にも似たような事を言ったろ?」
「……はい。私も分かってはいるんですけどね……」
迅が〝ティアの所為ではない″とフォローしたものの、頭では分かっていても心が納得いかない様子のティア。
「気にする必要はありませんわ、お姉様。元々、この街では冒険者であっても、学院であっても、商人でさえも実力主義な考えが根強くあるのですから、それに揉まれた結果だと思いますわ」
「ふふっ、ありがとう、シル」
シルフィアも声をかけたことで、ようやく少し笑みを浮かべたティア。
この【北セントレア】では強力で巨大な魔物が多いため、冒険者なんかは特に強い者が求められている。
カグニースのような力自慢はもちろん、魔物に対して有効な能力を持っている者などは重宝されるのだ。
そしてそんな強者が集まれば色々と問題も起こるわけで、例えば大物を倒した時なんかは盛大に飲み明かし、その席でイザコザが起きれば決闘を行うのが基本だ。
それは日常でも同じで、揉めた時は双方が納得する勝負で決めるのが暗黙の了解になっている。
この決着の付け方は商人や子供まで行っているため、昔から続いてきたこのやり方を街全体が楽しんでいると言ってもいいほどであった。
おそらくはこの習慣が北沢にとって逆効果になり、今の粗暴な性格に変わったのだろう。
しかし、いくら事情があったと言っても王女を囮に使うのはやり過ぎなので、本当に更生させなければならないレベルであった。
「さて、明後日の対抗戦についてだが、勝手に決めて悪かったが柑奈の代わりに俺が出るからな」
「はい。私はそれで大丈夫です」
迅は柑奈に目を向けながら話した。
柑奈自身もとくに拘っていたわけではないため、迅が代わりに出ることには何の異論も無かった。
「……なぁ、和輝。ジンが出るんじゃ、もう俺たちの勝ちは確定だよな?」
「そうだな。それに、終わった時には北沢さんの頭にコブが出来てるところまで予想がつくよ」
(ふふふ、期せずして北の勇者とジンくんが戦うところを見れるなんて……しかも相手はこの世界には無いはずの最強武器。これはアニメ的に見所満載のシチュエーション!絶対にジンくんと離れないようにしなきゃ!)
迅が〝出る″と宣言したことで、和輝と剛は〝自分たちと同じ目に遭うだろう″と小声で話し合い、繭は面白いものが見れるのを期待してニヤニヤしていた。
「ちなみにだが、今回は俺は後方に徹するつもりだからな」
「えっ⁉︎」
「マジかよ⁉︎」
「そんなっ⁉︎」
迅が淡々と告げたところ、三者三様で驚いていた。
繭なんかは悲痛な表情を浮かべながら立ち上がっており、よほどショックなことが伺えた。
「本当は俺もあいつを殴りたいんだけどな。その役は神崎に譲ってやるよ」
「え?僕に?」
迅が驚く3人に肩をすくめながら説明すると、なぜか譲られてしまった和輝は首を傾げた。
「なんでそんな不思議に思ってんだよ。西野から聞いたぞ、あいつを矯正させるんだろ?」
「あ!た、確かにそれは言ったけど、あの人は先輩の勇者だし、それに銃を使ってくるんだもんなぁ」
「銃はマジでずりぃよ。あんなもん、誰が持ったとしても最強になれるやつだもんな」
迅の指摘に対して、和輝どころか1番乗り気だったはずの剛まで尻込みしていた。
迅はやる気満々でいた和輝たちを少し見直していたのだが、不安そうな表情で覚悟を鈍らせている和輝たちを目の前で見て、〝喝を入れるために殴るべきか″と真剣に悩み始めた。
和輝と剛の頭にコブが出来るか否かという瀬戸際で、純粋な疑問を持っていたティアが和輝たちに話しかけた。
「皆さんの世界にもジュウはあったんですか?」
「うん、北沢さんが同じ世界からかは分からないけど、僕たちの世界にもあったよ。僕たちは実物を見る機会すらない物だけど、あれの凶悪さは誰もが知ってるほどに危険な物なんだ」
「俺もあれを見たらつい固まっちまったからな。しかもその凶悪な武器に加えて何かしらの能力があるんだろ?いくら勇者でも反則過ぎるだろ」
ティアの問いかけに答えた2人は、説明しているうちに北沢の強さの指標を測れなくなってしまい、揃ってため息をついた。
そんな2人を見て〝やはり殴るべきか″と迅が握り拳を作ったところで、シルフィアがこれ見よがしにため息をついた。
「はぁ、仕方ありませんわね」
そう呟いたかと思うと、自分で持っていた魔法袋を漁り、1冊の少し薄めの本を取り出した。
「シル、本を取り出して何をするの?」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと護衛に調べさせていたんですの。これにはあの男について色々と書いてありますわ。もちろん、魂剣の情報もです」
胸を張りながら事前に用意していたノートを掲げるシルフィア。
どうやら王女としての権力を全力で使って調べていたらしい。
「すごいねシルちゃん。いつの間にそんなのを用意してたの?」
「これは確か6年ぐらい前から……つい最近の情報もありますわ」
柑奈に問われたシルフィアは、人差し指を顎に当てて思い出すように答えようとしたところで止まり、急に笑顔になって答え直した。
(こいつ、絶対に昔の仕返しをするために用意してたろ)
明らかに誤魔化しているシルフィアを見た迅は、その理由を察してジト目を向けていた。
おそらくはちょっかいを掛けられた時から復讐のために北沢のことを調べていたのだろう。
「えぇと、これによりますと、武器はあのジュウというのを2つ所持して戦うそうですわ。そして能力は火・氷・雷・風の四属性を自在に操ることが出来るらしいですわ」
他の者から問われる前に早々と話された北沢の情報は、勇者としても強すぎるチートな能力であった。
「うわぁ……」
「マジかよ……」
「厳しい戦いになりそうだね」
有利になるための情報だったのだが、和輝たちは揃って顔を曇らせてしまった。
しかし、アニメ好きな繭だけは北沢の魂剣の形状と能力から色々と推測を立てていた。
「四属性……それを弾丸にしたりするのかな?」
「ダンガンというのが何かは分かりませんけど、そのそれぞれの属性をあのジュウで撃ち出してくるらしいですわ」
「うん、確定。チートの権化で確定」
「……つまりどういう事なの?繭」
シルフィアの補足を受けた繭は、投げやりな感じで頷きながら納得していた。
そんな1人で理解している繭は凛から説明を求められて、真剣なトーンで語り始めた。
「四属性を撃ち出してくるという事は、弾がその力を持っているという事。火ならワイバーンが使ってきたような火炎弾。反対に氷なら氷塊弾。雷だと割と有名な超電磁砲かな。風なら空気砲みたいなものだと思う」
「レールガンってヤバい奴だったよな?」
「確か音速よりは速いものだったと思ったけど」
繭の説明から自分の知識と照らし合わせた和輝は、剛と共に更にモチベーションを落としていった。
「そんなに警戒し過ぎる必要はねぇだろ。要は撃ち出されるのが厄介なんだから、撃たせねぇように立ち回ればいいだけの話だ」
「そんな簡単に言うけどさ。相手に撃たれないっていう条件が全然浮かばないんだけど」
迅は叱咤するように話したのだが、ほぼ諦めモードの和輝は考えることを放棄しているようだった。
迅は随分と弱気になっている和輝に対して、頭が痛そうに手で押さえながらため息をついた。
「……はぁ、お前はなんでそんなに頭が硬いんだよ。お前の身体強化で的を絞らせなけりゃいい話だろうが」
「そっか!雷速なのかは分からないけど、ゼヴォルスの力を使えばそれなりの速さで動ける!」
「おぉ!じゃあ、和輝ならあいつと渡り合えるってわけか!」
「そういう事だ!よし!北沢さんの相手は僕に任せてくれ!」
「頼りにしてるぜ、和輝!」
迅の一言で息を吹き返したようにやる気になり始めた和輝と剛。
かたやそんな2人を見て何度目かのため息をつく迅。
迅としてはもう少し戦い方の柔軟さを身につけてほしいのだが、和輝たちが迅の納得するところまで成長するのはまだ先のようだ。
和輝たちの事は〝気長に待つしかない″と切り替えた迅は、対抗戦での大まかな作戦を話し始めた。
「そしたらチーム戦の内容次第では、神崎以外の俺たちで他の奴らの相手をするぞ。理想としてはあの北沢の視界の外まで他の奴らを誘導したいところだな」
「それなら、ジンくんに協力してもらえれば私がその機会を作る」
「へぇ、随分と自信があるんだな」
「もちろん。作戦としてはね―――」
その後は作戦の話し合いとなり、全員で夕食を食べながら長い時間を掛けて話し合いを続けた迅たちであった。
〈イリス、エリスサイド〉
話し合いを終えた迅たちは、お風呂を済ませた後はそれぞれに割り当てられた部屋で就寝についていた。
その部屋のうちの1つでは、広いベッドを2人で仲良く使っているイリスとエリスがいた。
部屋はすでに明かりを消しているのだが、初めて使った王族のためのベッドの気持ち良さを堪能している2人は、未だに眠気を感じてはいなかった。
「フッカフカだね、イリス」
「モッフモフだね、エリス」
大の字になったり、ゴロゴロ転がったりして楽しんでいる2人。
しかし、エリスが唐突に動き回るのをやめて、真剣な表情でイリスの方へ向いた。
「……ねぇ、イリス」
「なぁに?エリス」
「師匠に私たちの事を話した方がいいかな?」
エリスの言わんとしていることを一瞬で察したイリスは、表情を曇らせて悩みながら答え始めた。
「……分かんない。村長の言ってた時まではまだ時間あるし、〝強くなるまでは戻ってきちゃダメ″って言われてるけど……」
「私たちは師匠のおかげで強くなった。でも、それでもまだアイツには全然届いてない」
「うん、分かってる。それに、師匠に言えばなんとかしてくれるのも分かってる。……でも、それじゃダメ。これは私たちの問題だもん。私たちで解決しなきゃいけないこと」
「うん。これは私たちがやらなきゃいけないもんね」
「少なくとも、あと1年もしないうちに師匠みたいに強くなれる。そしたら胸を張って帰れる」
「うん。私たちのことも今は話す必要はない。これ以上、師匠に迷惑をかけるわけにはいかないから」
「うん。それに私たちだけでアイツを倒せたら師匠が褒めてくれるかもね」
互いに師匠である迅に褒められた時の事を想像した2人は、揃って笑みを浮かべた。
そして、お互いの手を握りしめて見つめ合った。
「頑張ろうね、イリス」
「強くなろうね、エリス」
そう声を掛け合った2人は、かつて見た強敵を打倒する決意を強くしながら眠りについた。
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