北セントレア
いつもご愛読ありがとうございます。
おかげさまで先月は5504pvとなり、久しぶりに月別pv数記録を更新することができました。
この調子でゆくゆくはひと月で1万pvを達成できるようにしたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。
学院を出発して初日こそはバタバタしたものの、その後は大した事もなく空の旅を続けられた迅たち。
しかし、その旅も予定通りの1週間が経ったところで終わろうとしていた。
「皆さん、見えてきましたよ」
ティアの声に反応した和輝たちが前方を確認すると、その視線の先に綺麗な街並みが見えてきた。
山に囲まれていても比較的平坦な土地に街があるのだが、その街の中にはいくつもの川が流れており、そこに沿っていくように家が建てられていた。
しかも全ての建物が白い石のようなもので造られているので、遠目で見るとまるで遺跡都市とも言えるほどに神秘的であった。
「すごい綺麗だね」
「ん、山の中とは思えない」
凛と繭が少し遠目に見える街の風景に感想を漏らし、和輝たちもそれに同意するように無言で頷いていた。
「この【北セントレア】は山から流れてくる川を主な水源としてますの。雨も定期的に降ってくれますから、水不足にもなりにくい土地なんですのよ」
「さすが、詳しいねシルちゃん」
「確かに水不足にはならないんだろうけど、その川が溢れたりはしないの?」
シルフィアが柑奈に教えるように説明するとその話を聞いていた麗奈が問いかけて、話を引き継ぐようにティアが説明し始めた。
「その心配はありませんよ。実は川が街に入る前の所に水を逃がすための設備があるんです。だから雨が続いた時はそこで川の水を分散させることで氾濫を防いでいるんです」
ティアとシルフィアが【北セントレア】について色々と説明をしていると、街の門の真上辺りまで来たところでソフィアがゆっくりと旋回しながら降下を開始した。
そして地上へ降り立つと、1人ずつソフィアの背中から降りていった。
すると、1人の騎士甲冑の男が走り寄ってきて、ビシッと一礼してから話しかけてきた。
「ティア殿下、シルフィア殿下、それに勇者様方、【北セントレア】へようこそお越しくださいました。すでに北宮殿の方では準備が出来ておりますので、そちらへとご案内させていただきます」
「ご苦労さまです。もうしばらくしたら私の護衛たちも到着するので、北宮殿まで通してあげてください。それから、こちらは臨時で私たちの護衛をしてもらってるジンさんです。そして彼の弟子であるイリスさんとエリスさんにも北宮殿に来てもらうつもりなので、追加の準備をお願いします」
「承知致しました。ただ申し訳ありませんが、そちらのお三方についてはこちらで受付の方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ジンさん、お願い出来ますか?」
男からの請願を受けたティアは、少しばかり申し訳なさそうにしながら迅に問いかけた。
すると、迅はまるで執事のような一礼をしてみせた。
「かしこまりました、ティア殿下。イリス、エリス、行くぞ」
「「はいなの!」」
迅は本当の配下のように振る舞ってから騎士の男へついていき、イリスとエリスも並んで歩いていった。
迅たちが歩き去って行ったあとには、シルフィアを筆頭に和輝と剛が〝信じられないものを見た″と言わんばかりの表情を浮かべており、揃って口をポカーンと開けていた。
「……誰ですの?あれ」
「シルちゃん、それは酷いよ」
シルフィアが自然と漏らした一言に、柑奈が苦笑いしながら指摘した。
「だって見ました?今のあの人の態度。別人としか思えないことをしましたわよ」
「こーら、ジンさんが気を遣ってくれたことくらい分かるでしょ?」
ティアもシルフィアに注意するものの、気持ちは分からなくもないのかこちらも苦笑いの表情を浮かべていた。
「だって、あの人の事だからいつも通りにすると思ってたんですの」
「ははは、確かに。ジンならやりかねないな」
未だに目の前で見た事を受け入れられていないシルフィアの勝手な予想に、笑いながら同意する和輝であった。
〈???〉
迅たちが受付を済ませて街に入った頃、建物の物陰に身を隠すようにしている者たちがいた。
そこにいる数人の男たちは動きやすそうな軽装を纏っており、その体つきからはそれなりに鍛えられていることが分かった。
男たちは建物に寄りかかりつつ、表の通りを怪しまれない程度にチラチラと見ていた。
そして男たちの中で1番若そうな者が、それなりの風格を纏っているリーダーらしき男に声をかけた。
「お頭、あの連中が今回の獲物ですかい?」
「あぁ、そうだ。だが今日は殺すわけじゃねぇぞ。今回の依頼人は奴らの力が見られればいいらしいからな。軽くちょっかいをかける程度で済ませろよ」
この物騒な会話からも分かるようにこの男たちは何度も犯罪行為に手を染めており、今もまた新しい獲物を狙っているところだった。
「分かってますよ、お頭。でもですよ?うっかり殺しちまった場合は仕方ないですよね?」
リーダーの指示を聞いた若い男は、悪どい笑みを見せるほどに興奮を抑えられないようだった。
そんな男に対してリーダーは、獲物から視線を外して怒りのこもった目を若い男に向けて睨んだ。
「その時は俺がお前を殺すぞ。いいか、今回はちょっと手を出すだけでたんまりと金が手に入るんだ。しかも今回は俺らだけじゃなくて冒険者も雇われてんだ。万が一にも俺らが殺したことで報酬を踏み倒されてみろ。他の奴らに袋叩きにされるぞ」
「……すいやせんした」
リーダーに強く言われたことで、素直に大人しくなった男。
それを確認したリーダーは、再び獲物へと視線を戻した。
「分かったなら襲撃の準備をしておけ。予定では獲物が俺たちの近くまで来たら他の奴らが魔法を撃ち込むはずだ。それを合図に俺たちも出るからな」
そう話しながら獲物が近づいてくるのを待っている時だった。
ズン!
そう遠くない所から何か鈍い音が聞こえてきた。
「なんだ今のは?」
「さぁ?近くで何かが家にでもぶつかったんじゃないですかね?」
「……おい、念のために音の発生源を確認してこい」
「分かりやした」
よく分からない音に対して腕を組んで考え込んだリーダーは、〝万が一にでも作戦が失敗したらまずい″と考えて、部下に指示を出して確認に行かせた。
そうこうしている間に獲物がだいぶ近づいてきたところで、リーダーは疑問を浮かべはじめていた。
「おかしいな、もう魔法を撃ってもいいタイミングのはずなんだが……」
リーダーが〝もう少し待つか″悩んでいるところで、確認に向かわせてた部下が慌てたように戻ってきた。
「大変ですぜお頭!音がした方へ行ってみたら、向こうで待機してた奴らが全員伸びちまってやす!」
「なんだと⁉︎くそっ、これじゃあ合図もクソもねぇじゃねぇか。つーか、そいつらは誰にやられたんだ?」
まさかの事態に悪態をついたリーダーは、当然の疑問を部下に問いかけた。
「それが、どいつもこいつも顔を壁に叩きつけられて気絶してたんすけど、周りにはもう誰もいなかったんすよ」
「ちっ、やるだけやって逃げやがるとか―――」
部下が少し動揺しながら話した内容に、逆に誰かに狙われていることを悟ったリーダーが周りを警戒した時だった。
ガン!
さっきと同じような音がまた響いてきた。
「なんだ⁉︎」
今度はさっきよりも近かったのでリーダーの男が慌てながらそちらを向くと、通りの向こう側で頭や口から血を流している男が倒れていた。
そのすぐ近くの建物は一部が壊れていたので、また叩きつけられたことが伺えた。
「……お頭、あいつは話し合いの時にみた奴ですぜ」
「……間違いねぇ、誰かが俺らの情報を掴んで潰し回ってやがる。……仕方ねぇ、おいお前ら、他の奴らは無視して俺たちだけで襲撃するぞ」
「分かりやした!」
リーダーは〝こっちに手を出される前にやるべきだ″と判断し、部下に指示を出していつのまにか通り過ぎて離れていく獲物に目を向けた。
「ったく、誰が情報を漏らしやがったんだか……いいか、俺の合図に合わせて一斉に―――」
ゴゴン!
リーダーが自分で号令をかけようとしたところで、すぐ横から壁が壊れる音がした。
それに驚いてバッと振り向くと、そこには壁に首から先を突っ込んだままの部下がいた。
「なっ⁉︎一体誰が⁉︎」
部下がやられた事にもだが、すぐに振り向いたはずなのに自分以外には誰もいない事に驚いて焦り始めるリーダー。
そして遅れながらに身構えた直後、リーダーの目の前に人と同じくらいの大きさの魔法陣が現れた。
魔力の塊とも言えるそれは、白い光を放ちながらゆっくりとリーダーに迫っていた。
「……まさか、奴らが気付いて反撃してきたってのか?」
目の前に現れた魔法陣を見て最悪の結論に至ったリーダーは、想定も出来ないやり方で反撃をされた事に目を見開いて驚いていた。
しかも少し遠い所からも薄っすらと音が聞こえてくるので、他の雇われた者も同じ目に遭っているようだった。
そして、リーダーが全てに気付いたことが合図だったかのように、その魔法陣は勢いよくリーダーへ向かっていった。
ズガァン!
体全体を壁に叩きつけられたリーダーは、意識が薄れていくなかで今回の依頼を受けた事を後悔していた。
〈迅サイド〉
受付を済ませた迅たちは、騎士の男を先頭に『北宮殿』へと向かっていた。
今はそれなりに広い通りを歩いているのだが、いくつもの店が立ち並んでいるからか、多くの人とすれ違っていた。
しかし普通ならばいくらでもぶつかってしまうだろうが、今は数人の騎士に囲まれながら移動をしているので、歩いている人たちはそれを見て避けてくれていた。
「だいぶ賑わってるなぁ」
「そうだな。しかも見ろよあそこ。結構強そうな武器がいくつも売り出されてるぜ」
剛が指をさした先には、何かしらの付与をされているのが遠目にも分かる剣や斧などの武器が売られていた。
……ズン……
「本当だ。他にも武器を売ってる所があるけど、ちょっと多すぎないかな?【西セントレア】では防具はかなりあったけど、武器を売ってる所なんて数えるほどしかなかったと思ったけど」
「この【北セントレア】では強力な大型の魔物を相手にしなければならないんです。その魔物の素材を使った武器は強力な力を秘めてることが多く、時には魂剣よりも役立つことがあるくらいなんです。しかも魂剣だと壊されたらおしまいなのに対して、通常の武器ではそんな心配もありません。だからこの街の武具店では武器も多く販売しているんですよ」
和輝の純粋な疑問に、ティアが分かりやすく説明をした。
この街では武器をたくさん扱っている事もそうだが、それ以外のもう一つの特色として、戦闘系の能力を持った冒険者たちが集まりやすいというのもあった。
それに、この街では基本的に数人のパーティーではなく、大人数のクランで活動しているのだ。
狩りもそのクランで大型の魔物を相手に戦うのだが、念入りに準備をして山の奥へと進み、1ヶ月以上掛けて一体を倒してくるという状態であった。
……ガン……
「へぇ、大型の魔物ってどれくらいの大きさなの?」
「こっちでは1番小さくてもヒートビックボア以上の大きさですわ。過去に倒されたものでは学院の訓練場くらいの大きさを持つものもいたそうです。文献で読んだだけなので本当かは分かりませんけどね」
「まじかよ、そんな奴もいるかもしれないとか、さすがに恐ろしすぎるな」
麗奈の疑問にシルフィアが答えたが、その言葉を聞いた剛が実際に学院の訓練場を思い返し、その巨体を想像して冷や汗をかいていた。
……ゴゴン……
同じくシルフィアの説明を聞いていた繭は少し考え込んだかと思うと、目をキラキラさせながらも遠慮がちに迅へ話しかけた。
「……ねぇ、ジンくん。対抗戦で私が活躍したら一緒に行ってほしい所があるんだけど」
「あぁ、べつに構わねぇぞ」
「やった!」
唐突なお願いに無表情で前を向いたまま了承した迅。
そして、引き受けてくれた事がよほど嬉しいのか、繭は両手でガッツポーズを作って喜んでいた。
……ガガン!
「……ねぇ、繭。もしかしてだけど、ジンくんにその大型の魔物と戦ってほしいっていうわけじゃないよね?」
「……せっかくの遠出ですもの。思い出を作るのは大切な事だと思うのです」
ジト目で問いかけてきた凛に、顔ごと逸らしながら普段は使わない敬語で返す繭。
どうやら完全に図星のようだった。
……ズガン!
「ダメに決まってるでしょ!しかも危ないって分かってるのにそこへ連れて行こうとするなんて繭はどうかしてるよ!」
「一回だけ!一回だけだから!」
「ダメなものはダメ!」
まるで親子のようなやり取りをする繭と凛。
凛は絶対に行かせまいと強く否定し続けるものの、対する繭も凛の腰にしがみついて必至に頼みこんでいた。
……ドゴン!
繭と凛がお互いに譲らない攻防を繰り広げているなか、先ほどから聞こえてくる音に疑問を持った剛が、後ろを振り返りながら和輝に声をかけた。
「なぁ、なんかさっきから変にうるさくねぇか?」
「やっぱりそうだよな。さっきから何かが壊れたような音がしてるよな?」
剛の指摘する音を和輝も気にしていたらしく、歩きながらも後ろをチラチラと見始めた。
和輝と剛の会話が聞こえていたらしいティアが振り返って後ろの方を見ようとしたところで、眉間にシワを寄せている迅が目に入った。
「ジンさん、険しい顔をしてますけど、どうかしましたか?」
「べつに、ただ単に少しイライラしてるだけだ」
ティアの気にかけるような問いかけに肩をすくめて返した迅。
「ジン、なにかあ―――」
遅れて迅の異変に気付いた和輝が話しかけようとした瞬間―――
ズガァン!
数軒後ろの家の一部が大きな音とともに崩れていった。
「なんだありゃ⁉︎」
迅を除いた全員がいきなりの爆音に驚いて振り返り、剛なんかはその驚きのあまりに声をあげていた。
後ろの惨状を見た和輝は〝なぜ?″と考えるよりも先に、迅が不機嫌だった理由と今の爆音の原因についてが頭の中で自然と結びついていった。
「ちょっと待って!ジン!もしかしてだけど、あそこの爆発とさっきからしてた音もジンが何かしてたのか⁉︎」
「あぁ、そうだ。さっきから気に食わなかったんでな、めんどくさくなる前に潰しておいた」
バッと振り返って聞いてきた和輝に、すんなりと認めて返した迅。
その迅の言葉を聞いたシルフィアは何の理由でやったのかを察して、真剣な表情を浮かべて迅に近付いた。
「ジンさん、もしかして私たちを狙ってる人がいたんですの?」
「あぁ、この街に入ってからずっとな。でも大体は片付けたし、残りの奴らもさすがに怖くなったのか逃げてったぞ」
……ズガガガガン!
実は色々とやっていた迅が全てを話した直後、少し遠い所からさっきと同じ何かが壊れたような音が響いてきた。
「……うん、今ので逃げた全員も終わったのが分かったよ」
「エグい……結局誰一人として逃してねぇじゃねぇか」
最後の連続するような音を聞いた和輝と剛はそこで何があったのかを察して、それをやった張本人である迅に対して少し引いた目を向けていた。
「俺は見逃してやったとは言ってねぇぞ。こっちに手を出そうとしたくせに無事で返すわけねぇだろ」
2人からそんな目を向けられた迅は、〝心外だ″と言わんばかりに説明した。
「あぁ、第三者視点で見てみたかった……絶対にあそこら辺で面白いものが見れたはずなのに……」
「そんな事を気にしてる場合じゃないでしょ!」
迅が対処したとはいえ、狙われたことをまるで気にしていない繭は、まるで限定物を逃したかのようなショックを受けていた。
そんな能天気とも言える繭に、凛が声を張り上げて注意していた。
「皆さん、ひとまずは北宮殿へ急ぎましょう。あそこなら安全ですから」
〝まだ狙われるかもしれない″と考えたティアは、全員に声をかけて早めに北宮殿へ避難することを決めた。
そしていざ行動しようとしたところで、とある人物に止められることになった。
「おいおい、この俺様がわざわざ出向いてやったってのに、勝手なことしてんじゃねぇよ」
だいぶ高圧的な声のした方へ向くと、そこには同じ制服を着用した7人の男女がおり、その中心にはポケットに手を突っ込んでいる黒髪の男がいた。
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