北の学院からの手紙
〈生徒会サイド〉
迅が和輝を再び凹ませてから数日経った頃、生徒会メンバーは遺跡の件も落ち着いた事で通常の事務作業をしていた。
「会長、王都にいる研究者たちから手紙です。なんでも、この学院の地下にある設備を見たいということです」
ミーナが先に確認を済ませた手紙を差し出し、書き物をしていた咲恵が顔を上げてそれを受け取った。
「ありがとうミーナ。彼らには存分に調べてもらう必要があるから、受け入れの準備は済ませておいてくれ」
「分かりました」
「それにしても随分と遅かったな。連絡はとっくに行ってるんだから、もっと早く来てもいいはずなのに」
手紙を読みながら疑問を口にした咲恵に、ミーナと同じく書類整理をしていたノエルが反応した。
「たぶんだけど、誰が行くかで揉めてたんだと思うわ。人工生物を生み出した設備なんて珍しいどころの話ではないもの」
「そういうことか。じゃあ、遺跡の方も同じようになるかもしれないな。もっとも、ジンくんが派手に壊したから調べる物は無いかもしれないけどな」
跡形も無いと言っていいほどに壊れた遺跡を思い出した咲恵が笑みをこぼした。
「笑い事じゃありませんよ、会長。〝誰がやったのか″と騒いでいたのをティア殿下が黙らせてくれたとはいえ、貴族たちは絶対に諦めてませんよ。そのうち、この学院にも色々と口を出して調べようとするはずです。……まったく、元凶はいつも通りにのんびりとしてるのに、どうして私たちがこんなに苦労しなければいけないんだか……」
その迅に対して恨みがましく愚痴るミーナ。
そこへ咲恵が迅に対するフォローを入れた。
「苦労って言っても今は書類作成だけで済んでるし、もし何か言ってきてもここら辺の貴族だったら簡単に抑えられるさ。それに、話を聞く限りでは街まで吹き飛ばすほどの爆発を止めたんだ。のんびりするくらいはさせてあげなきゃな」
「……でも、あの人の事を隠さずに色々と喋っちゃえば全部解決するじゃないですか」
「そうなると私が約束を破ることになるからな。それだけはしたくない」
ミーナの偽りのない本音を、迅に恩を感じている咲恵はキッパリと断った。
「はぁ……分かりました」
「ごめんな、ミーナ。私の我儘で面倒をかけてしまって」
渋々といった感じで折れたミーナに、咲恵が申し訳なさそうに謝った。
「そんな!会長は謝らないでください!私はただ、あの人だからこそ気に入らないだけで……」
咲恵に謝罪されたミーナが慌てて言葉を返すものの、最後はブツブツと呟くように拗ねていた。
そこへ、ノエルが笑みを浮かべながら割り込んできた。
「ふふっ、ミーナはヤキモチを焼いているだけだものね?どうせなら自分の為にやって欲し「わー!何を言ってるんですか、ノエル先輩!」
ノエルに全てを言わせる前に大声を上げたミーナ。
ノエルが話した最初の方は聞こえていた咲恵は、なにやら思案顔になって腕を組んだ。
「そうか。確かにこれではミーナに苦労をかけさせてばかりだからな……そうだ!ミーナ、今度の休みはミーナのやりたい事、やって欲しい事に付き合うよ。だから遠慮なく言ってくれ。ミーナの為に一日中尽くしてあげよう」
「へっ⁉︎……そ、それは、2人きりで……とかですか?」
「もちろんさ」
咲恵から飛び出した突然の提案を受けたミーナは、それが魅力的過ぎるがゆえに顔を赤くして動きを鈍らせていった。
「あぅ……あの、その……ノエル先輩も一緒にどうですか?」
すぅーっと咲恵から目を逸らして小さい声でノエルに投げかけたミーナ。
話をふられたノエルは、まるで面白いものを見たようにニヤニヤとしていた。
「あらあら、ヘタレちゃったのね」
「しーっ!仕方ないじゃないですか!いきなり2人きりだなんて私の心臓が保ちません!」
余計な事まで口走りそうなノエルの口を塞ぎながら小声で訴えるミーナ。
「どうしたんだ?」
「な、なんでもありません!それよりもほら!会長宛てにもう1通手紙が届いてますよ!」
「そうか、ありがとうミーナ」
ミーナが照れ隠しのごとくパパッと取り出した手紙を、何も気付かずに受け取った咲恵。
咲恵がそのまま手紙を読み始めたのを確認したミーナは〝なんとか誤魔化せた″とホッとし、そのやり取りを見ていたノエルはクスクスと笑っていた。
「えーと、これは北の学院からか。あいつから手紙を寄越すなんて珍しいな」
そう言いながら手紙を読んでいく咲恵だったが、徐々に困ったような表情になっていった。
そんな咲恵を見て気になったノエルが声をかけた。
「どうかしたの?」
尋ねてきたノエルに、咲恵はため息をつきながら手紙を渡した。
「……はぁ、あいつの我儘が出たみたいだ。『新しく来た勇者たちと学院対抗戦をしたい』と書いてあったけど、実際は『面白そうだから顔を出せ』とか言ってたんじゃないか?最後の一文に向こうの副会長から『申し訳ございません』って書いてあるからな」
『北の学院』と、咲恵が『あいつ』と呼んだことで色々と察したノエルは、〝もしかして″と思いながら手紙を読んでいった。
「あらあら、北の副会長は大変そうね。で、サキエはこれの返事をどうするつもりなの?」
「う〜ん……あいつは実力に関しては問題ないんだが、性格がちょっとな……神崎くんたちに変なちょっかいを仕掛けそうなんだよなぁ」
「会長!あんな汚物のお願いなんて聞く必要ありませんよ!逆に『二度と関わってくるな』と送り返すべきです!」
判断に迷っている咲恵に、誰の事かを悟ったミーナが強い口調で言い放った。
「汚物は酷いなぁ」
「まぁ、前に会った時はミーナがちょっかいをかけられたからね。無理もないわ」
憤慨しているミーナを見て、思わず苦笑いをする咲恵とノエル。
「とりあえず、これは神崎くんたちに話してみようか。もし彼らが乗り気なら受けることにしよう」
そう決めた咲恵は、さっそく和輝たちを探しにいった。
訓練場で和輝たちを見つけた咲恵は、一緒にいたティアとシルフィアも引き連れて生徒会室へと戻ってきた。
そして、北の学院からの学院対抗戦の事を話し、この話の立案者である北の勇者の厄介な性格についてを隠さずに話した。
「―――という訳なんだ。これに関してはべつに断っても大丈夫だから、神崎くんたちで決めてほしい」
「僕たちでですか?学院対抗戦ってことは先輩たちが決めるべきなんじゃないんですか?」
学院対抗戦なのに咲恵が決めない事に疑問をもった和輝が問いかけた。
「私たちは近いうちに王都から来る研究者たちの案内をしなきゃならないんだ。だから私たちは行けないんだよ」
「そうなんですか……同じ勇者として会いたいとは思いますし、手合わせをしてもらえるなら喜んで受けたいですけど、へたに噛みつかれちゃうんだったら行かない方がいいかな……」
「ビビることはねぇよ和輝。ケンカを売られたんなら言い値で買って返り討ちにすりゃいいさ」
真剣に考えて慎重論を出した和輝に、剛がいつもの脳筋論を唱えた。
「剛くん、そういう問題じゃないからね」
単純思考な剛に、呆れたようにツッコミを入れる麗奈。
そんな悩みこむ和輝の様子を見た咲恵が〝これはお断りかな?″と思ったところで、突然シルフィアが割って入った。
「サキエさん、その対抗戦は受けましょう」
「シル、どういうつもり?」
あくまでも和輝たちへの話だったので静観していたティアだったが、シルフィアがいきなり口を出したのでその真意を問いかけた。
「もともと、あの人の素行は目に余るものがあります。だから今回の対抗戦で徹底的に心を折ってやればいいんです」
「考えは分からなくもないけど、実際に戦うのはカズキさんたちなのよ?そんな事のためにカズキさんたちを使うような真似は私が許しません。それに、シルは前に会った時の仕返しがしたいだけなんでしょ?」
「そ、そんなことはありませんわ」
シルフィアの提案をキッパリと否定したティア。
さらにはその考えを見抜いて指摘したことで、シルフィアはプイッとそっぽを向いた。
その全く誤魔化しきれていないシルフィアに対して、ついため息を吐いたティア。
そこへ、つい気になった麗奈が尋ねた。
「前に何かあったの?」
「私が目を離している間にちょっとした言い合いになってしまったらしいんです。手を出されたわけではないみたいなんですけど、詳しくは教えてくれなくて……」
ティアが困ったように話している間にその時の事を鮮明に思い出したのか、目に見えて不機嫌な表情になっていったシルフィア。
そんなシルフィアを見ていた和輝は、決然とした表情をすると同時に立ち上がった。
「……決めた!ティア、僕は対抗戦を受けるよ!僕がその人に勝って、同じ勇者として矯正させてみせるよ!」
「俺ももちろん行くぜ、和輝!」
握り拳を作って熱い決意を見せる和輝に、剛が同じように立ち上がって賛同した。
「もう、2人だけで決めないでよ。2人が行くっていうなら私も行くけど、他の人の意見も聞かないとでしょ?」
「そうですよ。勝手はダメですよ、和輝お兄さん」
いつも通りに暴走しそうな2人を抑えようとする木原姉妹。
行くことになる流れではあるものの、親友の意見が気になった凛が隣へ顔を向けて問いかけた。
「繭はどうするの?」
「私はもちろん行く。勇者同士がぶつかるイベントなんて見逃したら勿体無いからね」
凛から尋ねられた繭は、もの凄くキラキラとした目を向けながら断言していた。
アニメ好きとしての本能が働いているようで、鼻息も荒くなっていた。
「……私は繭を抑えるために行くよ」
親友も暴走しつつあることに、ガックリと呆れながらついて行く事を決意した凛。
「やっぱりそうなるんですね。カズキさんらしいと言えばらしいですけど……分かりました。なら私も一緒に行きます。あの人も私の前では無闇に暴れたりはしないでしょうからね」
和輝たちが行くと決めたことで、ティアもついて行くことを決めた。
「ティアがついて行くなら安心だけど、こっちでのやる事とかは大丈夫なのか?」
「問題ありませんよ、サキエさん。やる事と言っても手紙を返すか挨拶だけですから」
「それなら良かった。じゃあ、今日中に返事を送っておくよ。転移石を使って送るつもりだから、明日か明後日には向こうも準備出来ると思うよ」
「分かりました」
「あの、1つ忘れてたんですけど、【北セントレア】までってどのくらい掛かるんですか?」
話は纏まったが、肝心な事を思い出した和輝が問いかけた。
「魔物との戦闘を考えると、徒歩で1ヶ月くらいかな。そうか、神崎くんたちは行ったことがないから転移石を使えないのか」
「それに関しては私に考えがあります。皆さんを私の飛竜に乗せて行けば1週間程度で着きますよ」
今更ながらに盲点に気付いた咲恵だったが、ティアがすぐに解決策を伝えた。
「あれ?でもお姉さま、転移石の個数さえあれば移動出来ますわよね?」
「行ったことのある私が要として転移先を指定すれば行けるけど、代わりにそれぞれの魔力の消耗が激しくなるのよ。だから向こうへ着いてすぐに戦うことになるんだったら飛竜の方がいいわ」
転移石の細かいギミックを覚えていたシルフィアが指摘するが、それに対しての問題点を説明するティア。
「それなら仕方ないですわね。あと、護衛はどうするんですか?護衛たちは飛竜を持ってませんけど」
「う〜ん、さすがにベンたちも乗せるのは厳しいから、馬で来てもらうしかないわね」
「それだと反発しませんか?『護衛としての役目が果たせない』って」
「でも、カズキさんたちもいるから問題無いとは思うのだけど……」
「いいえ、お姉さま。魔物を舐めてはいけませんわ。そこでなんですけど、ジンさんにも同行してもらえば護衛たちにも安心してもらえると思うんですの」
「それはいいかもしれないけど、ジンさんが着いてきてくれるかしら?」
名案だとばかりに迅を同行させようとするシルフィアに、またこっちの厄介事に手を出してくれるか疑問をもつティア。
「そこは任せてくださいお姉さま。あの人は私に対して借りがあるので、こんな可愛いお願いなら聞いてくれますわ」
不安そうなティアに、胸に手を当てて自信満々に返すシルフィア。
「そうなの?それで受けてくれるならお願いしたいけれど、無理矢理はダメよ?」
「分かってますわ、お姉さま」
ティアからの注意を、笑顔で了承するシルフィア。
だが、心の中ではよかならぬ事を企んでいた。
(ふふふ、ジンさんを連れていけば必ずあの男とは衝突する。そうすればジンさんはほぼ確実に勝つ。そしてその完膚なきまでに叩きのめされたあの男をこれでもかと嘲笑う。これ以上にない完璧な作戦ですわ)
かつての仕返しを考えているシルフィアは、そのパーフェクトプランの達成を予感して実に嬉しそうな笑みを浮かべていた。
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