懲りない者
また報告忘れをしました。
申し訳ありません。
先月は4849pvとなりました。
おかげさまで今月中には3万pvまでいけそうです。
また、ポイントやブクマも少しずつ増えてきているので大変嬉しいです。
そして新しい章に入りましたが、始まったばかりでも面白いと思ってもらえるように書いていきますので、これからもよろしくお願いします。
ギルドへ報告を済ませた翌日。
授業を済ませた迅は、イリスとエリスの2人と一緒にいつも通りに訓練場に集まっていた。
しかしこの日はいつもと違い、和輝の要望で模擬戦をすることになった。
対戦するのは和輝とイリスなのだが、麗奈たちも魔法の練習などを中止して周りに集まっていた。
「また急にだね、和輝くん」
「ん、確かに」
「えーと、確か最初はイリスちゃんと戦って負けて、その次にジンくんと戦って負けた以来だったよね?」
微妙にしか覚えていなかった凛が、確認するように麗奈に問いかけた。
「うん、そうだよ。ジンくんに負けた時なんかは慰めるのが大変だったんだから」
「でも、落ち込んでいる和輝お兄さんは少し可愛かったです」
麗奈が和輝を慰めた時の事を思い出して疲れたような表情を浮かべる一方で、一緒に慰めた時に新しい何かを感じたらしい柑奈が頬をほんのりと赤く染めていた。
「なら、今回も慰める準備をした方がいいかも」
〝今回も同じ事が起きるかも″と予想した繭が、口元に笑みを浮かべながら提言した。
「おっと、それは聞き捨てならねぇぞ。今回の和輝は今までとは段違いだからな。むしろあの2人の心配をした方がいいと思うぜ?」
和輝が負ける事を予想している繭に対して、自分が戦うわけでもないのに自信満々に反論する剛。
そんな各々の予想が飛び交うなか、迅が審判として2人に声をかけた。
「それじゃあルールの確認をするぞ。魂剣は『幻影形態』のみで魔法は初級までなら認める。勝敗は俺の判断で決めさせてもらうが、基本的には本物の剣でやってるものとして考えろ。つまりは首を斬られたりしたら即終わりだ。意識を手放さなかったとしてもその時点で負けとするからな。とりあえずこんなもんだ、2人とも少し離れて準備しろ」
迅の説明を受けた和輝とイリスは互いの間が10メートルほど離れた所で止まり、魂剣を取り出して構えた。
「よし、始め!」
迅の合図の直後に『身体強化』を掛けながら飛びだした2人。
「『魔力刃』!」
和輝がゼヴォルスに黄色い雷を纏わせるのに対して、触れるだけでダメージを喰らうことが分かっているイリスは『魔力刃』を使うことで無力化した。
そして互いに剣を振りかぶり、和輝は振り下ろし、イリスは振り上げるように剣を繰り出した。
ギィン!
正面から斬り結んだ2人。
鍔迫り合いでギチギチと音を鳴らすなか、パワーで勝っている和輝が力押しでイリスの剣を弾いた。
ギン!
「っ!」
剣は手放さなかったイリスだったが、その体勢を崩しているところへ和輝に瞬時に踏み込まれてしまった。
「ふっ!」
和輝はゼヴォルスに纏わせている電撃を更に激しくさせながら、横薙ぎに剣を振るった。
イリスは剣を戻すことは間に合わず―――
「『魔力結界』!」
ガイン!
やむなく『魔力結界』で防いだ。
咄嗟の行動にしてはしっかりと対応できたイリスだったが、もともと魔力を多く消費してしまう『魔力刃』と『魔力結界』を立て続けに使ってしまったので、魔力残量を考慮した戦闘をしなければならなくなった。
(魔力はもう少しいけるけど切り札として残さなきゃいけない。なら、攻め手を変えるまでなの!)
「『ロスト・エフェクト』!」
イリスが短剣を前に掲げて唱えた直後、スーッとイリスの姿が見えなくなっていった。
イリスの魂剣の名は『アロスト』。
精神力を使うことで対象の色を変えるという能力の魂剣だ。
今は〝自分を透明に変色する″ことで、周りから姿が見えなくなっているのだ。
この能力は使い方によっては他人の姿に変色する事も出来るのだが、イリスの技量ではあくまでも単色だけしか扱えないため、透明になる事にしか使えない能力でもあった。
完全に姿を消したイリスは、そのままだと普通に斬り裂いてしまう『魔力刃』を解き、正面から突っ込んで和輝の右腕を斬りつけた。
「っ⁉︎」
突然襲ってきた違和感に驚く和輝。
今までの戦闘で鍛えられてきた勇者スペックのおかげでフラつきもしない和輝だが、足音は聞こえても気配を掴むことのできないイリスに対して冷や汗を垂らしていた。
一方で、今の牽制気味の一太刀で和輝が自分の攻撃を察知出来ない事を悟ったイリスは、早々に勝負をつけるために後ろに回り込んで和輝に向かっていった。
狙うは心臓への刺突だ。
幻影形態では何十回も斬りつけなければ和輝を倒すことはできないが、今回のルールでは致命傷となる箇所に当てるだけでいいので、和輝に対応される前に勝負を決めにいった。
(くっ、なるべくこれには頼りたくなかったけど仕方ない)
「『雷魔硬壁』!」
和輝は一瞬で攻防一体の雷の障壁を作り上げた。
初めて見る雷の障壁に驚いたイリスがすぐにブレーキをかけたが、そこは既に障壁の射程圏内だった。
バチィン!
「きゃっ⁉︎」
障壁の自動雷撃を喰らったイリスは、そのまま尻もちをついてしまった。
威力が弱められていたのもあって意識は失っていないイリスだったが、驚いて閉じていた目を開けると、目の前にはゼヴォルスの切っ先が突きつけられていた。
「そこまで!勝者、神崎!」
迅が宣言をしたことで、試合は終わった。
「やったね和輝くん!」
「和輝お兄さん、凄いです!」
「お〜、チートの力が炸裂した」
「あれは確かに強過ぎるね」
「だから言ったろ?今までとは比べもんにならねぇくらい強くなってんだよあいつは」
「うぅ〜、イリス〜」
それぞれが興奮している麗奈たちに対して、エリスはまるで自分の事のように悔しがっていた。
そして負けてしまったイリスは、尻もちをついたままでガックリとうな垂れていた。
そこへ、和輝が手を差し出しながら声をかけた。
「相手をしてくれてありがとう、イリスちゃん。防御は硬かったし、最後なんかはヒヤッとしたよ」
「ふん!お世辞はいらないの!」
イリスはそっぽを向いて自分で立ち上がり、エリスの元へと歩いていった。
その冷たい対応に「たはは……」と苦笑いしながら頭をかいていた和輝だが、すぐに表情を切り替えた。
「次はエリスちゃんにお願いしたいんだけどいいかな?」
何を言うかと思えば、まさかのもう一戦要求だった。
イリスとそんなに力の差がないエリスとやる意味はあるのかと訝しんだ迅だったが、〝エリスにも良い経験になる″と考え直して本人に聞いてみた。
「エリス、ああ言ってるがどうする?」
「イリスの代わりにボッコボコにしてやるの!」
エリスは両手に握り拳を作りながら息巻いていた。
エリスが了承したので、早速位置についた2人。
和輝は未だに余裕の表情を見せたままなのに対して、エリスは少しイラついているようだった。
どうやらイリスが負かされた事によほど腹を立てているらしかった。
「ルールはさっきと同じだ。いいな?」
迅の確認に頷きをもって返す2人。
「よし、始め!」
「はぁあああ!」
迅が合図してすぐに『身体強化』と『魔力刃』を掛けて走りだしたエリス。
和輝も『身体強化』をかけたが、今回はその場で構えていた。
そして、エリスがほどよく近づいてきたところで剣を振り下ろした。
「……ここ!」
ギン!
「っ⁉︎」
和輝の剣の軌道をしっかりと見極めたエリスは、左からタイミングよく剣の腹に短剣を当てることで受け流して軌道を逸らさせた。
そして、剣を空振った和輝の右横を駆け抜けつつ、『魔力刃』を解きながら短剣を振るった。
「くっ!」
自分の脇腹に迫ってくる短剣を、腹を凹ませるようにして不恰好ながらも躱した和輝。
しかし、そこへすぐに切り返してきたエリスが斬りかかった。
「せいっ!はぁっ!たぁっ!」
「っ!」
剣をまともに振ることの出来ない間合いで振られ続け、ひたすらに後ろへ後ろへと下がって躱すしかない和輝。
そのまましばらく続くかと思われたところで―――
「『魔力結界』!」
「っ⁉︎」
エリスが和輝の後ろに『魔力結界』を張って退路を塞いだ。
まさかの使い方に驚いた和輝だが、後ろに驚いているばかりではいられなかった。
エリスが和輝に横へ逃げられる前にと接近してきたからだった。
「はぁあああ!」
速さにモノを言わせてひたすらに斬り続けるエリス。
それに対して和輝は、剣に手を添えて受け止める一方だった。
「くっ!戦い方の上手さはまだ負けるけど、もう勝負に負けるつもりはない!『黄雷装』!」
必至に剣を受け続けながら啖呵を切った和輝は、セルストとの戦いで偶然身につけたゼヴォルスの雷による『身体強化』を使った。
これにより知覚能力も数段上がった和輝は、遅く見えるエリスの突き刺そうとしてくる短剣を、下からすくうようにして撥ね上げさせた。
そしてその隙に横へと動いてその場を離れ、間合いをしっかりとって構えた。
一方で、一瞬で和輝を見失ったエリスは構え直しつつ辺りを見回した。
そして、左へと移動していた和輝を見つけたエリスはそちらへ体を向けて構え直しつつ、さっきとは違う和輝に警戒心を上げていた。
「これが僕の新しい力だ。行くよ、エリスちゃん!」
「っ⁉︎」
宣言と同時にエリスの周りを高速で移動し始めた和輝。
それに対してエリスは、自分の周りを移動しているのは分かっているものの、全く目で追えない和輝に驚いていた。
「ふっ!」
ギィン!
「んぐっ!」
高速で動く和輝が真横へと移動して斬りかかったが、せめてもの意地で防いだエリス。
しかし―――
「これで終わりだよ」
一撃目で剣を腕ごと弾かれていたエリスは、その間に再度接近してきた和輝に剣を首に添えられていた。
「そこまで!勝者、神崎!」
「そんなぁ〜」
負けが決まり、その場にへたり込んで落ち込むエリス。
そこへ和輝が手を差し出しながら声をかけた。
「凄かったよエリスちゃん。普通の『身体強化』だけだったら僕は負けてたよ」
「ふん!お世辞はいらないの!」
そっぽを向きながらイリスと同じセリフを吐いたエリスは、自分で立ち上がってイリスの元へと歩いていった。
2度も同じ対応をされて微妙な思いをした和輝だが、今まで負けていた2人に勝てたので嬉しくも思っていた。
「やったな和輝!あの2人に完勝じゃねぇか!」
「ははは、まだ危ないところはあったけど、なんとか勝てて良かったよ」
「かっこ良かったです!和輝お兄さん!」
「お疲れ様、和輝くん」
和輝の2連勝に盛り上がる剛たち。
それに対してイリスとエリスの2人はというと―――
「「ごめんなさい、師匠……」」
しょんぼりと落ち込んでいた。
「まぁ、あいつの能力の応用が広すぎたからな、今回は仕方ねぇさ。攻め方自体は2人とも負けちゃいねぇから、これから更に鍛えて越えてやればいいさ」
落ち込む2人の頭を撫でながらフォローする迅。
今回は負けた2人であったが、迅からしてみれば基礎的な戦い方は2人の方が勝っていたので、とくに怒るつもりなどはなかった。
迅が撫で続けたことで2人が次第に気持ち良さそうな表情をしてきたところで、和輝たちが近づいてきた。
「ジン、どうだった?僕もだいぶ成長しただろう?」
「確かにそうだな。この前とは違ってしっかりと身が入ってるみたいだしな」
自慢気に言ってくる和輝に、ついこの間まで落ち込んでた事を思い出させるような言い方をする迅。
「ははは、まぁね。ジンに色々と言われて、やっと本当の意味で覚悟をつけられたんだよ」
「そりゃなによりだ」
「それで、弟子である2人を倒せたからあとはジンだけなんだけど、お願いできるかな?」
ニッコリと笑いながら唐突なお願いをしてきた和輝。
この言い方からすれば間違いなく〝模擬戦をしよう″ということだろう。
それに対して、迅よりも先に周りが強く反応した。
「「「えっ⁉︎」」」
素直に驚く木原姉妹と凛。
「「なっ!」」
若干の怒りを滲ませながら驚くイリスとエリス。
「ほう……」
〝ジンくんの戦闘を見れるかもしれない″と期待している繭。
「バカよせ!早まるなよ和輝!」
即座に青ざめて和輝を止めにかかる剛。
先ほどまで自分の事のように自慢していたはずの勢いはすっかり消えていた。
一方で迅はというと、よく分からないモノを見るような目を和輝に向けていた。
「覚悟をつけた事と俺と戦う事、どういった繋がりでそんな結論になったんだ?」
「僕は決めたんだ、〝みんなを守る″って。そしてその中にはジンも含まれてるんだ。だから僕が勝ったらジンの事を話してほしいんだ」
「……なるほどな」
和輝の言葉にすんなりと納得した迅。
和輝は覚悟を決めたのと同時に、大切な人を失っている迅の力になりたいと思ったのだ。
だからこそ、〝ジンよりも強いことを証明して頼ってもらおう″と考え、こういった形をとることで迅の心を守ろうとしていたのだ。
和輝の考えをしっかりと悟った迅は、思わずため息をついてしまうほどに呆れていた。
(まったく……普段の俺を見ていれば問題無いくらい分かるだろうに。……だが、これもこいつが勇者と言える資質ってやつか)
迅は呆れはしたものの、真っ直ぐな心意気は嫌いではないので自然と笑みを浮かべていた。
「お前の考えはよく分かった。いいぜ、今のお前の全力でかかってこいよ」
「ああ!もちろんさ!」
迅の挑発するような言い方に、力強く頷き返す和輝だった。
3戦目が決まったので、今度は和輝と迅が向き合った。
その迅はというと今回はサラだけしか使わないようで、右手に鮮やかなルビーの輝きを持つ剣を構えていた。
「2人とも、準備はいい?」
開始の合図をやることになった麗奈が和輝と迅に声をかけた。
2人は無言で頷き、いつでも動ける構えをとった。
「「師匠頑張ってー!」」
「こうなったらとことんやっちまえ和輝!」
いよいよ始まるというところで外野も盛り上がってきていた。
「試合開始!」
ついに開始の合図が出された。
その直後―――
「『青雷装』!」
ズガァアアアン!
和輝の声と共に青い雷による衝撃が鳴り響いた。
「そんなに長くは保たないけど、ようやくこの力を使いこなすことができたんだ」
そう話した和輝は、今までは感情が強くなった時にしか使えていなかった青い雷光に包まれていた。
「悪いけど、この最強の力でジンを倒させてもらうぞ!」
そう啖呵をきった和輝は、大抵の者ならば見ただけで萎縮してしまうほどの圧力を放っていた。
その和輝を目の前にしている迅は………『身体強化』もせずに静かに見据えていた。
そんな迅に気付いていない和輝は、腰を低く落としていった。
「行くぞ!」
そう言い放った直後に姿を掻き消した和輝。
その動いた余波で風が吹き荒び、観戦していた麗奈たち全員がたまらず目を瞑った。
風が一瞬で収まったので目を開けると、すでに決着はついていた。
麗奈たちの視線の先には剣を振り抜いた姿勢の和輝と、中途半端にかがんだ状態で剣の先に作った火の玉を和輝の顔の前に突きつけている迅がいた。
「……な……」
「狙いが単純過ぎだ」
〝なぜ?″といった感じで驚いている和輝に対して、ポツリと一言だけ言い放った迅。
そして、迅は火の玉を霧散させてしっかりと立つと、〝もう終わりだ″と言わんばかりにサラレスもしまった。
「マジかよ……和輝のあのスピードでも足りないってのかよ……」
まさかの結果に、驚愕の表情を浮かべている剛。
そして驚いているのは他も同じで、木原姉妹と凛は言葉も出せないでいた。
しかし、繭だけは驚いてはいなかった。
「あぁあ〜〜〜っ、なんで目を閉じたの私!大事なところを見逃すなんて!」
肝心なところを見逃した事に頭を抱えて激しく後悔していた。
「流石は師匠なの!」
「やっぱり師匠は凄いの!」
そしてイリスとエリスは大喜びしていた。
今の一瞬で何が起きたかというと、和輝が迅の後ろに回り込んで右から横薙ぎに大振りをしたのだ。
迅はそれを軽くしゃがむことで躱し、その状態で剣だけは和輝の方へと向けていたのだ。
ちなみに、剣の先にある火の玉は〝これで驚いて固まってくれないかな?″と適当に考えて作っただけであった。
何が起きたのかを飲み込めずに呆けていた和輝は、少しすると脱力したまま迅に問いかけた。
「……あのスピードでも見えていたのか?」
「まぁな。それにお前の動きも雑過ぎるからだいぶ余裕に感じたぞ。あとは狙いが単純過ぎだ。なんだよあの大振りは?敵が1発で倒れなかったらどうすんだ?ちゃんとそのあとの攻撃に繋げられるようにしとけ。それから前にも似たような事を言ったが、少し力を手に入れたくらいでいい気になるなよ。上には上がいるって言っただろ。あとはこれも言ったな?俺はお前に心配されるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ。人の心配をする前に、まずはお前の慢心を捨てられるように努力しろよ」
自信満々で挑んであっさり負けた悲惨な結果と、とことん辛辣な迅の言葉をもらった和輝はもちろん崩れ落ちた。
そこへ木原姉妹が駆け寄って慰めにかかったが、今回は以前の比ではないくらいに苦戦しそうだった。
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