シルフィアとのデート?
いよいよ第3章の開幕です。
〈迅サイド〉
迅が和輝を叱った翌日。
迅は冒険者ギルドでドーネルと王女姉妹に説明をすることになっているのだが、迅は未だにベッドで眠っていた。
「すー……すー……」
スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている迅。
しかし、そのベッドの横に立つ者が1人。
「はぁ……まったく」
その者はひとつため息をつくと、片手を振り上げて―――
パチン!
眠っている迅の頬にビンタした。
「ジンさん!いつまで寝てるんですか!もうとっくに朝なんですから、早く起きてギルドへ行きますよ!」
毛布を剥ぎ取りながら迅を起こしにかかったのはシルフィアだった。
「……ん〜、昼からでよくねぇか?」
ビンタされたはずなのにまだ眠そうな声で抵抗する迅。
シルフィアはそんな迅に呆れながらもクローゼットを漁り、制服を取り出して迅の元まで持ってきた。
「よくないです。ほら、早く着替えてください。でないと貴族たちにジンさんの事を言いふらしますよ」
「……それは困るから起きるわ。それにしても、なんか手慣れてきてないか?流れるように制服も取り出してくるしさ」
シルフィアからまさかの脅しを受けて、素直に応じることにした迅。
そして制服を受け取りつつ、ふと気になった事を指摘した。
それに対してシルフィアは、疲れたような表情を浮かべていた。
「こんなに手のかかる人の面倒を見てれば当然ですわ。そんな事よりもほら、早く着替えてください」
「分かった分かった」
口酸っぱく言ってくるシルフィアに、苦笑いの迅だった。
ギルドへやってきた迅と王女姉妹は、ギルド長のドーネルと秘書であるミリアを含めた5人のみで話し合いをした。
その内容は遺跡で起きた事、魔物使いの事、敵の目的、そして遺跡を破壊した力についてだ。
迅はほぼ全てを話したが、どうやって爆発寸前のクリスタルと遺跡を破壊したのかまでは話さなかった。
もちろんティアとドーネルは聞きたそうにはしていたが、迅が話さない限りは仕方ないと割り切っていたので、とくに問い詰めたりはしなかった。
しかし、シルフィアだけはしつこく聞き出そうとしていたが、迅に適当にあしらわれて終わった。
そして今回の件は王都だけではなく各街にも周知されることになった。
理由としてはグライドたちが溜めていたというクリスタルが原因で、〝長い期間をかけてまでやろうとしていたのだからこの街だけではないはず″という考えから、警告を促すというのが目的であった。
1時間ちょっとで報告を終えた迅は、王女姉妹と共にギルドから出てきた。
「ジンさん、付き合っていただいてありがとうございました」
「べつに気にすんな。それよりも、俺が変な奴に絡まれないようによろしく頼むぜ」
悪く言えば自己中心的な迅の言い方に、ティアはクスリと笑ってから答えた。
「ふふっ、分かってます。それで、私は色々と準備しなければならないので学院に帰りますが、ジンさんはどうするのですか?」
「そうだなぁ、どうせ今日は暇だから狩りにでも「それならジンさん、私に付き合ってください」……何処へ行くつもりなんだ?」
ティアに答える途中でシルフィアに遮られた迅は、ジト目を向けながら問いかけた。
それに対して、指を口元に当てながら考え込むシルフィア。
「そうですねぇ……まぁ、この辺りをブラブラしてお話ができれば充分ですわ」
「……という訳だ、姫さん」
「分かりましたわ。ジンさん、シルをお願いしますね。シル、あとでジンさんとのデートの話を聞かせてね?」
「お姉様!これは断じてデートではありませんから!」
ティアから聞き捨てならない言葉を聞いたシルフィアは、両手に拳を作りながら強く反論した。
しかし、それでもティアはいい笑顔を浮かべたままだった。
「うふふ、それじゃあ2人とも、仲良く楽しんできてくださいね」
「だから違うんですー!」
微妙に顔を赤くしながら叫ぶシルフィアだが、ティアは気にせずに歩き去っていった。
「まったく、お姉様ったら……いいですかジンさん!これはデートではありませんからね!」
「分かった分かった」
強く念押ししてくるシルフィアに、迅は苦笑しながら落ち着かせようとしていた。
ギルドの前から移動した迅とシルフィアは、いろんな出店が立ち並んでいる通りで買い食いなどをしていた。
今も2人の手にはすぐそこで売っていた串焼きがあり、それに舌鼓をうちながら歩いていた。
「それで、話ってなんだ?俺の力についてだったらまだ言う気はないぞ?」
先に牽制してきた迅に、呆れたような表情を向けるシルフィア。
「それをどうしても聞きたいから付き合ってもらってるんです。だいたい、あんなに派手に壊しておいてそんな我儘は通じませんわ」
「普通はそうかもしれんが、そこは姫さんみたいに〝強い力を持っている″っていう認識だけで見逃してくれよ」
「ダメです。あなたはもっと自分の力の影響を考えるべきですわ。このままではどう説明したとしても貴族たちに狙われてしまいますよ?私たちが把握しているというのならまだしも、〝王族が制御できていないなら自分が″という輩があなたの勧誘に乗り出してきますわ」
ささやかな抵抗を見せた迅だったが、シルフィアとしても色々と考えたうえで言っているので、全く引くつもりはないようだった。
しかし、正論を言われていても迅にも譲れない理由があるため、少しだけ自分の考えを話すことで引いてもらうことにした。
「そこら辺は分かっちゃいるさ。だがそれをどうにか神崎たちにでも押し付けておいてほしいんだよ。俺という強者が明確にされるのはまだ早いんだ」
「どういう事ですか?」
「俺の最終的な目的は普段の平和な生活を守ることだ。そのためには敵を必ず殲滅しなきゃならない。だからこそ、せめて敵の組織を知るまでは周知されたくないんだ。敵の組織さえ分かれば俺の力がバレて敵が活動を抑えたとしても、そこ繋がりで割り出せるからな」
「なるほど、あなたは敵に警戒される事自体を避けたいという事なんですね?」
「その通りだ。まぁ、今回のようにどうしようもない時は遠慮なくやるけどな。ただ、今回の遺跡にいた奴も組織の一員だったんだろうが、結局は何も聞き出せずに終わったからな。次の奴はできれば拷問にでもかけて聞き出したいところだ」
腕を組みながら容赦のない方法を語る迅に、少しばかり引いてしまうシルフィア。
「さらっと恐ろしい事を言いますわね……ジンさんは敵の目的は何だと思いますか?」
「たぶんだが、力を溜めていた以上は何かを作り出すか、もしくは触媒かなんかにでもしようとしてたんじゃないか?おそらくはそういった施設もあるはずだ。あいつは力を溜めきったクリスタルを転移させるとか言ってたからな」
「なら、それもお父様に報告して動いて貰わないとですわね……あれ?ジンさん、さっきの話の時にはこれは話してませんでしたよね?」
「まぁ、聞かれなかったからな」
話の途中で気付いたシルフィアの問いかけに、なんでもない事のように答える迅。
そんな全く悪びれていない迅に、シルフィアは呆れ果ててため息をついてしまった。
「はぁ……まったく、それこそ話さなきゃいけない内容じゃないですか。そういういい加減なところは直した方がいいと思いますわ」
「んな事言われてもなぁ……もともとは俺の推測なんだから大して意味も無いだろ?」
「それでも事態の想定をする事は出来るじゃないですか。……決めました!今度の休みはジンさんに協力する事の大切さを教えてあげますわ。とりあえず今日はあなたの知っている事を全て話してください。この際ですからサラさんとセラさんがいない時の戦闘法も詳しく!」
「えぇー、それはめんどくさ……ん?おい、上になんかいるぞ?」
いつもの言い合いが始まるというところで迅が上空に気配を感じ、シルフィアに伝えて上を見た。
「上ですか?……っ⁉︎」
迅に促されたシルフィアも上を向くと、かなり高い所に結構な巨体を持つワイバーンが飛んでいた。
そのワイバーンはほぼ迅たちの真上で滞空したかと思うと、口の先に直径2メートルほどの火球を作り始めた。
「まさかあれをここに撃つつもりですか⁉︎いけない!皆さん、早くここから離れてください!上から火球が降ってきます!」
この場を攻撃される事を悟ったシルフィアが、周りに避難するように声を掛けた。
それとほぼ同時に周りに隠れていたはずの護衛も急いで出てきて、シルフィアを守るように囲んだ。
そして、ワイバーンがいざ火球を撃ち出そうとした時に、迅が動いた。
「『魔力結界』」
迅が掌をワイバーンに向けて呟いた直後、火球の目の前に『魔力結界』が張られ、そこに火球がぶつかった。
ズドォン!
「グルォアッ⁉︎」
撃ち出したはずの火球が『魔力結界』にぶつかったことで爆発し、その余波を受けたワイバーンは怯んでいた。
「へ?」
上空で突然起きた事に呆けてしまうシルフィア。
護衛たちも何が起きたのかを理解していなかったが、迅は周りの者たちには目をくれずに、ワイバーンをギラつくような目で睨みながら口元に悪い笑みを浮かべた。
「空にいるから安全だと思ってんなら大間違いだ。逆に一方的に「ジンさん!」何だよ?」
『やってやるよ』と言おうとしたところでシルフィアに制止され、そちらを向く迅。
「ジンさんがここで戦っては被害が出てしまいますわ!私がなんとかしますから、どうにか上まで連れてってください!」
「いや、俺だって被害を出さないように「早くしてください!」……分かったよ」
『やれるぞ』と言おうとしたところでまた遮られた迅は、仕方ないのでおとなしく従うことにした。
ワイバーンが体勢を立て直すなか、迅はシルフィアをお姫様抱っこの形で抱えていた。
「身体強化は掛けておけよ?」
「準備出来ました!」
「ま、待ってください姫さま!」
「『魔力結界』。よし、じゃあ行くぞ!」
準備を整えた2人は、護衛たちの制止の声を無視して上空へと跳んでいった。
「来なさい。『シルミア』!」
迅が空中に張った『魔力結界』を足場にして上へ向かっている間に、シルフィアは錫杖型の魂剣を顕現させた。
シルフィアの背丈と同じくらいの長さを持つ錫杖は全体がエメラルドのように輝いており、サラとセラにも負けないほどのオーラを放っていた。
そんな跳んでくる迅とシルフィアを見たワイバーンは、また口を開いて火球の準備に入った。
「懲りねぇ奴だな。また目の前で爆発させてやるよ」
「いいえ、ジンさん。そのままでお願いします」
「……はいよ」
迅が『魔力結界』を張ろうとしたところで、シルフィアが静かな声で迅を止めた。
「『フォース・クラティア』!」
シルフィアが唱えた直後、錫杖からエメラルドの光の粒子が周囲に舞い散った。
ワイバーンはそれを気にせずに火球を放とうとしたが、それは不可能に終わった。
なぜなら、その火球が勝手に動いてシルフィアの目の前で槍の形に変化したからだった。
その火の槍は風を纏っていき、ドリルのように高速で回転をはじめた。
「これで終わりです。『ファイア・ヴォルテックス』!」
シルフィアの声と共に火の槍が弾かれたように飛んでいき、ワイバーンは躱すこともできずに胴体に穴を開けられた。
それを眺めていた迅は、かなりの威力を持っていた火の槍に感心していた。
「おぉー、やるな。自慢してただけはあるじゃねぇか」
「当たり前です。私は王族ですから強いんです」
迅に褒められてかなり自慢気なシルフィアだった。
「確かに強かったな。だが、肝心な事を忘れてるのはダメだと思うぞ?」
迅はそう言いながらシルフィアが下を向けるように動いた。
急な動きに少し驚きつつ下を向いたシルフィアの視界には、下へ落下していくワイバーンがいた。
「あーーーっ!」
このまま落ちていけば建物が壊れたりもするかもしれず、それを一瞬で悟ったシルフィアは大声で叫んでしまった。
「『魔力結界』」
迅は苦笑しながら『魔力結界』を発動させて、落ちていくワイバーンを空中で受け止めた。
「はぁ〜〜〜、良かった〜」
ワイバーンが受け止められたのを確認したシルフィアは、迅の腕の中で心の底から安堵していた。
それを見ていた迅は、唐突に悪い笑みを浮かべた。
「やっぱりまだまだだな。今度の休みに周りに被害を出さない戦い方でも教えてやろうか?」
「っ!あなたにだけは言われたくありませんわ!何も考えずに遺跡を消し飛ばしたくせに!」
迅にからかうような言い方をされたシルフィアは顔を赤くし、自分の失態からの羞恥を隠すように迅の腕の中で暴れはじめた。
「おわっ⁉︎悪かったって!頼むからこんな所で暴れるなよ!落っことしちまうだろうが!」
叩いたりしながらとにかく暴れるシルフィアに、たまらず必死に謝る迅であった。
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