遺跡の件が終わり
古代遺跡編のエピローグとなります。
古代遺跡での戦いから数日後、迅と和輝たちはいつもの学院生活に戻っていた。
怪我は誰1人後遺症もなく回復したので、授業ではいつも通りに模擬戦をやっていた。
学院でサイクロプスと戦った時は精神力を使い果たしてしばらく意識が戻らなかった和輝だが、今回はその日のうちに起きたので、明らかな成長を見せていた。
ただ、助けようとしていたセルストが死んだ事を聞いた時は、これ以上にないくらい落ち込んでいた。
麗奈や剛、ティアも加わって励ましたりしたものの、模擬戦の時ですらどこか上の空な状態が続いたほどだった。
これをさすがに見兼ねた迅は放課後の自主トレの時に声をかけ、迅なりのメンタルケアを図った。
「いつまでそうやって引きずるつもりだ?」
迅のトゲのある言葉に、顔を顰める和輝。
「……そんな言い方はないじゃないか。セルストさんは不幸に見舞われたうえに死んでいった。だからこそ救いたかったのに、僕はそれが出来なかった。勇者なのに、皆よりも強い力を持っているのにまた力不足で出来なかったんだ。こんなに何度も痛感するとさすがに辛いんだよ。その点、たまにジンの事が羨ましく思うよ。だって、ジンみたいな強さがあればもっとたくさんの人を簡単に救えるんだからさ」
長々と語られた和輝の本音。
迅としては色々と怒りたい部分はあるものの、無力な人間の思考は分からなくもないので、〝トゲのある言い方をする事で怒る代わりにしよう″と考えた。
「はぁ……敵の1人を救えなかった。その程度で凹むくらいなら勇者なんて辞めたらどうだ?」
「……ジン、さすがにそれは酷いんじゃないのか?セルストさんが報われる事なく死んだんだぞ?それを『その程度』なんて……」
「だからどうした?それが強くなるための特訓をおざなりにしていいとでも言うのか?」
「そうじゃない!そうじゃないけど、それとこれとは別の話なわけで……」
「別の話ではあっても繋がってる話だろうが。いいか?お前は力不足で救えなかった。それが今回はたまたま敵だっただけだ。じゃあ、その力不足のままでお前はこれからも戦い続けるつもりか?そんなので救えると思ってるのか?……今度は誰を目の前で失うつもりだ?」
「っ⁉︎」
迅の怒りを孕んでいる目と言葉に、驚いて固まってしまう和輝。
迅はそんな和輝に構わずに話を続けた。
「べつにセルストの件を忘れろと言いたいわけじゃねぇんだ。救えなかった事に対して落ち込むだけでいるのが気にいらねぇんだよ。なぜ行動しない?なぜ次に繋げようとしない?俺にだってその経験はあるから悔しいのも悲しいのも分かる。目の前で失った時なんかは特にだ。だから俺はここまで強くなるために行動してきた。2度と目の前で失わねぇようにな。お前は俺の事が羨ましいと言うが、俺からしてみればお前の方が羨ましいよ。だってよ、お前は親しい者を誰1人として失ってねぇだろうが」
「っ!」
最後に自嘲するように話した迅の言葉を聞き、その意味を理解して息を呑んでしまう和輝。
「まぁ、最終的に決めるのはお前だ。戦うのか、守ってもらうのか。だが、戦うというのなら、守りたいというのなら覚悟しておけよ。お前が思うほど守るってのは簡単なもんじゃない。少なくともそんな風によそ見しているようじゃ誰も守れねぇよ。守りたくても、救いたくても簡単に失うだけだ。そんな現実は容赦なく襲ってくる。そんな悲しい未来にしたくねぇんなら、死にものぐるいで足掻いてみせろ」
そこまで話した迅は歩いて訓練場をあとにした。
そして、迅の話を聞いた和輝は握り拳を作ってその場に佇んだままでいた。
「……ジン、僕は……」
ポツリと呟いた和輝の顔は、何かの決意をしたような表情を浮かべていた。
和輝と話し終えた迅が訓練場から出ると、すぐそこにシルフィアが立っていた。
「あら、ジンさん。今日の特訓は終わりですか?」
「いや、今日は神崎を叱りに来ただけだ。それも済んだからもう帰るけどな。それにしても、お前がこんな所に来るなんて珍しいな。あいつらに用でもあるのか?」
「いえ、レイナさんたちにではなくジンさんに用があったんですよ」
ニコニコとしながらここに来た目的を話すシルフィア。
「俺にか?」
「はい!……っていうか、いい加減とぼけるのはやめていただけます?本当は全部分かってますよね?」
「……さぁ?何がなにやらサッパリなんだが?」
急に豹変したシルフィアの問いに、そっぽを向いて答える迅。
そんな迅を見たシルフィアは、頭に手を当ててため息をついた。
「はぁ……いいですか?明日の休みはちゃんと私たちに付き合ってもらいますからね!こっちは大変なんですよ?ジンさんが遺跡での詳細を教えてくれないから、貴族たちが早く教えろと催促してきて鬱陶しいんです!」
腕を組んで怒りながら言ってくるシルフィア。
「いや、俺はべつに教えてないんじゃなくて、姫さんに『しばらくは傷を癒しててください』って言われたからそうしてるだけであってだな」
まるで『俺は悪くない』みたいに話す迅に、つい呆れてしまうシルフィア。
「……ジンさん、あなたその日のうちに自分で治してたじゃないですか。そ、れ、に!いくらなんでも限度ってものがあります!お姉様は優しいから見逃してくれていましたけれど、これ以上は私が許しません!なので!明日は私とお姉様と一緒に冒険者ギルドへ行ってもらいますからね!」
どうやらシルフィアは有無を言わせないつもりのようだった。
ある意味の宣告を受けた迅だったが、それよりも別の事が気になった。
「ん?なんで冒険者ギルドなんだ?貴族相手に話すのにそんな所でやるのか?」
「いいえ、そこに参加するのは私とお姉様とギルド長だけです。そこで話を聞いてまとめてから、私たちが貴族たちに説明します。……まったく、これもお姉様の配慮ですからね?あとでお礼を言っておいてください」
「なるほどな、確かにそれは礼を言わないとだな」
そもそも迅が話すのを渋っていた理由は、〝貴族たちと話さなきゃいけない″と思っていたからだった。
迅は今まで巡ってきた世界でも貴族たちのせいで何度も嫌な目に遭っているので、どうしても面倒くさくなってしまっているのだ。
しかし、それをティアとシルフィアが代わりにやってくれると言うのだから、迅にとってこれは嬉しい誤算だった。
「分かってもらえたなら、明日はしっかりお願いしますよ?昼前には済ませるつもりなので、朝起きたらすぐにギルドへ行きますからね?」
「はいよ。シルフィアもありがとな」
「…………」
迅から礼の言葉を聞いたシルフィアは、なぜか無言で固まった。
その様子からは少し驚いているようだった。
「ん?どうした?」
「……いえ、あなたが私をちゃんと名前で呼ぶんだなと思いまして」
「あぁ、お前は男に名前を呼ばれるのは嫌だろうなと思ってたから極力呼ばないようにしてたが、礼を言う時くらいはな。それとも別の呼び方がいいか?姫ちゃん、とか、シル、とか」
少し悪い笑みを浮かべながら例えを出してくる迅に、露骨に顔を顰めるシルフィア。
「絶対にやめてください。普通にシルフィアで構いませんわ。それに、いくらなんでも男の人に名前で呼ばれたくらいで不快になったりは……少ししかしませんわ」
「少しはなるんかい」
結局は予想通りだった事にジト目を向けながらツッコミをいれる迅。
「コホン、まぁとにかく、あなたはべつに構いませんわ。普通の男の人とは違いますしね」
「なるほど、俺は特別な人ということか」
明らかにからかう気満々の迅の言い方に、呆れたような目を向けるシルフィア。
「誤解を招くような言い方をしないでください。……それでは、明日はお願いしますね」
そう言って踵を返したシルフィアが寮の方へ歩き始めると、その隣に迅が並び歩いた。
「……なんでついてくるんですか?」
「寮までエスコートしますよ、お姫様」
ジト目で問いかけてくるシルフィアに、恭しい態度で返す迅。
そして、いつにない態度で接されたシルフィアはというと―――
「気持ち悪いです」
バッサリと言い切ったシルフィア。
まさかここまで辛辣な言葉が返ってくるとは思っていなかった迅は、さすがにこれに対して抗議した。
「おい、人の親切をなんだと思っているんだお前は」
「だって、あなたがそういう態度を取る時は私をからかう時じゃないですか。いつまでも私を手玉に取れると思ってるなら大間違いですわ」
「失礼な。俺だって本当に親切でやる時くらいはあるぞ」
「あなたの普段の態度がいけないんです。これを機に反省したらどうですか?」
2人はその後も寮に着くまで言い合いながら歩いていった。
しかし、シルフィアの護衛としてそこらに潜んでいる者たちには、仲の良い兄妹のようにしか見えなかった。
〈???〉
迅たちが遺跡の件を解決する少し前の事。
綺麗に清掃されている廊下を、数枚の書類を抱えた1人の女が歩いていた。
その女は紺色のフワッとした長髪と豊かな胸を揺らしながら歩いており、知的な顔立ちに眼鏡をかけている姿は有能そうな秘書そのものといった感じであった。
その女は目的の部屋の前までやってくると、扉をノックしてから中に入った。
その部屋はそこそこの広さがあり、奥には椅子に深く座りこんで足を机の上に乗せて寝ている黒髪の男がいた。
女はその男の前までやってくると、書類を机に置きながら話し始めた。
「失礼します。会長、西セントレア学院に関する書類をお持ちしましたのでご確認ください。それと例の件ですが、人選が済みましたので書状を送っておきました。ひと月もしないうちに返答が返ってくると思われます」
女から声をかけられた事で目を開けた男は、女を怒りのこもった目で睨んだ。
「あ?なんでひと月もかかるんだよ。俺はすぐに来いと書いたはずだよな?」
男の問いかけに対して、女は少し戸惑いつつも頭を下げて答えた。
「……申し訳ありません。書状が王族の方の目に入ることを考え、『そちらで検討してから』と、相手を刺激しない文面に変えさせて頂きました」
「おい、勝手な事してんじゃねぇよ。いつからお前は俺よりも偉くなったんだ?」
「……申し訳ありません」
男に対して反論する立場にない女は、ひたすらに平謝りをするしかなかった。
「……まぁいい。だが今後はそんな事をする必要はねぇからな。王族は俺に協力する立場にあるんだ。細けぇ事で文句は言わせねぇさ。それで、これがあいつらの情報か」
女が謝ったことで怒りをそこそこで鎮めた男は、女が持ってきた書類を手に取った。
「はい、新しく召喚された勇者様たちの能力です」
男は女から説明を受けながら書類をめくっていった。
「……なるほどねぇ。雷に光に闇に風、あとは振動に自然を操る力か」
「はい、それと最後の書類に西セントレア学院での事件について書かれたものがあります。なんでも、力を吸収するタイプの魔物を力押しで討ち勝ったそうです」
「へぇ、そいつは面白そうじゃねぇか。それなら俺を少しは楽しませてくれそうだな」
女から説明を受けながら書類に目を通す男は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
〈???〉
迅たちが遺跡の件を解決したその日の事。
鬱蒼と茂っている木々に覆われている山道を、1人の女の子が駆け下りていた。
その女の子は猫型の獣人のようで、頭には茶色の猫耳が、腰あたりからは同じように茶色の尻尾が生えていた。
その女の子は体の倍くらいある大荷物を背負っていたが、その重さを感じさせないような動きで走っていた。
「はぁ、はぁ、早く行かないと」
女の子は息を切らしつつ走り続け、湧き水が流れている所を見つけると、そこで一旦の休憩をとった。
「んっ、んく、んく、ぷはぁ」
女の子は湧き水を手ですくって飲み干すと、今度は荷物の中からパンをひとつ取り出した。
「あむっ……うん、美味しい。これを食べたらまた走ろうっと。皆のために早く助けを呼ばないとだからね。体が動くうちは走り続けなきゃ」
そう呟いた女の子はパンを食べきって少しの休憩を済ませると、また荷物を背負って山道を駆け下りていった。
これにて第2章は完結となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
つきましては、ここまでの物語や主人公に関する評価や感想を頂ければ幸いです。
一応、誤字報告などは無かったので大丈夫だとは思いますが、もしそういったのがありましたら指摘の方をお願いします。
あとは質問なども感想ページにて受け付けますので、疑問に思った事などがありましたら遠慮なくどうぞ。
それと私事ではあるのですが、本職の方が忙しくなってきたために書き置きのストックが底をついてきました。
なので、もしかしたら投稿が間に合わない時があるかもしれませんが、どうかご了承ください。
なるべく毎週投稿を維持できるように頑張っていきますので、これからも「異世界放浪者の神話決戦記」をよろしくお願いします。




